春の初尽くし
あれから一週間……
これで現時点で回った部活は美術部、吹奏楽部、天文部、製菓部、経済学研究部、プログラミング研究部、化学工作研究部、映像技術研究部の八つ。
結局決めていない……
というか……来週には部活動発足会あるんだけど……
実際、五月よりも前に部活を決めないといけない。
五月は最終的な締め切りということらしい。
どうしようかな……
「おい、海慧!もう部活決めた?」
「まだ決めてないよ。若松君は?」
自信満々な様子で彼はこう答えた。
「もちろん!」
「どの部活にしたの?」
「帰宅部」
真顔で答えられた答えは驚くものだった。
「えっ!?帰宅部って本当にあるの?」
「この学校はあるみたいだぜ!」
「あるんだ……その部活……」
「まぁ、そんなに焦らなくてもいいんじゃね。まだ時間あるし」
「そうだね……。」
放課後になり、なんとなく廊下を見てみる。
壁には何枚かの部活動紹介の張り紙がある。
ラグビー部、吹奏楽部、茶道部、サッカー部……
今更だが、こうしてみると多くの部活動があるなぁ……
その中に一つ、目を引く張り紙があった。
「最早、日常と化した……」と書かれた原稿用紙を指でなぞる、という絵が描かれている。
そして、その下側には文芸同好会と書かれていた。
どうしてだかわからないが、その張り紙に吸い寄せられるように歩み寄り内容を読む。
活動時間は自由、活動内容は文芸を嗜む。
書かれていたのは、ただそれだけだ。
ただそれだけなのだが……とても興味が湧いた。
何故だかわからないが興味が湧いたのだ。
ここなら続けやすいかもしれない。
ここにしよう。
自分はそう思った。
後日……
部活動ごとに集まる、部活動発足会が行われた。
文芸同好会の新入部員は自分を含め三名。
まだ初期の段階なので増えるかもしれないということらしい。
その三人とは白雲千尋、笹溝博貴、星文海慧のことである。
白雲さんが情報経済科、笹溝君は映像技術科に在籍しているそうだ。
二人共、本を書いたことがあるらしい。
川島先輩が「三人とも期待してるよ」と言っていた。
因みに書いているジャンルは、白雲さんが恋愛小説、笹溝君がライトノベル、そして自分がヒューマンドラマ。
ジャンルこそ違えど本を書くということに変わりはない。
どのジャンルでも言葉にして表すというのは大変なのだ。
笹溝君曰く目標は、新人賞を受賞すること、らしい。
確かに作家デビューや賞金など魅力がある。
いや、それ以前に書くのが楽しいから、が大きな理由だそうだ。
発足会が終わり、寮に戻る途中に携帯が鳴る。
細永泰助と携帯の画面に表示される。
「はい、星文です」
「ねぇねぇミサ、食事行かない?」
「今からですか?」
「そう、今から」
「どこでですか?」
「ファミレス」
「分かりました。五時半でいいですか?」
「うん。待ってるよー」
着替えてファミレスへ向かう。
数十分後……
ファミレスの一席に座っている細永さんを見つけ席に座る。
「お待たせしました」
「待ってたよ~ミサ」
「何かありましたか?」
「そうなんだよ~執筆のことで相談したいことがあってさ~」
細永さんは、歳は違うが新人賞受賞のときの同期である。
『夏の面影』が彼の受賞作である。
「片柳さんはどうしたのですか?」
片柳さんも、歳は違うが新人賞受賞のときの同期である。
因みに細永さんと同い年らしい。
そして、『蜘蛛の牙~八人目の容疑者~』が彼の受賞作である。
そのいつもいるはずの片柳さんが今日は何故かいないのだ。
「断られた~今、忙しいって」
細永さんがテーブルに突っ伏しながらそう答えた。
「それで今日は呼んだのですね」
「そういうこと」
その後、一時間かけて相談を受けた後、雑談をすることにした。
「それでさ、どう?新作のやつの進捗は?」
「概ね順調ですね、今のところは」
「そうかーいいなぁ、締め切りが……」
「お疲れ様です」
「そうそう、新生活は慣れた?」
「ある程度慣れました。細永さんはどうですか?」
「どうも何も……相変わらずってところかな」
「そうなんですか」
