表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

1-1 下準備

壁を隔てた部屋の中では、フィアとエレナとラフェミナ三人で何やら話し合いをしているという。

現在、エレナのもっている建物の中だ。

ヴァロはフィアの護衛という立場から、部屋の外で待機していた。

例のミイドリイクを賭けての決闘から丸一日経つ。

聖剣カフルギリアの話は、ヒルデさんも関わっていたということで、どうにか内緒にしてもらえそうだ。

エレナは、もう少しで聖剣が消滅するので今回は見なかったことにしてくれるらしい。

もともと存在してはいないはずの聖剣である。

そういう対応はこちらも望むところだ。

ヴァロは腰に差した折れた聖剣に手をかける。

もう少しで消滅するなら、あとどのぐらいこの剣とともにいられるだろうか?


体の痛みでヴァロは現実に戻される。

なにせあんな長時間、体を限界まで酷使した戦いは、本当に久しぶりだったのだ。

腕や足の筋肉が悲鳴を上げている。

さすがは魔族といったところだろう。

かなり無茶をやったし、五体満足で帰ってこれただけでもよしとしよう。

もう一度やれと言われても御免こうむりたい。

今でもここにいるのが正直信じられないぐらいだ。

聖剣をだしに魔軍と『爵位持ち』との交渉、そして決闘。

我ながら無茶な立ち回りをしたと思う。

普通の人間だったらとっくに死んでいてもおかしくはないところだ。

「ヴァーロ」

フィアが後ろから抱き着いてくる。

「痛っ…そうくっついてくるなって。筋肉痛が治ってないんだよ」

そんなことは彼女にお構いなしのようだ。

「それで話し合いはどうなった?」

「明日、魔族と合同会議を開くことで調整するって。

それでヴァロに仕事なんだけれど、私たちとクラントさんで魔族の人たちの迎えに行くことになった」

「俺が?」

いきなりのことにヴァロは驚く。

「魔族の方と顔見知りだし、ヴァロたちが適任だろうって話になってさ」

確かにあの場にヴァロとクラントはいたし、ヴァロたち以外に任せられるものもいないだろう。

普通の感覚を持った人間ならば、魔族とか聞いただけでも逃げられそうだ。

ヴァロは一人で納得する。

「なるほどな」

ちなみにフィアは魔族と直接対面してない。ローファとは会ったみたいだが。

「フィアは魔族は怖くないのか?」

ヴァロには魔族に対しての嫌悪感はない。

決闘以来、親近感のようなものすら抱くようになってきている。

ただフィアに関しては恐れていないか心配だった。

真偽は定かではないが、人を見たら攻撃してくるという噂や、人の肉を食らうとかいう噂まである。

無知というのは、そういった想像を掻き立てるモノなのかもしれない。

魔女ではあるが、フィアも一人の少女である。

怖がっていないとはいえない。

「…特に考えてなかったな。私はヴァロがそばにいればいいや」

ヴァロの腕を絡ませてくる。

筋肉は痛むが、ヴァロはされるがままになった。

「フィアがいいならそれでいい。ただし、ばれないようにやらないとな」

ちなみに魔族の侵入の手助けをしたことが知られれば、騒乱幇助罪が適用される。

つまり教会から公式に人類の害敵と認定されるということだ。

それは人間社会での死を意味するものに等しい。

今回の件では聖剣無断契約、罪人クラントミイドリイク侵入幇助などなど。

教会に知られれば極刑確定なことを何度か行っている。

表沙汰になれば教会は喜んで異端審問官『狩人』を差し向けてくるだろう。

そもそも魔王ドーラルイと一緒にいること自体、すでにこれ以上ないぐらいの大問題なのだが

「そうなったら二人ではぐれ旅ってのもいいかもね」

「…あのな」

どこか楽しげに語るフィアに、ヴァロは頭が痛くなった。

「それにしてもローファさんのことよくわかったな」

ローファというのは街で会った大男だ。

フィアがローファをみつけたことにより、ミイドリイクは守られたといってもいい。

ヴァロは今でもあの男が幻獣王だったなどとは信じられない。

あの場で魔軍の連中が一斉にひれ伏した事実がなければ、今でも信じていないだろう。

「ちょっとした魔法をね。一晩で作ったからうまくいくか自信なかったけれど」

「一晩で魔法?ずいぶんと無茶したな」

「まあね」

フィアは苦笑いを浮かべる。


建物を出たところで二人はキリアンに呼び止められる。

「キリアンさん」

「こんにちは。『竜殺し』とフィアさん」

相変わらず顔に上品な笑みを湛えている。

キリアンはこのミイドリイクの異端審問官『狩人』だ。

「どうやら一緒に飲みに行けなくなりそうなので挨拶しに来ました」

「それはどうして?」

「私たちミイドリイクの『狩人』は例の魔物の監視につくことになりました。

現在、他の『狩人』は先行して、例の魔物の監視をしています。

私もそろそろ向かわなくてはなりません。

あの魔物どもが異邦に戻るまで、これから私たちは交代で監視の業務に専念することになります」

これはエレナの行った措置だろう。

遺跡を巡る一連の騒動がすむまで、『狩人』をミイドリイクから遠ざけておく目的もあるのだろう。

万が一、カリアたちと遭遇した場合、異端審問官『狩人』は躊躇なく全力でそれを排除しにかかるのは明白だ。

ならば理由を与えて遠ざけておこうとするのが当然である。

もちろんクラントの件もある。不測の事態に対しての対処。

『狩人』を魔物の監視に充てるのは、そういう意味合いが強いのではなかろうか。

「大変ですね」

「全くあんな魔物、さっさと片づけてしまえばよいのにと思いますよ」

キリアンは目を細める。キリアンから物騒な殺気が漏れ出る。

ヴァロのよく知る『狩人』特有の殺気だ。

ヴァロはそれに慌てる素振りをみせる。

「キリアンさん、お願いです。あれには絶対に手を出さないでください」

何せあの魔物の糸を引いているのは異邦の魔族だ。

手を出した瞬間異邦との武力衝突がはじまる。

そうなれば今までしてきたことがすべて水の泡だ。

「ハハハ…冗談です。絶対に戦闘を行わないようにエレナさんから命じられてます。

今回は監視業務に専念するつもりですよ」

「それならいいんですが…」

キリアンはヴァロの様子をみて、なにやら感じ取った様子だ。

「…どうやら今回は内情を知らない人間の方が都合がいいということですかね。

ミイドリイクにはもう少し滞在する予定ですか?」

「はい」

「ゆっくりとしていってください。ここは珍しいものばかりですよ。

一緒に飲むのは次にヴァロさんたちが来た時にとっておきましょう。それでは」

さわやかな笑みを残して、キリアンはその場を去っていた。

「…抜け目のない人ね」

フィアのキリアンへの評価にヴァロも同意見だ。

柔和な物腰だが、抜け目ない。

今回話しかけてきたのは、ヴァロに探りを入れてきたとも考えられる。

鋭い人だと思う。もし敵にまわしたら厄介な相手になりそうだ。

「とにかく昼飯を食べた後、クラントさんと合流だな」

「うん」

クラントのことだ。出会う頃には馬車の手配をすませているだろう。

ヴァロは切り替えて、フィアと昼食をどこにするか話し合い始めた。

ミイドリイクの街は至って平穏そのものだった。

最近勝手にキャラが動く。

この場面ではこう考えるだろうなとか、ここはこう考えないだろうなとか。

自分にも思わぬ選択肢を取ってくれて楽しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