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ショットガン

 一瞬の心地よいぷにぷに感触の後、一気に頭の芯まで突き抜けた激しい痛みを思い出しながらジンタは目を覚ました。


 自分が横になっていることを、はたと理解しジンタは口を開く。


「お? おぉ? 俺は一体?」


 フラフラする頭を押さえつつ、ジンタは起き上がった。


「はい、ジンタさん。あなたは私と結婚したんですよ、今しがた」


 獣人化を完全に解き、真っ黒でくたびれたゴスロリ衣装を纏った雪目が何時も以上に死に掛けた顔をぬっとジンタの視界に割り込ませてきた。


「ぬおっ! ゆ、雪目さん」


「はい、なんでしょう、あ・な・た」


 唇を突き出し、チュッと口に出す仕草をする雪目に、ガクガクと寒気を通り越したように体を震わせる。


「あ、雪目さん、大分お疲れのようですね?」


「ええそれはもう……。朝からずっと走り詰めでして……」


「はぁ……、それは大変でしたね……」


 道中を思い出し溜息を吐くため背けた顔を、もう一度ジンタに近づけてくる雪目から目を逸らし辺りを見れば、雪目ほどとは言わないが疲れ座り込む水音と竹と梅の姿もあった。


「ジンタさん、ジンタさん。私の疲れはきっとジンタさんの腕枕で少し横になれば、すぐ良くなりますがどうでしょう?」


 しぶとくジンタの視界に顔をねじ込み、死んだ魚のような目を見開き顔を近づけてくる雪目。

 その雪目をジンタは無視して立ち上がる。


「みんなは大丈夫かな?」


 周りを見渡すと、そこは戦場と化していた。


「ジンタさん、目が覚めましたか?」


「ジンタ殿おはようですな」


「あ、ジンタ悪いな、思わず蹴っちまってよ」


「ジンタ、おれっちも無事だぞ」


「ジンさ起きたのか?」


「ふぅ……毎度のことながら災難でしたわね」


 家族、そして仲間達の言葉がそれぞれ返ってくる。


 一緒に同行してくれていた先輩方が最前線、ジンタ達を庇うようにオークとゴブリンを相手にし戦い、その内側になる形でイヨリやリカ、ミトと松がフォローしてくれていた。


「俺も加わるよ」


 ジンタは落としていた直剣と盾を拾い上げる。


「あ、あれ? そう言えばミリア達は?」


 ジンタが思い出したように尋ねれば、


「え、えっと……」


 イヨリがバツが悪そうに口籠もり、


「あ―ちゃん見てたよ、いよりがケンカするミリアとベンジャンをゴチンしたの」


 あ―ちゃんが言うベンジャンとは、ベンジャミンのことだ。どうも字数が長く言いづらいのか、あーちゃんはそう呼んでいる。


 そんなあーちゃんが指差す方向に、泣きながら蹲るミリアとベンジャミン、そして二人の頭をなでなでしているエルファスとリゼット、さらにその四人を見守るように苦笑しているロンシャンがいた。


「あ、あぁ……、やっぱいきなりケンカしたのか?」


「え、ええ、まあ。なんかベンジャミンさんだけ範囲強化魔法が掛かっていなかったらしくて、それを皮切りに戦闘中にもかかわらず「せっかく迎えに来てやったのにその言い草はなんだ」とか「しょうがないから迎えに来させてあげたんですわ」とか、色々とうるさかったもので、ついいつも以上にゴンッと……」


「あ、あはは……、まあ今は二人のケンカに付き合ってる場合じゃないもんな、しょうがないさ」


 かわいそさ半分、呆れ半分で苦笑する。


「ジンタさんも目を覚ましましたし、長居は無用ですね。そろそろ戻りましょう」


 提案しながら、ロンシャンがジンタの元へと歩いてきた。


「だな」


 同意したジンタが、まずは守るように円を組み戦ってくれている先輩方に目を向けると、先輩方は声には出さず、じかし「分かった」と言うように頷いてくれた。


 次に座る雪目達に目を向ければ、四人ともまだ重たく感じるだろう体にムチを打ち立ち上がっていた。


 そしてマスター三人とリゼットを見れば、まだ痛いのだろう頭を自分でさすりながら目に涙を浮かべつつ「フンッ」とそっぽし合うミリアとベンジャミン、そしてそれを見つつ困った笑みを浮かべヤレヤレと首を振るエルファスとリゼットも立ち上がっていた。


