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偵察隊出発

 エルフ領から、ゴブリン、オーク両勢力内ヘの偵察の話をカインから聞いて一週間後。ジンタ達は第二の街カナンの我が家にいた。


「いや~~、なんつーかジンタ達と、ほんっっと久々に会ったような気がするぜ」


 リビングの真ん中にあるテーブルのソファーに、どっしりと背を預け、ミトがイヨリの出した飲み物を口にする。


 本当にたまたまだったが、ジンタ達とミト達の休みが重なったのだ。もっともミト達は明日の朝には戻ってしまうが。


「二十日ほどだろ、大げさだなぁ」


 大テーブルを挟んで向かい合う形でジンタが言えば、


「いえいえ、ほんっっとすっごい大変でしたよ。……特にベンジャミンが……」


 こっちはガックリと疲れたようにエルファス。


「エルちゃん、ベンジャミンのヤツなんかやったの?」


 ベンジャミンという言葉に反応を示したのは、自分の皿に置かれたクッキーを食べ終わり、テーブルの真ん中に置かれたクッキーを、あーちゃんと二人で手を伸ばし始めていたミリアだった。


「いえ、何かしたと言うよりは、何をしても、といいますか……」


「そうですねぇ……。何もしてないのに、なんか起きると言いますか……」


 雪目と水音も、どう説明していいのか互いに苦笑し合う。


「松竹梅の三人も一緒だったろ?」


「ああ、みんな元気だぜ」


「そうそう、元気がよすぎて闘技場出入禁止になっちゃったもんねミトと松さん」


「闘技場を出禁?」


 呟くジンタの目の前で、苦虫を噛んだような顔のミトと、それをジトーッとした目で見るエルファス。


「まったく「どっちが速いか勝負だ!」とか言いだして、闘技場をグルグルグルグルと何度も何度も走り回って、みんなが稽古に集中出来ないってなってしまって」


 ジト女を向けるエルファスに、ミトはムキになって、


「ばっ、あれは松のヤツが突っかかってくるから――」


「い~~え、ミトからも絡んでいる時がありました~~~。どっちもどっちでした~~~~」


「ぐっ……」


 ミトがもう一度、顔を歪めそっぽを向く。


「あ、あはは、なんだろう、その光景が実によく思い浮かぶなぁ~」


 苦笑するジンタに、今度はエルファスから「それで、そちらはどうでした?」と質問され、両頬をリスのようにクッキーで詰め込んだミリアが、


「私達の方は、ジンさんとイヨリがケンカして、最後は仲直りして裸の付き合いで情事じょうじだったよ」


「そうだぉー、ジョージだったんだぉ」


 どこで覚えたのか(一人だけ心当たりがあるが……)、ミリアとあーちゃんがそんなことを口走った。


 ソファーの隣で飲み物を口にしていたジンタが「ブッ」と吹きだし、調理場の方から何やらガチャンゴロゴロと色々と落ちる音がリビングにも響いた。


「へぇ~~、ほぉ~~、それは色々と興味深いですね。もっと詳しくお聞きしたいです、その話」


 不気味に目を細めたエルファスが、ニタァ~とする。


「い、いや、別に俺とイヨリは何にも……、な、なぁ、イヨリ」


「え、ええ、何にもありませんよ、ほんとに……」


 リビングと調理場で必死の言い訳をする二人。どう見てもなんかあった事が分かる二人の挙動に、エルファスはミリアとあーちゃんに向け、


