表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/162

たらしとどーてー

 ユッタリとした三連休も終わり、配属という形でジンタ達はゴブリンに対する南東砦へと、そのまま派遣された。


 研修中一緒だったベンジャミン達は、逆に北東であるオーク砦へと配属された。


 誰も口にはしないが、あれだけ毎日毎日ケンカしている二人をあえてくっつけておく事にメリットが一切ないのを知ったからだろう。


 こうして始まった砦での生活だったが……。


「えっとイヨリさん?」


「はい、なんですか、ジンタさん?」


「あ、あの、俺のご飯が少ない――」


「あら、いつも通りですけど、何か?」


「………………いえ」


 と顔に笑みを貼り付けたままの素っ気ない対応のイヨリ。


 いつからこうなったのかと言えば、実に簡単。ミリアの魔法の事をず~~っと一年近くもイヨリに黙っていた事が、バレた後――つまりあの日の夜から始まり、そして徐々に悪化してきているのだ。


(ここに来て一週間……、これは早くに謝らねば……)


 そう思いつつも、なぜか話をしようとすると逃げられるか、聞いてくれそうな時は邪魔が入ってしまうという悪循環……。


 砦内にある自室(ジンタはこう見えてもこのリリフォリアでは九対一以下とまで少ない男子の為、イヨリ、ミリア、あーちゃんの三人の部屋とは別に、一人部屋を与えられている)に戻ると、ベットにドサリと横になった。


 疲れたように目元を手で覆い、


「謝るって言ってもなぁ……」


 思わず口かられた言葉。


「なんだお前、そんなことでぐじぐじしてるのか?」


 呟いた独り言に返す言葉があり、ジンタは即座に起き上がって声の主をジロリとめつけた。


 その男は扉の前、正確には扉が開いた部屋の影に、まるで隠れるように立っていた。そして睨むジンタから視線を斜め上に逸らし、頬を掻いている。


「……ラインさん、いつからそこに?」


 ライン、この砦のリーダーの家族である、『召喚されし者』だ。


 真っ黒なツンツン頭に、筋肉隆々の体つき。ジンタよりもデカくゴツイ体、まるでどこぞの無頼漢のような男。見た目はおっさん、しかし一応二十代後半らしい。


 そんな男が、ジンタの言葉に答える。


「ん~~、お前が帰ってくる少し前から、このドアの後ろにいたんだが……」


「…………」


「お前、あのナイスバディのイヨリちゃんをまだ喰ってないのか?」


「なっ!」


 そして返した言葉に、今度はジンタが切り返された。


「マジかっ! お前あんな気立ての良い子をいまだにほったらかしって……、ほんとに男か?」


 ベットから腰を浮かしかけたジンタを訝しむように上から下へと舐めるように見て、ラインは言う。


「お、俺はちゃんと男ですよ!」


「じゃあ、なんでイヨリちゃんに手を出さない?」


「な、なぜって……」


 言葉に詰まり、目を泳がせているジンタに、


「はぁ~~、お前なぁ~~~~~~~」


 呆れたとばかりに、ラインは頭を抱え首を振った。


「いいかぁ~~、俺達は不老かもしれんが、いつ死んでも不思議じゃないんだぞ? 分かってるのか?」


「そ、それは……」


「じゃあなんで今のうちにツバ付けておかねぇ? そんなんじゃ誰かに取られちまうぜ? 例えばだなぁ、俺に?」


 ニヤっと不敵な笑みを浮かべるラインを、ジンタが敵意丸出しで睨む。


「まあ、とりあえずだな、そういうのは出来るうちにしておくべきだぜ?」


「そ、それはそうかも知れないですけど……」


 ふて腐れた子供のように目を逸らし、ジンタはムッと唇を尖らせる。


 そんなジンタにラインは頭をバリボリ掻き、からかうような目を向ける。


「別にまだガキでもいいじゃねえか、何も無理して大人になってからなんて思わねえでも、さっきも言ったが俺達は不老だぜ? これから生きていけば、どんなタイミングかは知らねえが、勝手にそういう扱いになるんだぜ?」


「……え?」


 突然なラインの言葉に、ジンタが呆気にとられ、ぽかーんとする。


「あ、あれ? 違ったか? てっきり俺はお前がまだまだ自分にはその資格がないとか、まだガキで未熟だからとか、そんなんで悩んでるのかと思っててよ」


「い、いえ……、それはそうですけど……。なぜそれを……?」


 無意識とは違うが、それでも口から漏れるように出たジンタの言葉に、ラインはまたニッとイタズラな笑みをさせ、


「そんなんはドーテーヤローがよく考えそうなことだって、な」


 最後には完全に悪ふざけの目と笑みを向けてきた。


「グッ!」


 正論過ぎて、これにはジンタも言い返しようがなかった。


「まあ、とりあえずアレだな。別にヤッたから大人になるわけでもねえがよ、ヤって大人になる部分もある。どっちにしてもお互い初めて同士なんて、ガキ同士なんだしいいんじゃねえのか? そうして少しずつ成りたくなくても、人は徐々に大人になっていくわけだし、な」


