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計画

 イヨリとの仲が発展して以降、ジンタの周りは自身が有頂天なのもあるのだろうが、すべてが輝いて見えた。


 もっとも、ある一点のバカのしつこさを除いては……。


「てめぇっ! 誰のおかげであの場を凌げたと思ってやがんだ?」


「それだけは感謝してるっての!」


「だったら教えやがれっ! あれから何回ヤッた!」


「そんなこと、なんでお前に言わないといけない!」


「俺が知りたいからだっ!」


「俺は言いたくないってのっ!」


 砦内の闘技場の中心で、例によって武器と盾を持ち稽古に励もうとしているジンタに突っかかるライン。


「大体お前はあれだぜ? もっとだなぁ俺を敬うとかだな――――」


「なぜ俺が、邪魔なだけなヤツにそんな事を?」


「先輩に向かって邪魔だとぉ~~~~」


「ああ、十分に邪魔だな、しつこいし、臭いし、暑苦しいし、臭いし、むさ苦しいし、臭いし、キモいし、最後に臭いし」


「てっ、てっめえ~~、先輩に何度臭いと言った!」


「そんなんてめえで数えろっ!」


「女によっては、この臭いがいいって言われるんだぞっ!」


「俺には悪臭にしか思えんっ!」


「こんっの、陰険、小心者、根暗ドーテー、おっと、それは卒業したのか。ぎゃっはっはっはっ」


「くっ!」


 交互に言葉をぶつけ合う二人の剣は、徐々に勢いを増していき本気で切り殺そうともとれる勢いで振られ、交差していく。


 それが限界値まで達すると……。


 カギンッ! ジンタの直剣がラインのバスタードソードで弾かれた。


「はっはん! 所詮つい最近卒業したばっかりのお前じゃ、俺には勝てねえのさ」


 勝ち誇ったようにバスタードソードを肩に担ぎ、大仰に笑うライン。それに対し、ジンタは悔しそうに地面に膝を付く。しかし、そこまでではない。


 ジンタは剣を無くした右手に地面の砂を掴み、ラインの顔へと投げつける。


 大笑いしているラインだが、すぐさま左手のラウンドシールドで投げられた砂をガード。


「はーはっはっはっ。毎度毎度同じ手を喰ってたまるか」


 さらに勝ち誇ったように笑い、大きなシールドから顔を出したところを狙い、ジンタはもう一度砂を投げつけた。


「ぶっ! っぺっぺっぺ。てっめぇ~~~!」


「へっへ~~ん、毎度毎度なんだって?」


「こんっのやろ~~~~っ!」


 ラインはコメカミを引き攣らせ、両手の武器を手放し、指をベキベキと鳴らしながらジンタへと近づいてくる。


「なんだ~~~~っ!」


 ジンタも左手の盾を放り投げ、起き上がる。


 そこからは、これまたいつも通りの取っ組み合いヘと変化する。


 そして互いに肩で荒い息をし、顔を腫らして終了となるのだが……。

 今日は違った。


 二人が掴み掛かり、闘技場の砂の地面を転がり始めると同時に、


「二人共やかましいし、暑苦しいから焼くわ」


 地面をゴロゴロ転がる二人に向かい、カインと一緒に歩いてきた麗火がパチンと指を鳴らした。


 それが合図となり、ボウッとラインとジンタ二人のお尻――、いや腰の辺りが激しく燃え上がる。


「「うおおおおおおおおっ!」」


 地面を転がっているはずの二人が同時に飛び上がり走り始める、まるでパンツのように腰にボウボウと火を纏いながら。


「れ、麗火、そろそろ二人の火を消してあげてよ」


 いきなりの発火、熱さのパニックで闘技場をグルグルと走り回る二人を見ながら、カインが困った顔で苦笑する。


 麗火は唇を尖らせながら、それでも「カインが言うならしょうがないわね」とパチンと火を付けた時同様指を鳴らす。すると二人の腰の火が一気に消えた。


「お、おおおお、お前家族である俺を――――」

「い、一応可愛い後輩である、お、おお俺を――――」


 ラインとジンタ、二人が目を血走らせ麗火に詰め寄ろうとするのをカインが間に入り止める。


「二人ともちょっと話を聞いて下さい」


「そうよ、忙しいカインが暇人のあなた達に話があるのよ。ちゃんと聞きなさい」


 カインの後ろで、ふんっと鼻を鳴らしそっぽを向く麗火。


「ちっ、ジンタよりこっちの方が困るぜ」


 吐き捨てるように言うラインにジンタは、


