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7-3 それぞれの帰路へ

あの事件から一週間後、ようやく事態は終息にむけ動き始めた。

大穴の存在は数日後、エレナから隕石が落ちてきたと公表されることになった。

もうじき魔物の監視にあたっていた狩人たちも戻ってくるという。

それに合わせてカリアたちもミイドリイクから撤収するという話だ。

大穴の監視の引き継ぎはエレナの配下の魔女たちを通して行われるとのこと。

一言に言えば魔族と異端審問官『狩人』が顔を合わせれば、戦闘になる場合も大いに考えられるためだ。

人間界では魔族を危険視する風潮が未だ根強く、ヴァロも『狩人』では狩りの対象になっている。


遺跡での騒動から一週間たった日の早朝、ヴァロたちはミイドリイクから撤収することに決めた。

これ以上ここにいてごたごたに巻き込まれるのはよくはないし、フゲンガルデンでは仕事がたまっている。

ヴァロはフィアと話し合った末、キリアンさんたちとは会うことなくミイドリイクを発つことにしたのだ。


ヴァロたちがミイドリイクを発つ朝、ミイドリイクの南門の前では顔を合わせた。

見送りに来てくれたのは数名。カリア、エレナとその弟子の魔女数名である。

ヌーヴァさんたちは遺跡の監視で来られなかったらしい。

フィアがエレナたちと別れの挨拶をしている脇で、ヴァロとカリアは二人、別れを惜しんでいた。

「カリアはゾプターフ連邦に戻るんだろう?」

「ああ、あと一日ミイドリイクに滞在してから、連邦に戻るつもりだ。

せっかくミイドリイクまで来たんだ。ここの施設を少し見学してから戻りたい」

カリアには人化の魔法がかけられている。

「…出来るだけ『狩人』とはもめてくれるなよ」

「そういえばヴァロも『狩人』だったな…。善処することを約束しよう」

キリアンさんとカリアが争うところなんてできるだけ想像したくない。

「ローファさんは?」

「あの方は既にゾフターフ連邦に戻られたよ」

「そうか、あの人の豪快な酒飲みっぷりをもう一度みたかったよ」

残念そうにヴァロ。

事が終わった後、警戒体制が続いていたために、打ち上げなどできる状況ではなかったのだ。

「そうそう、忘れていた」

ずっしりと重たい袋がカリアから手渡される。

ヴァロが袋を開くと金色の光がヴァロの顔を照らした。

「金だろう、これ」

ヴァロは思わず呻き、開いた袋を閉じた。

この重さ、そしてこの輝き。間違いなく金である。

「あの晩の飲み代だ。いろいろと迷惑かけたようだから迷惑料も兼ねてある。

換金するのが面倒でな。多かったならばその手間賃とでも考えてくれ」

「だとしてもこんなに…いいって」

いくらなんでも多すぎである。酒場ごと買い取ってもおつりが出る。

ヴァロはそれをカリアにつき返そうとするが、カリアの手に阻まれる

「正直人間とああして酒を酌み交わせるとは思わなかった。

お前とはまた杯を酌み交わしたい。もし多いというのなら次の酒盛りの足しにしてくれ」

そうカリアは告げる。

「…わかった。また今度共に飲む時まで預かっておくことにする」

ヴァロは金の入った袋を受け取ることにした。

「それはそれとして、カリア、あのことはいいのか?」

ヴァロは思い切ってカリアに小声で聞いてみる。

「なんのことだ?」

「フィアのことだよ。求婚するとか言っていたのにもういいのか?」

ヴァロの言っているのはフィアに対してのことである。

その当人といえば脇でエレナと何やら会話している。

地底で、カリアはあれほど情熱的に語っていたのに地上に戻ってから一言も聞かなくなった。

カリアはヴァロの首下をつかんでヴァロを引き寄せると、そのまま腹を拳を突いた。

「いきなり何すんだ、結構痛かったぞ」

「ヴァロ、フィア殿を泣かせたらただではすまんぞ」

「???」

カリアの言っている意味が解らずヴァロは首をかしげる。

「決闘の決着は次に会う時まで預けておく」

なんだかんだ言ってあの後お互いに忙しかったために、決闘などできる状況ではなかったのだ。

「必ずまた会おう」

ヴァロは地底で別れたときと同じように、カリアと腕を合わせあった。


「ヴァロ殿今回の件、感謝する」

そう言ってエレナは頭を下げた。

「そしてフィア殿をくれぐれも頼む」

エレナの言葉にヴァロは目を丸くする。

