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2-2 そして、地下へ

会議が行われた日の翌朝、ミイドリイクの北部の遺跡群にヴァロたちは集まっていた。

ここは人が寄り付かない。それはなぜか水路が通っていないためだ。

ゆえに手つかずの場所として長い間、放置されてきたという。

一時期盗賊など、ならず者の巣窟だった時もあるという。

ずいぶん昔に一掃されたようだが。

「ああ、頭いてー」

「ふふん、貴様ら人間とは出来が違うのだ」

クラントのぼやきにどこか得意げにカリア。

「魔族とやらはずいぶんと口先達者だな。俺との勝負まだついてねえぞ」

「まだまだいけたわ」

とか言いつつこの伯爵様も十分に酒臭い。

「朝からこの調子かよ」

ヴァロも頭が痛い。二日酔いだ。

帰りにクラントとカリア揃って道端で吐いていた。

背後のヌーヴァ以外の魔族の人たちも気持ちが悪そうにしていた。

後からきたローファが来たために、魔族のヒトたちも引くに引けなくなったのだ。

「これ、魔族の方にも効くかどうかはわからないですけれど、よければつかってください」

そんな中フィアはかいがいしく水と薬草を配っていた。

何度かヴァロが二日酔いでヴィヴィの住処を訪れたことがあるために覚えたという。

薬はエレナの弟子の一人から分けてもらったようだ。

「お、おう。すまぬ」

カリアはよそよそしくそれを受け取っている。

「フィアさん、俺の分は?」

そう聞くとヴァロの顔を水に見ず薬草を押し付けてきた。

フィアは完全に怒っているらしく、ヴァロと視線を合わせようともしてくれない。

原因は今日の朝のこととである。

翌朝、フィアに昨日の飲んだことを伝えると

「ヴァロ、今日何で止めなかったの?今日遺跡の探査があるって聞いていたでしょう?

挙句に旅費も全部使っちゃうなんて…信じられない」

とヴァロは久しぶりにフィアに本気で怒られた。彼女の言葉に返す言葉もない。

あの飲み会の後、カリアは持ち合わせがないとのことだったので、

ヴァロが全額負担することになったためだ。

そして、このありさまである。

旅費はおろか、少し多めに持ってきたお金もほとんど残っていない。

最悪、帰りはエレナさんから借りるしかなさそうだ。

踏んだり蹴ったりである。

「嬢ちゃん、しっかりしてるなあ。ありゃいい嫁さんになるぜ」

フィアからもらった薬を口にくわえながらクラント。

見ると今まで着込んでいた黒い甲冑ではなく旅をしていた時のマントだ。

「そういえばクラント、甲冑はどうした?」

「人目につかなきゃいらねえよ。あんなもん。重いだけだしな。

俺にはこいつら魔剣の加護があるんだぜ?

それに探査するには邪魔だからな。今日来るときに返してきたぜ」

クラントは四本の魔剣を指さした。

魔剣の契約者は強力な力を扱うことが出来る反面、

その魔剣により使用者が傷つかないように造られている。

その加護は魔剣以外の攻撃からも契約者を守るものだという。

それは魔剣の加護と呼ばれるものらしい。

四本もあるのだから、かなりの力があるのだろう。

事実、ヴァロの契約している聖剣の直撃を食らって、こうして生き延びている。

「ドーラは大丈夫なのか?」

ドーラはヴァロの脇でけろりとしている。フィアから薬ももらっていないようだ。

この男もかなり飲んだはずなのだが。

「僕なら大丈夫サ。心配されることじゃないヨ。僕は酒を飲む分量をわきまえているからネ」

さも当たり前のようにドーラは語る。

「昨日一緒にいて君らのことがよくわかったヨ。決闘の件といい、君らただの馬鹿だよネ」

ドーラの中でヴァロたちは馬鹿ものだと決定したらしい。

「馬鹿か違いねえ」

クラントは隣でけらけらと笑う。

それはお前もだぞとのどから出かけたが、ヴァロはそれを飲みこんだ。


「さて、集まったようだな」

エレナはそう言って全体を見渡した。

エレナの後ろには日傘を差した麗人ラフェミナ。

そして彼女の弟子たちが後に続く。

こちらに気付くと微笑んで手を振ってくる。

「今日の件なんだが…」

言いかけてエレナは鼻をつまんだ。

「なんだ酒臭い。お前たち一体何を…」

「親交を深めるための儀式みたいなものサ」

エレナはドーラに冷ややかな視線を向ける。

「まあいい。ついてこい」

エレナは先頭に立って歩き始める。

ヴァロたちはエレナの後をついて歩き始めた。

事の元凶の異邦の王様はけろりとした様子でその場に立っている。

「何じゃ主ら、あのぐらいで参っておるのか」

一樽ぐらいは飲んでるんじゃないのか?

