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初めての獣人化

 ジンタ達が第二階層に来て季節は春から夏、そして秋へと変わり始めたある日の早朝。


「キャアアアアアア――――――ッ!」


 我が家に響き渡るイヨリの悲鳴にジンタは飛び起き、そのまま一気にベットの脇に置いた愛剣を握り、走り出した。


「イヨリどうしたっ!」


 廊下を出て、リビングとは逆方向に走り、隣の部屋のドアを壊れんばかりに開け放つ。


「なっ!」


 部屋の中へと飛び込もうと開け放った扉の前で、ジンタは絶句した。


「何ですの?」


「どうかしましたか?」


 あ然と部屋を見つめるジンタの後ろから、リカとロンシャンが駆けて来て部屋の中を覗き込んだ。


「これはまた……」


「すごい事になってるようですね……」


 ジンタ同様、二人も部屋の前で立ち往生した。


 部屋の中にはイヨリの他にミリアとあ―ちゃんがいたのだが、原因はあーちゃんだった。


 幸せそうに気持ち良さげに眠るあーちゃんの新緑色の髪が、部屋中を縦横無尽に走り回り、一緒に寝ていたイヨリを捕縛し、持ち上げていたのだ。もう一人の同居人であるミリアも当然捕縛されいるのだが、こちらはそんなモノで起きてたまるかとばかりに、あーちゃんの髪に掴まれたままぐーぐーと寝ていたが……。


「ロンシャン、これって……」


「ええ、恐らくあーちゃんさんが獣人化に目覚めたんだと思います……」


「しかし、この髪の毛といいますかつたの量は……」


 三人は呆れ返ったように息を吐いた。



 その日、ジンタとイヨリはあ―ちゃんを連れて、あーちゃんのお母さんの元へ顔を出した。


「そうですか、あーちゃんが遂に獣人化を……」


 抱っこしているあーちゃんの頭を撫で「えらいえらい」とお母さんが褒めると、あーちゃんは恥ずかしそうに「えへへへ……」と、母親の胸に顔を埋めた。


 ジンタがそれを微笑ましく見ていると、隣のイヨリがコホンと咳を一つし、ジンタを一瞥した。その目は、どこを見てるんですか? とジンタをたしなめている。


 あーちゃんのお母さんの元へは、ジンタとあ―ちゃんの二人だけで行かせてはダメ、と春当初からの決まり事になっていた。


 色々と問題が起きては困るからと、何故かイヨリだけではなく全員の意向というか、家の会議でそう決まってしまったのだ。


 以降、ジンタがこのあーちゃんのお母さんの家ヘと来る時は、色々と順序(色々な人の許しと同行者)が必要になったのだ。


「そ、それでお母さん、あーちゃんの今後なんですけど」


 イヨリの刺すような視線につつかれながらも、ジンタは話を切り出した。


「ええ、そうですね。まずは特性を調べましょうか」


 お母さんはあ―ちゃんを床に立たせ、


「あーちゃん、獣人化出来る?」


 優しく言うと、あーちゃんはコクンと頷き、


「ん~~~~」と口を尖らせ集中を始める。


 数秒して、あーちゃんの新緑色の髪がワサワサと動き出し、数百本単位で髪が絡み合い、それぞれが蔦へと変化し、葉を付けた。


「まあ、これは驚いたわ」


「どうかしました?」


 ジンタが慌てて尋ねると、


「この子、すごい髪の毛多いのね」


 お母さんは、あーちゃんの蔦を触りながら感心した。


「か、髪ですか?」


 ジンタがそれがどうしたんだろう? と困った顔でイヨリを見ると、イヨリも同じように困ったように首を傾げている。


「ええ、そうですよ。髪が多いという事は、この子の扱える蔦の量は普通の子達より多く強いという事になるんですよ。それに……」


 あーちゃんのお母さんは、無造作に蔦化した髪から葉を一枚プチリと引き抜いた。


「いたっ!」


 あーちゃんが眉を顰めたが「ごめんごめん」と笑いながら、取った葉をまじまじと見ていた。


「あの、葉を取っても大丈夫なんですか?」


 今度の行動の意味も分かりかねたイヨリが尋ねると、


「ええ、これ位は慣れといいますか、これ位で痛いと感じてたら、今後髪を操っていけませんから大丈夫ですよ、それよりもこの子の葉は、もしかして……」


 お母さんは葉をクルクルと回し見つめながら立ち上がり、対面に座るジンタの元へ歩き、見ていた葉を渡した。


「ぴとっ」


 そして同時に、ジンタの腕にしがみついた。まるで恋人のように。


「ふんっ!」


 即座にジンタの隣に座るイヨリから裏拳が飛び、ジンタだけがイスごとひっくり返る。


「大丈夫ですかジンタさん、良ければその葉を食べてみて下さい」


 イヨリの裏拳がジンタをひっくり返す直前に手を離し、まるでこうなるように仕向けたあ―ちゃんのお母さんは、優しい笑みでジンタにさっきあ―ちゃんの蔦から取った葉を指差す。


 ジンタは恨めしそうな目をあ―ちゃんのお母さんに向けながら起き上がり、それでも言われた通りに葉をくわえ込み、ムシャムシャと頬張った。


 みるみるうちにイヨリの裏拳と、倒れた拍子にぶつけた後頭部の痛みが和らいでいく。


「こ、これは、すごい効果だな……」


 ごくりと葉を飲み込んだ時には、もう傷みは消えていた。


「やっぱり、そうですか……」


「えっと、やっぱりというのは?」


 訳が分からず問うイヨリに、

「この子の葉っぱは、どうも薬草のようですね。しかも魔力、恐らくヒールの効果もあるのか、かなり回復効果が高いようです……」


 ジンタの顔のケガ具合を見て、お母さんが答えた。


「確かにすごい効果だぞ、これ」


「そんなにですか?」


「ああ、あの骨の芯まで響くイヨリの裏拳の痛みも一瞬で消えた!」


「ふんっ!」


 バキッ!


「あ、あーちゃん、葉っぱを……」


「ジンさ、だいじょぶか? これ食べる? これ食べるの?」


 あ―ちゃんが自分の髪から顔を顰め、プチッと葉を一枚取りジンタへと手渡した。

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