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6-3 地下での決戦

聖剣カフルギリアの一振りにより、部屋の隅ごと抉り取られる。

数十体いた機兵はまるで巨人に押しつぶされたかのように粉々に砕ける。

腕しかまともに残っていないものや、体自体がねじれているものまである。

ぱらぱらと機兵の破片が周囲に降り注ぐ。

力はずいぶん抑えたつもりだが、それでも圧倒的なまでの破壊力である。

それでこそ対魔王戦用の武器ともいえる。

これが対人戦で使われた状況など想像もしたくない。

「すごいな」

ヴァロはその破壊力の前にいつも唖然とさせられる。

「呆けるな、今のうちに次のフロアに向かうぞ」

クラントの声にヴァロは頷き、後ろに下がる。

エレナが残しておいてくれた光により、

地下という暗闇の中をヴァロたちは進むことができた。

赤く輝く光が分岐点に光っている。

どうやら先に進んだエレナが魔力で目印を作ってくれているらしい。

ヴァロたちはそれに感謝しつつ、地上に向かう。

パオベイアの機兵は四肢を削がれても、その勢いには全くの衰えがみられない。

さながら地の底から湧き出る亡者のよう。

狭い階段の中、機兵が背後から五、六体ヴァロたちに向かってくる。

ヴァロたちにその刃は届くことはなく、その人形は粉々に切り刻まれる。

クラントが風の刃で数体の機兵を裂いたのだ。

魔剣ラルブリーア、クラントの持つ魔剣であり、その力は風を操るという。

「細かい雑魚は俺に任せろ。ヴァロは聖剣でまとまっているところを叩け」

「ああ、わかった」

ヴァロたちは地上へ向かう階段を全力で駆け上がる。

「一つ、聞いておいていいか?」

「なんだ?」

「あの人いったい何者なんだ?魔族とも知り合いとか、幾ら人間でもありえないぞ」

クラントの言うとおりだ。

「こんな状況だ。言ってもいいか。奴は元『異形の壊求者』だ」

そのありえない答えにクラントの表情が凍りつく。

「うそだろ…」

第四魔王の二つ名は『異形の懐求者』。

それは転生した前のドーラの自身の名であり

「本人いわく、転生したということらしい」

「おいおい、それじゃコーレスの時にあんたが倒したってのは」

「倒す前に『狩人』と体を取り換えたって聞いている」

しばらしてクラントの表情が歓喜に染まる。

無理もない、長年追い求めてきた答えが目の前に突然現れたのだ。

「…なんか俄然やる気でてきたわ。

こうなりゃ意地でも地上に戻って、抜け出してあいつを元に戻す方法を聞き出してやる」

クラントは一振りで追撃してくる機兵を蹴散らした。

「人間にしたらあんたはどうするんだ?」

階段を駆け上がりながらヴァロはクラントに尋ねる。

「嫁になってもらう…っておい、いきなりうるせえな」

この言葉はヴァロに向けられたものではない。

なにやらクラントが独り言を言い始めた。

「いいだろうが、前にもいっただろうが。

聞いてない?忘れんなよ。…おい、ラウ、笑ってんじゃねえ」

おそらくクラントは魔剣としゃべってるのだろう。

ただし、ヴァロには聖剣のつぶやきは感じることができないので、離れてみているぐらいしかできない。

知らない人間から見れば気がふれてしまったのではないかと勘繰るほどのものだ。

「魔剣よ」

クラントの剣の一本がひとりでに浮き、視界にいるパオベイアの機兵を次々に撃破していく。

「三本同時行使できたのか?」

魔剣の遠隔操作、そんなことができるなど聞いていない。

「力を貸してくれるってさ。うちの魔剣も少し乗り気になってくれたらしい。

ちなみに俺がその気になりゃ四本同時行使だって可能よ。ただし、疲れるけどな」

にやりとクラントは笑みを浮かべる。

視界が開けて、新しいフロアに入る。

フロアには数体の守護機兵の残骸が転がっていた。

ここが第二の決戦場所。

ヴァロたちはその部屋の中心でパオベイアの機兵が来るのを待つ

地下から聞こえる振動のようなものが大きくなっていく。

「…とにかく生きてここから出るぞ」

「もちろんだ」

ヴァロたちは剣を構え、それがやってくるのを待った。



先頭を走るドーラには迷いはない。

