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第10話 レッドメイルの末っ子。

「そりゃ1日寝てたもんなぁ、学校で。

元気なはずだよな。」


「ええ、お陰様で。」


サミュエルがニコニコと私をみつめます。

嫌味かっ!!


「というかサミュエルはいつも当たり前の様にうちでオヤツを食べていきますよね?」


嫌味を嫌味で返してやろうとしたら。


「うん、メイヤーさんのお菓子は世界一だからね。」


「そうでしょうとも!うちのメイヤーさんのお菓子はうちの商会でも大人気の物ですもの!!レシピを教えてもらってお店で作らせているのとはまた、本人が作るのでより美味しいというか…!」


速攻メイヤー効果で忘れます。


「うんうん、そうだねー。美味しいねー。」


「聞いてるんですか?サミュエル。」


「うんうん、聞いてるー。というかもうなくなったから、おかわり貰ってきて。」


「え?いま出したばっかですよね…?」


「ほらほら、早くー!」


サミュエルはニコニコと空いたお皿を私に差し出しました。


お腹が空いてたんでしょうか?

焼き直すのはちょっと時間がかかるかもしれませんね?

お手伝いしてこよう。


私はサミュエルをレセプションルームに置いて、イソイソと厨房にいるメイヤーさんの元に向かいました。


「カバンから商品サンプルは抜いといたよ。後は今日の手帳もチェックしたし、明日着ようとしてた服も差し替えた。…こんなもんか?」


サミュエルが入り口に立つオーガストに私が昨日選んでおいた服を差し出す。


「いつも協力ありがとう、助かったよ。…こんなダサい格好しようとしてたとは…。」


オーガストが私の知らないところで、私のセンスにケチをつけた。


「保護色のドレスなんてよくあったな…。逆に売れるんじゃねーか?」


「せめてベージュって…言ってくれる?」


それを見たサミュエルも苦笑いをする。


「差し替えてバレないもんか?」


「どうせ着せるのは自分じゃないから大丈夫。

誘導して別のこと考えさせればきっと忘れてくれる筈だ。」


オーガストが用意したのは、若草色の春らしいドレスだった。


「この色も地味だけどなぁ。」


「いいんだよ、地味で。なるべく目立たない地味な格好で、印象に残りにくくしようと思ってね。

後は黙っててくれたら完璧なのになぁ…。」


「…黙るわけがないもんな!」


サミュエルは楽しそうにお腹を抱えた。


「他人事だと思って…!」


「他人事じゃねーよ、俺だってすげー心配だ。

エイプリルの秘密がアイツらにバレたら、連れて行かれてしまうんじゃないかって、な。」


「ディゴリー家の秘密に関わるから…。とにかく目立たせない様にきつく言いきかさないと…。」


「…聞いてくれるように、祈っておくわ。」


そういうとサミュエルは、オーガストの『なんとも言えない顔』を見て『フハッ』とまた噴き出した。




気がつくと馬車の中でした。


ほへぇ、どこに向かってんだっけ?

今日はお休みだから、朝から加工品の新しいデザインを考える予定だったのに。


しかも今日はオーガストだけじゃなく、お父様も一緒です。

よくよく考えます。


ハッ!!

なんか呼び出されたんだった!!


そういえば、商品サンプルをカバンに入れてたんだった。

しめしめ、寝ずに練習したあの手首のステップを今こそ実行する時が来た。

フヘヘへ。


ニコニコと微笑みながら、カバンを開けると。


ん!?

無い…!

あれ!?なんでだー?


「ん?どうした、エイプリル。何か忘れ物か?」


お父様が焦ってカバンをひっくり返す私に声をかけてくれました。


「無いんです、商品サンプルが!!」


「…お前、城で王に営業するつもりだったのか…。」


お父様は呆れた様に青ざめています。

その横でオーガストがずっと窓の外を見て、私と目を合わせません。


おい…まさか、お前がやったのか。


ギロリとオーガストを睨みます。


お父様はそれを見て状況把握した様に、『オーガストよくやった』と褒めるのでした。


…解せぬ!!


城についても私のご機嫌は治りません。

ちくしょーう!うまく行けば王族公認になって、売り上げ上がったかもしれないのに…!


