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第二階層 二年目

 さらに季節は秋から冬、そしてジンタ達が第二階層に来て二度目の春を控えるところまで来ていた。


「もうここに来て一年になるんだなぁ~」


 まだ寒さの残る風に身を晒しながらジンタは呟いた。


「そうですねえ、もう一年……。ミトにいびられ、必死にトレーニングしていた日々も、もう一年以上になるんですよねぇ……」


 ジンタの隣では、この一年でミトにすっかり鍛えられ、よりすっきりと綺麗になったエルファスが、涙を浮かべて過去を振り返っていた。


「おいおい、いびられっていうのは言い過ぎだろ? エルファスだってちゃんと成長してるぜ」


 ジンタとはエルファスを挟んで反対側、軽くストレッチしながらミトが抗議する。


「確かにな、この一年みんなすごい頑張ったからな。それぞれにチカラを身に付けたと思うよ」


「まあな、これからの事を考えると、それなりに必死にはなるよな」


 幾ばくかの緊張と、それ以上の興味を含んだ声音でミトが答える。


「なんだかな~ミトってば声がすごい嬉しそうに聞こえるんだよねぇ~」


「ば、ばっかやろー、そんなわけなねえだろ、おれだって緊張してるんだって」


「でも楽しみでしょ?」


「うっ……」


 考える余裕も与えず聞き返したエルファスの言葉に、ミトが言葉を詰まらせた。


「ほら、やっぱ楽しみにしてるんじゃない」


「そ、そりゃあ、こっからはマジな戦いが待ってるんだぜ? 気分も高揚するってもんだろ?」


「し~ま~せ~ん。そんな気持ちになるのはミトとリカさんぐらいです~~」


「ま、マジで! おれってリカと一緒!」


「一緒です~~」


 隣で行われるやり取りを、ジンタは苦笑しながら見つめていた。


 そう、ジンタ達はこれからこの第二階層第二の街カナンへと引っ越しをする。


 東へ丸一日程度歩いた距離にある街だ。


 そのカナンの街のさらに先には、頑強な砦が待っている。


 ジンタ達はこれからエルフ達の領地(西側)を守る為、戦場へと赴くのだ。

 相手は南東のゴブリン王国と北東のオーク王国。


 学校からその事を聞いたのは、つい一月前。

 もっとも、そんな事はこの第二階層に来て、数ヶ月が過ぎた頃には、みんな知っていたのだが……。


 週末の休み前後、このラペンの街には、普段見かけない人達をたまに見かけるようになった。

 その人達は、まだ早めの夕刻から酒を飲んだり買い物をしていく。


 必然的に、普段からこの街で生活しているジンタ達も週末に人が増える時がある事に、多大な興味を持ってしまうのは当然だった。


 どういう人達なのか夜の酒場に入り込めば、心地よく酔っぱらい盛り上がった『召喚されし者』達が、自分達の仕事の愚痴や武勇伝を口にし、酒のさかなにしていくのだから情報は筒抜けで、聞き放題だった。


 そんな訳で、ジンタ達も自分達が後一年もしないうちに、その週末にくる先輩方同様、戦場に駆り出されることを知っていたのだ。


 それを知ったため、このラペンの中学校に一年生しかいないことも納得出来たのだった。


 戦場とはいえ救いなのは、これは攻める為の戦いではなく、守る為の戦いだという事だ。


 つまり防衛戦であり、しかもそのほとんどが小競り合い程度だと聞いている。

 だから実際に戦死する者はほとんどいないらしいが、それでも運の悪い、力の足りない幾人かは亡くなっていく。それがマスターでありエルフの『召喚せし者』である場合、その家族全員が敗残兵のように戻って来るのだ。


