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第1話 テンプレ婚約破棄は突然に。

「エイプリル・ディゴリー!私はここに婚約破棄を言い渡す!」


朝一番。

おはようございますの前に、これですよ。


登校して校門をくぐるとすぐに。

思わず呆気にとられております。


彼の横には、寄り添う見知らぬ女性。

一体どこのクラスの方なのでしょうか?

全く面識なさそうです。


突然ですが、私。

エイプリル・ディゴリーと申します。


名前でお気付きかと思いますが、4月生まれの16歳です。

親は名前を考えるのがめんどくさかったのか?とも思われがちなのですが。

どうも両親共に、全くの名前のセンスが無かったようで。


書類を出すギリギリまで考えて、エイプリルという名前となりました。

そんな理由でつけられた名前ですが、私はこの名前を意外と気に入っております。


「ポカーンと口を開けてこっちを見ているが、何も言えないのか?

…ていうか、聞いているのか!?」


今私に婚約破棄を言い渡したこのお方。

アルド・ローラントという、正真正銘の私の婚約者です。

どっかの王子とかではなく、普通の侯爵家の次男さん。

お互いただのモブといわれる存在です。


なのでこんな通学中の校門の前での突然の婚約破棄に、興味もわかない登校中の皆さんは、不思議そうに横目で見ながら通過するという、何とも奇妙で迷惑な状態です。


「おい!エイプリル!!」


…うるさいですねぇ、ちょっとぐらい待てないのでしょうか。


私は彼に向けて『待て』と合図するように、手のひらを向けます。


コホン。


あれは2年前の14の時。

没落しそうな貧…収入が乏しい侯爵様が、生活や生活基準を維持するお金のために、成金の我が家に白羽の矢を投げつけたようです。

弓で放ったのではなく、手で投げた感じです。


言わば侯爵というブランドを守るための繋がりで、うちにドナドナされたアルド様とはお互いに全くと言っていいほど、愛は無いのです。

ええ、カケラも。


うちといえば。

個人で鉱山を切り盛りしている隅っこの男爵家。

特にローラントの後ろ盾など必要なかったのですが、王様が懇願…いえ、口添えもあり、断るにもアレなのでいわゆる慈善事業、貴族復興に協力する事となったようです。

そして、うちが何も利益のない『ボランティア』だという事を、彼は全く知らないのでしょうね。


男爵といえど、鉱山を私有地に持っております。

商会組合にも入って、商売もしておりますし。

後ろ盾などなくても、我が家は何の問題もなかったのですけれど。


「…ショックで口も聞けなくなったのか!?おい、エイプリル!!」


「…あ、はい、聞いてますよ…!」


この人は少しも待てができないのでしょうか…。

自己紹介を回想中なのでもう少し静かにしていただきたいのですが…それは叶わぬ事なのでしょう。

わかりました、しょうがない。

ご要望通り、向かい合いましょう。


「私はこのセレニアを愛している!わかったら婚約破棄を受けるがいい!!」


「あ、はい。わかりましたよ!」


「…はぁ!?」


「おっけーでーす。」


私はそういうと、大きく頭の上で丸を作る。


「え?…オッケーっておい!!」


「これでえーっと、何度目でしたっけ?

いち、にー、さん、よん…

学校に入学してからまだ1ヶ月もたってないのですが、既にこのやり取りを片手で数えられないほど繰り返してますよねぇ。

先週の婚約破棄宣言からちょっと思っておりましたの。

流石に何度もお父様に『破棄!やっぱ辞める!やっぱ破棄!』なんて報告するのも悪いので、次言われたらオッケーって言ってもいいよって了承されてますから、大丈夫です!

直ぐにでもローラント家の方にも仕送り差し止める手続きも出来るようですし!」


「…は?なんだって!?」


「…ですから、破棄、お受けしますと言ったのですよ。

えっと、…なんておっしゃいましたっけ?…えっと、ナンチャラさんとお幸せになってくださいね。」


「ちょ…!エイプリル!!」


私は静かにお辞儀をする。

そしてにっこりと微笑んで、静かに彼の横を通り過ぎ、下駄箱に向かおうとすると。

ガッと腕を掴まれた。


「…するわけないだろ、破棄なんか!ポカーンとしすぎてバカがっ!騙されたな!!」


「…へ?」


ポカーンはナンチャラさんの方で。

今の今までイチャイチャしていた彼が手のひらをドリルのようにグリングリンと返し、ナンチャラさんを放置で私の腕を掴んでいるのだがら。

そりゃポカーンですよね、わかります。


「…ですがもう何度もこれを繰り返して、ローラント侯爵に叱られてますよねぇ?

