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第13話 オーガストとラルフ様。

「ディゴリー弟君、よそ見してる間に君の大事なモノがつまみ食いされるとこだったけど?」


「…は!?」

「チッ」


エドエドさんの舌打ちとともに、オーガストが慌てた様子で振り向き私を見た。


「…エイプリルその膝の上から降りて?」


「え?」


オーガストの笑顔が引きつります。


膝の上?

よく見ると、あら不思議です。

ラルフ様のお膝に座っておりました。


「あら、ごめんなさい。いつの間に…」


全然気がつかなかった。


ラルフ様に謝り立ち上がろうとすると、腰に回された手に力が入ります。


あれ?あれ…。

立ち上がれません…!


「ふんぬぅぅ…!」


力を込めて起き上がろうとしてますが、足がバタバタと動くだけで、ラルフ様の腕の力には勝てませんでした。


その様子を見ていたレオン様がため息混じりにやってきて。

私の手を引きます。


強めに手を引かれ、私は立ち上がることが出来ましたが。

そのままレオン様の胸に飛び込む形になってしまいました。


「あぎゃっ」


「おっと…ごめん、力が強すぎたね。」


私を支えようとして肩に手をかけるレオン様。

ですが胸に飾られた勲章が私の頬にかすりました。


痛っ!!


「…これはアナスタシア様を抱きしめる時は外してくださいね?」


失礼がない様に、顔はニコリと微笑みつつ、頬をさすりながら勲章たちを指差す。

レオン様は驚いて私を自分から離しました。


「す、すまない。頬に傷が…」


ヒリヒリとする頬にちょっと擦り傷が出来てたのか?

申し訳なさそうにレオン様は私の頬を見つめている。


「え?ああ、こんなのかすり傷ですよ。」


手で触れる感触に血も出て無さそうですし、痛みも少ない。


「…すまない…女性の顔に傷を…」


ますます申し訳無さそうに俯くレオン様。


「えーそんな細かいことは気にしないでいいですよ!?

私が気にしなくていいと言ってるんですから!

ね?

あ、それにしても、すみませんでした。」


「ん…?」


「この間名前を知らなくて。

あと、チョップしてしまってごめんなさい。

あの時の傷が痛むなら、これでおあいこという事で相殺してくださいませんか?」


「…いつの話だ?」


「ハッ!!しまった、忘れてるなら言うんじゃなかった…。」


「はぁ…?」


私は自分の口に手を当てて、目を見開いた。

どうしよう、これは自供なのか?自爆なのか!?

不敬罪で捕まっちゃう!?


レオン様は私の表情に我慢をしきれなくなったのか、肩に顔を隠し、肩を震わせた。

それを合図に一気に人が押し寄せてくる。


「ちょっと、ずるいよ!兄さん。僕だってエイプリルを見つめたい!」


「え?おい、ちょっと…!」


「俺の前でイチャイチャすんじゃねー!これは俺が先に目をつけたんだぞ!」


「リル!大丈夫かい?怪我したとこ見せて?」


「なになに!?どんな展開なってんの、これ!!」


一気にワチャワチャと集まってくるのに、私は今のうちにここから抜けた。


1人ちょっと離れたところでみんなを観察する。


赤毛のライオン兄弟と銀色の狼が何やら言い合いをしだし、それを他所にオーガストとエドエドも言い合いを始めた。


男子はいいなぁ。

こんな短期間ですぐ仲良くなれるんだもの。


そういえば私はラルフ様しか友達がいない。

アナスタシア様は友達になってくれるかどうかを聞くのを忘れてしまったし。

アナスタシア様がいいと言ってくれたなら、MとかCとかDも友達になってくれるかな?


いいなぁ、男子は。


私は遠巻きに彼らを花壇の隅に座って、足をブラブラしながら羨ましそうにずっと眺めていた。


それから直ぐに、お昼休みが終了の鐘が鳴る。

私は静かにスカートの裾をはらい、テクテクと1人で教室へと戻って行った。


木の陰にそれを見つめる1人の少女には気がつかず。

彼女は今のやり取りを見つめ、ギリギリと歯を鳴らしていた。

私が気付いていたらきっと歓喜するであろう『修羅場』になるのかは乞うご期待。



「リル、なんで僕を置いてっちゃうの?」


帰りの馬車の中で頬を膨らまし、そっぽを向くオーガスト。

そして様子伺いに、私をちらりと見る。


魅了です。

弟に魅了されてます!

かわいーじゃねーかぁぁあ!


