合流
東の砦を取り返した翌日。
最初の襲撃から五日目の朝。
休養日として当てられた中、ジンタは自分の家族であるイヨリ、ミリア、あーちゃん、そしてロンシャン達家族である、リカ、ラーナ、リゼット、さらに上級生の四つの家族十六人を連れて、北東砦偵察と言う名の捜索隊を組んで、北東砦側の森の中を歩いていた。
「なんというか……、自分達のワガママみたいなことに付き合わせてすいません」
森の中を歩きつつ、ジンタが上級生家族達に頭を下げるも、
「いやなに、北東砦にいる仲間を心配しているのは君達だけではないってことさ、気にするな」
この捜索隊の戦闘でのリーダー(行動のリーダーはミリアにある)が、気さくにジンタの肩を叩いた。
「でも、本当にこのマスターミリアの範囲魔法はすごいな」
「ええ、本当に。今この子を失うわけにはいかないですからね、私達も必死で守りますし、少しでも早く同僚を助けましょう」
それぞれに口にする先輩方の優しい言葉にグッとくるのを堪えてジンタは「はい!」とだけ元気に答えた。
「しかし、ミトさん達がしぶといと私も思いますが、どうしてこの子はそこまで確信を持てるのでるのでしょう?」
イヨリが隣で歩くミリアを見ながら呟く。
「ん~~なんでだろう……、でもイヨリにも何となく分かるだろ? ミリアとベンジャミンってなんかいっつもかち合うというか、なぜこんなに同じ行動を取るんだろうって印象が……」
「ああ、確かにありますよね……。まるで同じ意識を共有しているかのように同じ行動を取ってる時が……」
イヨリは、何かを思い出すように唇に人差し指を置き答えた。
「『なぜ』とか『どうして』とかは俺も分からないし、きっと本人達にも分からないんだろうけど、なんかこの二人って惹かれ合ってるのかも知れないからさ、今回はそれに掛けようかと思って」
「なるほど」
納得するイヨリに反し、隣のミリアは顰めっ面で、
「う~~、わたしはベンジャミンなんかと惹かれ合ってるなんて思われるのは心外なんだよ」
唇を尖らす。
「はいはい、分かった分かった。それでミリア、道はこっちで良いのか?」
「ん~~、もうちょい左方向かな~~」
ミリアがやや左方向を指し示す。
ジンタ達はその方向に進路を修正し、先へと進んだ。
※※※※※※※※
「おいぃぃぃぃぃっほんっとうにこっちで合ってるのかああぁぁぁっ!」
迫り来るオーク二体を、超連打の蹴りで吹き飛ばしミトが後ろに向かい吠える。
「わ、分かりません。で、でもベンジャミンは歩き続けてますから」
襲い来るオークやゴブリン達を無視して歩き続けるベンジャミンを守るように横に立ち、白と茶色のメッシュされた長い髪を獣人化、ハリゴン(ハリネズミ)のように硬質化そして尖らせながら、鋼鉄の槍を振り竹が答える。
「まさかベンジャミンさんは、砦に向かってるとかではないだすよね?」
竹とはベンジャミンを挟んで反対側に立ち守っている梅が、赤黒いぼさぼさ髪を粘土状の土へと変え、それを両手に纏わり付かせゴブリン達の攻撃を防ぎ叫ぶ。
「それが本当ですと、これはマズいことですね」
半ば、いつもの死に掛けくたびれた女性に戻りかけている雪目が、エルファスに腕を引っ張られながら口にすれば、
「ですが、どっちにしても私達は一度相手の多いルートを通らないと、南へは向かえないんですよね?」
荒い息を肩と大きな胸でしながらも、流れる水流の髪の飛礫をやや遠目のゴブリンにぶつけつつ水音が言う。
「どっちにしてもおれっち達はベンジャミンに乗っかったんだ、ベンジャミンがこっちだって言ってるんならそっちに行くしかねえ!」
ミト同様ベンジャミンの前に立ち、向かい来るオークとゴブリンを引っ掻き蹴り倒しながら、松が全員に檄を飛ばす。
「確かにそうだよね、こんな所で弱気はダメだよね!」
雪目の手を引っ張り、全員に強化魔法を上書きしながらクセッ毛の金髪をおでこに張り付かせ、もう一人のマスターであるエルファスが答える。
「まったくエルファスの言う通りだぜ! とりあえずここを突っ切るぞ!」
もう、隠れるつもりもないと、互いに叫びながら会話する八人はベンジャミンの歩き示す方向へとチカラ強く進み続ける。
