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アマオト  作者: 真田玲
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雨音

 日常が平凡であればあるほど、祭りというものはそのコントラストも相まって楽しさを増す。そしてその祭りの後の街の静けさは、それが非日常であったことを大きく印象づけてしまう。そのはずなのに、一夜明けた今でも忘れることができないほど、昨日の一つ一つの記憶がよみがえっては俺の心を高ぶらせていた。


「暗いな……。」


 眠い目をこすって部屋、壁時計を確認。なるほど今日はずいぶんよく寝てしまったみたいだ。正直もっと寝たいので、再びごろんとベッドに転がった。これも、昨日あれだけ楽しい時間を過ごせたからだろう。ただ、要因はそれだけではない。南側に窓があるこの部屋が割とお昼に近い時間帯だというのに暗かったからだ。


 その理由は、カーテンを開けた瞬間にわかった。



「雨、か。」



◇◆◇◆◇



 昨日ひたすら夏祭りを堪能して思い出した、一週間くらいの幼少期の記憶。確かに自分がこの地に住んでいたこと、そして、その間にあのお祭りに参加したことは思い出せた。だが、ここでの滞在があまりに短かったことと、自分が大分に幼かったこともあって記憶はかなり断片的にしか思い出せない。下手をすると、他の地域で参加した夏祭りと記憶を混同してしまっているかもしれない。二度寝がてら思い出してみるか……



◇◆◇◆◇



 小学校の低学年。次に移り住む予定のアパートで親たちが引っ越し作業をする上で当時腕白だった俺は正直邪魔だったのだろう。今はもう亡くなってしまったワタルさん……祖父の弟の家がこの地域にあって、二週間ほど泊まっていた。基本的にこの地域に友達がいたわけでもなかったので、基本的にはワタルさんチェスをしたり囲碁を打ったり、時にはテレビゲームをして遊んだりする毎日だった。正直外で遊びたかったが、一緒に遊ぶにはワタルさんでは難しかった。で、ここでのお泊まりの最終日前日。


「今日はお祭りがあるから一緒に行こう。」


 ワタルさんのその一声で、一緒について行ったのが昨日参加したあの祭りだった。街の町内会の役員のようなものをやっていたワタルさんは顔が広く、会場に着くや、知らないおじいさんたちがワタルさんにご挨拶に来た。俺と同じくらいの年齢の子どもたちをつれてきている人もたくさんいて、二言三言話して次の人へ交代、といった連続的な行事がだんだんと嫌になって、ついには「お店見て回りたい!」とわがままを言って、ワタルさんに1000円くらいのお金をもらって、勝手に遊びに行くことにした。そのタイミングでワタルさんの話し相手だった方のお孫さんと一緒に回ったんだった。そういえば、名前とか聞いてなかったなぁ……。


 正気顔はほとんど覚えていないが、肩くらいまで伸びた長い髪と着物が印象的な女の子だった。そして……


「何してるのよ!早く来なさいよ。」

「あ、うん。」


 とにかくめちゃくちゃ気が強かった気がする。


 直前に話していた話題が誕生日についてで、彼女は俺が二月生まれだと聞いた途端、同学年にも関わらず姉貴のような雰囲気を醸しだし、あたかも自分の手下のように俺を扱っていた。


 そして特に反抗も出来なかった俺は彼女に言われるがまま、型抜きに連れていかれた。正直その当時から全くと言って良いほど、手先には自信がなかった。そもそも何かにあれだけ集中して行う細かい作業全般が苦手なので、その最たるものである型抜きは俺にとってこの当時から苦痛だった。


「あっ……。」


 初手から1cmにも満たないところでまた失敗。三回連続で同じ絵を選び、三回とも同じところで躓く。学習能力だけではどうにもならない「センス」が全くなかった俺は、誰にぶつけて良いか分からない悔しさと苛立ちを覚えていた。もう、諦めよう。彼女にそう申し出ようとしていたときだった。


