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はじめて

 そして次の日。体調の戻ったジンタは、即座にライン達に呼び出された。


 場所は、ライン達家族の部屋。

 時間は、ちょうど夕食時。


 ……なぜ俺が。と思ってしまうが、イヨリには「晩ご飯をリーダー達に呼ばれたから、そっちで食べてくる」と伝え、ジンタはリーダー家族の部屋へと向かった。


 途中、ラインがまた俺を裏切ったとか言いだし、変な事にならなければ良いな、などと呆れるような溜息を付きつつ歩いた。


 ライン達の食事をする家族の部屋の扉の前、ジンタは大きく深呼吸し扉を叩いた。


「は~い」


 女性の声。

 開いた扉から麗火が出てくる。


「えっと、本日はお招きに預かり――――」

「はいはい、口上はいいから入って」


 しゃべっている途中に腕を引っ張られ、ジンタは部屋の中へと引き摺り込まれた。


 ジンタやイヨリ達の住んでいる部屋とほぼ同じ作り、砦特有の石作りの部屋。その真ん中に置かれた四角のテーブルに五つの席。そこにマスターであり、この砦のリーダーでもある青年カイルが一人座っていた。


「じゃあ、あなたはここね」


 ジンタの腕を引っ張る麗火は、ジンタをカイルの対面に座らせ、自分はジンタから見て右側に座った。

 テーブルにはまだ料理は置かれておらず、皿とフォークやスプーン、そしてちょっと高級そうな葡萄酒だけが置かれていた。しかし部屋に隣接する台所からは、炒める音とかぐわしい匂いが鼻を刺激してくる。