しかし、それもそう長くは続かない。
完全にトドメを刺し切れるわけでもなく、一時的に意識を絶つだけの形で進むミト達だが、そのツケは先に進むほど大きくなっていく。
倒した相手が意識を取り戻し、もしくは別の者に起こされ追撃してくるのだから。
普通のゴブリン程度であればミトと松で瞬殺出来る、しかしそこにより多くのオークが絡むと話は別だ。
どんなに蹴り飛ばし殴り付けても、ミトと松は近接のスピードタイプ、肉厚でさらに鎧のように色々な動物の皮を着込むをオーク達に二人の攻撃は、多少のダメージとして通るが殺傷と呼べるまでのチカラは生まれない。
ましてや現時点で雪目が戦力から外れている状態では、相手の脂肪を凍らせて蹴り割ることも出来ない。さらに水流を操る水音を始め、土を操る梅も、そしてベンジャミンとエルファスを含めた後衛全体を防御する竹にいたっても、かれこれ半分走りながら移動し二時間は経つこの状況では、疲れがピークを迎え動きが鈍くなり始めている状態だった。
「クソッ! クソッ! クソッ!」
向かい来るゴブリンとオークをその白いウサギのような足で蹴り飛ばしなから道を作るミト。しかしそんな突き進むミトの白く長い耳は、蹴り飛ばし進む先よりも、後ろから迫る多数の足音に意識が向いてしまう。
その足音に追いつかれないようにと突き進むが、向こうは走ってくるだけ、こっちは倒し進む形、しかもミトをはじめ全員が満身創痍。どう考えても追いつかれるのは時間の問題だった。
「あ~~もうっ! 一体どうすればいいってんだよっ!」
どんなに考えても答えが出ず、八方塞がりのミトが半ば切れて叫んだ時、
「もう、大丈夫ですわ」
ベンジャミンが安堵した声で呟いた。
「へ?」
ミトの長い耳が、ベンジャミンのその言葉を聞き取り振り返った時、ふわりとした風が前方から流れた。
「お?」
と、再度間の抜けた声を発したミトの目に、空色に輝くマスターであるエルファス、そして雪目や水音、さらに竹と梅の姿が。
「あ……れ……?」
一瞬で頭の中がなんだこれ? と真っ白になるミトの白く長い耳に、
「うおっ! なんだこれっ! おれっちの体が、おれっちのじゃねえみてえだけどっ!」
隣で戦う松の叫びが飛び込んでくる。
見れば、松の体を包んでいた薄い緑の輝きがより深い緑で輝いていた。
「あれ? これって……」
半ばまだ呆けて、自身の緑に輝く手を見つめるミトに、
「ミトっ! これミリアちゃんだよ! 魔法の重複だよっ! 私達は『スピード』と『プロテクト』、ミトと松さんは『ダブルスピード』だよ!」
エルファスの喜びに溢れた叫びが響く。
「ミリア? ……魔法の重複? 『ダブルスピード』……」
ミトは、それらの言葉を思い出すように一度、鬱蒼と茂る森の木々の中、空を見上げた。
「…………」
数週間前の夜、カナンの街で味わった、あの最上級の実感のことが懐かしい記憶のように思い出される。
「ミトさん、危ないっ!」
水音の危機を知らせる叫びに、ミトはニィっと笑み作る。
「ハッ!」
相手の気配をその耳で感じ、ミトはグルリと体を一回転させる。
シュッ
見事に空を切り裂く風切り音を発してミトの回し蹴りが、棍棒を振り上げ向かって来ていたオークのわき腹に深くめり込む。
脂肪で固めた体の半分近くまでミトの白い足をめり込ませたオークは「ブヒ」と鳴いた直後、やっと追いついたミトの蹴りの勢いに押され吹き飛んでいった。
「ははっ、ベンジャミンお前本当にこれを知ってて――」
再度振り返り、ベンジャミンを見たミトの言葉が止まった。
「あ、あれ?」
振り返った先のベンジャミンの顔は無表情、しかしそれは感情が無いわけではなく、どう見ても何か怒りを堪えるために作られてるようだった。
「あ、あれ?」
もう一度ミトがさっき以上に間抜けな声で呟く。
無表情で立っているベンジャミンだけ、なぜか体の周りが薄青なのだ。つまりさっきまで掛かっていた『プロテクト』だけしか掛かってないのだ。
「ベ、ベンジャミン……、なんでもお前だけ範囲強化が掛かってないんだ?」
ミトが尋ねると、ピクピクッとコメカミを引き攣らせるベンジャミンに変わりエルファスが、
