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1-3 会議前

会議を行う場所はエレナが本拠を置く建物だ。

ヴァロはフィアとドーラ、魔族の五人を引き連れそこへ向かう。

聖剣の所持者ということで、護衛というわけではなく正式にヴァロもその会議に招かれた。

一介の『狩人』に破格の対応といってもいい。フィアの後押しもあったとか。

その件に関してはあまり知らないほうがいいだろう。


魔族の服装は目以外は全部布で巻かれていた。

魔族は人間と若干肌の色が違う。青白いのだ。

夜ならばともかく、朝になればその顔にごまかしは効かない。

もし万が一気づかれればトラブルのもとになりかねない。

ミイドリイク警備兵からなんどか声をかけられることもしばしば。

そのたびにフィアが書状のようなものを見せると、驚くほどあっさりと引いてくれた。


会議場の広間にヴァロたちはたどり着く。

すでに数名の会議の参加者が来ているようだ。

魔族の面々はそれぞれに布を解いて

ローファやエレナ、その弟子数名、さらに見知らぬ女性とそれに付き従う女官の姿がある。

見知らぬ女性は豪華なドレスに身を包んでいる。

それはまるでそこだけ花が咲いたような印象を受ける。

貴族の人間だろうか?エレナの弟子にしては身なりが派手すぎるし、あきらかに場違いすぎる。

エレナはというと、こちらを睨み付けてきている気がする。

見てはいけないものを見た気がして、ヴァロは視線を外す。

その麗人は獣王と二人で何やら話し合っているようだ。

麗人の少し後ろに、数人の女官らしきものがいるだけで、その場所を避けるように人がいない。


ヴァロはローファという大男に視線を向ける。

偉丈夫と言えるほどの大きな体躯を有し、表情豊かな顔立ちをしている。

彼は幻獣王、異邦を束ねる王の一人であるという。

彼は幻獣王で魔王以上の力を持つのだそうだ。

ドーラから聞かされた話を今でもヴァロは信じられない。


そんなことを考えていると、

ローファと何やら話していた麗人がヴァロたちに気づき、こちらに向かってくる。

たわやかな金髪はまるで滝のように波打ち、

強い光を宿す金色の瞳は意志の強さを示していた。

まるでそこだけ光に照らされているような気さえ受ける。

ただ美しさの中にも威厳に似たものを感じる。

外見こそ令嬢だが、外見だけでは判断できない何かがあった。

「生身で会うのは初めてね、フィアちゃん、ヴァロさん」

見知らぬ美女に親しげに話しかけられ、ヴァロは混乱する。

これほどのまでの美貌ならば、記憶に絶対に記憶に残っているはずだ。

だが一つも覚えがない。

一方でフィアは一瞬、驚きの表情を浮かべ、そのあとに一礼した。


その麗人はヴァロたちから、ヴァロの背後にいる魔族の伯爵に視線を移す。

「私の名はラフェミナ。魔女たちを束ねる大魔女と呼ばれるものです」

ラフェミナという名前にヴァロは驚愕する。

そもそも北の果ての地にいる女王がどうしてここにいるのか、ヴァロにはわけがわからない。

ただ周囲の対応を見ても、彼女が女王であることは、疑う余地はない。

「あなたがあの…失礼。初めまして、私はこのたび魔軍の指揮を任されている

カリア=ノーブフォンデといいます。以後お見知りおきを」

「ずいぶんと若いのね」

「若さだけでは伯爵には就けないことを、今日の会議で示しましょう」

堂々とカリアはラフェミナに応じた。

「ふふ…異邦の伯爵さん。今日は楽しみにしているわ」


「ヌーヴァ、お久しぶりね。まさかあなたが来ているなんて…」

「お久しぶりです、ラフェミナ第三皇女」

ヌーヴァは深く頭を下げる。

ラフェミナは第三魔王クファトスの一番下の実娘だそうだ。

ヌーヴァはサフェリナ第二皇女の護衛だとドーラから聞いている。

お互いに面識があったとしても不思議ではない。

「姉さまは…」

「…存じております。許されるのであれば、墓前に花を供えさせていただきたいのですが?」

「ヌーヴァ…」

ラフェミナはヌーヴァの一言に一瞬表情を曇らせる。

「許すも何も、私はそれを拒否することはできないわ」

「感謝します」

ヌーヴァは再び深く頭を下げた。

「ヌーヴァ、変わったわね」

「…時の中で変わらないものはおりますまい」

「…ええ、そうね」

ラフェミナは寂しげにつぶやいた。

「そうそう、ヴァロさん。少しいいかしら」

ヴァロはラフェミナに声をかけられるとはつゆも思わない。

ラフェミナは女官たちを下がらせると、ヴァロに視線を投げる。

どうやらついてこいと言っているようだ。

周囲の注目が二人に集まる中、ヴァロとラフェミナはその場を離れた。


人目のない通路の突き当りで、ヴァロと大魔女二人きりになった。

「何のご用でしょう」

恐る恐るヴァロはラフェミナに声をかける。

「ヴァロさん、聖剣と契っているわね」

彼女はそう言ってにこやかにほほ笑んだ。

ヴァロは無言で首を縦に振る。

ヴァロは呼び出された理由を一瞬で悟って青ざめる。

現在、聖剣と無断で契約することは、教会が固く禁じている。

教会に知られでもしたらヴァロは大罪人確定である。

エレナには黙ってくれるようにお願いしたはずだが、どうやら無駄だったようだ。