「ねえ、ミリアちゃんとあーちゃん」


「ん? 何エルちゃん?」


「なぁにエルちゃん?」


 クッキーを口の中一杯にさせ、モグモグしながらエルファスを見る二人。


「少しお部屋で話をしない?」


 どう見ても意味ありげな誘い方をするエルファス。


「いいけど……」

「うん…………」


 二人の目は、頷きながらもテーブルの中央にあるクッキーに向く。


「このクッキーも持って行っていいですよね、ジンタさん」


 色々含みのあり過ぎるエルファスの視線に、ジンタは目を逸らし「うん、持って行っていいよ」としか答えられなかった。


 今この場であれやこれやと、エルファスに追究されるより、今はこの方が絶対良いだろうと自分を納得させ、目ざといエルファスの詰問を免れたことに安堵するジンタだった。


 三人がリビングを出て行くのを見送った後、ミトが口を開いた。


「で、お前達の方もやっぱゴブリンの数が増えてるのか?」


 ミトの問いにジンタは頭を切り換え答える。


「ああ、増えてる。数も回数も……。オークの方もだろ?」


「ああ、増えてる……」


 ミトがイヤそうに顔を歪める。


「どうしたんだミト?」


 ジンタが心配そうに尋ねると、答えたのミトではなく、ミリアとあーちゃんが『情事』を口にした辺りから、まったく動かなくなっていた雪目だった。


「いえね、オークとミトさんって相性が悪いといいますか……」


「相性?」


「そうなんですよ、ミトさんはスピードで相手を翻弄するタイプですので、その重装甲といいますか、肉厚といいますか、そういう相手には色々と……」


「あ、ああ、なるほど……」


 ジンタも納得とばかりに手をポンと叩く。


「あいつらほんっっと、何度蹴ってもブニブニしてて、少しチカラを抜くと中途半端になって攻撃が通らねえんだよ」


 吐き捨てるようにミトが言うも、


「でも、私と雪目さんがいれば、相手を氷漬けにして砕く方法もありますから」


 ぱんっと両手を叩き合わせ笑みを作る水音みずね


 ジンタは、その動作に合わせて一緒に動く水音の胸部に目を(ガン見)向けながら「な、なるほど」と上の空な返事をした。


「お前どこ見て言ってんだ」


 チッと舌打ちしながらのミトの突っ込みに、「すまん」とだけジンタは答える。


「でも、それももう少しの辛抱じゃないんですか?」


 調理場から新しいクッキーと飲み物をお盆に乗せ出てきたイヨリが、ジンタに冷たい視線を突き刺しつつ会話に入って来た。


「ああ、確かにな。うちの砦の上級生達は偵察とは言っていたから、なぜこんな頻繁にヤツ等が来るようになったのか、分かるようになるとは思うけどなぁ……。でも、どうせなら殲滅して来て欲しいぜ」


 ミトはテーブルに新しく置かれたクッキーに手を伸ばし、ひょいっと口に放り込む。


「ミトさんの言うとおりですね。はっきり言って守っているより、サッサと終わらせる方が早いと私も思いますよ。なんせ先輩方は私達よりも強いですからね」


 冷めた飲み物にやっと口を付け、雪目が同意する。


「そうですよね。第二段階、進化、を身に付けている先輩方も多いですし、私達でもそれなりに余裕を持って相手に出来る程度の相手オークやゴブリンですからね。でも、どうして今までこちらからは攻めていかなかったのでしょう?」


