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5‐3 合間の劇1

ヴァロたちは後退しながらパオベイアの機兵と戦っていた。

数は多いが、一体一体はそれほど強くない。

ただ、倒しても倒しても相手の勢いに衰えはまったく見えない。

ヴァロたちはパオベイアの機兵の相手をしながら後退していく。

ただ死地だというのに三人の顔は生き生きとしていた。

「かなり離れたな。そろそろいくか?」

「あいつらとの追いかけっこもそろそろ終わりにしたいしな」

ずいぶん距離を走った。

敵をひきつけるという任務は達成されたと思ってもいいだろう。

「ああ」

クラントは魔剣ラルブリーアを天に掲げた。

魔剣ラルブリーアはそれに呼応するかのように風を巻き上げていく。

暴風による障壁がパオベイアの機兵を後退させる。

同時に土煙で視界は遮られ、風が収まるとそこにはヴァロたちの姿は消えていた。

標的が目の前から消えたことに機兵たちは標的を探す素振りをする。

そのとき、パオベイアの機兵の視界に飛び込んできたのは黒い球体のようなもの。

それはゆっくりとパオベイアの機兵から遠ざかっていく。

パオベイアの機兵はそれを敵とみなしたようで、黒い球体に我先にと向かっていった。

ヴァロたちは路地裏で機兵が立ち去るのを待っていた。

「どうやら撒けたようだな」

パオベイアの機兵が見えなくなると、三人は胸をなでおろした。

「カリアの作戦がうまくいったな」

「経験だ。同じような相手と昔戦ったことがある。

もっとも同様の効果があるかどうかは賭けだったがな」

カリアはパオベイアの機兵が向かっていった方向を見ながらそう語る。

「もしアレを一体でも地上に出したら…」

その答えがこの場所だ。虫すらいない生物のいない世界。

それがミイドリイクの姿になるということだ。

「それにしても汗だくだな。出入り口に向かう前に、少し休憩をとるか」

カリアの提案にヴァロとクラントは頷いた。

「ここの近くに川があったな。そこまで行ってからにしようぜ」


川沿いまで三人はやってくると、三人は川の中に頭を豪快に突っ込む。

「生き返るな」

「全くだ」

ずぶ濡れになってお互いをみて笑う。

「いいな、こうして身分を気にせずに話せる仲間というのは」

カリアは笑ってそう言った。カリアの犬歯が口から覗く。

「全くだ」

クラントもそれに応える。

「カリアにもこういった一面もあるんだな」

手にした水筒を口に運びながら、クラント。

「おかしいか?」

「初めて会った時はなんだこの偉そうな奴はと思ったよ」

「おい、クラント。いくらなんでもはっちゃけ過ぎだ」

ヴァロはクラントの脇を肘で小突く。

カリアはクラントの言葉にふっと笑った。

「いいさ。どちらも私だ。ただ部下の前でこんな顔を見せるわけにもいかん」

「…」

「昔は私もこんな感じで仲間と馬鹿をやっていたものだ。

爵位になることが決まってから今まで友だった者たちまで頭を下げてくる。

中には顔色をうかがう者までいる始末。

師のヌーヴァですら、伯爵になってから態度を変えてきた。

それ見て本当にやめてくれと一度頭を下げたぞ。

今ではどうにか人前以外で、以前のようには接してくれるようになったがな」

ヌーヴァはカリアの師であるという。

師から頭を下げられるとはどんな気分だろうか。

「それに頭を下げてくる人間も腹の中では何を考えているか知れん。

だれが敵でだれが味方かわからん。とてもではないが、窮屈でやってられんよ」

カリアはどこか寂しげな表情を見せる。

組織は人間社会も、異邦も一緒のようだ。

爵位というものを手にすることで失ってきたものの一人なのだ。

「挙句に他の『爵位持ち』から喧嘩を吹っかけられたりもする。

若くして爵位を得た私がよくは思われんだろうさ。

ただこちらとしては負けるのは構わんが、少しでも下手に出れば、なめられて立場を失う。

下の者にも伯爵としての規範を示さねばならん。全く困ったものだ」

他の魔族を連れてこなかったのはその為もあるのだろう。