 そして酒場で酔い潰れ数日間荒れまくり、その後その人達は街から姿を消していくか、街で新しい生活、このラペンにある店に弟子入りし修行を始める。


 マスターを失う、そうならない為にもジンタ達は必死にこの一年、それぞれマスターを、そして家族を守る為にチカラを身に付けてきた。


 そんなジンタ達でも、リゼット以外はまだ誰一人として進化や第二段階へと変化した者はでていない。

 それは同学年内でも同じようで『召喚されし者 』達はみんな焦りつつも、どこかホッとしている状態だった。


 しかしジンタだけはそれでホッとはしていられない。なんせ第二段階だとか進化は獣人石を持つ獣人化が出来る者達のことで、もともとそれが出来ないジンタからすれば、第二段階も進化も、ただみんなとの差が開いていくだけの事だからだ。

 段々とみんなとの差、離され行く予感だけがジンタの背中に張り付いてくるのだ。

 しかもそれは第二段階や進化だけに留まらなかった。


 数ヶ月前、イヨリと一緒に稽古していた時のこと……。


「私も、ミトさんのような必殺技みたいなものがほしいんですよねぇ」


「へぇ~、でもそんなのイヨリは持ってるだろ?」


「そうですか?」


「うん、殺人パンチって必殺――」


「フンッ!」


「イタタタ……」


「そんなのじゃなくて、もっとまともなのです!」


「まともって、例えば?」


「そう……ですねえ。もっとこう破壊力があって――」


(今以上に破壊力あったら、俺今後イヨリに小突かれただけで死んじゃいそうなんだが……)


「聞いてます? ジンタさん」


「え? ああ、聞いてるよ。そうか、必殺技かぁ~」


「はい、何かないですかね?」


「ん~~、俺のいた世界には拳法というのがあって、それが結構イヨリには向いてるように感じるけどなぁ~」


「それ、私に教えて下さい!」


「い、いや、俺も別にそんな詳しい訳じゃなくて――」


「それでもお願いします!」


「じゃあ、見真似みまね程度の形だけでいいなら……」


 と、見様見真似でゲームで培った格闘ゲームの拳法よろしくの連続攻撃と漫画で培った発頸の胡散臭い知識をイヨリに教えたのだが……、それがどう間違ったのか、何故かイヨリは拳法も発頸も元々のパワーと実直すぎる素直さで、ジンタ自身も「どうしてだろう……」と分からないまま習得してしまったのだ……。


 一ヶ月ほどで……。


 以降、それを知ったみんなに色々聞かれ、ミトには見様見真似のカポエラを教えれば、当然すぐにジンタ以上に使いこなし、新しい技まで作る始末。


 リカには「じゃあベアークローを――」と口にした瞬間「馬鹿にしてるんですの?」と、元々手に備わっていた本物のベアークローで顔を引っ掻かれ。


 エルファスには「楽に相手を倒せる方法を教えて」と目をキラキラさせ言われ、元々ミトから聞いていた「エルファスには弓を持たせる」という言葉で、自分用に考え武器屋のおやじさんと考案していた、牽制兼隠し武器用の右手装着タイプの超小型ボウガンを持って行かれた。


 さらにセイレーン化を何とか使いこなせるようになったリゼットには、ロンシャンと二人で来られ、これまた開発段階だった飛び道具のパチンコを「いいよね?」と言われ断れなかった。


 さらにさらに、ジンタ同様、剣と盾を武器に獣人化して戦っていた種族ラミアのラーナには、下半身のヘビの体長、そのしっかり立った時の高さ(全長3メートルほどになる)を利用出来る大型ランス(馬上用)を勧めた結果、それまで四割近くで引き分けと勝利を得ていたのが、二割以下へと遠のいた。


 こうしてジンタは、みんなが強くなっていくのを喜び、その差が開いていくことを悲しむ日々が続いた。

 そんなこともあり、ジンタ自身も焦り、ふて腐れ、それでも必死に、そしてエルファスやミリアのように時々怠けながら、色々と考えてきた結果、何故か一番は日々のたゆまぬ鍛錬と気付いてしまったのだ。悲しいことに……。


