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東砦奪還

「じゃあ何か、お前んとこのマスターであるミリアちゃんは、あまりに魔力が大きすぎて通常のマスター達のような普通の魔法を使うことが出来ない代わりに、あんなとんでも魔法が使えるってことなのか?」


「まあ、ぶっちゃけちまうとそうなんだが、あまりそれを人に知られたくないんだよ」


「知られたくねえって、あれじゃねえか? もうこの砦のここにいるヤツのほとんどが知ってるんだろ?」


「そうだな、結果的には」


「それってもう隠す方が難しくねえか?」


「うむ、どうしたもんかな」


 ガツガツと、料理を貪りながらジンタとラインは言葉を交わしていた。




 ここは南東の砦。


 カイン達と無事合流し、ゴブリンのしつこいほどの追撃を振り切って、ここに戻ってきた。


 まずは休息をと願う者は砦のベットへと足を向け、まずは腹ごなしをと思う者は、砦内の元飲み屋だったこの広場へと足を運んだ。


 当然、ジンタとラインの二人は後者、テーブルに座りガツガツと料理を貪っていた。


「まあしかしだ、あれはすげえぞ」


「分かってるよ」


「バレたくないからと言って、あの範囲効果なしで東の砦の奪還、ひいてはそれ以降――その先であり今どうなっているのか分からねえ北東の砦や、下手すると第二の街カナンのことだってあるんだぜ?」


「ああ、分かってるよ……出し惜しみしている場合じゃないことだって、でも、なあ……」


 ジンタはがっつくように動かしていたスプーンを皿に置き、夕暮れ色に染まる空を見上げた。


「あのミリアのチカラは異常すぎるんだよ。危険なほど目を惹くし、自分とは違うことによる恐れと言うか恐怖の対象になったり、人を――見る相手によってはミリアを狙うに十分な理由になってしまう……」


「確かにそれは、な……」


 同じくせっせと口に運んでいたスプーンを置き、ラインもジンタ同様に吹き抜けの天井の先、夕焼けの空を見上げた。


「でも、もうここまで来てしまったんです。ミリアちゃんのチカラを見せないといけないところまで来てしまったんです」


 言葉無く空を見上げていた無骨な二人に、ロンシャンが近づきながら答えた。


「ロンシャン……」


「確かにミリアちゃんのチカラは人に見せない方が良いのは確かです。でも、今はそのチカラを見せないと、現状を押し返せないところまで戦況が悪化しているのも事実です」


「だよなぁ。でもよ、その逆境をひっくり返せばひっくり返しただけ、それが無事に終わった時、そのミリアちゃんは危険視されるぜ?」


「そうですね。ひっくり返す力が大きいだけ、それが終わった後の反動――ミリアちゃんに対する周りの畏怖いふは強くなりますね……」


 さすがのロンシャンも、これにはいまだいい案が思い付かずにいるようだった。


「それは終わった後の話だよ! まだ終わってもないのに、そんなこと心配するのはおかしいよ! 今はどんなことをしてもわたし達の居場所を取り返すんだよ!」


「だよっ!」


 悩む三人に当の本人、ミリアとそしてあーちゃんがベトベトの指を突き付け叱咤した。


「……、あ~~ミリアとあーちゃん」


「何ジンさん?」

「あに、ジンさ?」


「うん、とりあえず二人ともイスに座ろうか」


「「うん」」


 口と両手を、ハチミツべっとりのパンでベトベトにしながら頷く二人。


「二人共寝なかったんだ?」


「うん、そうだよ寝てなんかいられないよロンシャンくん。今がチャンスなんだよ!」


「チャンス?」


「うん、イヨリが眠ってるうちに甘いモノを食べておかないと」


「うん、食べないとぉ」


「「絶対食べちゃダメって言われるから!」」


 異口同音、二人揃ってグッと親指を立てる。


「あら、そう言われると分かっていて、なぜそうするのかしらね二人共……」


 ビクッと二人の体が跳ね上がる。

 ゆっくりと恐る恐る振る返る二人の後ろには、コメカミを震わせたイヨリが腕を組み立っていた。


「ち、違うのイヨリ! これはあーちゃんがお腹空いたって――」


「ち、ちがうお、いより。あーちゃんはミリアがおなか空いたって――」


 二人は、互いに互いをなすり付け合いながら指を差し合うも、


 ゴチン!


