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5-5 伯爵の怒り

ヴァロたちの目の前に出入り口が見えてくる。

どうやら無事にここまでたどり着けたらしい。

「エレナ、ドーラ」

ヴァロたちは二人の姿を見て安堵した。

二人は出入り口のすぐそばに立っていた。

「フィアとヌーヴァは?」

ドーラは黙って街のほうを見る。ヴァロは顔色を変える。

「…嘘だろう?」

ヴァロは背後を振り返る。

「フィアたちはまだ到着していないのか」

まだあの街にとりのこされているということだ。

白い悪魔がはびこる街に。

ヴァロたちは遥か前方にある街並みから二つの点が見える。

「戻ってきたようだぞ」

カリアの声にヴァロが振り向く。

街の方からフィアとヌーヴァの姿が見える。

「フィア」

「私が行く」

ヴァロが駆け出すよりも早く、ものすごい速度でカリアがヴァロの脇をすり抜けていく。

カリアの背中があっという間に小さくなっていく。

人間にはまねできないほどの速度である。

カリアの足跡には魔力のようなものを使った黒い魔素が残る。

魔族である彼の能力である。

それは魔力を運動エネルギーに変換し、人の体では出来ない跳躍を可能とした。

「俺も」

ヴァロもそれに続こうとするも、エレナに阻まれれる。

「お前たちはその扉のすぐわきで待機していろ。いつでも閉められるようにな」

エレナの言葉にヴァロはしぶしぶ頷いた。

「ヴァロ君、彼の方が適役だヨ。僕らは信じてここで待つべきだヨ」

ドーラは静かにヴァロの肩をたたく。

「…」

ヴァロは苦々しい面持ちでフィアたちの姿を見る。

ヌーヴァにはあるべきはずの左手がない。

突如フィアたちの背後にパオベイアの機兵の白い波が現れる。

「フィア」

ここからでは間に合わない。

頼みの綱のカリアはゆっくりと歩いたままだ。

「誰だ?」

そう呟いたカリアの周囲には魔力が渦巻く。

それはどす黒い殺気を含んでいた。

遥か彼方のヴァロですら容易にそれを視認できるほど。

「ヌーヴァ、お前に傷を負わせたものは誰だ」

ヌーヴァたちを襲おうとした機兵、数体の頭が一瞬で消え失せる。

そこにあるのは憤怒の形相のカリアだった。

フィアはこれほど激しい形相のカリアは見たことがない。

「カリア、待つんダ」

ドーラが背後から制止の声をはり上げるが、カリアは聞いているようには見えない。

視界を埋め尽くすほどの機兵の群れがヌーヴァの前に押し寄せる。

カリアは全く動じる素振りを見せない。

「失せろ、下郎が」

そうつぶやくとカリアは剣を一振り薙いだ。

凄まじいまでの魔力の奔流が機兵たちに押し寄せる。

まるで嵐のように黒い霧が吹き荒れる。

ヴァロたちにもその余波は襲いかかる。

ヴァロも目を開けたままではいられない。反射的に目を閉じる。

そして、目を開けると地下都市は文字通り無くなっていた。

カリアたちを中心として地表が露出している。

機兵の群れはカリアの一撃により文字通り、消し飛ばされたのだ。

カリアの消し飛ばしたのは機兵だけではない。

石畳みで敷き詰められた道が、レンガで造られた家々があったはずの場所がきれいさっぱり消えていた。

まるで巨人がその場所を手で掬い取ったように跡形もない。

聖剣を使った時に似ているがその範囲は聖剣のそれを凌駕していた。

「…これが魔族の力だってのかよ。シャレにならないぞ?」

ヴァロの横にいるクラントが顔をひきつらせている。

もう少し手前で力を開放していれば、城すらも破壊していただろう。

誰もが動けない中、ヌーヴァだけがカリアに歩み寄る。

そしてカリアの顔面を平手で叩いた。

「カリア、あれほど感情に任せて魔力を使うなと」

ヌーヴァの怒った顔を初めてみたかもしれない。

「…すまない」

その姿はまるで叱られた子供のようにも見えた。

「三人とも、とにかくこっちへ来るんダ」

大声でドーラが叫ぶ

人形の破片らしきものがカタカタと動き出していた。

機兵は周囲の魔力を吸って回復を始めている様子だ。

回復して追ってくるのは時間の問題だろう。

「わかった」

カリアは頷くとフィアとヌーヴァを担いで走り出す。


運よく無傷だったパオベイアの機兵数体が、カリアめがけて襲いかかる。

「カリア、後ろだ」

次の瞬間、エレナの魔弾により襲いかかるパオベイアの機兵の頭部が破壊される。

かなり距離があるはずなのにピンポイントで当てている。

これがエレナの魔弾の本来の力らしい。

敵になればとんでもなく厄介な相手になるだろう。

「背後は私に任せて、振り返らず走れ」

エレナの声に三人は頷き、門に向かって走り出す。

「…すまない」

カリアは二人を抱えて全力でこちらに向かってくる。

カタカタと機兵の残骸が元に戻り始めている。

ある機兵は機兵の残骸を食べはじめ、

ある機兵は地面に生える草さえも食し始めている。

そしてそのどれもが黄色く光る眼が、赤く燃えたぎるように光っていた。

「暴走しているのカ?」

異様な光景。

ヴァロはそれをまるでイナゴのようだと思った。

地下都市にあるすべてを食い尽くしているようにもみえる。

そこにいる者はだれもが戦慄を覚えていた。

同じ機兵を食べ、増殖していく。地下の都市で食べるものを残さず食したあと

地上にこれらは向かうだろう。

地上に出れば何が標的になるのかは想像に難くない。

「早く来い。扉を閉めるぞ」

ヴァロは必死で叫ぶ。


ヌーヴァが門の内側に入ってくるのを確認すると

エレナが大きな声を上げた。

ヴァロとクラントは両側から力を込める。

最後にカリアの手により閂が再びはめ込まれる。

門の隙間から削られた地表で、回復して立ち上がっているパオベイアの機兵を

最後にその地下都市は再び閉ざされたのだった。


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