 次に、イヨリ、あーちゃん、ミト、松、ラーナ、リカを見渡せば全員がいつでもいいですと言わんばかりに頷いた。


 そして最後にジンタはロンシャンを見て、


「指揮はロンシャンに頼んでいいかな?」


「後は後退だけですよね?」


「ああ、そのはずだけど」


「わかりました」


 ロンシャンは頷き、ジンタから離れマスター達の元へ。ミリアに一言二言、何かを言った後、ロンシャンは大きく息を吸い、


「では後退しましょう!」


 と号令を叫んだ。



「前衛はイヨリさんとリカと松さん、左右にミトとラーナ、中央にマスターである僕達とリゼットと竹さん、あーちゃんと梅さんと雪目さんに水音さん、その後ろにジンタさんと最後方に先輩方がお願いします」


 早口に、しかししっかりと聞き取れるほどハッキリとした声でロンシャンがテキパキと指示を出していく。


 ゴブリンとオークの包囲網を抜け東の砦へ向け進む一行、それがある一定の場所まで辿り着くと、イヨリとリカと松がいる後退する最前衛側からのモンスターが現れなくなった。


「後は、後方の敵だけです!」


 ロンシャンが叫ぶ。


「あの、でしたらちょっと私に考えがあるんですけど良いです?」


 そこで、珍しいことにイヨリが手を上げロンシャンに提案した。


「はい? なんでしょう」


 あまりの珍しさに、ロンシャンも驚きつつ首を傾げる。


「ええっと、ちょっと試してみたいことがありまして、多分今の状況で使うのが一番効率がいいと言いますか」


「何か考えが?」


「はい、梅さんとの合わせ技と言いますか……」


「合わせ技ですか……?」


「はい、ダメですかね?」


「いえ、そんなことは。それはすぐに出来るんです?」


「ああ、それは多分大丈夫です、ねえ梅さん?」


「ハイだす、アレだすか?」


「はい、やってみようかと思うんですが、どうでしょう?」


「わっちならいけますだ」


 梅がボサボサの頭をコクンと頷かせるのを見て、ロンシャンも「分かりました、お願いします」と許可した。


 イヨリと梅の二人が、後方、ジンタの前に立つ。


 イヨリ達の前には先輩方がいるだけだ。


「あの、私がさがって下さいと言ったら、私の後ろに回って下さい。前にいると危険なので」


 前置きを入れた後、イヨリは梅を見る。


 梅もイヨリを見て頷いた後、獣人化し、通常の赤黒い色の髪を焦げ茶色の土へと変えていく。

 その髪を何時ものように両の腕に巻き付けるのではなく、地面にまるで同化させるように溶け込ませる。


 その光景を、イヨリの後ろからジンタも興味深く見つめていた。

 髪を溶け込ませた梅は一度大きく息を吸い込み、一気にチカラを込めるように「フンッ」とりきんだ。


 直後、イヨリの前面の地面がまるで押し出されるようにイヨリの身長ほどまで壁のようにせり上がる。


厚さにして二十センチほど、幅にしてイヨリの肩幅ほどに。しかも固いのか土と言うよりはレンガのように色が変色している。


「いいだすよ、イヨリさん」


 力んだままの梅の言葉に、イヨリが叫ぶ。


「皆さんさがって下さい」


 イヨリの言葉と同時に、先輩方が一斉に左右に広がり後ろに下がる。


 全員が自分より下がったのを見て、イヨリが「はああぁぁぁっ!」と気合いを込め、体全体で拳を引き絞る。

 そしてギシギシと音をたてるように聞こえるほど体を引き絞った後、


「ハッ!」


 気合い一閃、ゴーレムの拳を梅の作り出した壁に叩き付けた。


 ゴーレムの拳を叩き付けられた壁は一気に破砕され、その破片は飛礫となって前方にズガガガガガガガガガガガガッッ! と、激しく飛び散っていく。


 森の中、縦横無尽にそそり立つ木々がその飛び散った破片に幹を削られ、もしくはチカラ強くその破片に耐えた幹で、レンガのような土の破片がさらに砕け激しく左右に飛び散っていく。


 その光景はまるでビリヤードのように……、いやとんでもなく広範囲のショットガンと言ったところだろうか。


 拳を突き出したままのイヨリの正面にあたる木々は倒れるか、幹から煙を立ち上らせ燻っていた。


 そして追い掛けてきていたオークとゴブリンは、体の一部を吹き飛ばし地に伏すか、逆に体の一部を残して消えていた。

 静まり返った森の中、微かに聞こえる呻き声もダメージの深刻さを物語るように痛々しく重苦しい声ばかりだった。


「さあ、これで少しは時間が稼げます。戻りましょう!」


 意気揚々、うまくいったとばかりに笑みで振り返るイヨリだが、ジンタを始めその場の全員(当事者の一人でもある梅自体も)ボー然としてしまっていた。


「どうしました皆さん?」


 きょとんとした顔のイヨリに「は、ははは、なんでもないですよ、はははは……」と、ほとんど全員が乾いた笑いを返した。


 それほどまでに強力な攻撃だったのだ。そのショットガン発頸(ジンタ命名)は。

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