 ラインの発した言葉、その最後、ラインの瞳の奥に悲しい色が滲んでいた。


「……ラインさん」


 優しくも冗談っぽい笑みを浮かべているラインに、ジンタがありがとうの気持ちを込め、笑みを向けようとした時、


『ちっくしょう! あのバカラインどこ行きやがった! 今日はあたいと一緒に朝まで居るって言ったのに!』


『何言ってんの? 今日は私とずっと朝までって――』


 扉の向こう、砦の廊下から響く女性達の声。


 緩みかけた頬がぴくっと止まり、ジンタは感謝で向けてた目を平目にしてラインを見た。


 ジンタの蔑みの目にラインは目を泳がせ、小さく「ははは……」と頬を掻いていた。

 ジンタは口元に怪しい笑みを浮かべ、ゆっくり息を吸い込む。


「ラインさんならここいますよ――――ッ!」


 廊下まで聞こえる大声で叫んでやった。


「あっ! お前! バカヤロッ!」


 ラインは叫びつつ、慌てて扉の外、廊下へと走り出していく。


「あ、いたっ! 待てコラ! ライン――っ!」


「待ってよライン――――っ!」


 ラインが飛び出し、開け放たれた扉から二人の女性が走って行くのを尻目に、ジンタは扉を閉めた。


 そしてゆっくりと、もう一度ベットに腰を下ろして、


「よし! 今までのここでの会話は全部忘れよう」


 と、決意を口に出しベットに横になった。




 次の日、朝食の後ジンタはラインに呼びだされ砦の練習場へと出向いた。


 ここは砦での訓練用に作られた場所。円形に囲う壁と砂地の足場、それはまるで『階層伝説リリフォリア』の時のコロッセオと似ていた。

 もっとも、練習場なんてものは、四角か円形か、そして足場が砂場なのはある程度お決まりのようなもんだが……。

 そんな事を考えつつ闘技場内に入る。


「よく来たなジンタよ!」


 腕を組み、顔中に引っ掻き傷をしこたまこしらえたラインが、左右に二人の女性を引き連れて立っていた。


「えっと、ラインさん一体何かようです?」


 ジンタが平目で問えば、


「そんなの決まっている! 昨日はよくも俺が隠れているのをチクってくれたな!」


 ふんっと鼻息を荒くし、ラインは続ける。


「お前は俺を裏切った! つまりそれはこの砦のリーダーであるカインを裏切ったんだっ!」


 カイン――今ジンタを糾弾しているラインのマスターであり、この砦のリーダーでもある隻腕のエルフの青年だ。


「俺が裏切り?」


「そうだっ! だからお前をここに呼んだのは、これから俺達がお前を折檻せっかんするためだっ!」


「……折檻」


 朝から疲れたようにジンタは溜息を吐いた。


「さあ、家族である俺が裏切られたんだ。竜女たつめ麗火れいかっ! アイツを、ジンタをやってしまえっ!」


 左右に立つ女性に、ラインはジンタに指を突き付け命じた。


 しかし、左右に立つ女性二人は動かない。


 右に立つ、スラッとした長身の女性(見た目二十代半ばだろうか)は、ジンタ以上に呆れたように俯き、ショートカットの髪を首と一緒に左右に揺らしている。


 左側に立つ、もう一人の二十才ほどの真っ赤なセミロングの女性は、呆れると言うより、どうでもいいとばかりにそっぽを向いていた。


「おいっ! 竜女に麗火!」


 左右の女性に行け行けっと、何度もジンタを指差すライン。


 恐らく二分ほどだろうか、場が白け始めた時、茶色のショートカットの女性がラインに鋭い目を向け、


「ライン、一ついいかしら?」


「な、なんだ、竜女」


「彼が裏切ったというのは、あなたのその顔の傷と何か関係が?」


「ああ、そうだっ! あいつが俺の隠れていた居場所をばらすから、俺は夜を一緒に過ごす約束をし、ダブルブッキングした女性二人に追いかけられ、この傷を作った挙げ句、朝まで謝りっぱなしだったんだ!」


