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原始の者と新しいチカラ

 呆ける二人を疲れたように見つめ「まあ、ゆっくりと理解してゆけば良い」と口にするリゼットだったが、


「む!」


 突如慌てた素振りを見せた。


「どうした?」


 ジンタが我に返り、警戒の声で尋ねると、


「そろそろ時間じゃ、もう少し話たかったがこれ以上は無理のようじゃ。わしはそろそろこの者の中を離れる」


「そ、そんなもう少しお話を――」


「何、時が――その時が来れば、きっともう一度会えるじゃろ。とりあえずはこれでしばしのお別れじゃ。お主ならこの子の溢れるチカラとその使い方の意味を理解出来たじゃろ?」


「はい」


 ロンシャンの頭に、リゼットが優しく手を置く。


 それからミリアに体を向け、


「『エターナル』よ、お主はもっと自分を理解することじゃ、この少年はそのチカラになってくれる」


「うん、ロンシャンくんはいつも色々教えてくれるもん!」


 ミリアの返事にリゼットも満足そうに頷く。


 そして最後にジンタへと体を向け、


「お主にはまだまだやらねばならぬ――、いや、やってもらわねばならぬことがたくさんある『原始の者』よ」


「やること? 『原始の者』?」


「ふむ、とりあえずはこの二人を、そして家族をしっかり守るが良い。お主も時が来たらこの世界の真実を知るじゃろう、その時のためにも」


 意味深な言葉をジンタに告げつつ手を差し出すリゼットに、ジンタはその手を掴む。


「それまで精一杯足掻いて、そして生き残るのじゃ」


 優しい笑みの中に幾ばくかの申し訳なさを滲ませるリゼットに、ジンタはにかッと笑みを向ける。


「当然だろ? 俺だって死ぬ気なんてさらさらないさ」


 その調子じゃ、と優しい目で呟き、リゼットとジンタは握り合った手を離した。


「さて、思った以上に長い間体を借りてしまったの。このリゼットなる者にも、少しお礼をしなくては……」


 そう言って少し考え込む。


「そうじゃ、新しいきっかけを与えてやるかの」


 そう言い、リゼットの中にいる者はもう一度全員を見渡し、


「では、しばしのお別れじゃ」


 優しい笑みで三人に手を振った。


 直後、フッとリゼットがチカラを無くし、膝から崩れ倒れ落ちる。慌ててリゼットを受け止めるジンタ。


「お――い!」


 リゼットを受け止めるとほぼ同時に、聞き覚えのある声と足音が近づいてくるのが聞こえた。


「ミリアちゃん、強化を解いて」


「え? ああ、魔法?」


「そう、急いで」


「うん」


 ロンシャンとミリアの短いやり取り。そしてミリアの強化魔法が切れ、ジンタとロンシャンはそれぞれ、薄い青と赤の輝きへと戻る。


「ジンタさんもミリアちゃんも、しばらくの間、今のことは誰にも話さないで下さい、ここにいる三人だけの秘密ということでお願いします」


 早口にそう告げるロンシャンに、ジンタは慌てて聞き返した。


「誰にも? イヨリにもか?」


「はい、イヨリさんにもです。ミリアちゃんもしばらくはみんなの前で魔法を使わないでね」


「う、うん……」


 渋々ながらも頷いたジンタとミリアに、ロンシャンは「お願いします 」と念を押した。


 ロンシャンがゆっくりと木立に振り返った時、向こうからミトとエルファスがやって来た。


「大丈夫かお前等?」


 辺りを警戒しながら、ミトが早口で問う。


「何がですか?」


 しれっとした態度でロンシャンが尋ね返すと、


「今、私達にもスピードの強化魔法が掛かってたけど、あれは?」


「ああ、それは見えないところにいる人に、強化魔法が掛かるかどうかを実験してただけで」


 ほら、とロンシャンは自分の身に纏う赤色、パワーの強化魔法を見せる。


「じゃあ何か、今おれとエルファスに掛かったスピードの魔法も、全部その実験でなのか?」


「ええ、そうですよね? ジンタさん」


「え? ああ、うん、そうだぞミト」


 ジトーッとした目で、見つめてくるエルファスとミトに目を逸らすジンタ。


