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ミャオの旅路  作者: 記角麒麟
プロローグ
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プロローグ

 ――この世界を的確に比喩するならば、日本の文化の一つである、オリガミという遊びが当てはまるだろう。

 オリガミとは、折り紙と書き、読んで字のごとく、紙を折って、さまざまな形を作り出す遊びだ。

 世の中には複数の紙を使い、折り紙でブツゾウやドレスを作ったりする人もいたり、コンクールなどもあったりする。


「センセー!なんで魔術科の授業なのに、折り紙の話なんですかぁ?」


 最前列に座っていた、ソバカスの目立つ金髪の女子生徒が、手を上げながら質問してくる。


「ジェシー、いい質問だ。それじゃあ、魔術の基礎概念に、一般に魔力と呼ばれる可逆性エネルギー物質Xというものがあったことを覚えている人は、この中に何人いるかな?」


 俺の質問に、クラスにいる数人の生徒が小さく手を上げる。

 そして、その中に一人だけ、ピンと伸びた手が目立っていた。


「じゃあ、ロビン。魔力とは何かについて説明してみたまえ」


「はい!魔力とは、西暦二千年代中期に、日本の物理学者、リューによって発明された、可逆的な性質を有するエネルギー物質です。

 彼は世界を物質を個体、エネルギーを気体、双方の性質を持つ光子などの量子を液体として喩え、エネルギーの素であるP粒子の存在を計算と実験によって証明しました。

 彼はP粒子を世界の基盤であると考え、P粒子の運動の法則を導き出し、後に魔力と呼称される、可逆性エネルギー物質X、通称魔力を発見しました。

 この時魔力とは、P粒子の運動を制御することで得られる、万能エネルギーのことを指します」


「よくできました」


 彼のスピーチに、教室中の生徒たちから味気ない拍手が送られる。


 俺の名前はヒューズ。

 ヨーロッパ某国にある、西欧魔術特区のとある学校で、魔術教師をしながら気儘に暮らしていた。


「彼の言う通り魔力とは、世界の基盤とされるP粒子――幻想点ポイント・オブ・ファントム――を操ることで得られる、無尽蔵の可逆的な性質を持つエネルギーのことだ。

 可逆性ってわかるか?わかる人?」


 再び、数人が手を上げる。

 が、今度は講師である俺の指定もなしに、一人の男子生徒が声を張り上げた。


「いくらでも形を変えられるってことだろ!」


「簡単に言えばその通りだ。だがダニエル。発言は当てられてからにしたまえ」


「あーい」


「俺が折り紙の話をしたのは、つまりそういうことだ。

 どういうことかというと、魔力の持つ可逆性を説明するためだ。

 例えば、ここに……あー、このプリントは使っちゃ怒られるかな……。

 まあいいや、あとでコピーして戻しておこう。ここに、一枚のプリントがある」


 言いながら、俺はおそらく今日の終礼の時にでも配る予定だったのだろうプリントを一枚取り出して、目の前に掲げてみせた。


「これを、このようにして折り曲げると……紙飛行機になる。

 授業中に飛ばしたりすると怒られるから、お前らは絶対にするなよ?

 あ……こう言ったらカリギュラ効果になっちゃうのか……。

 まぁいい。

 で、魔力とはこういう風に紙みたいなもので、折り曲げる、つまり変性させて、別の形にすることによって、エネルギーの方向性を与えてやれることができる。

 今回俺が紙に与えた方向性は、飛ぶ力、つまり揚力と浮力だ」


 そう言って、教室の後方へ向けて、紙飛行機を飛ばす。

 紙飛行機はまっすぐ空を突っ切り、反対側の壁に当たって、墜落してしまった。


 俺は紙飛行機を取りに行きながら、講義を続ける。


「魔力にも同じことができる。

 いや、ここまでなら、電気でも同じことができるのだが、魔力はさらに、電気ではできない次のことができる。

 つまり、今さきほど作った揚力と浮力を、途中で全く別のエネルギーに変性することができる。

 例えば、今まで浮力と揚力だったエネルギーが、突然電気に変わったり、はたまた失活したりもできるようになる。

 生まれた慣性エネルギーを、再び魔力に戻して慣性制御をしたりもできるし、持っている位置エネルギーを突然運動エネルギーに変換したりもできる」


 言いながら、紙飛行機を拾って、その羽部分に細工を施し、今度は右斜め前方へ向けて飛ばしてみる。


 すると紙飛行機は旋回するように飛び、かつ、くねくねと上下に波を打ちながら教卓に着地する。


「先程の動きは、物理の教科をとっているならわかるだろうが、魔力を使えば、この動きが細工無しで行えるということだ。

 理解できたか?」


 クラスの全員に聞こえるようにそう尋ねると、俺はニコリと微笑んだ。

 するとちょうどその時、チャイムのなる音がした。


「うおっと、しまった。今日は五分短縮の授業だったな……。

 それじゃあ諸君、この続きはまた来週だ。それまでにちゃんと予習復習を済ませておくように!」


 ヒューズはそう言うと、急いでプリントを一枚手に取り、教材倉庫へと駆け足で向かった。

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