「麗火さんってあんなキャラだったっけ?」


 尋ねた。


「あ~、あいつもな、お前と同じ日に……、――――お? そういや、ここにいる三人、あの日が初めて同士のヤツ等なんじゃねえか?」


 思い出したように、ラインが右手で左手の手の平をぽんっと叩く。


「え? じゃあこの二人もあの日に?」


「ああ、お前がイヨリちゃんに持ち上げられ消えた後な、俺がカインをあの部屋にぶん投げたんだ。そして竜女が麗火を「あなたも頑張りなさいと」言って、同じくぶん投げたんだが……」


「だが?」


「いや、その後のことは俺もよくは知らねえんだがよ、一緒にいた女達が次の日大火傷で動けなかったらしいんだ……」


「え?」


 哀れみ半分、恐怖半分にジンタが声を漏らすと、


「私は、カインを守っただけ。別に独り占めしたわけじゃない」


 カインの後ろから、麗火が反論してきた。


「あ? でもおめえあれからいっつもカインと一緒にいるじゃねえか」


「これは護衛。『召喚されし者』としては当然の責務」


「夜もか?」


「それも……か、家族だから……」


「てめえら二人して顔真っ赤にしてんじゃねえよ!」


 完全にからかうようにラインが突っ込むと、


「カイン、ラインの口を炭にして言い?」


「じょ、冗談だって!」


 麗火の言葉に、ラインがジンタの後ろへと隠れた。


「まあ、ラインを燃やす燃やさないはともかく、二人には一応話があるんだ」


 ずっと本心から出ていたであろう苦笑したままの顔で、カインが話を進める。


「まず、ここ最近のゴブリン達の動向なんだけど――」


「回数と一回に来るゴブリンの数が増えていってるんだろ」


 カインの続きを奪うようにラインが答える。


「うん。しかも、それはここだけではなく、他の砦でも、つまりオーク達も同じらしいんだ」


「一体なぜ急にゴブリンやオーク達が?」


 ジンタが当然の疑問を口にするも、その場の三人は分からないばかりにと首を振る。


「ですが、これはやはり異常事態であると、僕達家族も、そして他の砦のリーダー達も認識したんです」


「へぇ~~、ちなみにそのカインさんの言う家族の中に、このバカは入ってないようですが……」


 ジンタが、自分同様に初耳だとばかりに首を頷かせるラインを指差す。


「それは大丈夫、だってそれって竜女のペットだから」


「ああ、なるほど……」


 麗火の返答に、ジンタは納得し頷いた。


 カインは、再度睨み合っている三人を無視して話を続ける、


「で、まだ話の段階ですが、近々こちらからゴブリンとオークの領域で、一体何が起きているのかを調査する部隊を作ろうかという案が出ていまして」


「へぇ~、それはいいかも知れないけど。確かこの砦って、守るだけでもう二千年以上続いているんだろ?」


「はい、そう聞いていますが……」


「過去にこういう事ってなかったのか?」


「昔の事なのであまり詳しくは分かりませんが、少なくともここ千年ぐらいはなかったようですが……」


「そうか……。確かに守ってるだけじゃ、この状況に納得出来るような説明が付かないよな」


「そうなんです。今までのように普通にこの領地に入らないように守っているだけではもう……」


「もういっそのことゴブリン達、滅ぼしちゃえばいいんじゃね?」


 ここまで、話を聞くだけだったラインが攻撃的なコメントを口にする。


 しかし、その言葉は別にバカなラインだから出たわけではなく、ここにいる誰しもが一度は思ったことがあることでもあった。


「ライン……それは……」


 困ったように呟くカインに、


「私もそれに関してはラインと同じ」


 カインの隣の麗火が同じくラインに同意する。


「カインさん。なぜ俺達って守る為の戦いしかしないんです?」


 ジンタも今更ながらそんな事を口にするが、

「それは……僕も分かりかねます。きっと誰しも一度はそう考えると思いますが、なぜか守るだけだったんです」


「まあなんにせよ、千年以上守られた規律を破るか……、俺はそっちの方が面白そうだからいいけどな」


 大笑いする悪ガキそのままのラインを見て、三人それぞれに苦笑を浮かべて、やれやれと首を振った。

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