「少し見せてもらってもよろしいかしら?」

言われるままにヴァロは聖剣をラフェミナに差し出した。

ラフェミナが手に取り、何やら念じると折れた聖剣が光とともに復元していく。

「これは…」

「見せかけだけ元の姿にもどしたわ。やっぱり、折れたままでは格好がつかないものよね」

ラフェミナはそういって微笑んだ。

さすが魔女たちの最高峰。なんでもありである。

「ありがとうございます」

「聖剣の調律を任されているのは現在、私だけなのだもの。

以前は姉さまが交代でやってくれていたのだけど」

「聖剣と無断で契約してしまい申し訳ありません…」

ヴァロは申し訳なさそうにラフェミナに謝る。

もはや謝るしかない。謝ってすむものでもないが。

「ヴァロさんは気にしなくていいわ。だいたいの事情はエレナから聞いている。

ああ、エレナは責めないであげてね。彼女は最後まであなたのことを隠そうとしていたから。

それに私はコーレスであなたを見たときから気づいていたわよ」

話してみてほんわかしてる感じとは裏腹に、見るところは見ているらしい。

この姿で彼女が大魔女といわれている所以がわかった気がした。

「もし責任があるとすればヒルデね。

ずっと心配していたのよ。はぐれてからあまり便りをよこさないし。

全くヒルデは、昔からそういうところ何もかわってないんだから」

見かけ上はヒルデよりも年下なのに、その姿はどこか子供を叱りつける母親のようだ。

「ねえ、ヴァロさん。ヒルデは元気だった?」

ヴァロが頷くと、ラフェミナは無邪気に顔をほころばせる。

「ありがとう。彼女の力になってくれて。

あら、もう会議の時間ね。私たちも早く戻りましょうか」

彼女の言いたかったことはそれなのだろう。

どうやら最悪の事態は回避できたようだ。

ヴァロは体から力が抜けていくのを感じた。

それはさながら強者と真剣勝負をした後のようだ。

ヴァロは大魔女の後を追って、会議の場に足を向ける。

「話は終わったカイ」

ドーラは通路の脇で壁を背にして腕を組んでいた。

思い切り不機嫌な表情をしている。

ヴァロは思い返すそう言えば、今日はドーラとまともに話していないことを今更ながら思い出す。

「ドーラ、エレナの注意をよくかいくぐってこれたわ」

「エレナ?ああ、今日僕の姿を見るなり警戒していた彼女のことか。

…彼女には僕の素性を話したんだネ。

彼女は今カリアの配下の魔族を僕だと思っているヨ」

知っていれば、魔王とラフェミナを二人きりにするという過ちは犯すまい。

ドーラにはいつもの陽気さが全くと言っていいほど感じられない。

それがかえって不気味だった。

「ミーナ。僕が起こっているのはそこじゃないヨ。君、一度極大クラスの魔法を使っているネ。

君の姿を生身で見るまで気付かなかったヨ」

ドーラは険しい表情のままだ。

ヴァロは置物のようにその場所に立ち尽くしているだけだ。

「ええ」

「…もう使わないとこの場で僕に誓ってもらえるカナ。誓えなければ今後、僕からの協力はなしダ」

ヴァロはドーラの真剣な表情を初めて見た気がする。

どうしてかわからないが、ドーラは本気で腹を立てているらしい。

「ならば…ドーラ兄様も誓ってもらえる?カーナ姉さまに会うまで死なないと」

ドーラ兄様という言葉にヴァロは驚いた。

彼女たちの師であるかどうかまではわからないが、近しいのは本当のようだ。

「僕はそのつもりだヨ。こっちは言いたいことが山ほどあるんダ。

死ぬのはあのお転婆に愚痴を吐き出してからにすると決めているヨ」

吐き捨てるようにドーラは言い放つ。

カーナという魔女は伝説の大魔女で、魔女たちの魔法の祖として伝えられている。

伝説の魔女とかもはや威厳もへったくれもない。

事情を知らない人間が聞いたのならば眉をひそめるような話だ。

「…だいたい君はなんでも一人で背負い過ぎなんだヨ。

あのリスクは君自身が一番わかっているはずだろう二」

「ドーラ兄…いえドーラ…」

ドーラはラフェミナの顔に手を当てる。

「…誓えなくてもいいサ。君にも立場があル。

ただその時が来るまで極力使わないことを僕に約束してくれヨ。

そうでないと僕はあいつに顔向けできナイ」

ドーラの声はまるで懇願するようにも聞こえる。

「約束する」

「ならいいサ」

ドーラはラフェミナの頭をやさしくなでる。

その光景はまるで本物の兄妹のようだった。

「ヴァロ君、見苦しいものを見せてしまったネ。それじゃ、会議の場に急ごうヨ」

そう言ったのはいつものドーラだった。

ラフェミナちゃん登場。

…怖い人ですね。ほんわかしてるけど、抜け目がない強敵です。

そうでなければ一介の個人が教会の中枢相手に渡り合えるわけもなく。

本当はまだ出すつもりなかったんだけど、流れで登場。

こうなりゃ最も重要な役割を担ってもらいましょう。

なんか勝手に物語が動いてる感じがw

…自己満足ですね。

大幅に加筆しました。


それと遅れましたが、感想もらって嬉しかったです。

読んでもらえているんだなと少し感激。

これからの励みになります。

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