「どうした?」

「なんか前にヒルデさんにも同じことを言われたなと」

ヴァロの言葉に今度はエレナが目を丸くする。

「…く、ハハハハ」

いきなりのエレナの笑い声に周囲の目が集まる。

ヴァロはエレナの笑う意味がわからずぽかんとしていた。

「…道を違えてもか…。

そうそうドーラ、お前にも一つ言っておくことがある」

隅で腕を頭の後ろで組んで突っ立っていたドーラにエレナは声をかける。

「なんだい?」

ドーラは不思議そうにこちらに視線をなげた。

「ヒルデ様には気を付けろ」

「?」

「いずれわかるさ」

そうしてヴァロたちはヒルデたちと別れたのだった。


「『狩人』である君がまさか魔族の伯爵様と仲良くなるとは思わなかったヨ」

皆と別れてからどこか呆れかようにドーラはつぶやく。

「あたりまえだろ、一度は背中を預けた奴だし、飲んでみたら悪い奴じゃなかったしな」

当然のように言い切るヴァロに対して、ドーラとフィアはほんの少しだけ虚を突かれたような顔をみせた。

そのあとドーラとフィアは盛大に吹き出した。

「君はよくわからない男だ…やっぱりいたカ」

ドーラの視線の先にはクラントが腕を組んで待っていた。

ミイドリイクの城門の脇で人に見えないようなもの影に立っている。

もともと彼はお尋ね者である。表の舞台にはいられないのだ。

「おう、ドーラ。いや、第四魔王ドーラルイ」

ヴァロは周囲を見渡す。幸い早朝のため、近くに人はいない。

ヴァロはほっと胸をなでおろした。

「君のことダ。ここで撒いてもフゲンガルデンまで押しかけてくるつもりだろうサ」

クラントにげんなりとした様子でドーラ。

「ああ、もちろんだ。あんたが首を縦に振るまで地の果てまでだって追いかけてやる」

胸を張ってクラントは言い切った。

「ほんとやれやれだヨ。誰かさんのおかげで、ずいぶんと厄介な奴に目をつけられたものだネ」

ドーラはじろりとヴァロを睨んだ。

ヴァロはあの場で言ったことには後悔はない。断じてないが、ドーラに対して妙が罪悪感のようなものを覚えた。

「おおよその事情は聞いてるヨ。魔剣を人に戻すんダロ。途方もない話だネ」

「あんた『反魂の秘法』知ってるんだろ?」

「君の事情は聞いてるヨ。魔剣になった女性をもとの人間に戻すんダロ」

「話が早い。お願いだ、頼む、力を貸してくれ」

そう言ってクラントはドーラに頭を下げた。

ドーラは首を横に振って深いため息をつく。

「まあ今回いろいろ頑張ってくれてたし、特別にいいヤ」

「本当か?」

クラントは驚き目を輝かせる。

その様は聖人に教えを受けている信者を彷彿とさせる。

「ただし、復活させようにも道具が必要ダ。…『竜骨の棺』と『ラクリーアの果実』。

それを二つ揃えてフゲンガルデンまでもってコイ。

それさえ用意すれば後はこちらでどうにかするヨ」

「よし」

クラントはガッツポーズをとって見せる。

「で、その『竜骨の棺』、『ラクリーアの果実』ってどこにあるんだ?」

「言うわけない…」

ドーラが言いきる前にフィアが語り始める。

「『竜骨の棺』は東の大陸の王墓に王の遺骸とともに、埋葬されていると聞いたことがあります。

『ラクリーアの果実』は南のスーラス諸島にある大樹が数十年に一度その実りをもたらすとか。

どちらも入手難度は秘宝クラスのモノと聞いています」

「フィアちゃん…全く何でそこでバラしちゃうカナ」

恨めしそうにドーラは呟く。

「ありがとな、嬢ちゃん」

「こちらこそ。遺跡の地下でヴァロを助けるために残ってくれたこと、本当にありがとうございました。

その…リオと必ず幸せになってください」

フィアはクラントに頭を深々と下げる。

リオというのは魔剣ラルブリーアの管理者となった女性である。

以前ヒルデの魔法でフィアは出会ったことがある。

「ああ。もちろんだ」

クラントはそう言って首を縦に振る。

「フィアちゃんはいい嫁さんになるな。…ヴァロ、大切にしろよ」

「あ、ああ?」

ヴァロはわけがわからずあいまいな返事を返す。

「この魔剣ありがとな」

ヴァロは魔剣をクラントに返そうとする。

「契約したんだからもうお前のものだ」

「…ちょっと待て。一時的な仮契約じゃなかったのか?」

ヴァロは今更勘違いしていたことを知る。

「魔剣の契約に仮契約なんてものは存在しねえよ。もっと自信をもったらどうだ?