「ジンタさん大丈夫ですか?」


 青空を見上げながら悲しげに涙を浮かべていたジンタに気付いたエルファスが、心配そうにジンタを見上げていた。


「あ、ああ、ちょっと自分の弱さを痛感しててな……。それで何かな?」


「引っ越しは明後日ですよね?」


「うん、その予定だけど」


「じゃあ武器屋さんにお礼とメンテナンスも頼んでいかないと」


 エルファスは右手に装着された仕込み式のボウガンを見せた。


「ああ、そうだな、ついでにお礼もしてくるといいよ」


「はい」


 笑顔で返事をするエルファスに、ミトが体操を止め、


「さて、かなり休んだし、そろそろ再開するか」


 と告げる。


「え~~、まだやるの~~」


 エルファスはぶーたれつつ、立ち上がる。


 それを見て、ジンタも「よし!」と気合いを込め立ち上がった。


 より強くなる為に。




 ジンタ達が第二の街カナンへと引っ越しを済ませると、休む間もなく砦での研修が始まった。


 カナンから、北東、東、南東の三箇所、それぞれ半日ほどの位置に砦はある。


 そしてどういう訳か、ジンタ達三つの家族は運が悪い事にそれぞれ別々の砦へと分けられた。

 ジンタ達はゴブリン達を見張る南東の砦、ミト達はオーク達を見張る北東の砦、そしてロンシャン達はその両方、つまりは三つ巴でかち合う東の砦へと研修で配属された。


 そしてジンタ達と一緒になったのが……。


「ちょっとベンジャミン! わたしが今日の見回り隊の隊長なんだからねっ!」


「おーほっほっほっ。なんで最下位のミリアに、この私が後をついていかないといけないのですわ」


 夕食後の、日の沈んだエルフ領側の、簡素にしてそれでいて岩と土でしっかり盛り土され二メートルほどの高さになっている、人が三人横並びに歩けるほどの城壁上を見回りながら、ミリアとベンジャミンは互いに体と顔を擦りつけ合い、我先にと先頭を歩いていた。