「なんなのよ、これ!!」


 その声は、隣にいた彼女はおじさんに怒鳴っていた。そのまま、全く同じ型抜きに取りかかっている。横には彼女の失敗作だと思しき、全く同じ絵の型抜きの割れたものが置いてあった。何とも凄まじい執念だ。


「お嬢ちゃん、もうやめておきなよ。6回目だよ?」


 そう言われた彼女はますます形相が凄まじくなっていた。思い切り力んでいるこの状況で挑んだ彼女の戦いは、6度目も呆気ない惨敗に終わった。


「もう、嫌!!次よ、次!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「二人ともありがとね~。」


 俺にやや大きめな声で八つ当たりをしながら、『来い』というジェスチャーをつけてスタスタと歩いていった。苦笑いする屋台のおじさんに一礼して、人混みの中をスルスル歩いていく彼女を追った。


 少し見失ってから、左右と数回見回したところで、やっと見つけた時、彼女は夏祭りの定番「金魚すくい」の真っ最中だった。だが、すでに前の戦いで集中力を完全に欠いている状況の彼女が、掬われまいとしている金魚たちに勝てるわけもなく、上手いようにポイを破られ、ただ一匹をも取ることが出来ないまま、彼女の戦いは修了した。


「もう一回!!」

「お嬢ちゃん。そんなに悔しいならオマケで一匹あげるよ?」

「いらない!アタシは自分で捕まえたいの!」


 腕まくりをしながらそう語る少女に対し、苦笑いしながら「じゃ、じゃあ頑張って!」と応援するおじさんを見ていた俺は小学生ながらいたたまれない気持ちになったのを良く覚えている。その状況の顛末をしっかり見てしまっていた俺は、火の粉がかからないよう、少しだけ後ろで彼女の戦いを見守った。


 そこから数分間、もはやポイをいかに早く破るかを競う種目に変わったのではと勘違いするほど、続々とそれは破かれていった。時に水流に、時に金魚に、時に腕力によって破壊されていくのに合わせ、次々と百円玉が姿を消していった。もはや、熱帯魚とかが売っているペット屋で金魚を買った方が安いだろう……。苛立ちがピークになった彼女を見かねた金魚掬いのおじさんが、「サービスだから!もらって帰ってくれ!」と1匹袋に入れてくれたところで彼女も諦めたらしく、おとなしくその袋を受け取った。そして、半ば逃げるように一人、次の催し物を求めて行ってしまった。「一緒に回れ」というワタルさんたちの指示をないがしろに出来なかった俺は、彼女をまた見失わないように必死に追い掛けた。


 人混みの中を、相変わらず器用に抜けていく彼女に対し、俺はつっかえたり、ぶつかった人に謝ったりを繰り返した。


(これ以上離されたらまずい!)


 そう思った矢先、不意に人混みが開けた。辺りでは大きな太鼓の音と夏祭り独特の音楽が流れていた。そう、盆踊りが始まっていたのだ。少し大きめの櫓を中心に円を描くように周りながら踊っている様々な層の女性達。ただ、そこに俺や彼女のような年齢はいなく、自分たちが場違いだと言うことは子どもながらに察していた。だが、彼女は何のためらいもなく、年上の女性達の輪に参加した。



 俺たちが到着してから2曲が流れたところで太鼓のお兄さん達がその中を通って降りてきた。どうやら、盆踊りは終わったらしい。踊っているウチに当然のことながら彼女の立ち位置が変わってしまい、自分とは反対で終わってしまった。


 慌てて櫓の反対側に向かったが、予想通りの事件は起こってしまった。反対側で盆踊りを終えたはずの彼女がいなくなっていたのだ。周りを見渡すが、彼女が居た形跡は完全に無くなっていた。