「ごめんって。だって楽しそうでしたし、邪魔したら悪いかなーと思って。」


私は横に座りなおし、オーガストの頭を撫でる。

髪に触れるとサラリと金色の髪の毛が目に入りそうに流れる。


「やっぱり、前髪長すぎだね。」


私はそう言いながら、オーガストの前髪を耳にかけた。


「これぐらいの方がいいよ、都合がいい時に顔隠せるし。」


「隠さなくてもいいのに。綺麗な顔だから。」


オーガストは不満そうに目を細める。


「色々ハエが寄ってくるからめんどくさいんだ、僕にはエイプリルだけで十分だしね。」


「オーガスト、ハエに好かれるの!?そういえばなんかいい匂いするしね、この匂いでかしら?」


私はおもむろにオーガストの首元をつかみ、鼻を寄せる。

動揺したのはオーガストの方で。


「ちょっと…!くすぐったいから、離れて!いい匂いって、おんなじ家に住んでるんだから、匂いなんて一緒でしょ!?」


ベリッと私を引き剥がした。


…チッ。


「小さい時からこの匂いを嗅いで過ごしてたから、オーガストの匂いって落ち着くのよね。

落ち着くっていうか、眠くなる…。

昔とはちょっと匂いが変わったけど、いい匂い…」


「…そう?自分じゃわからないけど…。エイプリルもいい匂いがするよ…?」


私の顔を覗き込むオーガスト。


あざと可愛さを追い出していたのだが、私は半目でウトウトとしていた。


馬車の揺れと小さな窓からあたる、太陽の暖かさと。

そして久々に思いっきり吸い込んだ家族の匂いに。

ガクンガクンとお船を漕ぎ始める私。


オーガストはそっと微笑んで、私を肩に寄せた。


「リル、寝ちゃったの?…全く呑気なんだから。」


「ええ、僕とラルフ様が一緒にいることも完全に忘れてますね。」


ニコニコ笑いながら私たちを見つめるエドエドさんと。

腕を組み、不機嫌そうに足を組むラルフ様。


「あ、そういえばいましたねぇ、今日もなんのようですか?なんで毎回うちの馬車に乗ってるんでしょう?」


私を肩に支え、笑ってない笑顔で2人を見るオーガスト。

そんなオーガストを気付かないふりして、満足そうに笑うエドエドさん。


「オーガスト君の暮らしぶりを友達として見に行こうかと!」


「俺はお菓子を食べにと、エイプリルを観察しに。友達だからな!」


「エドワード、いつから友達になったっけ?

ラルフ様、マイヤーさんのお菓子が食べたければ是非うちではなくディゴリー商会のお店で販売中なのでそちらに是非。」


より一層笑ってない笑顔で微笑み返す。


それをまた見つめるエドエドさん。


「オーガスト、このお嬢さんのお陰で本当に変わったなぁ。僕は嬉しいよ。」


「お前に嬉しいと喜ばれると気持ち悪い。」


「僕は本当に嬉しいよ、お前が日の当たる場所にいることが。」


「…お前もだろ?」


ラルフ様は『フン』と鼻を鳴らしニヤリと笑いました。


「俺はオーガスト、お前も欲しかったんだがな。」


「『俺』は行かなくてよかったと思ってます。ディゴリー家に貰われたお陰で、天使に会えましたからね。

荒んだ心が洗われました。ラルフ様では癒されなかった、この心が!」


オーガストは大袈裟に自分の胸をつかんだ。

その振動で寝ていた私も揺れ、肩から頭がずり落ちる。


「「危な…!」」


思わずオーガストとラルフ様の手が私の頭の下で重なる。

『ハッ』と目を合わせ、重なった手を嫌そうな顔で離した。


そっと私の頭が元の位置に戻される。


「というか、ラルフ様。

姉に本気になるのはやめてくださいね。

これは『僕』のものです。」


ジロリと睨むオーガスト。


それを鼻で笑い飛ばす。


「バカ言うな。初めからこれは俺が見つけた。

これは、俺のものだ。」


ラルフ様の手が、私の髪に触れる。

ひとすくい取り、口元に寄せた。


オーガストの瞳がクルリと変わる。

そして静かに、ラルフ様を見つめた。


エドエドさんが狭い馬車の中、ラルフ様の前に立ちふさがる。


「お前、その目は覚悟があってだろうな?」


ラルフ様がエドエドさんを手で避け、オーガストを見る。


「…これだけは譲れません。

エイプリルは、渡せない。

今まで…ここまで生きてこさせるのも大変だった。

リルの母親が亡くなってからの彼女はまるで感情の無い人形のようだった…。

やっとここまで人間らしい感情も出てきたというのに…。


俺はディゴリー家の者なので、父の言いつけも守らねばなりません。

あなたへの昔の恩は返します。忠誠も感謝もあります。

だが、エイプリルは、ダメだ…。」


オーガストは私を強く抱きしめた。


「…うーん、ぐるぢい…」


眉を寄せ、頬をぽりぽりとかきながらオーガストの腕から抜けようと暴れる、寝ぼけた私。


その声に一瞬みんながビクッとなったが。

すぐに顔を見合わせる。


「…苦しいってよ、離してやれ」


「…嫌だ。」


「オーガスト…!」


「…嫌だ。」


力は緩めたが、私を抱きしめたままのオーガスト。

そして私に頬を寄せた。


「…いずれは、俺がもらう。

レッドメイルに渡すわけにはいかないことぐらいわかってるだろう?」


オーガストは何も言わない。

だが、苦しそうに眉を寄せた。


「オーガスト、レッドメイルにこの国は任せられない。

このままだと国は飢え、国民が犠牲となる。

僕たちみたいな子供の犠牲を増やすつもりか?

エイプリル様はラルフ様の元へいるべき人だ。

…わかってるよな?」


オーガストは何も答えず、眉を寄せたままラルフ様の方を見た。


「エイプリルじゃないとダメなんですか?

レッドメイルに渡さなければ、このまま僕と一緒にディゴリー商会を継いで、静かに暮らすことでもいいはずでは…」


「スタインバークがこの国に返り咲く時に、エイプリルの能力は必要だ。

お前は初めからそのつもりでディゴリーに入ったんじゃないのか!!」


「…」


「お前、まさか。」


黙るオーガストにエドエドさんが眉を寄せました。


「…わかってますよ。」


「オーガスト…?」


「分かってます。と、言いました。」


「…分かってるならいい。」


俯くオーガストに、目をそらし窓を見つめるラルフ様。

それをエドエドさんは心配そうに2人を見つめていました。


何も知らない私はそっと、口から雫を垂らすのであった。

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