 組んだ両手をほどいたイヨリにゲンコツされた。


「まったく! あれほど寝る前に甘いモノは食べるんじゃありませんと言ったでしょ! また歯を磨かないとだめじゃないの二人共!」


「磨くから、歯を磨くから最後までパン食べさせて~~」


「食べさせて~~」


 首根っこを掴まれ、ミリアとあーちゃんの二人はイヨリによって引き摺られていった。


 二人とイヨリの姿が見えなくなると、ラインが呟いた。


「なんかあれだな。真剣に考えてる俺等がバカみたいだな……」


「ああ、珍しく俺もラインと一緒のことを考えていたよ……」


「実は僕もです……」


 三人はもう一度、夕焼けが闇になり始めた空を見上げ、


「「「とりあえず今のことだけ考えよう」」」


 と答えを出した。


 次の日の朝。

 ジンタ達はゆっくりと休む間もなく、東の砦奪還のために移動を開始した。




「無理に突出せず、ジワジワと押していけッ!」


 お昼過ぎ、カインの号令で奪還作戦を敢行するエルフ軍が、東の砦に向かいゆっくりと進軍の歩を進める。


 先頭に立つのはラインを始めとした近接タイプの『召喚されし者』達。そこにはリカの姿もあった。

 両腕の大熊の腕を振るい、鋭く長い爪がゴブリンとオークを切り裂いていく。


 何時もであれば、ロンシャンを守りロンシャンを主軸に考えて動くはずのリカではあったが、今回――この東の砦奪還においては、ロンシャンのことを同じ家族であるラーナとリゼット、そしてイヨリとジンタにお願いしてきたのだ。


 ――この戦いだけは、どうしても先頭で向かい来る全てのゴブリンとオークをなぎ払いたいと、ロンシャンに頭を下げて。


 そんな普段からは到底考えられない、いつもより危なっかしいリカを、ジンタはラインに見てもらう事にした。

 結果、リカの望み通り最前線に立てる上、ラインが無茶をしそうになるリカを引き戻せるような立ち位置で見てくれる形となり、後ろからヒヤヒヤしながら見ていたロンシャンと一緒に、ほっと安堵していた。


 戦いは終始エルフ軍が押し進む形で進んだ。迎え撃つ形のゴブリンオーク混成軍は当初攻めてきたよりもその数が減っていたのと、強いと聞いていた重鎧を着たオークや、ジンタほどもある大きいゴブリンや大トカゲに乗ったゴブリンがほとんどいないのもあったからだ。もっとも、それらがいたとしてもミリアの扱う範囲強化魔法、つまりはダブル強化魔法のチカラで押し込めていただろうが。


 そして、遂に戦場が東の砦まで達したところで、体勢は決した。

 勢いに乗るエルフ軍に対し、ゴブリンとオークの混成部隊は散り散りに逃げ出し始めたからだ。


「まだ気を抜くな!」「深追いは禁物だ!」「砦内を慎重に見て回れ!」「けが人の治療を優先させろ!」指示や檄を飛ばす隻腕のリーダーエルフ、カインの声が響く中、ジンタはロンシャンと一緒に情報収集に動いていた。


 戦いが収まると、どこに隠れていたのか幾人ものエルフとその家族達が砦にやって来たからだ。その中には当然北東の砦の者もいた。


「じゃあ、やっぱり……」


「ええ、やはり北東の砦も僕達同様、同じ頃襲われたようですね」


「じゃあ、北東の砦は……」


「……落ちたようです」


「…………」


 ジンタが集めた情報でも、その回答は同じだった。


 ロンシャンの言葉が重くのし掛かかり、イヤな沈黙が二人の場を包む。


 ジンタの中で数日前にカノンで会った時のミトとの会話が思い出される。


 確かミトは、オークとの相性が悪いと嘆いていた。


 水音さんや雪目のフォローもあるが、それでもやりづらいと。


「ジンさ~~ん」


 ジンタとロンシャンが沈黙する中、元気な声を発しながらミリアが手を振りやって来た。当然、一緒に手を握りながらあーちゃんも連れて。


「ミリア……」


「どうしたの? なんかあった?」


「ジンさ、どうした? おなか痛いのかぁ?」


「い、いや、実はな、北東の砦も……、その、もう落ちてるみたいでな……」


「そうなんだ」


「うん、それでねミリアちゃん。……そのエルちゃん達のことなんだけど……」


「うん、エルちゃん達も今、必死に戦ってるみたいだね」


「「え?」」


 明るくハッキリとした声音でミリアが言い切るの見て、ジンタとロンシャンは驚いたように声を漏らした。


「ミリアちゃん……なんか分かるの?」


「え? ん~~~~、なんか分からないんだけど、そんな感じがした?」


「どうしてミリアはそう感じた?」


「ん~~~~~、なんかすっごく不愉快だけど、きっとエルちゃん達はベンジャミンと一緒にいるように感じるから?」


 顰めっ面ここに極めリ、ぐらいの渋い顔でミリアが答える。


「ベンジャミン……?」


 呆気にとられたようなロンシャンの呟き、ジンタの頭の中ではあの金髪縦巻きロールのエルフの少女のことが思い浮かぶ。


「そう言えば、昔っからミリアとベンジャミンって……」


「はい、いつも同じような行動をしているというか……、同じことを考えているというか……、何にも考えてないというか……」


 ロンシャンの呟くような物言いに、ジンタも研修で一緒だった時の二人の行動の一致性を思い出していた。


「ミリア、お前ひょっとして…………」


 ジンタがミリアの細い両肩を掴み、一縷の希望に声を震わせた。

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