「マジかよ……。」


 これまで見てきた負けず嫌いなところを見ると、もしかしたらリベンジしに行ってるかもしれない。そう思った俺は型抜きの所や、金魚すくいのところに向かったが、如何せんそこまで一緒に行動していたわけでもなく、曖昧な感じでしか覚えていなかったので、黒い長髪と着物の色、身長だけを頼りに辺りを探し回った。だが、彼女の興味がありそうな出し物の周辺を探しても見当たらなかった。これ以上自分の力で探すのは難しいと判断した俺は、目の前にいたヨーヨー屋さんに声を掛けた。


「俺より少し小さめの子で、浴衣を着た女の子を見ませんでしたか?」

「そういうお子さんは沢山いるからなぁ。」

「そうですか・・・」

「もしかしたら、受付が知っているかも知れないよ。迷子センターもそこにあるし。」


 俺はヨーヨー屋さんが教えてくれた通りに受付へ向かうと、確かにそこには迷子センターがあった。確かに彼女と同じような風貌の子はいたが、やはりそこにはいなかった。念のため、受付に立っていた少し年配の女性達に、彼女の行方を知らないか尋ねてみた。すると、その中の一人のおばさんが、あぁ、という顔で、


「その雰囲気のお嬢ちゃんなら、公園の奥の方に向かっていったよ。危ないからやめなさいって伝えたんだけど、『大丈夫よ、穴場があるの!』とかちゃんと受け答えできていたから、まさか迷子だとは思わなかったわ。」

「ありがとうございます。」

「しっかりしてる子だね~。」


 広い祭りの中を一周した形になったため体力は大分消耗していたが、せっかく教えていただいた手がかりを無駄にするわけにも行かなかったので、迷うことなく公園の奥の方へ向かった。もしおばさんの物まねが正しければ、間違いなくあの子が良いそうな言い方だったし、恐らくこっちに行ったのは間違いないだろう。


 夏祭りの本会場とはうって変わって電灯がぽつんとあるだけのその場所にあったベンチが見え、そこに小さい女の子がちょこんと座っているのが確認できた。言いたいことはたくさんあったが、それを言うことは叶わなかった。



「あっ、来たわね!」



 先に声を掛けたのは俺ではなく、彼女だったからだ。声の感じから察するに、俺が来ることは予定の範囲内だったらしい。反撃の言葉を唱える前に「遅かったじゃん、はやく座りなよ!」とか言いながら、自分の横のスペースを空けてくれた。


「何処に行ってたんだよ、心配したぞ?」

「あのね、祐くん」

「どうして俺の名前を?」

「ワタルさんと話してる時に『うちの祐くんが~』って言ってたからね。」

「良く聞いてたな……で、なに?」


 少ししゅんとした顔をして俯いた。少し申し訳なくなって言い過ぎたと反省していたが、彼女がそうなった理由はそこではなかった。


「さっきワタルおじさんから聞いたの。今日であなたがこの地域で過ごすのが最後だって。」

「そ、そうなんだ。」

「今日ね……アタシすごく楽しかったんだ。アンタといて。」

「俺、追いかけてただけだけどな。」

「でも、そうやってアタシに付いてきてくれたのはあなたが初めてよ。」

「そうなの?」

「アタシ、友達いないし。」


 俯いたまま、無理に笑顔を作ろうとする彼女を見て、すごく心が痛んだ。だからか、言葉は自然に出ていった。


「じゃあ……俺が、友達になってやるよ。」

「ありがとう。でも、嘘じゃん。もういなくなっちゃうんでしょ?」

「でも、友達は友達だ。もしかしたら、また帰ってくるかもしれないし。」

「もしかしたら、でしょ?」

「じゃあ約束する。この地域に戻ってきて、君がいる学校に必ず俺も登校する!」

「ありがと。やっぱり、アンタ優しいね。ここに来てもらって良かった。」

「えっ?」

「この場所を忘れないようにしてあげる。空……見てて。」

「空?」



パン、パンパン



 その音と共に空を見上げた。そこには大きく広がる花火の姿があった。


「綺麗だな……」


 俺の口からその言葉が自然に溢れてしまうほど、その光景は美しかった。彼女もそれは同じだったようで、無言のままそれを見ていた。しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりとこちらを見た。