「いや~~、なんか悪いな……、松に竹に梅……」


「いやいや、おれっち達こそ悪いなあ……ジンタにイヨリさんにあーちゃんよ」


「「「はぁ~~~~」」」


 ミリアとベンジャミン、二人の『召喚されし者』達全員(眠そうなあ―ちゃん以外)が溜息を吐く。


「しかし、よりにもよってこの二人が一緒にされるとはなぁ……」


「それも仕方ないぜ、なんせ先生が言うには、「二人の成績を足してちょうど一人分ですから」なんて言われちゃ、返す言葉もないぜ」


 ゲラゲラ笑う松に、ジンタとイヨリと竹が悲しさに目元を覆う、梅だけはいまだその辺りには頓着らしく、普通に歩いていた。


「でも、ここに来て一週間になりますけど、いまだ一度もゴブリンを見かけていませんけど、これって本当に守る意味あるんですかね?」


 タイマツを、暗くなった辺りにかざしながら歩くイヨリがぼやくように呟くと、


「な、なんでも、に、二週間に一度ぐらい道に迷ったゴブリンが出るとか出ないとか、言ってました」


「うんうん、わっちも竹さんと一緒に聞いただ」


 梅もぶんぶん首を縦に振る。


「なんかなぁ~、ラペンの街で酔っ払った先輩方の武勇伝……、聞いてたのとは大分違うよなぁ~」


「まあな、でも酔っ払いなんてーのは、そんなもんだぜジンタ? あまり鵜呑みにしちゃいけねえって」


「でもよ~、こんな状態ならもう守らんでも良いレベルじゃ……」


「まあそう言うなって、なんせこの授業兼修行の砦のことは、もう何千年以上と続いてるらしいって話なんだからよ」


「何千年以上って……、ほんともうこの壁がなくても、ゴブリン達も攻めてこないんじゃないのか?」


「確かにそうかもな」


 また盛大に笑う松。


「そろそろいい加減にしなさい、ミリア」


「そ、そうですよ、ベ、ベンジャミンもこの辺でそろそろ……」


 イヨリと竹がたしなめるようにミリアとベンジャミンに注意すれば、


「イヨリ、これはこっから先のわたし達の関係を表す重大な勝負なんだよ、止めるわけにはいかないよ!」


「おーほっほっほっ、そうですわ竹、これは私とミリアの今後を占う勝負なんですわ。絶対負けませんですわ!」


 より一層、押し退け合いながら先頭を歩く二人に、再度頭を抱える四人。


「しっかし、なんつーかこの二人もつくづく仲が悪いのか良いのか分からねえよなぁ~」


 松が前の二人を見たまま、困った顔をして頭をボリボリ掻く。


「本当に……そうだよなぁ。トイレのことでケンカとか……」


 ジンタは何度目かの溜息を吐く。


「な、なんで砦に何カ所もあるトイレで、ま、全く同じタイミングで同じトイレに行くんですかねぇ……」


「本当に……、どこまでも似たもの同士なんでしょうね……」


 今日の見回り当番は確かにジンタ達と松達の二家族が一緒に行っているのだが、そもそもそれも夕食前で終わっていたのだ。それをこの二人が食後のトイレと、なぜか全く別々の所にいたにもかかわらず、同じタイミングでに立ち上がり、そして一つのトイレの前でどっちが先に入るかでケンカを始めたのだ。


 呆れた砦の先輩に「とりあえず、もう一回見回りに行って頭冷やしてこい」とあしらわれ、こうして今、時間外の見回りをしているのだった。


 ミリアとベンジャミン、二人が互いに譲らず先へ先へといがみ合いながら進んでいく。

 そんな二人が、突然ピタリと、これまた同時に止まった。


「おいおい、どうしたんだ二人共」


 頭の後ろで両手を組んでいた松が、からかうように声を掛けるが、二人はタイマツの明かりが届かない暗闇の先をジィ――ッと見つめている。


 そして同時に、暗闇に向け指を突き付け、


「「ゴブリンが城壁を登ってる(登ってますわ)!」」


 と、これまた同時に叫んだ。


「マジか?」


 一瞬だけ仰け反って、頭の後ろで組んでた手を降ろし松が問うと、


「マジだよ」

「マジですわ」


 また二人同時に頷く。


「どこだ?」


 ジンタが剣と盾を構える。


「この先、三体いるよ」


「ええ、ちょうど一体登りきりましたですわ」


「おれっちが先に行く」


「ああ、俺は二番手だな」


「頼む」


 松とジンタが簡単に互いの位置取りを決め合う。


「じゃあ行くぜ」


 獣人化した松の姿が一瞬で消える。


「イヨリと竹はみんなを守っててくれ」


 言いながらもジンタは走り出す。松の援護に向かう為。


「冗談じゃないよジンさん! わたしは隊長なんだから手伝うよ!」


「そうですわ! 隊長は私なんですからお手伝いしますですわ!」


 同時に二人が叫ぶ。


 しかし、ジンタはそんな二人を無視して、松を追い走り出していた。


「対象は俺、効果は二十分、魔法はスピード!」


 薄い緑色がジンタの体を包む。


 グンッと一気に体が前へと加速する。


 暗闇の中、ドガッ! と前方で衝撃音が響き、同時に「ぐぎゃっ!」と不愉快な声が響いて、一瞬遅れてドサッ! と落ちる音が聞こえた。


「松!」ジンタが声を張り上げる。


「こっちだ!」松の返事が先か、視覚に捕らえるのが先かで、松の姿を見つけた。


 ジンタは、すぐさま視線だけを左右に動かし状況の確認する。


「残りは?」


「戻ったみたいだな」


 城壁からゴブリン王国側を見下ろしつつ松が答えた。


「そうか」


 ホッと張り詰めていた緊張を解くと同時に、


「ちょっとベンジャミンは邪魔だから下がっててよ!」


「なんですってですわ! 私よりビリのミリアが下がるべきですわ!」


「な、何おぉぉぉ~~~~~~ッ!」

「な、何ですのおぉぉぉぉ~~~~ッ!」


 けったいに声を伸ばし、互いを押し退け合い、二人がやって来る。


 ジンタと松が違いに顔を見合い、疲れたようにガックリと頭を垂れた。

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