 水音の疑問に、場が一度沈黙するが、


「今まで攻めなかったことの理由は分かりませんが、ですが、今回の偵察隊はそんな上級生である先輩方がチームを組んで行うって言ってますし、私達は砦でお留守番ですね」


 イヨリの言葉に、全員が納得しながらも微妙な顔をして頷いた。


「ところでよ、そっちでもう第二段階や進化をしたヤツって誰か出たか?」


 ミトがズイッとテーブルに身を乗り出す。


「それって二年生でってことか?」


「もちろん、そうに決まってるだろ」


「いや、俺は知らないけど……」


 答えながらジンタがイヨリを見るも、そのイヨリも首を横に振る。


「そうかぁ……」


 どこか安堵、どこかがっくりにミトが呟く。


「そっちには?」


「こっちもまだいないけどよ、でもなんかこう、あれだよな、色々もやもやするつーか、イライラするつーか」


「あ、あははは、まあゆっくり身に付けていくしかないだろうな」


「まあな」


 ミトは大きく溜息を付き、体のチカラを抜いてボスンとソファーに身を沈めた。


 次の日のお昼、ミト達は砦へと戻っていった。

 ジンタは見送るミト達の背中がどこか遠くに見え、そして少し寂しく感じた。


 そんな気持ちを抱いたジンタも、そのさらに翌日。

 家族四人で色々と買い物を済ませ(主にミリアとあーちゃんのお菓子)砦へと戻った。



 砦の自分の部屋へと戻ると、そうそうにラインがドアを蹴破る勢い(本当に蹴って)入って来た。


「ジンタッ! おめえあの酒場の代金はなんなんだ! 人のおごりだと思って一体どれだけ飲みやがった!」


 胸ぐらに掴み掛かり怒鳴るラインに「あっ」と思い当たる節に気付き、ジンタは声を上げた。


「おめえは、一体どうやったら一人であんなに飲めるって言うんだ? ああん?」


 引き攣った頬と同じぐらい引き攣ったコメカミを近づけるラインのゴツイ顔を押しやり、ジンタは怒鳴り返す。


「あれは俺だけじゃねぇ!」


「じゃあ誰が! ま、まさかイヨリちゃんか! そうなのか! だったら半分払いやがれっ!」


「違う! あれはおまえんとこの二人だ!」


「ああっ? 俺の所って誰だ?」


「竜女さんと麗火さんだ! しかもほとんど麗火さんだ!」


「ま、マジで?」


 キョトンとした顔でラインが呟く。


「マジだ!」


「アイツってそんな飲むのか?」


「ああ、飲む。しかもすげえ飲むし絡むっ! ちなみに竜女さんも少しは飲む」


「竜女は分かってるが……、そうか麗火も飲むのか……」


「ああ、まず間違いなく俺よりも飲む!」


「そっかあ、じゃあ今度うちの家族全員で飲み行かないとなぁ」


 さっきまでのコメカミヒクヒク状態から一変、どこかほっこりした顔になるライン。


「お前なんなんだよ、そんな気持ち悪いほどにやついた顔しやがって!」


 厳つい顔を不気味なほど緩め笑みを浮かべるラインに対し、ジンタは掴まれた胸ぐらを引っ剥がしながら、怪しげに眉を顰める。


 内心で『俺も結構飲んでたなぁ~。あ~支払いしないで助かった』と思いながら。


「いや、なに。おお、それよりあれだ。実はお前が街に行ってる間に、俺達偵察隊の日取りが決まってな」


「ほんとか!」


「ああ、明後日ここを出る予定だ」


「明後日……」


 その時は近い、と思ってはいたが、いざ聞かされるとやはり落ち着かなくなる。


「編成は?」


「一応うちの家族達を含めた七家族、総勢二十八人だ」


「二十八人……、少なくないか?」


 きっと上級生内でも色々と話をし、選りすぐった七家族なのだろうが、それでも不安な気持ちが残るジンタには少なく感じた。


「バカ言え、ゴブリンが二百匹出て来ても十分倒せる戦力だぜ」


「そ、それは、そうかも知れないけど……」


 まだ不安感が残るジンタの肩にラインが手を置く。


「そんな心配そうな顔するなって。この偵察が終わったら、俺のおごりでうちとお前の所の家族みんなを飲みに誘ってやるからよ」


 ニッと笑み、親指を突き出すラインに、


「いや、うちの家族は、俺以外お酒は御法度なんだ……」


 イヨリの酒乱のことを思い出し、身震いしつつ言い返しながら、


 ――あっ……。なんか今のこいつのセリフって、どことなく死亡フラグっぽくね?


 と、ジンタはより一層の不安を覚えた。



 そして数日後、ラインの言った通り砦のリーダー家族であるカイン達を含む総勢二十八人、選りすぐりの七家族がゴブリンの森へと入って行った。

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