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5-1 蠢くモノ

本来ならばその場所は王が民に何かを呼びかける場所。

その場にひしめいていたのは人ではなく、人形。

その人形が幾重にも重なりその床すら見ることはできない。

異様なその光景にヴァロたちは息を飲んで硬直していた。

どのぐらいの時間固まっていただろうか。

広間に集まった人形たちの視線がすべて同時にヴァロたちを捉える。

体勢もそれぞれ違う上に、黄色いその目は一つ一つ無機質のように感情がない。

そのおぞましさはさながら悪夢そのもの。

エレナの弟子のオコティがそれに腰へなへなと倒れこむ。

同時に白い影は一斉にこちらに向かってきた。

その姿は四つんばいであったり、二足歩行であったり統一性がないが、

ものすごい勢いでこちらにむかってくる。

カリカリと壁をよじ登る音とともにパオベイアの機兵が近づいてくる。

ヴァロたちはその現実とも思えない悪夢を前にして誰も動けないでいた。

「何をしてるんダ、逃げるヨ」

ドーラの一言にそれぞれが正気に返る。

ヴァロたちは皆一目散にそこから離れるべく駆け出した。

正気であんなのと戦っていられるか。


パオベイアの機兵が一体、壁をよじ登りヴァロたちの眼前に現れる。

四つんばいでこちらに向かってくる。

人ならばありえない体勢だ。

人のカタチはしているものの、それはまるで蟲のようだ。

背後から飛びかかってきた機兵を、魔剣でクラントは左右対称にバッサリと切り捨てる。

見事な剣さばきである。

「なんだこいつら、一体一体はそんなに強くないぞ?」

拍子抜けしたようにクラント。

クラントの倒した機兵に後から現れた機兵が群がる。

「気色悪りい。共食いかよ」

そのおぞましい光景にクラントは顔を引きつらせる。


エレナの弟子のが機兵に取りつかれる。

どうやらさっき腰を抜かしてしまったため、うまく走ることができなかったようだ。

「エレナ様あ」

悲鳴のような声を上げ、白い手の中に引き込まれていく。

ヴァロたちは声に気づくと踵を返した。

「待ってろ」

エレナは魔弾で人形たちを払おうとするも、その数には効果がなく。

その姿は白い腕の中に飲まれていく。

「くそっ」

ヴァロたちも助けるべくその機兵を追い払う。

機兵の去ったにはその弟子のぼろぼろの衣類と腕輪だけが残されていた。

どうなったのかは想像に難くない。

エレナは険しい表情で腕輪を拾いあげる。

「エレナさん…」

「…逃げるぞ。ここでぐずぐずしてこいつらに食われるわけにもいかん」

エレナは立ちあがり、声を上げる。

「ああ」

それぞれが頷き、その場から離れようとする。

クラントは魔剣ラルブリーアを鞘から解き放つ。

衝撃波が機兵を巻き込んで白い波を後退させる。

「魔剣の攻撃は通じるみたいだな」

クラントはそう言って反転する。

「お見事だネ。おかげでアレには衝撃波が有効らしいってのがわかったヨ」

クラントの脇をドーラが並走する。

「あんたほんと冷静だな。…あいつら、人を食うのか?」

走りながら小声でクラント。どこか呆れ気味だ。

ドーラは頷き、声を上げた。

「みんな、走りながら聞いてくれ。

パオベイアの機兵が最も恐ろしいのはその増殖能力と吸収能力と文献にあったヨ。

奴らはあらゆる生物を食し、増殖し続けるってネ。

さらに魔力を吸収し、再生を繰り返らしいヨ」

「つまり一匹でも地上に出してしまえば…」

「生物がいる限り際限なく増殖し続けるってことサ」

ドーラはその絶望的な言葉を淡々と語る。

一匹でも地上に放たれれば、ミイドリイクは文字通り死都になる。

「…マジかよ」

ドーラはふところから短剣を取り出し、近寄る機兵を斬りつける。

ウルヒの部屋から見つけたという魔器だ。

「だから異邦でも最大級の禁忌として扱われていたのサ」

