エピローグ
荘厳と言える宮廷に規則正しい靴の音がこだまする。
黒のドレスに身に纏い、口元を扇で
怪しまでに美しいその様には威厳すら感じさせる。
その者は傲慢に、我が物顔でその回廊を歩いていた。
脚を止めたその先には、目の前には巨大な扉があった。
その女性が扉の前に立ち、しばらくすると扉がゆっくりと開き始める。
「…お主のドレス姿はちょうどいい気付けになるわ」
扉の先には金色の獅子が寝そべっていた。
「…フム、それにしてもずいぶんと力を使ったようじゃな」
巨大な金色の獅子の前には黒い甲冑に身を包んだ者が立っていた。
その甲冑からは黒い霧のようなものが溢れ出している。
「なんじゃ、バルハロイも一緒か」
「…久しいな。こうして三人でまみえるのは」
王権譲渡の式の時以来となれば、数十年以上前となろうな。
世間話でもしたいところじゃが。あいにく妾には時間がない。公務のスケジュールが押しておる。
お互いに下らん腹の探り合いもなしといこうぞ」
二人は示し合わせたように言い合うと、視線を金色の獅子に向ける。
ローファは居心地が悪そうに脚で顔をこする。
「アデルフィよ。今回の黒幕は暁の賢者サーレルンじゃな」
ローファはアデルフィを見据えながら、そばのテーブルの上にある石を指さす。
「ほう…その名がお主の口から出てくるとは思わなんだわ。
いかにも今回の黒幕はサーレルンじゃ」
石を手に取り楽しそうにアデルフィは目を細める。
「サーレルンはかつてあの遺跡を護る巫女の家系じゃったらしい。
戦火のために異邦まで逃れてきたという話じゃ。
妾は奴の生前、もしあの遺跡の封が解かれたのならば入口ごと破壊してくれと頼まれておった。
これはその封じゃな。人が近づくとそれに反応し、ある波長を出すように細工が施されておる。
この石の発する波長を感知する装置はわしの宮殿にある。
さすがに長時間信号を出し続けられたのには面食らったがのう」
「それが今回の事の真相か。汝はなぜ我々に話さなかった?」
バルハロイはアデルフィに詰め寄る。
「他ならぬサーレルンの奴めの頼みじゃったからのう。
このことはできる限り誰にも知られずに対処してほしいと。
それに加え、パオベイアの機兵の完全破壊は難しい。
存在を知られればそれを利用しようとする勢力が出てくるともわからぬ。
極秘裏にことを進める必要があった」
「…事情は呑み込めた。ただ次からは我々にも一言かけてくれ。
人間界に派兵するなど、本当に気が気ではなかったぞ」
これはバルハロイ。
「それに関してはすまないと思っておるよ。
それにしても誰の入れ知恵じゃ?お主がそれを解いたとは思えぬ」
「ドーラの奴めの推理じゃよ。
ちなみにパオベイアの機兵は奴が一匹残らず破壊したぞ」
アデルフィとバルハロイは驚いた素振りを見せる。
「ドーラ?ドーラルイ魔法長のことか。
なるほど、奴ならパオベイアを完全破壊することも可能かもしれん。
加えてこの石に細工することも」
アデルフィは金色の獅子の沈黙を肯定と受け取ったようだ。
「奴め、妾の申し出を拒んでおきながら、ぬけぬけと今更でてきおって」
口調とは裏腹にどこか楽しげにアデルフィは語る。
「申し出?」
「跡目にならんかとな」
その一言のあまりの衝撃にローファは絶句する。
バルハロイからも黒い甲冑越しに衝撃が伝わってくる。
「い、一応確認しておくが、それは…邪王のか?」
「それ以外に何ぞある」
「…」
ローファはうなだれ肩を落とす。
黒い甲冑越しにバルハロイも。
「我々にとってこれ以上に名誉なこともあるまいよ。
力がなくては我々の眷属はわしの後釜とは認めぬ。
その点奴に関して言えば問題はなかった。