「あ、み、ミト。きっとミリアちゃんが……」
「あ、ああ、ミリアがわざと忘れてるのか」
ぽんっと理解したとばかりに手を叩くミトの前で、ベンジャミンはコメカミだけでなく頬も引き攣らせる。
「と、とりあえずミト、早くミリアちゃん達と合流しましょう」
「そ、そうだな、ベンジャミン方向はこっちでいいのか?」
ベンジャミンは言葉としての返事をする代わりにコクンと軽く頷く。口を開くと止めどなくミリアに対する悪口で止まらなくなるのが分かっているからだろう。
近くに仲間が、それも一番来て欲しい仲間がいることが分かると、今までの鉛のようだった体と心が一気に軽くなった。
もっとも、実際強化魔法の恩恵もありいつも以上に軽くなっているのだが……。
後ろから迫る足音は変わらずも、それでも先程までの絶望感は一切なく、前だけを見て進み続けた。
目の前の二匹のゴブリンをミトと松で左右に吹っ飛ばした直後、カサッと前方の茂みが揺れる。
「うおおりゃあっ!」
いち早くそれに反応したミトが、茂みに向かい跳び蹴りをかました。
※※※※※※※※
「エルちゃん達が強化魔法の範囲内に入ったかも!」
ミリアの声に、前を歩く全員が振り返る。
「本当かミリア?」
「うんジンさん、このまままっすぐだよ」
「急ぎましょう」
イヨリがおんぶしていたあ―ちゃんを降ろし、ゴーレムである両腕へと獣人化する。
「あーちゃんもがんばるよ!」
あーちゃんも同じように新緑色の長い髪を、深緑色の蔦へと変える。
「僕達も準備を、ミトさんと松さん、それにベンジャミンもいるとなると、きっとゴブリンとオークを引き連れてやって来るだろうから」
「ロンシャン様の言葉に同感ですわ」
「うぅ……、リゼットもそれはイヤだけど納得するよ、絶対戦ってるよミト達なら」
「なぜです? 普通に考えれば隠れながら移動していると考えるはずなのに。どうして皆さんは戦っていると確信してるんですか?」
一応ラミアへと獣人化し、その両腕に大きなランスと盾を構えラーナが尋ねると、
「「「「ん~~~、そうとしか考えられないから」」」」
あ―ちゃん以外の全員が、一瞬だけ考え、同時に答えた。
さっきまで先頭を先輩方に譲っていたが、今はジンタが先頭を歩いていた。
理由としては、合流した時、真っ先に先輩達と顔を合わせたら、せっかちなミト達なら問答無用で攻撃をしかねないため、まずは顔見知りであるジンタが真っ先に顔を出すことで味方だと分からせるためだった。もっとも、もしゴブリンやオークと出くわした場合は、ジンタは即座に後ろに下がる予定だが。
枝草をかき分け進むと、案の定戦いの音が聞こえてくる。
「やっぱり戦ってるな……」
ここまで来ると、ジンタの中の焦る気持ちは微塵もなかった。なんというか、いつもの通常営業しているお店のように、そこにあるというかいるというかそんな馴染みのある普通の気持ちだった。
もっとも、幾分自重してくれよ……。と内心で思ってはいるが、きっと後ろの仲間達もそれは思っているのだろう、呆れたような溜息がいくつか聞こえる。
警戒をしつつも、ジンタは足を前へと動かす。
確実に戦闘の音は大きくなっていく。
後ろから「ジンタさん気を付けて下さい」と心配げなイヨリの声に、分かったと軽く手を上げる。
ここだな、と最後の青々と茂る木々の葉をかき分け、正面を見たジンタの第一声は、
「あ、ピンクの肉球」
だった。
直後、ジンタの体は白い物体と一緒に、顔から後ろに向けて吹き飛んだ。
「うおおりゃあっ!」
「じ、ジンタさん!」
「て、敵かッ!」
「白いまんまるモンスターっ?」
「ジンタ殿の顔がもげたっ?」
「ジンさ、お空飛んでりゅよっ!」
「違うよ、ジンさん蹴ってるのミトだよっ!」
「ミトっ! それジンタだよっ!」
吹っ飛ぶジンタ、雄叫びを上げジンタを蹴り飛ばす白い物体ミト、叫ぶイヨリと先輩方とラーナ、興奮するあーちゃんにミリアとリゼットが叫べば、
「まあ、やっぱりこうなりますわね」
「うん、ジンタさんも本当によく巻き込まれるよね」
呆れたように首を振るリカと、乾いた笑いで答えるロンシャン。
いつものメンバー達が揃った瞬間だった。