 何か言おうと口を開きかけたミトだったが、すぐに後ろから複数の駆けてくる音が聞こえ、口を閉ざし振り返った。

 ジンタはホッと内心で安堵し、その場に居る全員同様に聞こえてくる足音に目を向ける。


「ここにいましたか主殿」


 真っ先に現れたのは、下半身をヘビのようにした、種族ラミアのラーナだった。


 それから四十秒ほど遅れて、リカ、イヨリ、水音、雪目の順で息も絶え絶えに姿を見せた。

 どうやらあーちゃんは、母親と一緒に家で待っているようだった。


「皆さん、どうしたんです?」


 軽く笑みを浮かべ、ロンシャンは再度しれっと尋ねる。


「い、いえ、リゼットが出ていき、そしてロンシャン様まで出て行かれた後、しばらくしてから強化魔法が掛かったので、何かあったのかと思い、急いで来たのですが……」


 息を切らせながらのリカの説明に、ロンシャンはパンっと両手を合わせ謝るポーズをとる。


「ごめんなさい、ちょっと魔法の実験をしてて、皆さんに心配をお掛けしてすいませんでした」


 両手を合わせたまま頭を下げるロンシャンに続き、ジンタとミリアもそれぞれ頭を下げた。


 全員がどういうこと? と互いの顔を見合っていたが、ロンシャンの『召喚されし者』であるリカが、


「そう言うことでしたら今度からは私をお誘い下さい。ロンシャン様の実験ならこのリカ、いつでもお手伝いさせて頂きますから」


「うん、今度からはそうさせてもらうよ」


 満面の笑みでロンシャンが答えた。


「それよりリゼット殿は大丈夫でしょうか?」


 ジンタが抱き止めている、気を失ったリゼットにラーナが近寄る。


「あ、多分、気を失っているだけだと思うけど……」


 ジンタがもう一度、抱き止めているリゼットの顔を覗き込むと、パチッとリゼットの両目が開いた。


「うおっ! 起きたのか、リゼット?」


「うん、リゼット起きた! 起きてたぞ! ……あれ?」


 夜空を見上げ、リゼットは何かを思い出そうとして首を傾げた。


「リゼット……、なんか……、変わった?」


「リゼット大丈夫?」


 エルファスがリゼットに触れようとした瞬間、リゼットの体、獣人石が輝いた。


 それは、獣人化の光だった。

 しかし、その輝きはリゼットが今まで獣人化する時以上の輝きを放っていた。

 眩い光が収まり、全員が閉じた目をゆっくりと開けていく。


「リゼット、お前それは……」


 最初に気付いたのは、正面に立っていたジンタだった。


「どうしたジンタ?」


 リゼットは驚き固まるジンタに、小首を傾げ人差し指を口元に当てた。


 そう、獣人化しているのにリゼットは口元に手を当てたのだ。


「何って……、お前、獣人化してるのに、う、腕があるぞ?」


 リゼットの本来の獣人化、ハーピーは両腕が翼となり空を飛ぶのだが、今ジンタの目の前にいるリゼットは翼が背中にあり、両腕が普通にあるのだ。


 つまり、ハーピーというよりは、翼人種そのままの姿になっていた。


「え?」


 ジンタに言われ、今度は逆方向に小首を傾げた後、リゼットは口元に置いてある指を見つめた。


「…………」


 自分で見つめている指をゆっくり折り、グーにしてからまたゆっくりとパーへと開いて、なぜか最後にパクッと指を口に入れたリゼット。


 ちゅぱちゅぱと指を舐めた後、ガバッとジンタに頭を上げ、


「た、大変だよ! リ、リゼット腕四本あるよ! ジンタどうしよう! どうしようジンタ!」


 驚きに呆気にとられていた周りより、本人が一番驚きパニくりだした。


「お、落ち着けリゼット! そもそも指舐めて気付くなっ!」


「そ、そうだよリゼット、す、少し落ち着いて。そ、そうだ、と、とりあえず深呼吸だ」


 ロンシャンの言葉に、リゼットだけでなくその場の全員が大きく三度深呼吸をした。


 それからミトがリゼットの前に立つ。


「リゼット、お前のそれって、まさか第二段階なのか?」


「リゼット分からないよ、なんでこんなことになってるの? ミト教えて?」


 深呼吸したからすべてが分かる訳じゃない。しかし幾ばくか落ち着いた状態で話が出来るようになった。


「リゼット、それじゃあ、とりあえず今までのように獣人化出来るかい?」


