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1-2 魔族

魔族というのは、一般的に魔力を持ち高い知性を有する人外のことを総称してそう呼ぶ。

その存在は人々の偏見に満ちており、過去の大戦の影響で排斥の対象にされることも多くあった。

そのため、現在魔族と呼ばれるもので人間界に存在する者はごくわずかであり、

確認された例も最近ではほとんどない。

現在、ほとんどの魔族が異邦(ソプターブ連邦)に属しているといわれている。


待ち合わせの場所は砂漠の真ん中だった。

その日の夕刻、ヴァロたちは歩いてその場所に向かう。

クラントが馬車でも手配しているかと思いきや、

砂漠の中を移動するのに馬車は使えないのだという。

ヴァロたちは徒歩で魔族との合流地点にむかうことになった。

合流地点に近づくと、フードを被った五つの人影が見えた。

近づくまでその存在に気づかなかったため、おそらく何らかの力をつかってるのだろう。

巨大な天幕ですら隠しきるのだ、数人など余裕だろう。

ヴァロはフィアを連れてその数人の怪しげな人影に近づく。

「ようヴァロ。迎えはお前か」

「ああ」

声で魔族の伯爵カリアだとすぐにわかった。

ぶっきらぼうな言葉こそ投げかけてくるが、どこか親しみを感じる。

「次の再戦は全部すんでからだ」

「まだやる気かよ」

ヴァロは自然とため口になった。

この男には決闘を通じて、どこか騎士団の仲間と近しいものを感じていたためだ。

カリアはヴァロに近づくとフードを取り、顔を出してにこりと笑った。

「当然だ。いつまた来れるかわからないのだ、白黒つけずに帰れるものか。そこの者は…」

カリアの目がヴァロの脇のフィアに向けられる。

フィアは視線を受け止めると微笑む。

「はじめまして、聖堂回境師をしているフィアといいます。

ミイドリイクまでの案内をさせていただきます。以後よろしくお願いします」

フィアはスカートを上げ、一礼した。

「こ、こちらこそ、は、初めまして」

体が硬直しているのが一目でわかった。

異邦の伯爵様にも思わぬ弱点があったものだ。

「…可憐だ」

すっかり骨抜きになっているようだ。こちらの言葉も聞いてくれそうにない。

ヴァロは会話をあきらめてもう一人の方に向き合う。

「ヌーヴァさん、よろしくお願いします」

ヌーヴァもフィアを見つめていた。

まるで亡霊を目のあたりにしているかのような表情だ。

ヌーヴァはヴァロの視線に気づくと平静を装う。

「…失礼しました。こちらこそ、改めて私の名はヌーヴァといいます。

ドーラの話ではかつて侯爵を持っていたという実力者らしい。

さらに元悪魔王の片腕であり、王族警護をしていたという実力者だ。

ヴァロはヌーヴァという男には少し話しておきたいことがあった。

「失礼ですが、ヌーヴァさんも『爵位』を持っていらっしゃるのですか?」

「昔のことです。すでに二百年前に返上いたしましたよ。…なるほど、彼から聞いたのですね」

彼とはドーラのことだろう。やはり初対面の時に気づいていたらしい。

さすが元侯爵。一目でドーラの正体を看過していたらしい。

ドーラを見て表情を動かしたように見えたのは、思い過ごしではなかったようだ。

「察しが早くて助かります」

「魔王は人間界では忌み嫌われていると聞きましたが?」

「…彼とは関係が特殊なもので。彼の正体はフィアと私と一部の者しか知りません。

できれば他言は無用でお願いします」

ドーラの存在は杞憂でもあった。あまり大声で吹聴されても困るのだ。

そういう人には見えないが、一言言っておく必要があった。

「わかりました。そういう様に私も対応させていただきましょう」

「助かります」

ヴァロはふうと息を抜いた。

「はじめて会った時も思いましたが、言葉流暢ですね。

異邦で話す言葉も皆、人の使う言葉なのですか?」

「我々の住むソプターブ連邦では現在、六つの言語が公用語として使われています。

その中に人の使う言葉もあります。ただし、扱える者はあまり多くはいません。

今人間界にいる魔軍でも話せるのは私とカリアだけでしょうか」

「六つ…そんなに」

「国土も広く、種族も多種多様に存在します。

地方に行けば聞いたことのない言葉を使っている部族も多くありますよ」

ヴァロは驚きの声を上げた。

「それにしてもあなたは不思議な方だ。魔族の我々とも普通に接する」

「不思議な奴の影響を間近で受けてきたもので」

そう、それは特大級の特異点といってもいい。

本人は今好奇心の赴くまま、遺跡巡りでもしているだろう。

「たしかに」

ヌーヴァの表情は変わらないが、少しだけ口元が緩んだ気がした。

魔族に関して、聞いていた話とは違っていたことに、ヴァロは内心驚いていた。

選択肢を誤らずに良かったと思う。

「魔剣使い、お前もか」

「クラントだ」

カリアの言葉にクラントは無愛想に返す。

「それではクラント、これからよろしく頼む」

「おう、こちらこそ」

差し出された手をクラントは驚いた様子で握り返す。

礼儀正しいカリアの態度にクラントも面食らった様子だ。


ミイドリイクへの道中はつつがなく進んだ。

道中カリアと接してみるとどこか育ちの良さが垣間見える。

決闘の件といい、書状の件といい礼儀正しい一面があるようだ。

思い返してみれば交渉の際の横柄さは、カリアなりの演技だったのだなと思う。

これなら話し合いもうまく行きそうな気がする。

戦うことも覚悟していたがその心配も杞憂ですんだ。

そんなことを思いながら、ヴァロは道中他の魔族たちを観察する。

他のヌーヴァを含めた四人の魔族たちは黙々とカリアの後ろについてきている。

彼らは特に不満をもらさなかったし、それどころかこちらに対して協力的な態度さえ見せた。

予想に反して意志の疎通は難しくなさそうだ。

それはヴァロたちにとってうれしい誤算だった。

ミイドリイクの城壁内へも、問題なく通過し、ヴァロたちは宿に彼らを案内する。

そのあとミイドリイクの街並みにカリアたちが驚くのは見ものではあった。


その日、順風に見えて実は大きな落とし穴が待っているとは、ヴァロたちは思いもしない。

問題は彼らの方ではなかったのだと気付くのはその翌日のことだ。

魔族に関して、いつか書こうと思っていて今回冒頭に書きました。

今回書いてて予定外のヒトが多く登場することに…。

わけがわからなくなったらごめんなさい。

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