「俺の場合は新生活ってほど環境変わってないからなぁ」
「まさしく日常ですね」
「確かにそうだな」
その後も何でもない日常の会話を続けたのであった。
その日の夜……
自分の携帯が鳴る。
白猫組という名前のグループトークからLINEが来ていた。
因みに白猫組というのは自分達の年の新人賞受賞者七人のことである。
相模「皆さんゴールデンウイークの予定はありますか?」
星文「特にないですよ」
久永「ありません」
高梨「ない」
細永「ないよ~」
片柳「今のところないかな」
赤羽「ないけど、どうして?」
相模「小説の題材探しと集中して執筆する、という建前のもとに八丈島にいきませんか?」
細永「東京?」
星文「東京ですよ」
片柳「東京都の八丈町のことか?」
相模「はい、その八丈町です。海慧さんは新しい編集者の方にはもう会いましたか?」
星文「はい、会いましたけど……どうしてですか?」
相模「今日、新しく海慧さんの編集者になったって言う宮北さんという方にあったので宮北さんも誘おうかなと」
星文「自分は大丈夫ですが、皆さんはどうですか?」
細永「オッケー」
片柳「いいよ」
久永「大丈夫です」
高梨「了解」
赤羽「分かった」
赤羽「ところで何泊するの?」
相模「二泊三日です」
久永「分かりました」
高梨「了解」
細永「白猫組生誕一周年記念だな」
星文「確かにそうですね」
赤羽「あれからもう一年も経つのか……」
片柳「そうだな」
久永「長かったような、短かったような」
細永「受賞式のときの相模の緊張ぶりと赤羽の噛みまくりは笑った」
相模「確かにそうでしたね……」
赤羽「誰がきゃみみゃくりだって?」
細永「今、その文章が噛みまくりだっつーの」
赤羽「やかまさいっ!」
高梨「また噛んでる」
星文「一回落ち着いてください」
赤羽「落ち着いてるし!至って正常だし!」
細永「噛みまくりの平常運転(笑)」
赤羽「ぶん殴ってやりたい」
細永「ピヨピヨパンチじゃ効かないね~(笑)」
赤羽「なめんなっ!」
星文「喧嘩は程々に」
片柳「ここで喧嘩すんなって」
細永「止めるな、これは男の勝負だ!」
片柳「ちょっと何言ってるのかわからない」
久永「何くだらないこと言ってるんですか」
細永「これはくだらないことではない!男と男の勝負だ!」
赤羽「男じゃない!い、一応女だっつーの!」
片柳「なんで言葉に詰まった?」
赤羽「う、うるさい!」
細永「えっ!?赤羽って男じゃないの?」
赤羽「喧嘩売ってんの?やんのか?」
細永「いや、事実確認でぇーす(笑)」
赤羽「顔にペンキ塗られたい?」
細永「塗られる前に塗る、これ鉄則鉄則~」
片柳「急にどうした?(笑)」
赤羽「ペンキが嫌ならマーカーペンで塗ってやる」
細永「塗るのは変わんねぇのかよ」
赤羽「べた塗りしてやう」
高梨「三回目(笑)」
相模「今日もよく噛みますね……」
片柳「いつも通りだな(笑)」
久永「確かに、もしかして酔ってます?」
赤羽「酔ってないし!素面だし!」
細永「何たって小学六年生だもんな(笑)」
赤羽「は?」
細永「不満か?じゃあ一年生(笑)」
赤羽「は?ちょっと何言ってるのか分からない」
細永「おやおや~怒ってますか~」
赤羽「覚悟しとけよ!」
片柳「どこの悪役だよ」
赤羽「三段重ね塗りしてやるから、待っていやがれ!」
片柳「だからどこの悪役だよ」
細永「こっちもスラッシュ塗りしてやるからな!覚えてろよ!」
片柳「いや、お前もかよ……てか、スラッシュ塗りってなんだよ(笑)」
細永「スラッシュ塗りはスラッシュ塗りだ」
高梨「何それ?」
星文「さあ……?なんでしょうね?」
相模「謎の会話になってますね」
片柳「それは今更(笑)」
久永「もう手遅れですよ、これは」
星文「ですね」
相模「もう寝ないと明日眠くなりますよ~、ではおやすみなさい~」
星文「おやすみなさい」
久永「おやすみなさい」
高梨「おやすみ」
片柳「二人共じゃれあいは程々にして早く寝ろよ」
赤羽「うるせー」
細永「やかましいわ!」
こうしてちょっと騒がしい一日が終わったのだった。