「あの、なぜ俺なんかを食事に?」


 単刀直入にジンタが切り出すと、目の前のカイルが優しく笑みを浮かべ、


「いえ、どうも僕の家族達が揃ってあなたにお世話になったようで、ですから今日は我々が恩返しをしようかと思いまして、ご迷惑でしたか?」


「いや、そうでもないけど、なんていうか一応ここってこの砦のトップの部屋だろ? だからどうしても緊張するというか……」


「あら? アナタでもそういう常識的なところがあるの?」


「そりゃあるに決まってるだろ。あんたのように人の家族団らんの寝室に紛れ込むような強心臓の持ち主じゃないよ、俺は!」


「そうなんだ……。そうようね、だからまだどーてーなのよね……」


「…………」


 間違っていない言葉だが、今ここで言われると顔が恥ずかしさで真っ赤になるのが自分でも分かる。


「あははは、麗火それは言い過ぎだよ。僕だってまだそうなんだし」


「「え?」」


 それにはジンタどころか、麗火まで驚きカイルを見た。


「ホントに?」

「まじです?」


 麗火とジンタの二人に目を向けられ、カイルも「あれ? これって恥ずかしいこと?」と言う顔で、ジンタ同様に白い顔を赤く染めた。


「でも、意外だわ。てっきりカイルなら、少なくとも竜女と位はもう……」


「だよなぁ……」


 麗火とジンタは顔を寄せ合い内緒話のように呟く。ちゃんとカイルに聞こえる程度の声音で。


「ま、待ってよ。いくら家族だからって、それにいくら何でも竜女とは――――」


「私がどうかしましたか?」


 タイミング良くというか、悪くというか、調理場から大きなお皿を持って竜女が出て来た。

 カイルも含めた三人の背筋が同時にピーンと張り、


「い、いえ、なんでもありません」


「な、なんでもないよ竜女」


「そうそう、竜女の料理は美味しいって話をしてたんだ」


 それぞれが必死に、竜女に対しての言い訳を吐いた。


 竜女は、それに対しやや怪しむ顔で首を傾げて、大皿をテーブルに置き、また調理場へと消えていった。


 三人が大きく安堵する。


「あ、危なかったわ。もし聞かれてたら、きっと誰か一人が昨日のラインのように頭を丸呑みされてたわ……」


「そういやあいつ、ラインはどうしたんだ?」


「ジンタさんが来る少し前に出て行きましたが、どうしたんでしょう?」


 それ以降、三人は竜女の料理が出揃うまで、たわいもない話しをして笑いあった。




 竜女の腕を振るった料理がテーブルを埋め、それらがほとんど食べ終わり、そして心地よく酔った頃になって、ラインは帰ってきた。


「お、もうほとんど料理は食べ終わってるからな」


 満腹の腹をぽんぽんと叩きながら、ほろ酔い加減に真っ赤な顔でジンタが言うと、ラインはズカズカと荒々しい足音を響かせジンタの前に立った。


 そして、いきなりジンタの胸ぐらを掴み、引っ張り上げる。


「お? な、なんだ?」


「ちょっとこっちに来い」


 いつになく真剣な眼差しで言い、ジンタの胸ぐらを掴んだままラインは部屋の外へと出た。


 そして、そのまま無造作に隣の部屋のドアを開け、真っ暗な部屋の中へとジンタを放り投げた。


「いててて……」


 受け身も何もなく地面に倒れ込んだジンタが、上体だけを起こし痛む体をさする。ラインはそこで始めてニッと口角をおもいっきり上げた。


「お前一体――」

「やっちまえ!」


 文句を言いながら起き上がろうとするジンタの言葉に重ね、ラインは叫び部屋の扉を閉めた。


 直後、ジンタの体を複数の手が這ってきた。


「お、おおう? な、なんだ?」


 暗闇の中、体中を掴み引っ張り、締める感触がジンタを襲う。


 しかもそれらはなぜか柔らかい感触。

 その感触がなんなのかを、ジンタは理性より先に本能が感じ取り、動きを阻害され体を固まらせた。


「こ、これって……」


 鼻孔をくすぐる甘い匂い。

 そして肌に触れる柔らかい感触。

 耳に掛かる甘い吐息。


「これってまさか……」


 ジンタが何が起きているのかを理解し始めた時、チュッチュッチュッと左右の頬を幾つもの柔らかく濡れた感触が触れた。


「ちょ、ちょっ――」


 パニックにおちいるジンタの思考。


「お――い、こっちですよ~~イヨリさ~~ん。こっちにいます~~」


 そこに、扉の外から響くラインの面白がるような大きな声。


「へ?」


 一瞬、完全に思考が真っ白に止まるジンタ。


 暗闇の中「ぎぎぎ」と光を差し込ませ開く扉。

 光をバックに、荒い息遣いで開けた扉の前に立つイヨリの姿。


 ――あっ。これは終わった……


 ジンタにも自分が今どの状態にあるのか、もう理解出来ていた。


 しかし理解出来ていたからと言って、いや、騙されてこうなったとは言え、それを口に出し伝えるまでは頭は動いてなかった。


 カッカッカッと靴音を響かせイヨリがジンタの前に立つ。