『白』の奴も奴のことを憎からず思っていたようじゃしの。
最も、奴にはあと一歩のところで逃げられてしまったがのう」
さもそれが当然のことのようにアデルフィは口にする。
「まあよい。一息ついたらあちらに探りをいれようと思っていたところじゃ。手間が省けたわ」
「…本人は人間と体を入れ替えたらしい。骨折り損になると思うがの」
顔をひきつらせながらローファ。
「ほう…人間と体を入れ替えたと。その身を捨て、わしらに匹敵する魔力と人形の躰を得た奴が
どういった心境の変化じゃ?」
「さあ、わしは知らんよ。本人に直接聞けばよかろう」
「しかし驚いた。あのドーラルイ魔法長が現界しておるとはな」
これはバルハロイ。
「ただ人間に転生したが魔法の腕はなまっておらんな。
わしの人化の結界をものの見事に解きよった」
「さすが、妾の見込んだ男じゃ」
どこかおかしげにアデルフィ。
「奴にはモルトーアの話をした。奴なりに決着を着けると言っていたぞ」
その名をローファが出すとその場の空気が明らかに変わった。
「…その件は奴には少し荷が重かろう。それにアレは妾たちの失態でもある」
「それに関しては同意見だ。事が発覚した段階で汝がもう少し厳粛に裁いていれば
こうはならなかった」
バルハロイがアデルフィの意見を認める。
「幾らドーラルイ魔法長とはいえ、
モルトーアとオルドリクスでは手に余る。加えて今は人間の身。
どうにかできるとはとても到底思えん」
「妾も発見次第『爵位持ち』からメンバーを厳選し、討伐に当たらせるつもりじゃ。
文句は言わせぬぞ。元はといえば主の王権時に奴の裁きを軽くしたのが原因なのじゃからな」
「…」
二人から厳しい叱責を受け、ローファはたまらず目を閉じる。
「さて、妾はもう退散するとしようか。楽しい話も聞けた。
ミイドリイクの地下のパオベイアの機兵が一掃されという話は、サーレルンの供養にもなるであろう」
「そうじゃ、アデルフィ、ドーラから伝言じゃ。
『再び人間界にちょっかいだしてくるのなら、僕も、僕の主も黙っちゃいない』だと」
ローファの言葉にアデルフィとバルハロイの動きが止まる。
「ほう…。あの方がようやく…これはおもしろくなってきたのう。
…妾は人間界には極力手は出さぬようにしよう」
部屋を出かけたアデルフィは立ち止まる。
「バルハロイ、主の用意した手駒、
初めはただのなまいきなだけの若造かと思っておったが存外使えるな。
また使わせてもらうこともあるやもしれん」
「現在のゾプターフの王は汝だ。命じるのならば動かそう」
バルハロイはそっけなくそう返した。
「…そうさせてもらう」
アデルフィは薄く不気味な笑みを浮かべてその場を後にした。
エピローグさくって終わらせるつもりがちと長くなってしまった。
これでミイドリイク編は終了です。
書いてみると自分でも予想外多くてびっくり。
本当はヴァロに魔剣渡すつもりなかったし、
クラントにもドーラの正体明かすつもりなかったんですよねw
これも一つの小説の醍醐味かもしれないなあと思いつつ楽しんで書いてます。
自分のみたことのない世界をみせてくれるのが小説なんだろうなと思ってます。
さて次の部はミッドナイトクラウン。舞台は大陸東部。
交易都市ルーランを中心に展開していきます。
一部で出てきたグレコも登場。はぐれ魔女の真夜中の道化を追います。
ヴァロの兄ケイオスもルーランに商会の支部を出すために出てきます。
そして、魔女の中でも最強の位置にいるユドゥン登場。
彼女は今後の展開で重要な位置に立つことになります。
次は狩人とはぐれ魔女の駆け引きが主題になってきます。
魔王の就職もぼちぼちやってこうかと。
書いてはいるんだけれど発表してないw