 マスターであるロンシャンが聞くと「やってみるよ」とリゼットは軽く目を瞑った。


 獣人石がある胸元が光り、リゼットを包む。それはさきほどよりは眩しくなく、光が収まった後のリゼットはいつもの両腕が翼となっているハーピーのリゼットだった。


「もう一回、さっきの姿に成れるかい?」


 元の姿を一通り見た後、ロンシャンは再度リゼットに言う。


「うん」と頷いたリゼットは、また目を瞑る。


 再度の獣人石の輝きは最初と同じ輝きを発し、リゼットの体を包み込む。光が収まるとリゼットは翼人種の姿になっていた。


「やっぱり、これって第二段階だと思っていいかも知れないですね」


 慎重に、しかししっかりと頷くロンシャンの言葉に、その場の全員が頷くしか出来なかった。


「まじかよ……、まさかリゼットに先を越されるなんて……」


 ガックリとうな垂れるミトに、エルファスが「よしよし」と頭を撫でた。


「ですが……、先日私達が見た第二段階と、今のリゼットではなんと言いますか、少し毛色といいますか系統が違うようですが……」


「うん、リカの言うとおりだね。これは僕の仮説だけど、第二段階にはそれぞれ種族と言うよりは、個人としての形があるんじゃないかと思うんだ」


「かたち、ですか?」


「うん、僕が聞いた話では、イヨリさんにチカラ比べで勝ったバッファローの人は既存の姿に上乗せする形で第二段階へと成った。でもリゼットのは、より自由度を上げる為の姿へと形を成したことが第二段階だったんじゃないかと」


「つまり、よりみんなのチカラに成れる形を望み、それが第二段階へと繋がったと?」


「そう、だから先生方は第二段階があると知っていても、その成り方を教えることが出来ないんだと思うんだ、色々な形があり過ぎて。変に知識を与えて、それが足かせになる可能性を知っているから……」


「なるほど……、確かにあの方はバランスタイプのバッファローでしたわ、それがより強いチカラを欲し、望み、渇望した為、第二段階ではパワーを得たと、ロンシャン様は言われるのですね?」


「うん。でも、それも仮説だけどね」


 だから、そうとは決めつけないでね、と付け足し、ロンシャンはリゼットに向き直る。


「リゼット、その姿で空は飛べるかな?」


「うん、やってみる」


 それまでの話をほぼ上の空で聞いていたリゼットだったが、ロンシャンに言われみんなから数歩離れた。


 そしてリゼットは、ゆっくりと背中の翼と両手を広げていく。


 月夜に照らされ翼を広げたリゼットは、ジンタの目に神々しい姿と見えた。


 そして背中の翼がゆっくりと動き出す。ゆっくりと、ゆっくりと……。


 七度ほどの羽ばたきの後、リゼットの体はふわりと地を離れる。


「「「おぉ~~」」」


 全員の口から感嘆の声が漏れる。


 ジンタがやや見上げる形になる場所で、リゼットは上昇を止めた。


 その姿を見つめたまま、ロンシャンがリゼットに声を掛ける。


「リゼット」


「な、なんだロンシャン」


「んっと、言いづらいんだけど」


「うん?」


「動かすのは翼だけでいいから、腕は振らないでいいよ……」


 ユッタリ羽ばたく背の翼の他に、リゼットは必死になって左右の腕をブンブン振り回していた。


「リゼットそれ難しい! 腕振らなかったらどうやって翼動かすんだ?」


「そ、それは……」


 困惑に振り返るロンシャンに対し、ジンタを始めみんなが首を横に振る。


 それも当然だった、この中で翼をもつ種族はリゼットしかいない。つまり、そもそも空を飛ぶコツすら知らないのだ。それを腕を振らずに翼だけを振るなど、教えようもない。


「と、とりあえず腕を止めてみてよ、リゼット」


 ロンシャンがお願いすると、泣きそうな顔のリゼットが渋々に頷く。


 ピタリと両腕を止め直立の形なった途端、翼も背にピタリと畳まれ、リゼットは地面へと落下した。


 それを見ていた全員が思った。


(ああ、これはまだまだ時間がかかりそうだなぁ)


 と。

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