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3-1 底へ

地下はどこまでも続く。

既にどこまで下りたかわからない。

時間はよくわからないが、すでに半日以上はたっているのではないだろうか。

整然としているとはいえ、地下は同じ景色が続く。

時には階段を下り、広間のような場所を通り抜ける。そんなことの繰り返しだ。

エレナの灯す魔法の光によって足場の心配こそないものの、

どこまで続いているのかすらわからないのだ。

一人ならば気が滅入っているかもしれない。


フィアは大丈夫だろうか。

何度かフィアと目を合わせるも逸らされる。

朝の一件からずっとこんな調子である。

声をかけても返してくれない。相当怒っているのだろう。

そもそもヴァロはフィアと出会ってから、二人は喧嘩などしたことがなかった。

「一ついいか?」

「なんだ?」

クラントが横からヴァロに聞いてくる。

「それで休憩のときにも気になっていたんだが、

何でドーラさんがアデンドーマの三忌なんて太古の取り決め知ってなんだ?」

そう言えば、この男知らなかったか。

会議に出席していなかったことを今更ながら思い出す。

ヴァロはエレナに助け船を求める。

ドーラが魔王であることは口が裂けてもいえない。

エレナは視線を外してくる。我関せずといったところだ。

ドーラは転生した魔王だ。

その事実は一部の人間しか知らない。

もし自分から話したことがばれれば立場などすぐに吹っ飛ぶ。

ただし友相手に嘘をつきたくないというのもヴァロの本心である。

「…それは…」

「守護機兵がいます」

先頭のエレナの弟子のサングはそう言って、足を止める。

サングは声を押し殺し、奥の部屋を指さす。

「数体いるぞ」

「…守護機兵が数体だと?」

クラントは身を乗り出す。

話題が移ってくれたことにヴァロはひとまず胸をなで下す。

その部屋を覗き込むと、この前に戦ったものと同じものが数体見えた。

あんなに巨大なものが狭い空間に数体も存在しているのでは、

相手がどれほど緩慢だろうと攻撃を避けようがない。

奥には扉のようなものが見えた。

この場所から先を守っているようにも見える。

緊迫感が辺りを包む。

「少しいいかい?」

ドーラは場違いな声で聞いてくる。

「後にしろ」

エレナはドーラの質問をわずらわしげに振り払う。

「こりゃ骨が折れるな」

クラントはそう言って、どこか楽しげに剣の柄を握る。

ヴァロも聖剣に手をかける。

聖剣に手をかけた腕にヌーヴァの手が添えられる。

「ヴァロ殿、。それはしまっておくとよいでしょう」

ヌーヴァはヴァロを右手で制する。

「カリア、私が出てもよろしいか?」

ヌーヴァはカリアの方を見る。

「ここへ来る前も話したはずだ。いちいち俺に伺いをたてんでもよいとな」

「そうでしたな」

ヌーヴァはそう言って肩をすくめた。

「エレナ殿、私がアレの相手をしましょう」

「いいだろう。任せる」

エレナはそう言って腕を組む。

ヌーヴァは静かに守護機兵のひしめく部屋の中を一人進み出る。

その後ろ姿は守護機兵と比べるとなんと小さいことか。

「本当に一人で行かせてしまっていいのか?」

ヴァロは少し心配になってドーラに聞く。

「君は魔族の戦い方を見ておくべきだヨ。

魔族の魔力の使い方は、僕らのような魔法使いとは型が違うヨ。

魔法使いは編んだ魔法式に魔力を通すやり方だけど、魔族はその魂に刻み込まれた型を利用して戦うのサ。

ゆえに魔族は魔法使いのように多様性を持たないが、戦闘においては魔法使いよりも秀でているのサ」

「言っている意味がわからないんだが?」

「見ていて御覧ヨ。彼がそのいい例を示してくれるからサ」

ヴァロはドーラの言葉に従い、ヌーヴァの後ろ姿を見守る。

ヌーヴァの存在を確認したのか、守護機兵が動き始める。

ヌーヴァは帯刀している剣を抜いた。

同時に周囲に結界のようなものが展開していく。

それはヌーヴァを中心にヴァロたちの足元まで広がる。

冷気がその場を支配し、鉄の巨人の動きが鈍くなっていく。

「『氷獄陣』、ヌーヴァの最も得意とする戦術だヨ」

「陣っていうのは?」

「陣というものは己が魔力で空間を満たし、空間を封鎖する奥義の一つサ。

陣は一部の上級魔族にしか使えない上、ヌーヴァほどの陣の使い手ともなれば数名しか存在しないヨ」

周囲を取り囲む守護機兵たちが氷結し、ヌーヴァの剣の一閃により切断された。

エレナの『魔弾』ですら、貫くことができなかった装甲をヌーヴァはまるで紙のように切り裂く。