お前はその魔剣ソリュードに選ばれたんだからな」

魔剣聖剣というものは持ち主を選ぶ。

その人間をみて選ぶらしい。

状況が状況だったとはいえ、ヴァロは魔剣ソリュードに選ばれたのだ。

「それに俺は一度契約を切ってる。もう契約できねえ」

「それじゃ…」

「もともと死んじまった俺の友人から預かってたものだ。大事にしてやってくれ」

クラントはそう言って笑みを浮かべた。

「…感謝する」

ヴァロはクラントに頭を下げた。

今回は最後までクラントの世話になりっぱなしだ。

付け加えるなら魔剣は国家機密として扱われているのと同時に、それを売って大地主になった人間もいたという話を聞いている。

そのぐらいの高価な代物なのだ。

「礼を言いたいのはこっちだ。お前のおかげで長年探し求めていたモノがようやく見つかりそうなんだ。

感謝してもしきれねえよ」

「まだ終わったわけじゃないけれどネ」

ヴァロは今後その魔剣が原因で、ちょっとした騒動に巻き込まれることになるのだがそれはまた別の話だ。

「さて、目的もできたし、行くとするか。またな」

「御武運を」

「またな」

クラントはそう言って馬の背中にまたがり、その場を後にした。


「大丈夫なのか」

クラントの去っていく姿を見ながらヴァロはドーラに問う。

秘宝クラスとなれば、その入手にはかなりの危険がともなう。

さらに言えば、並みの冒険者では一生かかっても触れることなどできないものだ。

「思いが強ければ、見つけられるサ。取りあえずヴァロ君、かし一つだからネ」

ドーラはそう言ってヴァロに微笑みかける。

「ああ、わかったよ」

ヴァロは肩をすくめた。

「さてと君たちはゆっくり帰ってくるといいサ。僕はそろそろ戻るヨ。

君の兄さんにクビにされたらかなわないからネ」

直後ドーラのそばには木で造られた鳥が現れる。

「おい、大丈夫なのか?こんな場所で広げたりして」

ヴァロは思わず叫んだ。

近くにはミイドリイクの城門がある。

人目に付く場所でこんなことをしてただで済むとは思えない。

「僕ら意外に見られないように細工してあるヨ。今回の旅で僕も光学式の魔法を学んだからネ」

よくみると木の鳥の周りが揺らいでいる。

光学系の魔法が施されているのだろう。とんでもない吸収速度である。

「ドーラさん、魔力は…」

フィアはドーラに尋ねる。ドーラは魔力を体に保有していない。

人間に転生した際、以前の魔力を失ったのだ。

それでも普通の人間よりはかなり多めの魔力を持ってはいるのだが。

「魔力はローファからくすねておいたヨ。全く力の強い者は力の管理が甘くて助かるネ」

ドーラの右手に黄金色の光球が一つ現れる。

獣王相手に魔力をくすねとるとか、常識外れもいいところである。

「じゃあネ。またフゲンガルデンで」

そう言うとドーラの乗った鳥は羽ばたいて突風を巻き起こしたかと思うと、アッというまに空の彼方に飛んで行った。

残されたヴァロとフィアはしばらくその場に立ち尽くしていた。

「また二人に戻っちゃったね」

「だな」

二人は顔を見て微笑みあう。

「フィア、お金の件なんだが…」

ヴァロはフィアと二人きりになり、その話題を切り出す。

今回のギクシャクしたことも元をただせば、酒場で金を使いきってしまったことが原因である。

地底から戻ってきた後、時間が満足にとれなかったため、ヴァロはどうも切り出せなかった。

今後のためにも、こればかりはきちんとしておかなくてはならない。

「すまない」

「ごめんなさい」

二人はお互いに顔を見合わせる。

「えっ」

「…何でフィアが謝るんだ?」

「カリアさんから話は聞いてる。私ももう少しヴァロの話を聞いてればよかった」

すまなさそうにフィア。

「その件なんだが、カリアからこんなのを受け取ってな」

ヴァロはカリアから受け取った袋をフィアに手渡した。

「…すごい。これカリアさんから?」

袋の中身を見るとフィアは驚いて声を上げる。

「酒場代と今回の迷惑料。そして、次に会う時の飲み代だそうだ。俺はいいっていったんだけどな」

「…いい人たちだったね」

フィアの言葉にヴァロは頷いた。

「帰りはフゲンガルデンまで海路で帰ろうか。フィアは船旅は初めてなんだろう」

少女に誓った約束をようやく一つ果たせることをヴァロは嬉しく思った。

袋の金を換金すれば結構上等な船室を借りれるかもしれない。

聖剣との契約、魔族との交渉、地底でのパオベイアの機兵との決戦。

今回の旅は本当にさんざんだった。最後にこのぐらい贅沢しても罰はあたるまい。

「楽しみだね」

フィアは上機嫌でヴァロの先を進んでいく。

砂漠の空はどこまでも青く広がっていた。


これでミイドリイク編ほぼ終了です。

エピローグ書いて終了。

反省点ばかりだったと痛感します。

次はもう少しうまく書けるといいなあ。


少し早いけど予告。

次は交易都市ルーラン編。題はミッドナイトクラウン。

大陸の暗部にヴァロたちは接触します。

交易都市ルーランを仕切る聖堂回境師ユドゥンが登場します。

大陸東部の暗部、人間の闇を書けたらいいなあと考えてます。

今回ストレートな人間多かったんで少し面食らうかもしれませんねw

その次が極北の魔術王編。魔術王編はオルドリクス絡んでくるんだけれどまだそのちょっと手前。

ああ、書きたいいいいいいいいいいいいいいい。

さらに言うならその次が魔王戦争編。

でその次が…構想はできてるけど書ききれないw

へたっぴだけれど、楽しんで書いています。

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