「あのね、祐くん……」


 その後に続いていた彼女の言葉達は全て、花火に消されてしまった。そのまま、この祭りの、この花火のフィナーレが始まった。上空で次々と花開く、大きな花火。しばし、それを眺めていようとした、その時だった。


「二人とも!!」


 ふいに、後ろの方から声がした。ワタルさんだ。ここに来る前にワタルさんにきちんと許可を取ってきたからか、迷うことなくこちらに向かって歩いてきた。


「写真とろう、写真!」

「そうですね、とりましょう!」


 完全に俺の意見は参考にするつもりがないことが分かる状態だったので、黙ってそれに従った。「寄って」と言われるがまま俺と彼女は二人、近づいた。


「はい、チーズ!」


 背景には花火大会フィナーレのクライマックス。その後、花火を最後まで見届けてから、それぞれの保護者に連れられて家に帰った。



◇◆◇◆◇



翌る日。


 昨日一日引っ越しの準備も整えてくれた親たちは、いつも通り仕事に行ってしまった。引っ越しでクタクタになっていたし、休めば良いのにと思ったのだが、大人というのはどうもそうはいかないらしい。


 昨日のお祭りで余ったお好み焼きを発泡スチロールから取り出して、電子レンジで温めた。もう今日でこことはお別れか……。何か特別な思い出があったわけでも無いのに、俺はなぜか寂しさを感じていた。


 窓の外は雨。外を歩いている人たちも傘を差している。彼らにとっては雨の日の日常なのだろうが、俺にとってはこの地域における最後の日。寂しさが助長され、心がおかしくなりそうだったので、無我夢中にバクバクとお好み焼きを食べて誤魔化すようにした。


<ピンポーン>


 インターフォンが鳴った。ワタルさんが出ると思ってしばらくボーッとしていたが、二回目がならされた時、ワタルさんが留守だということに気がついた。慌てて玄関まで走り、勢いよく扉を開けた。


「はーい!」

「祐くん……。」

「えっ……。」


 そこには、昨日一緒に回った小さな彼女がいた。傘でよく見えないが、その声は間違いなくそうだ。そのままの状態で彼女は続けた。


「ねぇ……本当に行っちゃうの?」

「うん。でも」

「……そんなのやだよ!」


 何かを言おうとしていた俺。だが、それは出来なかった。彼女を隠している傘が揺れ、嗚咽を漏らしながら佇み、叫びにも似た彼女の声が聞こえたから。


「せっかく友達になれたのに……。」

「約束したじゃん。」

「本当に守れるわけないじゃん!」


 彼女は傘をその場に捨てて、抱きついてきた。そのまま顔を埋めて、声を殺して泣いていた。どうすることもできず、泣いている彼女を優しく抱き返すことしかできなかった。



◇◆◇◆◇



 しばらく、泣いていた彼女は「あとで、ね。」と言い残して去っていった。俺も、自分の引越しの準備をするために、中に入った。


 とはいえ、この家に持ってきてもらったものの殆どのものは昨日の段階で送ってしまってあるので、残っているものといえば、その当時大切にしていた「肌身離さず持っていたいもの」くらいしかない。携帯、音楽プレイヤー、愛読書、そして写真の入ったアルバム。それを持って、家の前で待っていると、親が半休をもらって帰宅してきた。促されるまま俺も車に乗った。


 この瞬間でもうこの家とはお別れだ。ふり返り、小さめに手を振る。俺は、今から家族と共に空港に向かった。


 少しずつ、見慣れない場所へと向かっているのが分かる。しばらくすると、上空すぐそこの所に飛行機が飛ぶようになっていった。その中で、横をずっと併走してきていた車。あまりのしつこさにチラッとそちらをのぞき込んだ俺は絶句した。昨日俺と一緒に夏祭りを回った彼女の乗っていたのだ。こちらに気づいているのかいないのか、静かな表情で遠くの方を見つめていた。