下のモノには今の顔は見せられない。

「…大変なんだな、『爵位持ち』ってのは」

「俺もこういうのは久しいな。訓練生時代を思い出すぜ」

「指名手配されてからな」

「なんだ罪人なのか?」

ヴァロの言葉にカリアは意外そうな表情を浮かべた。

「まあな。少し事情があって人間界ではお尋ね者だ」

「…なら異邦に来るといい。貴様の腕なら喜んで役職を紹介するぞ」

「マジかよ。…ありがたいが、俺にも少し事情があってな」

クラントは魔剣になった女性をもとに戻すために、流浪の生活を送っている。

クラントはカリアにそのことを打ち明けた。

カリアはクラントの話を聞いて考え込むように魔剣を見る。

「魔剣か。そう言えばそれは人が元になったものだったな」

カリアはまなざしを魔剣に向ける。

「あんた、『反魂の秘法』って知ってるか?」

「かなり昔に失われた秘法と聞いている」

それを聞いてクラントは身を乗り出す。

「異邦に使える奴はいないのか?」

「『反魂の秘法』は現在ゾプターフ連邦にも使う者はいないはずだ。

…いやまて、ドーラルイ魔法長なら、あるいは…」

ヴァロは慌ててカリアの口をふさぐ。

「あいつの素性はこいつには黙っててくれ。頼む」

ヴァロは小声でカリアの耳元でささやく。

カリアは事情を察したのか、カリアは黙って頷いた。

「ドーラルイ?第四魔王か?」

思い出すようにクラント。

「…人間界ではそう呼ばれているらしいな。

古今東西、あの方ほど魔法を究めたモノはいないと伝え聞いている」

本人がきいたら顔をひきつらせそうな言葉だ。

しばらく沈黙してからヴァロはクラントに腕をつかまれる。

そのあと思い切り首を絞められた。

「ヴァロ、お前なんてことをしてくれたんだ」

「おちる、おちる」

ヴァロは必死に抵抗する。

非公式にだが、ヴァロは第四魔王を倒したことになっている。

クラントは本気で首を絞めてきているのか、マジで外れない。

気を失う寸前まで絞められた。

「これで許してやるよ、たく」

「…けほけほ…」

首元に手を当ててヴァロ。

文句を言えないぐらいまで絞められた。

「どうして首を絞められたのかわからないのだが?」

首をかしげながらカリア。

「…いろいろと事情があってな…」

ヴァロは苦い表情でそう言った。

ドーラが元魔王であることを知られるのは秘密である。

この話題を引っ張られるのはまずい。

ヴァロは気になっていた話題をカリアに切り出すことにした。

「カリア、そういやフィアのことなんだが…本気なのか?」

ヴァロは休憩のときにカリアの切り出してきた話題への疑問をぶつけてみる。

「ああ本気だ。できれば…私の伴侶として迎えたいと思っている」

「はい?」

いきなりの展開にヴァロとクラントは驚きを隠せない。

二人は硬直しカリアを見つめる。

「い、いくらなんでも突飛すぎないか?昨日あったばかりだろう」

「人間界での滞在時間は短い。機会を逃せばもう二度と会うこともないかもしれない。

だからこそやれることをやっておきたいと思ったまでだ」

堂々と当然のようにカリアは話す。

その堂々とした態度はある意味好感が持てた。

「ヴァロはいいのか?」

クラントはヴァロの顔色をみる。

「いいも何も、俺はただのフィアの保護者だよ」

そういずれは別れる道だ。美しく成長し、自分から巣立ってく。

彼女たちとは時間の流れが違う。

立場も違うし、生きる場所も異なっている。

ずっと感じていたことだ。彼女のそばには永遠にはいられない。

覚悟はあったが、目の前にしてみるとそんな覚悟と裏腹にヴァロは動揺していた。

「とにかく、ここから無事に出てから考えようか」

ヴァロの声はひきつっていた。

「そうだな」

これ以上考え事が増えても困る。

ヴァロはそれを振り払うように通りを見る。

「機兵の影がない。出入り口まで一息に走るぞ」

カリアとクラントは頷き、立ち上がった。

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