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第11話 なぜ呼び出されたかというと。

「こんなところまでよく来てくれた。顔を上げ、楽にせよ」


静かに頭を上げると、王様はにこやかに私たちに微笑んでおられます。


「お目にかかれるなんて身に余る光栄です、国王陛下。」


お父様がもう一度お辞儀をしました。

私もお父様とオーガストの様子を見つつ、一緒のタイミングで顔を上げます。


「ディゴリー男爵、今日来てもらったのは他でもない。

ローラント侯爵との婚約についてだ。」


ああ、なるほど。

私の王子に対しての不敬を問われるわけではなく、アルド様との婚約破棄についてだった!


ちょっと心底ホッとしましたよぉぉ、よかった。

流石に自分が投獄されるだけならまだしも、お父様やオーガストまでに迷惑がかかるのはダメな事です。

次からはアナスタシア様の教えをちゃーんと実行できるように、頑張らなくては。

と言うか関わらなくて済むなら一生関わりたくない生き物ですし。


「…リル…、エイプリル、聞いてる?」


ハッ!!!


「…すみません、何でしょうか?」


思わず考え込んでいた手をバタバタとさせ、慌ててしまう。


「陛下、申し訳ありません。娘は緊張して聞いてなかった様です…。」


お父様がすかさず私のフォローをした。

しまった、謁見中なのでボーッとするの禁止!

意識を保て、私。


王様は王妃様と顔を見合わせ、優しい笑顔で微笑まれました。


「よいよい、ならばもう一度言うぞ。

アルド・ローラントとの婚約破棄の申請理由を確認したい。

アルドの方から婚約破棄したいと5回以上申し入れがあったと。

間違いないか?」


「はい、間違いありません。」


「ふむ。

だがな、アルド・ローラントは『言ってはいない』と申しておる。

それについて『言った証拠』はあるか?」


「証拠、でしょうか…ええっと。

実は学園を入学してそろそろ1ヶ月なのですが、すでにその短い期間に5回以上其々別の女性と婚約したいと申し入れられました。

その女性に聞いていただけたら、本当かどうかわかると思いますが、流石に全員の名前まで把握しておりません…。」


私はモジモジと困った様に王様を見上げました。

証拠とか言うなんて。

名前全部覚えて控えれば良かったなぁと後悔。

興味なかったので、全く覚える気もありませんでしたよ。


「あの、陛下。オーガスト・ディゴリーと申します。この事についての追加発言をお許しください。」


オーガストが王様に許しを請う。


「良い、もうしてみよ。」


オーガストは王様にとても爽やかに微笑んだ。


「有難うございます。

証拠、と言っても効力は薄いですし、まだ調べていた段階で、いうほど揃ってはいないのですが…。」


オーガストはそう言うと、紙の束を隣に控えていた騎士の方に渡す。

それを騎士が宰相へと届けてくれた。


王様が紙へと視線を落とす。


「1番目のレベッカ・リトル伯爵令嬢、次に3番目のメアリー・シモンズ伯爵令嬢、4番目のティモシー・ウズモア子爵令嬢、7番目のセレニア・アイデル男爵令嬢と。

私が知る限り4名の名前をご報告させていただきます。

一瞬でしたが、アルド・ローラント子息からの求愛言動、そして婚約破棄の発言の言質を取っております。」


7番目…!

あの人7番目でしたか…!

ちょっと5回目からは回数覚えてなかったですけど、7回も私は婚約破棄を言い渡されていたのですね…。


約30日として、7人とは。

平均4日に1回は言われていたことに…!?


逆に、アルド様やりますね。

4日に1回心変わり出来るポジティブな所は、褒められやしませんが、ある意味で尊敬に値します…。


私が驚き戸惑っている間に、着々と進んでいきます。



「…ふむ、サインと拇印付きか。

これの確認を。」


王様はオーガストが渡した書類を宰相に渡し、深く息を吐きながら椅子に座りなおされました。


「これが本当なら、婚約破棄の申し立てを認めるしかあるまい。

若い貴族と、古き貴族との繋がりを持って欲しいがために、ワシが頼んだこと故に誠に残念で仕方ない。

古い貴族は名ばかりか、私欲を膨らますばかりで努力をせん。

苦を強いられるは領民なのだがな…。」


王様はまた深いため息を吐く。


「私たちもローラントの領民の苦痛を助けたいと思うのですが…。」


王妃様も困ったように頬に手を当てた。


だからといってこれ以上私たちがローラントの為に人身御供になり続けることもワケが違う気がする。

というか、このままでは彼らのためにはならない。

甘やかすだけが子育てではないと。

…オーガストがこの間お父様に言っていた。

誰のことかはわかりませんが…。


「娘も5度以上も婚約破棄を言われ、心が深く傷ついております。

本来ならこちらが慰謝料の請求を辞さないところですが、このまま何もせず、穏便に済まそうかと思っております。

…いまだ不当な金銭の請求は幾度となく来ておりますが…。


領民を助けたい気持ちは同じですので、領民さえよかったらうちの領地で…希望があるなら受け入れます。

ただ鉱山を持っており仕事は幾らでもありますが、土地は小さく全員を受け入れることは不可能かもしれません。」


お父様は汗を拭きながら、おずおずとこちらの気持ちを述べました。

王様も王妃と顔を合わせ、黙ってしまいました。


領地がたくさんあっても、必ずしも裕福にはなれないんだなぁと。

自分の領地の方々を大事にせねばと心に誓いました。


「それで、この件は受理されるのでしょうか?」


オーガストが聞くと、王様と宰相が渋い顔をしましたが。


「これほどの証拠があるとな…、認めるしかないのだろう。」


宰相が抱えた書類の束を見つめながら、王様は言いました。


「ディゴリー嬢、申し訳ないことをした。

これはワシの方で受理しておく。

すぐにでもローラント家には婚約破棄が認められたことの手紙が行くだろう。

だが婚約破棄した事によって、謂れもない噂でそなたの今後の婚姻に傷が付くのではと、責任を感じておる。名誉をしばらく回復させるため、しばらく我が息子レオンとキーオを護衛つけよう。

実はうちの息子達は、同じ学校に通っておってな。

長男のタイラーも通っているのだが、まぁ、タイラーは忙しいからタイラーは無理だが…。」


知ってるっつの!!

