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母による爆弾

よろしくお願いします。

「紗羽、まだ彼氏できないの? そろそろ心配なんだけど。もうすぐ二十歳なんだし」


 最近母のこの言葉が痛すぎる。

 しかも、ここに「妹の夏音にも彼氏がいるんだから」の一言が付くもんだからさらに痛い。

 夜ご飯の支度をしている母は、ソファでDVDを見ている私に聞いてきた。ちなみに今月だけで3度目だ。

確かに現在19歳の私には彼氏なんていたことがない。見た目はそれなりに気を使っているので悪くないと自分で思う。告白されたことあるし、それなりの見た目をしているんだろう。でも、見た目に気を使っているのは恋愛のためではない。私は彼氏なんていらない。


この見た目は私の大好きなアイドル、ユーネちゃんのためだ。


 ユーネちゃんというのは私にとってナンバーワンのアイドルだ。6人アイドルグループ「Cube」のメンバーの一人でもあるが、最近はソロ活動もしている。もちろんグループそのものも応援している。ユーネちゃんは長い黒髪の下のほうだけを巻いた髪形をしている、ふんわりとした雰囲気が印象的な美少女だ。あまり丈の短いスカートなどを衣装として着ないことでも有名だ。たまには生足を見たいと思うのも、ファンとしては当然である。


 趣味であっているのかわからないが、私はアイドルオタクだ。推しのアイドルユーネちゃんのためだったら、お金も時間も惜しまない。

 そしてこの見た目も、趣味の一環である。アイドルであるユーネちゃんに会うときに、そんなダサい格好していられない。清潔感を大切にして、日々、自分を磨いている。髪の毛は我ながらつやつやだし、メイクも研究したため顔面偏差値はそれなりだろう。体形もとりあえず、太りすぎないようにだけ気を付けている。

 これも彼女に堂々と会うため! こそこそしたくない!

 まあ、少しでも彼女たちに好印象を与えたいだけともいう。せめて自分が男で、イケメンであればっ! いや、女のほうが近づきやすいのか……?

 それで、彼氏の話だったか。


「えー、いらないんだけど。どちらかと言えば、かわいい彼女がほしい」

「あんたはまたそういうこと言って……。まだ、アイドルにのめりこんでるし」


 母は私の冗談だとわかっているだろうと「彼女がほしい」と言ってみる。アイドルが好きなことも知っているし。今までに母の「彼氏は?」攻撃に何度かこうやって返したことはあった。だから、いつものように流してくれると思っていたのだ。実際に、ここまではいつもの流れだった。


 しかし、母はここで私に爆弾を放り投げてきた。


「もし、紗羽が女の人のほうが良いっていうなら遠慮せずに言ってね。……別にそういうのに偏見はないから」


 私は思わずテレビから目を離し、母をガン見した。お気に入りのライブDVDだったが、後で見直せばいいのだ。今はそれより母だ。母を見ると、私から視線をそらして床を見ている。

 これはまずいんじゃないだろうか。


 いつもだったら、「まあ、いつか彼氏ができたら連れてきなさい」というこの一言で終わる。なんで今日はパターンを変えてきたんだ。驚きすぎてユーネちゃんがセンターを務める曲のサビを見逃してしまった。後で見ればいいんだけど。じゃなくて! 同じところを何度か思考がめぐってから、やっと私は現実に戻ってきた。これはヤバい。


「お母さん! 違うから! 恋愛対象は男だから!」


 私のその言葉から始まった押し問答は、結局母の「わかったから」という一言で終わった。なんとも投げやりな言い方で、不安になる。絶対わかってないよね!?

 アイドルにのめりこむことに対して今まで何も言われなかったのに、もしかしてずっと同性が好きだからだと思われていたのだろうか。同性が好きだから、仕方なくアイドルに走ったと思われていたのなら嫌だな……。私のアイドルに対する熱意はそんなものではないのに!


「お父さんにも言ってたりしないよね……?」

「そうかもしれないって言っちゃってるから、ちゃんと間違いだったって言っとくわ」


 どうやら、母は父に報告済みだったらしい。ほんとにやめて。少し考えすぎるところのある父は、母にこの話を聞いてから眠れなかったんじゃないだろうか。そういえば、ここ2,3日の父の様子は少しおかしかったかもしれない。2,3日前には父に報告済みだったという事か。せめて、娘に確認してから言ってくれ。

 

 少し父のことが心配になったが、自室から出てきた夏音の「夜ご飯まだー?」という言葉で、私と母のこの話は終了となった。


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