そうまでして嫌な私と婚約せずとも、好きなお嬢さんを選ばれたらよいかと思いますから…」


何度も彼と掴まれた腕を交互に見つめ、離せと目で合図するのだけど。

全く離す気配はありません。

空気読めないんですかね?

せっかく私が気を利かせてあげているというのに。


ですが大丈夫ですよ。

意外と力が強いのです、私。

腕を掴まれたまま、ズルズルと彼を引きずるように下駄箱に到達しました。

ですが靴を入れるには、この掴まれた彼が邪魔で腕が上げられません。


いい加減離して欲しくて、もう一度彼を見つめます。

案外整っている顔を耳まで赤くして、とてもとてもお怒りのご様子。

どうしてここまで怒っているのでしょう?

ああ、一体何を考えているのか、どうしたいのかが、全くわかりません。


私が言い返したのがいけなかったのでしょうか?

だだ『オッケー☆』だけ言えばよかったのですかね?

失敗してしまいましたかね…。


「女の癖に…!そもそもお前がそんな事を決めるのがおかしいと言ってるんだ!!

いつもの様に黙っていれば可愛いものを…。このバカ女が!」


「…はぁ。」


私は言葉を失いました。

彼は私のボンヤリとした態度に、今以上にひどくお怒りで。

勢い余って私に手が振りかざされます。


私は自分の頭をかばう様に、両手で覆いました。


「…おい、ローラント!エイプリルに手をあげるなんて、何をやってんだよ!」


「セヴァニー…!お前、どこから!?」


彼の上げた手を掴んでいるのは、私の幼馴染のサミュエル・セヴァニーです。

小さい頃からうちと取引のある伯爵様のお子さんで、老舗セヴァニー商会の長男です。


世間の同級生とテンポの違う私を、いつも面倒見て通訳してくれる優しい幼馴染。


「またこんな人の多い場所で婚約破棄を言い渡すなんて…。お前いい加減に懲りたらどうだ…?」


サミュエルは心底呆れたように、深く息を吐き出しました。

アルド様はバツが悪かったのか、小さく舌打ちをして去って行かれました。


残された私はまだ、頭を防御の姿勢です。

その格好を見て、サミュエルが口元を押さえながら笑うのを堪えています。


「エイプリルも、叩かれるなら頭じゃなくて、顔を守れ。」


私の頭にある手が、サッと下へ降ろされます。


「え?どこを叩かれても頭が揺れると脳細胞が死ぬじゃないですか。なので脳細胞を死守する為に、頭を固定したほうが…」


「その自分理論はどこから来るんだよ…」


幼馴染は呆れたように私の頭を激しく撫で回しました。


「それも脳細胞が!死ぬ気がする!」


私の抵抗虚しく、頭はガクガクと何かのおもちゃのように揺らされていました。

サミュエルのやつぅー!!


「もう教室へ行かなきゃ。エイプリルも急いで行こうぜ。」


そう言うと、振り向きながら前を歩きます。


私はグリグリされた髪の毛を手で直しながら。

ふと、思い出してサミュエルを呼び止めました。


「あ、サミュエル。」


「なんだ?」


「ありがとう。」


「いや、気にすんな。あれはローラントが」


「昨日貸してくれた本、もう読んじゃって返そうと思って持ってきたんですよー。」


そう言うと、おもむろにカバンを漁り出す。


「…え?ありがとうって、本のこと?」


「え?そうですけど、他に何か?」


今日2人目のポカーンを目の前に。

私はキョトーンですけど。


他に何かありましたっけ?

さっき揺らされた時の脳細胞と一緒に、記憶も落としてしまったかしら…。


『むむっ…』


真剣に考え込む私に、サミュエルは私から視線をはずすと、肩を震わせていました。

…どうしたのでしょうか?


肩を震わせ歩きにくそうにしながら、サミュエルは私の後ろを付いてきます。

私も首を傾げながら、教室へと歩きました。



連載開始しました。

初めましての方、初めまして。

乙女ゲームの方で会った方、再び会えて嬉しいです。

見つけてくださってありがとうございます。

これからもお暇つぶしがてら、緩々とよろしくお願いしますm(_ _)m

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