身の丈の倍もありそうな守護機兵が、胴を両断され、次々に崩れ去る音が洞窟内に響きわたる。

その光景にヴァロは鳥肌が立った。

いやヴァロだけではない。見ていた誰もがその光景に言葉を失う。

ヌーヴァは無駄ない動作でその剣を鞘に戻し、ヴァロたちの方へ反転する。

「さて、進みましょうか」

その姿は怖ろしいほどにさまになっていた。

「さすが、ヌーヴァ。相変わらず腕は落ちてないみたいダネ」

ドーラはヌーヴァの肩を叩く。

「ドーラ殿に褒められても、あまりうれしくはございませんな」

ヌーヴァは表情を変えることはない。

「ヌーヴァさん、あんなに強かったのか」

感心したようにヴァロがつぶやく。

剣閃はほとんど見えず、一太刀で数体を切り伏せている。

それに加えて陣を使って凍らせて爆発を抑えている。

まともに戦っても勝負になるとは思えない。

「ああ、ヌーヴァは私の師だ。実力は私よりも上。

かつては我々の国で、その名を知らないものはいないといわれるほどの猛者だった」

ヴァロの反応を楽しむかのようにカリア。やはり元侯爵は伊達ではないらしい。

「師を下につけているのか?魔軍ってのは実力本位と聞いていたが?」

「本来なら私の方が下の立場になるところだ。

本人は爵位をすでに返上しているし、今回の人間界への同行はヌーヴァ本人の希望によるものだからな」

そういえばラフェミナと対面した際に墓参りをすることを聞いていなかったか。

ドーラの話では、ヌーヴァはかつては魔王軍において第二皇女サフェリナの護衛だったとか。

サフェリナは第三魔王クファトスの次女であり、かつての大魔女である。

ヴァロを含む数名しか知らないが、フィアの母親だとも聞いている。

特にフィアを見たときのヌーヴァのえも言われない表情は忘れられない。

フィアに母親の面影をみたのかもしれない。


守護機兵がひしめいていた奥には扉があった。

エレナはクラントに命じて魔剣の力で扉を吹き飛ばした。

扉の先には目も眩むような金銀財宝が積まれている。

「…宝物庫のようですな」

「守護機兵が守っていたのはこいつか」

財宝を手に取りエレナ。

「地下に続く階段もなさそうだな」

周囲を見回しながらカリア。

「他に部屋はなかったのか?」

「ここまで一本道だったぞ?見落としなんてあるわけないだろう」

そう、ここは一本の通路の突き当り。

ここへ来るまでに部屋などどこにも存在していないし、

ましてさらに地下の奥深くに続くような階段は無かった。

「ということはここが遺跡の最下層?」

そこにいる皆、納得のいかない表情を浮かべた。

これで終わりだとしたら、あまりにあっけなさすぎる。

何か見落としでもあるのだろうか?

「ドーラさん、さっき何か言いかけてましたよね」

フィアは不意にドーラに声をかける。

守護機兵のいる部屋の前でドーラが何か言いかけていた。

「フィア殿」

エレナの言いたいことはわかる。元魔王の肩を持つのかといいたいのだろう。

「意見は平等に取り扱うべきです。聞くだけ聞いておいても損はないはずでしょう?」

フィアはエレナに対し臆することなく意見を述べる。

「…言ってみろ」

エレナは苦々しげにフィアの提案を受け入れる。

「守護機兵いた部屋の少し前の通路の脇に奇妙な空洞があったヨ」

「なんだって?」

ドーラはその場所まで皆を案内する。そこには他とは若干色の違う壁がある。

その壁を叩くと乾いた音がした。

「空洞になっているようだな」

エレナが手から魔力を放射するとその壁はあっけなく崩れさった。

そこに部屋が現れる。奥の部屋には地下へと続く階段があった。

「よく気付いたな…」

「注意深く見ていればわかるサ。ここだけ微妙に色が違っていたからネ」

とはいえ、薄暗いこの地下で色の違いを見分けるのは困難。

さらに守護機兵が目の前の部屋から先を守っていた。

その状況で見つけ出すのは難しかっただろう。

見つけられたのはドーラの観察眼によるところが大きい。

「かなり手のこんだ偽装だネ。僕らをミスリードするために今の階があったようにも思えるヨ。

これから目にするものはあまり愉快なものではないかもしれないネ」

ヴァロはドーラの発言に違和感を覚える。

「聞かれるまでもない。進むに決まっている」

エレナは勇んでそう答えた。

一つ勘違い。魔王認定者ではなく魔王指定者の方が意味的に正しいと最近気づきました。

これから魔王指定者と書かせてもらいます。ごめんなさい。

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