 空港についてから出発まではまだかなり時間があった。チケットの発券を機会で済ませている間に、おじさんとおばさん、そして昨日の彼女がこちらにむかって歩いてきていた。


「お見送りありがとうね!」

「うちの娘がどうしても祐くんをお見送りしたいって言うから。」

「アンタ、もてるねぇ~。」


「うるさいな」と心の奥でツッコミを入れた俺と、昨日の夏祭りからは想像も付かないほど静かな彼女は、一緒に昼食を食べることになった。適当に入ったお店は寿司屋さん。


「ちゃんと、和食食べておかないとね!」

「なんで海外にいくみたいな雰囲気で話してるのよ。家、高知よ?」

「そうなの?!」

「高知県民に謝れ!」


 大人達がボケツッコミを応酬している間、彼女は不気味なほどに物静かなままだった。


「ここのご飯、美味しいな。」

「……うん。」


 それ以上、食事中は何も話せなかった。彼女の悲しそうに俯いた表情が本当につらくて。そして、その雰囲気は変わることなく、別れの時が来てしまった。


「また会おう。」

「……。」


 予想していた無言。俯いたままの彼女をみて、なんだか申し訳ない気持ちに襲われていた。だが少しして上げてくれた彼女の顔には満面の、昨日見たような無邪気な笑顔があった。


「また会いましょう!」


 彼女に背を向けた俺たち家族は検問所を抜けて、ゲートへ向かった。



◇◆◇◆◇



 聞いた話によると、あの一ヶ月後、彼女もまた親の転勤でアメリカへ行くことになったらしい。


今頃どうしてるんだろうなぁ。いつか、会えるかな。




俺は……ここにいるぞ。



 そんなことを思い出しているウチにノスタルジックな気分になり、あの時親からもらったアルバムの在処を調べるため、急遽自室の大掃除を行うことにした。今日は雨だし、なにより休日だ。もともとやることもないから、着手に時間はかからなかった。


 しばらく部屋を綺麗にし、出てきたものを収納するためのクローゼットの中を漁って……もとい、片付けていると、「たからもの」とへたくそな字で書かれている段ボールを見つけた。大きさ的にも間違いないだろう。おそらくここに入っているだろうという憶測の元、恐る恐るガムテープをはがした。



 ……たしかにそこにはアルバムと書かれたものがあった。半ば、緊張しながらその1ページ目をめくった。そこで、俺は完全に言葉を失い、気がつくと無言のまま号泣していた。




「嘘だろ……。」




 俺はすべてを察した。と、同時に自分の全てを悔いた。そこにあった逆光の花火の写真。それはまさしくあのときの写真。そして、記憶に新しいあの写真。



「なんでずっと……俺は……!」



 自己嫌悪のまっただ中、タイミング悪くインターフォンが鳴った。流れる涙を必死で拭い、玄関へ向かった。こんな顔を親に見られたら、笑いものにされるに違いない。泣いて腫れ始めた赤い目をなんとか前髪で誤魔化そうと試みたが難しかったので、それも諦めて扉を開けた。



「やぁ、門村。……えっと、おじゃまだったかな?」

「みず、はら……?」


 気がついたとき、俺は水原を抱きしめていた。溢れる涙を拭うこともなく、ただ、泣くだけ。



「ちょ、ちょっと、門村?どうした?」

「ごめん!ごめん、水原!」

「な、なんだんだ。ちゃんと説明してくれないと、私も困る!」

「思い出したんだよ!ぜんぶ、全部!!」



 彼女は、それを聞くとそっと俺を抱きしめ返してくれた。かっこわるいのは分かってたけど、声を出して泣いてしまっていた。それに呼応するように、彼女の体も小刻みに震えていた。




「祐くん、やっと気づいてくれたんだね。……おかえり。」



「ホントごめん……遅くなった。」



「でも、また『会えた』。キミの言うとおり」



「うん……。」

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