 ゴクッとジンタがツバを飲むのが先か、イヨリの腕がゴーレム化するのが先かの早さだった。

 ガシッとおもむろにジンタの頭をイヨリのゴーレムの腕が掴み、持ち上げる。


 ――あれ? これってなんかどっかで聞いた事ある話に似ているような……。


 そう思った直後には、ジンタの体は宙をブラブラと左右に揺らされ、イヨリに連れ出されていた。



        ※※※※※※※※



 憤りを表すような足音を残し、ジンタを掴みぶら下げ遠ざかっていくイヨリをラインは笑みで手を振り見送っていた。


「ほんっと、あんなことしていいの?」


 後ろから竜女の呆れた声。


「な~に、始めて同士なんてあれ位の刺激がないと進展しないもんさ」


「でも、あれはちょっとやり過ぎじゃない?」


 遠ざかる二人を、ラインの後ろから顔だけ出し麗火が心配そうに呟く。


「そうか? 俺には仲睦なかむつまじく見えるがな。がっはっはっはっ」


 大笑いするラインに、今度はカインが、


「ラインの過剰すぎる恩返しはともかく、こっちはどうする気なんだい?」


 ジンタを放り込んた部屋の中、そこにいた数人の女性が呆気にとられていた状態から立ち直り、ラインを睨んでいた。


「ああ、こっちはあれだな。もう一人、俺が過剰的に刺激を与えたい相手がいてな。――つまりカイン……お前もそろそろ大人になって来い!」


 ラインは自分のマスターであるカインの首根っこをひょいっと掴み、女性達のいる暗闇の部屋へジンタ同様に放り込んだ。


「ちょ、ちょっと待ってライン。お、お前、何を! あ、あああ、いやあああぁぁ~~~‼」


「ね、ねえ。さすがにちょっとやり過ぎなんじゃ……」


「だったら麗火、お前も一緒に入ってくればいいんじゃないか?」


「な、何でっ!」


「今ならどさくさに紛れてカインの初めての相手になれるかも知れないぜ? がっはっはっはっ」


「ば、バッカじゃないの! ちょっと竜女、あんたはマスターがこんな目に会ってるのに放って置いていいの?」


「あら? 食事前に私とカインはもう経験済みだったんじゃ? とか言ってなかったかしら? 三人で」


「き、聞こえてたの、ね……」


 苦虫を噛み潰した顔で麗火が視線を逸らす。

 竜女はその麗火の首根っこを掴み、


「私の心配ありがとう、それよりもあなたも大人になって来なさい」


 叫ぶカインのいる真っ暗な部屋の中に、麗火も放り込んだ。


「ちょ、ちょっと竜女~~~~」


「あなたも、少しは素直になって頑張りなさいよ」


 そう言い放ち、竜女はドアを盛大に閉めた。


 マスターであるカインと家族の麗火を女の園状態の部屋に放り込んだラインと竜女は、互いの顔を見合い大笑いした。


「でもほんとにいいの? カインまでこんな事して?」


「いいってもんよ。俺達はずっと止まりすぎていた。そんな錆び付いた時間を動かすにはこれぐらい刺激が強くないといけねえってもんだ」


「……そうかもね」


 竜女はカイン達を閉じ込めた部屋のドアに向かい、肩の荷を下ろすように息を吐いた。


「さって、俺達もそろそろ部屋に行くか」


「今日も?」


「ああ、俺を独り占めしたいなら、お前も大変だぜ?」


 グッと竜女を抱き寄せ、ラインは自分の部屋へと向け、竜女と歩き出した。


 暗闇の部屋の中、なんとも言えない悲鳴を上げるカインと、全く声の聞こえなくなった麗火をほったらかしにして……。



        ※※※※※※※※



 イヨリのゴーレムの手の中に頭をすっぽり収めたまま、ジンタは嘆いた。


 やっと仲直りが出来た矢先に、こんな事になるなんて……。

 きっと俺にとって一番の疫病神はラインだな……。


 頭の中にあの厳つい無頼漢で無神経な男の殴りたくなるような笑みが浮かぶ。


 もっとも、今のジンタは、首から上をイヨリに鷲掴まれ、首から下はイヨリの走る動きに合わせて、ブラブラと動くままになってる状態なのだが……。


 視界は初めての体験であるゴーレムの手の中、結構まばらにある隙間から外の景色は見えていたが、それも振動とショックで、イヨリがどこを目指して走っているのかまでは分からなかった。


 もう首が潰れるより先に上下に千切れそうかも、と思い始めた時、イヨリが一つの部屋へと飛び込み、立ち止まった。


 聞こえるイヨリの荒い息遣いの中、ジンタはゆっくりと地面に下ろされ、開放される。


「イヨリ、さっきのは――――」


「ごめんなさい!」


 言い訳(本当に、ほんっと~~~うに真実なんだが)を口にし掛けたジンタに、目の前に立つイヨリの方が先に頭を下げた。


「へ?」


 普通に見たら、どう見ても自分の方が悪い状況にしか見えなかったジンタが間抜けな声を上げた。


「私、本当に素直じゃないですし、色々ジンタさんから見て面倒臭いところもいっぱいあります。……でも、でも、それでもジンタさんのこと好きですから……、ずっと好きでしたから……」


