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 安堵する深い眠りの中、イヨリは小鳥のさえずりの声を聞き、目を覚ました。


 岩の壁に囲まれた薄暗い部屋の中、微睡む視界の先に少し間抜けそうに口を開け、ぐっすりと眠るジンタの顔があった。


 ――ああ、そうだ。私、昨日やっとジンタさんと……。


 今、自分がジンタの腕枕で眠っているのだと分かり、夢じゃないんだとホッと安堵し、何時もならこのまま起き上がり、食事やもろもろの用意を始めるのだろうが、今だけ――今日だけはもう少しだけ、この甘美な時間を満喫しようと、もう一度目を瞑った。


 トク、トク、と、安定して聞こえてくる鼓動が二つ。

 自分とジンタの鼓動だと思い、より一層の嬉しさが込み上げてくる。


 そこに、タッタッタッと軽やかに走ってくる足音が混ざる。


 ――ああ、この足音。これはミリアのだわ……


 もう八年以上も一緒に生活しているマスターであり、妹のような存在のミリアの足音、絶対に間違えるはずもない。


 ――……え?


 イヨリは閉じていた目を開いた。


 何時もなら、イヨリが起こしに行くまで絶対に起きて来ないはずのミリア。しかし、タッタッタッとこの部屋に近づいて来る軽やかな足音は、絶対に間違えようもないミリアの足音。


 ――ま、まずい!


 そう直感したイヨリは、ジンタと二人でかぶっていた毛布を払い除け、眠るジンタを飛び越し、部屋に散らばる二人の衣服を踏み飛ばし、部屋の入り口であるドアをガッチリと、開けられないように押さえこんた。


 その一瞬後、ガタガタガタと部屋のドアを外から開けようとする音と振動が伝わる。


『ジンさんいる? ねえ、イヨリ知らない?』


 外からミリアの心配そうな声が響く。


 ――ど、どうしよう……。


 混乱するイヨリ。ドアを押さえる手には、今も外からミリアが必死に扉を開けようとガタガタさせている。


『ねえ、ジンさん起きてよ!』


 かなり焦っているようなミリアの声。


 最近年頃なのもあり反抗期なのだろうか、普通に接してる時は結構つっけんどんとするところもあるが、今の心配そうな声を聞くと、嬉しい反面それを阻害するように扉を開けれないように押さえている自分に、罪悪感が胸を打つ。


『ねえ、ジンさん! 起きてよ!』


 カタカタカタと扉を開けようとする音に、ドンドンと叩く音が追加される。


「――――ん、んん?」


 後ろからジンタの目覚める声。


「なんだぁ?」


 イヨリが扉を押さえたまま振り向くと、ジンタが目を擦りながらベットから起き上がった。


『ジンさん? ジンさん起きた?』


 開けるより叩く方を優先したのか、ドンドンドンと扉が激しく叩かれる。


「ああ、ミリアか、って、い、イヨリお前なんて格好――――」


 擦っていた手を止め、両目を見開き仰け反るジンタに、イヨリは人差し指を口元に当て必死に無言の訴えをジンタヘ伝える。


 ジンタが驚くのも無理はない、昨日始めて見せたとはいえ、イヨリは今、何も着ていない、つまり素っ裸の状態で部屋のドアを押さえているのだから。


『何? ジンさん、イヨリどこいるか知らない? 昨日の夜からいないの』


「え? え~と」


 見ていいのか、悪いのか、完全に視線が宙を彷徨い、動揺の極みに達しているジンタが、頼りなく口籠もる。


『ねえジンさん! 知ってるの?』


 外からのミリアの声はかなり大きくなっている。後ろのジンタは完全に思考が止まっているようだし、このままでは周りにも色々と迷惑、――いや、色々とバレるかも知れない、とイヨリは判断し、


「み、ミリア、わ、私は今ここにいるわ」


『え? イヨリ、ジンさんと一緒にいるの?』


「そ、そうなのよ。ちょっと今後のことで色々と大事な話をしに来ててね」


『そ、そうなんだ……』


「ええ、そうなのよ」


 外のミリアの安堵する声に、イヨリは胸が痛む。しかし、この状況をミリアに見られるわけにはいかない。


『じゃあ、ここを開けてよ』


「そ、それは……。そうだ、ミリア今部屋で眠っているのあ―ちゃん一人でしょ?」


『うん、そうだけど』


「じゃあ、ちょっとあ―ちゃんを起こしてから、もう一度来てくれない?」


『え?』


「あ―ちゃんを一人にしておくのは色々と心配だか――――」


 言い掛けたイヨリの耳に、トタトタトタと最近聞き慣れた小さい子供の足音が聞こえてくる。

 その足音はドアの前まで止まる事なく聞こえ、ダンッとドアの下方にぶち当たった。


『あーちゃん! あーちゃんもいるよ――――っ!』


 やっぱりあーちゃんだった。


『ねえ、イヨリここ開けてよ? あーちゃんも来たしさ』


『あーちゃんも! あーちゃんも開けてっ!』


 外の二人の大合唱に、半泣きさながらの素っ裸のイヨリ。

 後ろを見ればジンタはいまだ素っ裸で、なぜか自分だけ毛布を被って座っている。


 絶体絶命の状況、どうしていいのか分からずドアを押さえていると、ガチャリと隣の部屋のドアが開く音がした。


『あ~~なんだなんだ』


 男の低い声。


「げっ、ラインだ」


 後ろからジンタの慌てた声が聞こえ、イヨリも心臓が止まりかける。

 ラインは昨日イヨリをけしかけ、その気にさせた張本人なのだ。今の状況を聞いたら、きっと……。


『ほうほう、するってーと何か? ジンタとイヨリちゃんが、このジンタの部屋から出てこねえと、そう言う事か?』


『うん』

『そうだお~』


『そうかそうか。ふ~~ん、出てこない。そうなのかぁ~~』


 完全に何か感づいただろう、間の取り方と言い方をするライン。


『あれだな、二人は色々と大事な話があってだな、今ドアを開けれない状態なんだな、きっと』


『え? それってどんな状態?』


『よく言うだろ? 腹を割って話すとか、裸の付き合いとかって』


『え? じゃあ二人は今裸なの?』


『いやいや、そ・ん・な・わ・け・な・だ・ろ・ミリアちゃん』


『じゃあ、なんで?』


『まあ、色々と情事、――いやいや事情があるんだろ』


『情事?』


『まあそれは置いといて。とりあえずミリアちゃんとあーちゃんもあまり騒ぐのは、中の二人に色々悪いし、周りにも気付かれるだろうから。とりあえず、俺と朝飯でも食いに行かないか?』


『え……でも……』

『あーちゃん、おなかすいたよ……』


『イヨリちゃん、も・ち・ろ・ん・それでいいよな?』


 大量に含みのあるラインの問いに、


「お、お願いします……ラインさん……」


 イヨリは顔どころか体すべてを真っ赤にして俯き、そう答えた。

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