それはまるでこの遺跡すべてを記憶しているよう。

一本道に見えても分岐は数か所あり、マーキングも薄暗い中見えにくい場所は多々ある。

エレナもすでにつっこむ気も失せたようで、何も言わなくなっている。


地底では二人がパオベイアの機兵と交戦している。

地底からたまに聞こえてくる音が、

そしてそれが徐々に小さくなっていることが、

あの二人がまだ交戦している証でもあり、足止めをしている表れでもあった。


クラントが隊列を離れたのはヴァロと別れてからしばらく後のことだ。

「やっぱり俺の柄じゃねえんだよな」

そう言ってクラントは足を止めた。

「どうした?」

「やっぱり、俺はあいつと戦うわ」

そう言って踵を返し背中を向ける。

「…お前はそれでいいのか?」

エレナはクラントに問う。

クラントがそう選択するのならば、エレナには止めることはできない。

元よりエレナはクラントの上司ではない。

彼は流れ者であり、犯罪者でもある。

本来ならばこの場所にいることなどありえないのだ。

カリアは隊を離れようとするクラントに歩み寄る。

「体面なく動ける、お前がうらやましい」

カリアとクラントはヴァロの時と同じように腕を交わしたあと、クラントは元来た道を戻っていった。


「地上まではあとどのぐらいだ?」

カリアはドーラに尋ねる。

「地上まではあと三分の二といったところカナ?」

「まだそんなに残っているのか」

苛立ちを隠すこともなく、カリアはその言葉を吐きすてる。

その苛立ちは自身に向けられたものだ。

「…フィアちゃん起きたようだね?」

ドーラはフィアの瞼が動いたのに気づいたようだ。

「…あれ…ここは…」

カリアに背負われていたフィアが目を覚ます。

「ヴァロは、ヴァロはどこ?」

フィアは周りを見渡す。

「地下で機兵たちと戦っているヨ」

「何で」

きょとんとした表情でフィアは聞き返した。

「私たちを逃すためです」

正直どういう反応を示すかわからず、周囲の人間はフィアの反応に固唾を飲んだ。

「カリアさん、下してもらっていいですか?」

フィアの声には冷静そのものだ。

カリアは問題ないと判断し、フィアを背中から下した。

フィアが何か言葉を唱えれると腕に妙な魔法式が浮き出る。

「…自爆魔法」

それを唯一知っていたエレナは驚き、その言葉を口にする。

「そうです。次に私が意識を失えば、私の中の魔力が暴走するように体に術式を施しました。

私の意識が途切れればその瞬間皆さんはこの地底で生き埋めになります」

いきなりのフィアの告白に一行に衝撃が走る。

それは体内にある魔力を解き放つという暴走を誘発する魔法式。

それはかつて魔女狩りが頻発していた時代に、

彼女たちの尊厳を守るために作られた最後にして最終の手段。

今では知る者はほとんどいないとされる禁忌の術式である。

そんな術式をためらいもなく、自身にかけられるフィアにその場にいたものたちは戦慄を覚えた。

「私は戻ります」

フィアははっきりとそう言い放った。

「できせん。私たちはヴァロ殿と約束しました。あなたを無事に地上まで送り届けると」

ヌーヴァは澱みない声でそう告げる。

「私はそんなこと頼んでいません」

「ですが…」

フィアはヌーヴァに杖を向けた。

「私の命の使い方は私が決めます。

エレナさん、ラフェミナ様には私のことはパオベイアの機兵に食べられたとでもお伝えください。

皆さん、短い間でしたがお世話になりました」

フィアはそう言って一礼し、よどみなく元来た方向へ足を向けた。

何が何でもヴァロのいる場所まで戻るつもりらしい。

「行かせるわけにはいかない。どうしてもというのなら私がここで相手になる」

エレナは憤怒の形相でフィアの前に立ちはだかる。

「わかりました。それじゃ、エレナさん、早くやりましょう」

臆することなく、フィアは杖をエレナに向ける。

魔力はフィアの周囲に満ちて、完全に戦闘態勢になっている。

「こんなところで本気で戦うつもりですか」

ヌーヴァが叫んだ。ヌーヴァが叫ぶのも無理はない。

こんな場所で魔法使いが本気でやりあったのなら全員生き埋めである。

さらにやっかいなのはその魔法使いがかなりの使い手であるというところだ。