「え?」


 頭を下げたままのイヨリの告白に、まったく全てがついていけないジンタが再度の間抜け顔で、より間抜けな声を出す。


「だ、だから、その、ジンタさんも私を嫌いにならないで、ほしいと、いいますか……」


 頭を下げたままのイヨリが、チラッと上目遣いにジンタを見る。


「え? えっと、あれ? なんで? 俺イヨリに言い訳してないのに、イヨリが俺に告白……。あれ~~?」


 ここまで来ても、いまだに話に追いつけないジンタが、心の戸惑いそのままを口から漏らす。


「え? あれ? だって、あれって私がジンタさんにはっきりした態度を取らないから、だからジンタさんがああやって色々な人に手を出し始めているって……」


「へ? 誰? そんな嘘っぱちな事言ったの?」


「えっと……ラインさん?」


 イヨリがキョトンとした顔で答えた。


「あのバカが?」


「はい、夕食の後、ラインさんに呼び出されて。私は今日ジンタさんがラインさん達に食事の招待を受けていたのを聞いていたので「ジンタさんがどうかしましたか?」って尋ねたら「ジンタなら今女漁りに夢中になってるぜ」って笑って言われまして……」


 ――おいおい、あのクソジジィ……。


 嘘とは言え、なんて爆弾落としちゃってくれんだ。と呆れ果てるジンタだったが、そこでふと疑問が生まれる。


「あれ? じゃあなんでそれでイヨリが謝るの? そしてなんで告白なんて……?」


「そ、それは、まだ続きがありまして……」


 真っ赤にした顔をさっき異常に俯けて、イヨリは続きを話を続ける。


「私も最初は頭に血が上ったんですけど、ラインさんに止められて。ジンタさんが、その、色々悩んでいる事や、私の中途半端な態度がいけない事も色々と指摘されまして……」


「あ、あのバカの言う事は聞かなくて――」


「でも、わ、私もそうだと思ったから! 私も、いつも中途半端で、いつもジンタさんにだけは強く当たっちゃって。いつも意地悪しちゃって……」


「…………イヨリ」


 俯いたままのイヨリにジンタは優しく声を掛ける。


「私にも一杯悪い事あるのは分かってるんです。でも私も謝れなくて、素直じゃないから……、いつもヤキモチばっかで、怒ってばっかりで……」


 ずっと頭をさげる形で俯いたままのイヨリにジンタはあたふたし、


「そ、そんなことないって、イヨリが怒るのは正しいと思うし。いや、確かにたまに理不尽だなぁって思う事もあるけど、でもそれでも俺だってイヨリが好きだよ!」


 口走った。そしてどさくさで告白した。


「私もジンタさんのこと好きですよ!」


「俺だって!」


 そこまで叫び合った二人の動きが固まった。


 互いの息遣いが聞こえるほど静かな部屋の中、時間にして数十秒、体内時間にして計り知れないほど長い時間。


「えいっ!」


 見つめ合っていた目を閉じ、イヨリが覚悟を決めたような声を発し、ジンタの胸の中に飛び込んだ。――いや、正確にはイヨリがジンタをベットへと押し倒した。


 そして、


「きょ、きょきょきょ、今日は、わ、わわわ、私、こ、こここ、ここで――」


 ベットに倒れ込むジンタの胸の中で、小刻みに震える体と同じほどのドモリ声を上げるイヨリ。


「え? え? きょ、今日イヨリは、こ、ここ、ここで、と、とと、泊まってきゅ?」


「は、ははは、はりぃ!」


「と、とと、とりあえず、あ、ああ、き、キシュだ!」


「は、ははは、はび!」


 互いの視線が宙を彷徨い、ドモリ、噛み合い、パニックしている二人は、それでもゆっくりと顔を近づけキスをした。


 もっとも、興奮しあまりに噛みすぎて何度かした事のあるキスではあったが、今日のキスの味は印象強く、血の……錆の味が強くした。

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