悔やまれない思い出もう一度オーガストを睨みましたが、一切窓の外から目を離しませんでした。


城についてもしつこいぐらい目を合わそうと顔を覗き込みましたが、身長差のせいで何処を向いても目を合わすことなど不可能でした。

せめて同じ目線という土俵で戦いたまえよ。

最終的にはもう、私の動きに笑いをこらえてたからね、オーガストめ。


お城について、王の間に謁見するまでに控室みたいところに通されました。


「準備出来ましたらまたお声かけ致します。」


御使いの方がそう言うと、下がっていきました。

私は足をブラブラとしながら椅子に座ります。


「というか、一体なんの用なんでしょうねぇ?お呼び出しの用事は。」


「僕はとても嫌な予感がするけどね?」


「何で!?」


「自分の胸に手を当てて考えてみて?」


「ハイ。」


私は自分の胸を鷲掴むように両手を当てて、首を傾げた。


「…はて?」


「うん、その手の当て方は女性として、考えたほうがいいと思う…。」


何がダメだったのか。

思わず自分の手を当てた胸を見る。


「…オーガストは時々難しい事を言う…。」


「全然難しくないからね?おかしいのはエイプリルだから!」


顔を赤らめ、また私から目を逸らしながらため息をついた。


「…どう当てたら正解だったの?」


「それはもういいから…さぁ行くよ。呼びに来られた様だ。」


お父様も頭を抱え、溜息をついた。

オーガストが席を立つ。


ドアからひょっこりと顔を出されたのは。


「やぁ、エイプリル。こないだぶりだね。」


「あ、赤毛の弟の方…。」


思わず小声で口から出る。


「名前覚えたとか言ってなかった!?キーオだよ!!」


キーオ様は『信じられない』と言った顔で私を見ました。


「…もちろん覚えておりました、キーオ殿下。

この間は大変失礼いたしました。」


「絶対嘘だよね!?」


キーオ様はニコニコと笑顔だが、口元が引きつっていらっしゃいました。


「…興味がない事はどうも覚えることが苦手でして…。」


「じゃあ何なら興味があるの?」


この人グイグイ来ますねぇ…。

どうも質問ばかりする人は、面倒です。

それでも答えないと、王子様なのですから。


案内される廊下をテクテクと歩きながら、私はうーんと考えました。


「利益についてですかねぇ?」


「…利益…?」


キーオ様はキョトンと私を見つめました。


「私が興味ある事は、お金を稼ぐ事です。」


「お金、稼ぎ…」


「ハイ。そして領民と家族を豊かにする事です。」


キョトンとしたまま考え込んでしまいました。

今の内にテクテクと先に進みます。


さっさと謁見して帰らないと。

私は今日中にデザインを出さないといけないのですよ!


「あ、エイプリル置いてかないでよ!」


「失礼ですが、なぜ私をファーストネームで呼び捨てに…」


「親しくなりたいからだよ、エイプリル。

僕のことはキーオと呼んでくれていいよ!」


「キーオ様」


「レッドメイル殿下」


「キーオ・レッドメイル殿下」


「…よし。」


「はぁ!?」


「お言葉ですが殿下。姉が殿下を名前で呼び合うなどあってはならないことですので、これ以上はお許しください」


しれっと横から口を出したのはオーガスト。

なるほど呼んではダメなのか。


そういえばアナスタシア様からも発言を許されるまで頭をあげるなと言われてたんだった。

メンドくさいし、次からそうしよう。


「僕がいいって言ってるのにー!」


キーオ殿下は軽くオーガストを睨みつけました。


「そう言うわけにはいきません。他に示しがつかなくなりますので、どうか。」


オーガストはにっこりと微笑み、お辞儀しました。


キーオ殿下は可愛く頬を膨らませます。


「エイプリルが呼びたくなったら、呼んでいいからね?」


そして私の顔を覗き込み、あざとく微笑むのでした。


兄弟より少し薄い赤毛に黒い瞳。

赤というよりピンクっぽいなぁ。

ストレートの髪を綺麗に肩くらいで揃えている。

絵本に書かれた挿絵のような王子様で、私と同い年に見えない幼さを残した顔。

スラリと伸びた膝丈の半ズボンから見える白い足。


覗かれた顔をマジマジと、上から下までじっくり観察していると。

キーオ殿下は恥ずかしそうに顔を赤くして目を逸らされました。


何だよ!

覗き込んできたと言うことは、そのあざと可愛い顔をよく見ていいんじゃないのか!


「…そんな見つめられると、恥ずかしいじゃないか」


うあああああ!!

やっぱあざとい。

あざと過ぎるー!!


だが私にはこの手の耐性があるのです。

伊達にオーガストを小さい時から観察していないんですよ。


あざと可愛さはオーガストが小さい時から見せつけられてますからねぇ。

フフフ。

これぐらいでは動揺しませんよ。


私はにっこりと笑い『ソウデスカー』なんて。

華麗に交わしてまいります。


「もぅー!エイプリル訳わかんない!」


後ろでキーオ殿下が赤い顔で、拳を振りながら叫んでます。

いやぁ、最後まで可愛いですね。

いいもの見せていただきました。

グッジョブです。


にっこり笑いながらお辞儀をして手を振りました。



「こちらです。どうぞお入りください。」


気がつくと大きな白い扉の前でした。

御使いの方が下がり、立派な鎧を着た騎士様が私たちにお辞儀をします。


さて、アナスタシア様に教えて頂いた事を反芻しつつ。

そういや図書館行くの忘れてたなんて気がついたところで、私たちは案内され、扉を進むのでした。


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