 大声で、情けない事を自信満々に言い切るラインに、


「つまり、自分の女性へのだらしなさをあの人のせいにしている訳でしょ?」


「ち、違うっ! 俺は一人の方を今日会うようにしたはずだったんだ、そうすれば――」


「今日は別の子と会う約束をしているのを、一昨日聞いたわ……」


 真っ赤な髪の女性が、そっぽを向いたまま呟いた。



「「「…………」」」



 闘技場が再度静まり返り数秒、


「さて、そろそろ仕事の時間ですね。ジンタさん、この脳筋のバカに付き合わせてしまいほんとすいませんでした。あなたもそろそろご自分の仕事にお戻り下さい」


 イラつく気持ちにこめかみを揉みつつ、ショートカットの女性、竜女が話を閉めた。


「お、おい――」


「あなたは黙ってなさいっ!」


 まだ何か言おうとするラインをぴしゃりとたしなめ、竜女はラインの耳を引っ張り闘技場を出て行った。


 そうして闘技場に残ったのはジンタと、無関心そうにそっぽを向いている麗火と呼ばれていた真っ赤セミロングの女性だけだった。


 それも困ったように微笑み頬を掻くジンタに、麗火がチラッとジンタを見て、


「じゃあっ」


 小声で言い、くるりと背を向け歩いて行った。


 一人闘技場に残されたジンタは、ガックリと両肩を落とし、


(一体何だったんだよ………………)


 心の中で疲れたように呟いた。



 数日後、ゴブリンは毎日一度か二度城壁を登りこちら側へ来ようとしていた、その数は大体五~六体。

 しかし、そんな数であれば、追い返すのもさして問題がなかった。

 むしろ問題があるとすれば、イヨリとのことの方がジンタには大問題だった。


 最近では、話をしようと近寄ればあーちゃんを盾にして逃げるイヨリ。にも関わらず、なぜか女性とぶつかり倒れ込んだりした時は、必ずと言って良いほどイヨリに見られ睨まれる始末……。もう踏んだり蹴ったりだった……。


 そしてもう一つ。


「おらおらおらっ!」

「待て待て待てっ!」


 闘技場での稽古中「お前のせいだっ! だから俺と勝負しろ!」と急に襲いかかってきたラインにジンタは防戦しつつ叫び返していた。


「お前の、お前のせいだぞ――っ‼」


「だから何がっ!」


 血の涙を流して叫ぶラインに対し、ジンタはさっぱり意味が分からず叫び返す。


「お前があの時俺をチクったから、あれ以降女が……、女の子達が俺にあまり声を掛けてこないっ!」


「知るかッッ‼」


 ジンタは叫びながらシールドスタンをライン目掛け放つ。もっとも、今ジンタが持つ盾は第一階層で武器屋のオヤジからもらった全ての角を刃へと代えたタイプではなく普通の反りのない盾を使っている。あの全て刃がある盾だと、周りだけでなく自分も、何より今はあーちゃんがいる為、普通に危ないというのが一番の理由だった。その為、今ジンタが扱う盾は初期の頃の盾だった。


「なんのっ!」


 ジンタの放ったシールドスタンを、ラインは同じく左手に持つ大きめのラウンドシールドで受け、弾く。


「先輩に対して小癪なっ!」


 返すように右手に持つバスタードソードでジンタに斬り掛かるライン。

 ジンタはそれを同じく右手で持つ直剣で受け止める。


 つばぜり合いのようにチカラ比べに入る二人。

 ギリギリッとぶつかり合う刃同士が音をたてる。


(なんだろう……、剣同士でぶつかり合うのって初めてのような……)


 ふと、拮抗し合う中、そんな事をジンタが思っていると。


「おいジンタ」


「なんですか?」


「お前いい加減イヨリちゃんとはやったのか?」


「ぶっ!」


 一番痛いところ突かれ、一瞬にしてジンタの力が抜けた。


「あまいわっ!」


 そこを見逃さずラインは肩ごとジンタに体当たりした。


 一メートル以上後ろに吹っ飛ばされ、ジンタは闘技場の砂の上を滑った。


「ふん! 一人の女も口説けんドーテー野郎が、全ての女を口説こうとする俺の邪魔をするなっ! がっはっはっはっ」


 高笑いするラインに、ジンタはゆっくりと上体を起こし、おもいっきり闘技場の砂を投げつけてやった。

 ラインの顔面に。


「がっっ、ぺっぺっぺっぺっ、ジンタてめぇッ!」


「そんな理由で、いちいち俺に突っかかってくるなっ! だったらそこいらにいる女の人に慰めてもらえってのっ!」


「な、にゃにおっ!」


 砂を噛んだのか、舌を噛んだのか知らないが、とにかくラインが噛んだ。


 互いに剣と盾を放り捨て、今度は二人で取っ組み合いを始める。


 周りで稽古をしていた『召喚されし者』達(ほとんど女性)は、二人を呆れたように笑い見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