「…エレナさん、私一人をここにおいていくのと、全員生き埋めになるのどちらがいいですか?」

フィアの持ちかけているのはまぎれもない取引だ。

フィアが折れないことを悟り、エレナは攻撃態勢を解いた。

「どうしてだ?そこまでしてあなたはどうしてあの『狩人』にこだわる?」

フィアが止められないことを理解し、エレナは頭を抱えた。

「私にとって彼の代わりなんていないもの」

フィアはそう言って微笑んだ。

カリアは見たその微笑みの裏にあるのは不動の意志だ。

だれがなんと言おうともその意志には妥協余地すらない。

もし全員と戦うことになったとしても、彼女は躊躇などしないだろう。

…そしてそれを同時に何よりも美しくも思った。

「…全く本当に瓜二つだネ」

ドーラは嘆息し、フィアの前に出る。

「大丈夫。彼は僕が死なせナイ。彼は僕にとってもかけがえのない友人ダ」

ドーラはフィアに諭すように語りかける。

「それに彼には居場所を特定するための道具を渡しているヨ。

探査魔法で獣王を見つけた君なら、その波長を感じられるんじゃないのカイ?」

フィアは瞳を閉じて黙り込む。

「…感じます」

フィアの言葉にドーラは微笑む。

「僕に策があるヨ。ただし、地上に出ないとその策すら使えナイ。

フィアちゃん、僕を信じてくれないカ?」

しばしの沈黙。

突然地響きを上げながら守護機兵が姿を現す。

ここから先は通さんと言わんばかりに、その巨躯で通路を埋める。

「守護機兵か、まだ残っていたのか?」

エレナは舌打ちした。

こんなところで相手をしている体力はないし、暇もない。

エレナは魔法式を展開し始める。

「フィアちゃん、少し魔力をもらうよ」

ドーラはフィアの肩をつかんだ。

フィアは体からほんのわずかの魔力が抜き取られるのを感じた。

直後、ドーラの指先から放たれた光が巨人の胸を貫く。

ボンという音と煙を上げて守護機兵は崩れ落ちる。

「全く、ひとの話の邪魔をしないでもらえるカナ?」

ピンポイントに動力源を打ち抜いたのだ。

正確に、それもあの装甲すら貫通したという。

しかも最小限の魔法で。

エレナの魔法ですら、守護機兵の装甲を貫くことはなかった。

どれほど高密かつ繊細な魔法式を練れば、そんなことが可能だというのか。

しかもフィアから魔力を変換し、それの魔法式を起動させている。

変換、吸収、構成、調律、発動を一瞬で行ったのだ。

それをこの男は瞬きほどの時間でそれを行っている。

「ドーラ殿は守護機兵の構造を理解しておられるのか?」

隣からカリア。

「一度解体した時にネ。人間よりは簡単でショ」

その言葉にエレナは戦慄を覚える。

そして認識する。この男が理解を越えた怪物であることを。

フィアは杖を取り出すと、その場で静かに詠唱を始める。

フィアがかつんと地面を杖で叩くと、光の文字が周囲を包む。

「少しだけ光魔法を切ってもらえますか?」

「わかった」

エレナはフィアの言うとおりに、周囲を覆っている光魔法を切る。

直後フィアの作り上げた結界の光が周囲を包む。

「結界の中のものの重さを半分にしました。加えて結界から光を出すようにしてあります」

「さすがフィアちゃんダネ。いい腕してるヨ」

「以前ヒルデさんの使っていた光制御を参考にさせてもらいました」

ドーラの芸当を見た直後ではやや色あせて見えるが、

フィアのやっていることも並の魔法使いができることではない。

「ドーラさん、あなたを信じます」

フィアはドーラを見つめる。

いつの間にかフィアの腕からは自爆魔法の魔法式が消えていた。

「それじゃ、とっととこんな薄暗いところ抜けるとしようカ」

一同はドーラの言葉に頷き、走り出した。

今回のクラントへの告白がちょっと後で意味を持ってきます。

ちなみにフィアはヴァロを死地においたために狂気が表に出てきました。

今回のは第四魔王戦の延長線上の彼女の決意。

ウルヒとの会話が彼女に与えた種。

伏線回収するのって面白いわーw

もうちょっとうまくかければよかったんだけれどなぁ。

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