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4-3 城へ

「フィア殿の班はまだ来て無いようだな」

エレナは確認するように周囲を見渡す。

目印となる丘の上の木の下に、ヴァロたちは一足先に着いたようだ。

それぞれが腰を下ろす。

「ここの地下都市、何か違和感のようなものを感じるんだよネ。君は何か感じるカイ」

石で造られた塀のようなものに座りながらドーラは語る。

「いや、これといって俺は何も感じないが…」

「考え過ぎカナ?どうももう少しでこの違和感の答えが出そうな気がするんだよ」

ドーラは首を捻って考え込む。

「ドーラ魔法長殿」

考え込んでいたドーラにカリアが話しかける。

「ドーラでいいヨ。カリア伯爵殿、何か話カイ?」

うんざりするような表情でドーラは語る。

伯爵とつけたのはドーラのイヤミだろう。

「一度お話をしたいと思っておりました」

カリアは頭を深々と下げる。その振る舞いは明らかに目上の者に対してのものだ。

魔法長というのは思っていたよりもかなり上位の地位なのだろうか。

「それについては僕も聞きたかったんだヨ。

そもそも君らの国では僕はどういう風に伝わってるのサ」

カリアは咳払いをして何かを発表するかのようにそれを語り始める。

「クファトス大王の左腕であり、その魔法力と知識において右に出る者はいなかったと。

その実力は幻獣王にすら匹敵し…」

「…で、具体的な業績は何サ?」

話をさえぎり、つまらなさそうに半眼でドーラはカリアに問う。

「さらに魔法においては現代魔法の基礎をお作りになられたと聞いています。

特に素晴らしいのは概念魔法の現実世界での因子、魔素と式の統一論などですかね。

魔法式外円に関しての構造理論は今でも異邦での…」

カリアの話を聞いているドーラはどんどん顔色を悪くしていく。

「功績を上げるのならばナナードリの内乱鎮圧、ルトスでの救出…」

「…もういい、もういい、わかったヨ」

頭を抱えながらドーラはカリアの言葉を止める。

人間界では第四魔王ドーラルイとか言われ、異邦では魔法長と呼ばれあがめられている。

「…原因が分かったヨ。全部あいつのせいダナ」

苦々しい表情でドーラは呻く。

「あいつ?」

ヴァロがドーラに問いかけると同時にエレナが声を出した。

「向こうの調査も終わったようだ」

エレナの声に振り返るとフィアたちがこちらに向かって来ていた。

「そちらは何か見つかったか?」

フィアは首を振る。

「人の住んでいた痕跡はあるものの、人は見当たりませんでした」

「こちらと同じか」

エレナは予想していたようで、特に落胆するそぶりをみせなかった。

「なんでもいい、気づいたことはあるか?」

「水は通っていたし、家の中にはご丁寧なことに食器までそろっていたぜ。

まるでいつでも人が帰って来れるようにな」

「クラント、試しにこの地下に住んでみるか?」

茶化すようにカリア。

「冗談でも俺はごめんだぜ。誰もこんな地底深くに住居を構えようなんざ思わねえよ。

第一食糧もねえ。虫一匹見かけなかったぞ」

クラントの何気ない一言。

これが実は本質を突いたものであったことをヴァロたちは後で知ることになる。

クラントの一言により、ドーラの表情がみるみる曇っていく。

「それにこの地下に入ってから城の方から妙な視線を感じるんだよな」

クラントの言葉にヴァロ、ヌーヴァ、カリアが頷く。

どうやら視線を感じていたのはヴァロだけではなかったようだ。

「街中に入って城が見えなくなっても視線は不思議とつきまとっておりました」

「ああ」

カリアはヌーヴァの言葉に同意する。

「…まるで城に来いと誘われているようにな」

エレナの声に一同は城の方をみつめる。

街の奥には巨大な城がこちらを見下ろすようにそびえたつ。

それはある種異様な存在感を醸し出していた。

ドーラがヴァロたちの前に進み出る。

「…僕らはもう帰るべきダ。これ以上進んじゃいけナイ」

エレナに向かってドーラは語りかける。

「いきなり何を言っている?まだあの城の探索がすんでないぞ」

「…もう引き返すんダ」

そこにはいつになく険しい表情のドーラがいた。

「みんな見てきておかしいとは思わなかったのカイ?

ここには生物が一匹も存在していないんダヨ?

そんな馬鹿げたことってあると思うカイ」

確かにドーラの言うとおりである。

この地下都市には動物はおろか、虫すら存在しない。

そんな場所は地上のどこにも存在しないのだ。

「それはお前の感か?」

冷やかにエレナは言う。

「ああそうサ。僕の感ダ」

「ふざけるな。どれだけの時間と労力を使ってここまできたと思っている?

我々の目的はこの遺跡の調査だ。理由もなく引き返せるか。

それにここまで来て探索せずには終われんぞ」

「それはだめだ、ここはおそらく…」

ドーラは言いかけてやめる。

まるでそれを言うのをはばかるように。

「ここはおそらく?」

「…いやなんでもない」

そして、ドーラの感がこの時当たっているとはだれも知らなかった。

本当に恐ろしいものは直ぐそばにいることを。

いよいよ遺跡探査編佳境に入ります。

折り返し地点かな。

次の章から内容が一変します。

その遺跡の真実に触れたとき、本当の悪夢が幕を開けます。

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