ある意味で人と同じくくりで囲ってはいけないとわかった気がする。

「いえ、まだまだいけます」

ローファはカリアにとって上の存在らしい。

どこか横柄なカリアの言葉がローファの前では丁寧になる。

「そうか、遺跡の探査が終わったら楽しみにしておるぞ」

バシンとカリアの背中を叩いてその王様はカリアの前を離れた。

カリアはなんとも言えない表情を見せた。


遺跡のはずれまで来たところでエレナが反転し、声をかけてくる。

「始まる前に一つ言っておくことがある。今回探査団を取り仕切るのは私だ」

エレナは鋭い視線をカリアらに送る。

魔族に対しての嫌悪感がそうさせるのか。

「構わん、好きにするといい。同行したいといったのは我々の方だ。

我々は結果として目的が達せられればそれでいい」

カリアは興味なさげな様子だ。

衝突があるかと心配したが、杞憂に終わってヴァロは少し安堵した。

「調査する人数はできるだけ絞りたい。

すまないがこちらの方で人選させてもらった。

我々側からは私を含め、フィア殿、私の弟子のサングを連れて行く」

要は目の届き、管理できる人数を連れて行きたいというわけだ。

サングと呼ばれた魔女はヴァロの前で一礼した。

ローブを着込み、リュックを背負っている。

見た感じどこか大人しげの印象を受けた。

「魔族側からは俺とヌーヴァだけでいい。他の三人は地上で待機してもらう」

カリアは動じることなくそう言い切る。

エレナにとってそれは予想外のことだったようで、少し驚いた様子だ。

「僕もついてっていいよネ」

「…私は反対したのだが、ラフェミナ様がどうしてもと…」

憎々しげにエレナは言う。

エレナには魔王に対しての嫌悪感がありありと態度ににじみ出ている。

「ミーナ、ありがとネ」

ドーラは我関せずといった感じで、ラフェミナに手を振る。

本当に図太い神経をしていると思うが、いつものことだ。

エレナは顔をひきつらせていた。もはやこれ以上は突っ込むまい。

「それとヴァロ、クラント、貴様らもだ」

「おう」

身元は怪しいところがあるが、クラントは魔剣使いとして一流である。

戦闘においては魔法使いのそれを凌駕するだろう。

ヴァロは取りあえず聖剣の所有者だ。

ヴァロとクラントの存在は、二人の魔族に対し、もしもの時のための保険と考えたほうがよさそうだ。

互いが互いを警戒している。こんな部隊で本当に探査できるのか。

ヴァロは一抹の不安を覚えた。

「以上八名で遺跡の探査を行うが異存はないな」

それぞれは言葉無く頷いた。

エレナはそれで合意が取れたとみなしたようだ。

こうしてヴァロ、フィア、ドーラ、クラント、エレナ、サング、カリア、ヌーヴァ

の八人が地下の探索を行うことになった。

「残りの者たちは我々が帰るまでここで待機してもらう。

もし何かあればラフェミナとそこの獣王に指示を求めろ」

エレナの弟子数名と魔族の三人は頷く。

「それで遺跡の場所は?」

「入口はそこ岩の下にある」

そこにいるだれもが自身の目を疑う。

エレナの指示したのは瓦礫が無造作に積み上げられている場所だったからだ。

「道理でわしがいくら探しても見つからなかったわけじゃな」

納得したようにローファがつぶやく。

「遺跡はかなり地下深くまで続いているらしい。

我々の魔力を使った探知魔法でもどこまで続いているのかわからなかった」

エレナは結界の力を使って岩を横に避ける。

だいの大人が何十人もかけても持ち上げられそうもない岩を軽々と持ち上げるのだ。

ヴァロのような一般人からすればすごい光景である。

「ほうこの状況で結界の力を使うか」

感心したようにカリアが漏らす。

「ミイドリイクの結界はあまり地下深くまで効力を及ぼさない。

それに現在は結界は事情があって、すべてが機能しているわけではない。

期待はしないことだ」

その中で自在に力を操れるエレナは一流の魔法使いなのだ。

石が無くなった場所には、地下に続く階段のようなものが現れる。

どうやらここが地下へと向かう場所らしい。

「遺跡の構造は巨大な迷宮のようになっている。

その上、遺跡には守護している機兵がいる」

「機兵?」

機兵という言葉に皆が反応をしめした。

「どう考えても貴様の言うパオベイアの機兵ではない。

背丈は人間の倍ほどあるし、昨日見せられた腕の数倍は大きい。

動きも緩慢で自分の持ち場を離れようともしない」

ドーラなどはあからさまにそっぽを向く。

「ただもし普通の人間がその手に捕まれば、たちどころに潰されるだろうな」

「へえ。守護機兵ねぇ。そりゃいよいよ何かありそうだな」

「気を引き締めろ。これからは未踏の領域。何が出てくるかわからんぞ」

エレナは遺跡の階段に足をかけた。


最後に遺跡に足を踏み入れたのはドーラ。

ドーラはその場で妙なものを見つける。

「おや、これは…」

ドーラは立ち止まり、足元に転がる石を拾い上げる。

拾い上げた石には見覚えのある文字が刻まれていた。

「ドーラ何してんだ?」

ヴァロはドーラに気づき声をかける。

「もたもたするな」

いらだちながらエレナ。

「待ってヨ」

ドーラはその石をポケットの中に入れて後を追う。


かなり駆け足でした。書き直したいけど…書き直す機会はないかな。

さて、ようやく舞台は地下へ。

そこで待つモノは何か。

楽しんで書いてい公と思います。

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