ゆえに邪王が人間界と戦争になったとしてもそれを排除しようとしたのだ。

もし放置していたのならば、この化け物は生物が消え去るまで動きづつけるだろう。

それこそ大陸中の生物を食らい尽くすまで。

「足を動かせ。ひとところにとどまるな。囲まれたら終わりだぞ」

エレナが必死に背後から檄を飛ばす。


「門を閉じるぞ」

エレナの魔力が謁見の間の扉を動かす。

ヴァロたちが謁見の間を出るのと同時に巨大な扉が閉じる。

直後、ヌーヴァの『氷獄陣』で扉が凍りついた。

「これでしばらくは大丈夫のはずだ」

誰もが一息ついた。

「ただし、そんなに時間はないぜ」

ドアがぎしぎしと軋む音が聞こえてくる。

「奴らを相手にしてみてどう感じた?」

エレナはクラントたちに声をかける。

「数は多いが、手ごたえは感じたぜ」

クラントの言葉にヴァロとカリアが頷く。

「フム」

エレナは思案するような表情を見せた。

「私も少し試してみたいことがあります」

フィアが後ろから切り出した。

「このまま奴らを地上に出すわけにもいかない。

ここで迎え撃ちたいと思うが、異論のある者はいるか?」

「それはここで奴らと戦うと?」

ヌーヴァは変わらぬ表情でエレナに問う。

「もちろんやばいと感じたら即座に撤退するつもりだ」

その場が沈黙に包まれる。

ここにいるメンバーならば数万の軍勢相手にも引けをとらないだろうが、

相手は何せパオベイアの機兵という化け物である。

「ドーラはいいのか?」

ヴァロはドーラに尋ねる。

「反対はしないヨ。僕もあの機兵に興味があるんダ。

それにもしできるならここで退治できるにこしたことはないと思うしネ」

ドーラの手にはナイフが握られていた。

「全員一致だな」

エレナは全員の顔を一通り眺める。


「ドーラ、お前はいつから気づいていた?」

エレナはドーラに向き合う。

「街の探索をしたときサ。クラント君が虫すら見かけないといったでショ。あれでぴんときたのサ」

「あらゆる生物を食する…そうか…」

思い返してみればあの門を通ってから動物はおろか、虫すら見ていない。

「異様じゃないカ。誰も知らないこんな巨大な居住施設が地下にあるなんてサ。

あの門に書かれた文言といい、これだけの施設が地下深くに封印されている件といい、

まるでこの場所を隔離するために造られているみたいじゃないカ」

ドーラの言うとおり、それならばいろいろと符合する。

「人を住まわせるのならばこんな逆さまに都市を作るなんてことは絶対にしない。

装置が何らかの事情で停止すれば皆死んでしまうからネ」

「…」

「そこで僕は一つの仮説を作ったのサ。ここは人間を守るための施設ではなく、

何かを閉じ込めておくための『檻』なんじゃないかってネ。

そう考えるとすべてのつじつまが合うのサ」

「…『檻』だと?」

エレナはドーラに聞き返す。

「機兵たちにあえてある命令を与えて、他の行動を起こさせないための『檻』

この場合、暴走をふせぐためって言った方が正しいのカナ?」

「ある命令?」

その声にドーラは頷く。

「その命令ってのは、おそらくこの都市を管理せヨ。

今僕らはそいつらにとって異物ダ。何が何でも排除しようと襲ってくるヨ」

ドーラはパオベイアの機兵のいる方向を見ながら答える。

「いいですか?門にかけられた術を解きます」

ヌーヴァの術が切れると謁見の間の扉がゆっくりと開き始める。

同時に扉を埋め尽くすほどの白いパオベイアの機兵が、ヴァロたちの部屋になだれ込んでくる。

「気を抜くな、だれもここで死ぬことは許さん」

エレナの掛け声がその戦闘の始まりを告げた。

パオベイアの機兵の登場です。

ようやくこのシリーズも終盤に突入です。


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