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6-1 脱出

「助かったのか?」

扉に寄りかかりながらクラント。

「ああ、どうやらそのようだ」

ヴァロはそれに応じる。

門の内側から聞こえてくる音が全くしない。

危機は去ったようだ。

パオベイアの機兵は分厚い扉を隔てた向こう側にいる。

ヴァロはクラントと顔を合わせて笑いあった。

張り詰めていた緊張の糸が切れたのだ。

ここにいる者なら間違ってでももう二度と門を開けようとする者はいるまい。

気の抜けたヴァロの耳に入ってきたのはフィアの謝る声だった。

「ヌーヴァさん、ごめんなさい」

緊張の糸が切れたのか、フィアはヌーヴァのそばで大粒の涙をこぼしていた。

「フィア殿気になさらず。これは私の油断が招いたことです。

…まさか陣を食い破られるとは」

あったはずの左手をヴァロは見る。

傷口を凍らせて止血をしているらしい。

ヌーヴァの双眸からは強い意志のようなものを感じた。

人間ならば気を失っていてもおかしくはないが、

意識をつないでいられるのはさすがは魔族といったところだろう。

誰にやられたのかは聞くまでもない。

「ヴァロ、私…」

フィアはヴァロの顔を見た。

ヴァロは何も言わずにフィアを抱きしめる。

フィアはヴァロの胸で号泣した。

ヴァロはフィアの泣き顔からなんとなく状況は察した。

ヌーヴァはフィアのためにその傷を負ったのだ。

言い換えるならばヌーヴァはフィアのせいでその傷を負ってしまったのだ。

自身のせいで傷を負わせてしまったのだ。

だからこそフィアはここまで取り乱しているのだろう。

ヴァロはヌーヴァに向かい合う。

「ヌーヴァさん、ありがとうございました」

フィアのために体を張ってくれた恩人にヴァロは頭を下げる。

「感謝されるいわれはありません。私は私の役割を果たしたまで」

そう言い放ったヌーヴァの顔色があまりすぐれないのは気のせいではないだろう。

「フィア殿、私が傷を負ったのはおフィア殿のせいではない。

私が奴等の力を侮ったためだ。フィア殿が気に病むことではない」

「…でも」

ヌーヴァは言いかけたフィアの頭をそっとなでる。

「気に病むのであれば、次はこうならないようにできることもあるでしょう。

そうならないようにするのがあなたたちですよ」

「…はい」

フィアは真っ直ぐな視線でヌーヴァを見て頷いた。

ヴァロには堅い表情のヌーヴァが、少しだけ微笑んだような気がした。

ドーラはヌーヴァの額に人差し指を当てる。

「体内の魔力の流れを正常に戻したヨ。これで少しは楽になるはずサ」

「ドーラ殿、すみません」

そう言ってヌーヴァはドーラに頭を下げた。

クラントは何が起こったのか

「ヌーヴァ、君らしくないネ。状況を教えてもらってもいいカイ?」

ヌーヴァはドーラに一部始終を話した。

ヌーヴァの陣が破られたことに一同に衝撃が走る。

「陣すら食ってくるのカ。

なるほど、結界も奴らの前では通じないというのは間違いなさそうだネ」

「結界が通じないのか…」

エレナが険しい表情でその事実を口にする。

それは地上に出してしまえばミイドリイクに張られた結界は意味を持たないということでもあり、

また結界を食い破られてしまうという事を意味していた。

安堵と疲労がその場を満たす中で、いち早くその以上に気づいたのはドーラだった。

「…みんな下がって、様子がおかしいヨ」

ドーラの一言に皆静まり返る。

妙な小さな振動が扉の内側から聞こえてくる。

規則的なその振動は徐々に大きくなってきている。

「…まさか」

ドーラは扉を凝視したままだ。

エレナは腕をかざそうとするが、すぐに下す。

「魔力を通さない扉か。違う意味で厄介だな」

エレナは魔力で封じることをあきらめる。

「この部屋の外まで出るんダ」

ドーラの声に従い皆部屋のすぐ外まで歩き出し、その様子を見守った。

誰もが皆言葉無く扉を見つめていた。

「エレナ、魔弾の準備を」

ドーラの声が周囲に響き渡る。

「貴様が私に指図するな」

そう言いつつもエレナの背後には『砲台』が現れる。

扉の両端に亀裂が入り、徐々に振動が大きくなっていく。

誰もが息を飲んでその光景を見ていた。

次の瞬間、扉が閂ごと吹き飛んだ。数千年という時間で老朽化していたのだ。

「エレナ、魔弾を天井に向けて放テ」

扉が背後に吹き飛ぶ瞬間、すかさずドーラは叫ぶ。

エレナは何百発の魔弾を天井に向けて放った。

天井が崩壊し、大量の土砂が白い波を覆い尽くす。

煙が周囲に巻き上がる。

「ドーラ、下手をすれば全員生き埋めだぞ」

ヴァロはドーラに抗議の声を上げる。

「何してるんダ、ヴァロ。逃げるヨ、考える限りの最悪の事態ダ」

「ドーラ何言ってるんだ、これで終わりじゃないのか」

ヴァロは予想外のドーラの言葉に慌てる。

「この程度じゃ、足止めぐらいにしかならないサ。

何のためにあんな堅く重い扉があるんだと思ってるんダイ?」

「それじゃ…まさか」

ヴァロは思いつく限り最悪の事態になったことを知る。

ヴァロは振り返り、土砂で閉ざされた通路を見る。

「そのまさかサ。駆け足で地上まで戻るヨ。

このことを地上の皆に知らせないといけないヨ」

ドーラの言葉はまるで死刑宣告のようにヴァロの頭に響いた。

地獄の蓋は開いてしまったようだ。

さて、大脱出劇の始まりです。


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