いりませんよ、あんな赤毛の目立つ生き物…。


ん?タイラー?

3人兄弟でしたっけ…?

そういえばそんなことをだれかが言っていたような?


オーガストもお父様も、まさかの事に呆気にとられて固まっています。

思わず身を震わせる私に、王様は勘違いをする。


「そんな震えずとも良い。

息子達がディゴリー嬢の噂やローラントを寄せ付けぬよう、気にしてくれる筈だからな。」


「で、殿下もそんなに、私ごときにそんな、…そんな暇ではないのではないのでしょうか…?」


アハアハハと乾いた笑みを浮かべる私に、王様は笑顔で微笑み返された。


「この件はわしの不徳の致すところ。

ワシがローラントの復興をディゴリーに協力を求めなかったら起こらなかった事だ。

誠に申し訳なく思っておる。」


思わなくていい責任…!

段々と青ざめる私に、お父様も言葉が出ない様子だった。


「勿体無きお言葉です…ぅ。

…あ、ですが!

確か第2王子は婚約者様が、私と同じ学校におられましたよね…?

逆に男爵令嬢にうつつを抜かして婚約者を蔑ろに!みたいな噂が立っても困りますので、どうかどうかここはひとつ。

…お気持ちだけで。」


まるで命乞いでもするかの様に、私は祈り懇願した。


王様は私を『なんて謙虚な子だ』と仰いまして。


「そんな噂など、レオンがしっかりすれば良い話だ。

アナスタシア嬢もディゴリー嬢の事情を分かった上で、そんな事を気にする様では王妃の器ではない。

先ずはディゴリー嬢の名誉を守る方が先だ。

気にせず、息子達を頼ってくれ。」


ここまで言われて、断れるわけがない。

だってうちは下っ端の男爵なのだから…。


極力目立たない様に学校生活を平和に過ごそうと思った矢先。

まさかこんな展開になるなんて…。


これもアレもアルド様がアレなせいだわ…。

今度会ったら足を引っ掛けて転ばせないと気が済まない…!


こっそり行きそうなところに罠でも仕掛けて置こうかしら…?


「…婚約者か、ふむ。」


王様は何か考え込んでいたかと思うと、いいことを思いついたという顔でこっちを見た。


「ワシは身分にこだわる方ではないからな。」


「え?」


「ディゴリー家の国への功績は誰しもが認めておるしな。」


「…鉱石だけn…」


「エイプリル…!」


イテッ…オーガストに小声で名前を呼ばれ、つねられた!


「時に、ワシはいい考えを思いついたのだが、我が3番目のキーオがまだ婚約者が決まっておらんのだが、確かディゴリー嬢と同級s…」


「「「おおおお王様!!」」」


「む!?」


「当面の間アルド様の件、殿下方々に頼らせていただきます!」

「婚約以外のお心遣いをお受けいたします!!」

「娘は王家に嫁がせません!!」


親子の必死の弁解が、各々を同時に喋らせます。

その為よく聞き取れなかった王様、王妃様、宰相が首を傾げて顔を見合わせてます。

いや、私達も顔を見合わせましたけど。


コホン。


「当面の間、殿下方々に頼らせていただきますので、その他のお心遣いはまだ気持ちが落ち着きませんので…」


ニッコリと私が代表で応えました。

同じくニッコリと、オーガストとお父様が冷や汗をかきながら微笑みます。


王様は残念そうに『そうか、気持ちが変わったらキーオの件…』なんてまた懲りずに言いやがるので、慌てて途中で誤魔化しました。


男爵令嬢が王家に嫁ぐなんてありえないでしょうが…。

流石に第3王子だからといっても、だ。

しかも王族からの申し出を、我々が断れるはずがない。

いや、今のは断ったのではありません。

必死に誤魔化しただけですからね!


『ワシ、身分こだわらない派だから〜』じゃないんですよ…。

身分的に正妻なんてなれるわけがないので、役割はただ一つ。

…愛妾なんてまっぴらです。

向こうにだって、選ぶ権利はある。


「お詫びで王子と婚約って…。あれは『お詫び』という体でこじつけでも何でも、貢献を称えて爵位あげても考える勢いだったなぁ…。」


オーガストが門から外でに出てすぐ、ぼそりと呟いた。


お父様も汗を拭い、大きく息を吐く。


「ああ、領地でも押し付けられたって、回せる器ではないからな、うちは。」


「今で十分ですよ、アレぐらいがちょうどいい…。」


私たちはとても大きく息を吐き続けました。

権力、恐ろしい。


帰路はとても長く感じ、大変疲れた1日となりました。

これは、疲れてデザインなんてできる気がしねぇ。


小心者一家なので、あんな思いは2度としたくありません。

2度とか変わらなくていいのであれば、そうしたい。


お受けしますとか言いましたが、カケラも頼るつもりはありませんしね!!

自分の事は、自分で。


アルド様ぐらい、私とオーガストで、なんとかできますよ!


私は鼻息荒げに決意をするのでした。




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