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『召喚の儀』

 遂に迎えた各家族四人目の家族を得る『召喚の儀』当日。


 ジンタの住む我が家でも、朝からかなり気合いの入った会話が飛び交っていた。


「いいかエルファス。どんな家族を喚ぶかは、たとえ喚ぶ本人であるお前でも選べねえってのはおれも知ってるつもりだ。だけどな、これだけは言わせてくれ! リゼットのようなヤツは喚ぶなよ!」


「うん、分かってるよミト」


「…………」



「ロンシャン様、良いですか。リゼットのような方はもういりませんから、どうか普通にまともな方をお喚び下さい」


「リ、リカ、それってリゼットは要らないってこと?」


「いいえ、違いますわロンシャン様。もうこれ以上は要らないというだけですわ」


「な、なるほど……」


「…………」



「ミリア、分かってますよね? うちにはもうあなたがいるんですから、これ以上リゼットさんとかあなたのような人は必要ないですから、普通の、ほんっとうに普通の方を喚んで頂戴ね」


「い、イヨリ……、リゼットはともかく、なぜわたしまで同じ扱い……?」


「え? ――あら? 何故かしらおほほほ」


「い、イヨリ……」



「…………なあジンタ」


「なんだ、リゼット」


「リゼット、泣いていいか?」


「うん、いいとおもうぞ」


 こんな感じで我が家の朝食は進んだ。



 しっかり朝食をとった後、全員が準備に取りかかる。


 『召喚せし者』である三人もさることながら、『召喚されし者』であるジンタ以外の者達まで、何時にもまして身だしなみに時間を掛けていた。


 これから、長い長い不老という年月を共に家族として歩む者を迎えるのだから、初対面は良いモノにしたいと思うのは当然なのだろうが、ジンタから見れば小学校の授業参観の時の気合いが空回りした母親を見ているよう感じだった。


 イヨリやリカや雪目が大慌てで髪をかしたり化粧をしている中、何故かミトやリゼットまでも慌て出し、ほとんどやったことのない化粧をし始めている。


 さらにそれを見て、ミリアやエルファスまでせっせと初めての化粧をし始めた。


 こうなるともう手が付けられない。

 ジンタと身だしなみをした程度のロンシャンは、ぼ~~っとリビングのソファーに座り頬杖と付いていた。


 いざ行こうとなった時、見事に凄まじい化粧をした四人がイヨリ達にこっぴどく怒られ、顔を洗いに行かされた。


 まあ、当然の結果だとさすがにジンタも思ったが……。


 結果、余裕を持って起きたはずの時間は、ジンタが全員にスピードの強化魔法を掛け、走って学校に行かないと間に合わないほどの時間になっていた。


 ジンタ達が到着した時、学校にはほとんどの同級生達が集まっていた。

 その集まる中心、校庭の真ん中には大きな円が書かれ、それを囲うように生徒達が集まっている。


 ジンタ自体、初参加の『召喚の儀』だがイヨリ達から聞いた限りでは、円の中心に召喚者が立ち、そこで召喚することになっているんだそうだ。


 そして今ジンタ達の前にある円が一つということは、ここで一人ずつ順番に『召喚の儀』を行う予定なのだろう。


「良かった~~間に合って。きっとロンシャンくんが一番最初に『召喚の儀』をやるはずだから遅刻したら即バレしちゃっていたよ」


 最近ミトと猛特訓しているエルファスが軽く息を切らせて汗を拭う。


「ほ~~、『召喚の儀』トップバッターはロンシャンなのか?」


 ジンタもショルダーバッグの中からタオルを出し、汗を拭いつつジンタ以上に息を切らせているロンシャンに聞く。


「まだ分かりませんが、最初になれるように頑張ったつもりです」


 何ともよく分からない回答が返ってきた。


 首を傾げるジンタの耳に「ピーガ―」と不快なハウリング音が響き、


「テステス、うん、問題ないですね」


 マイク越しの女性の声。


 声の方を見れば、校舎側の円の外にジンタの肩ほどの高さはある台座が置かれ、その上に初日に見たエルフの女性が立っていた。


「待たせてしまいすいません。『召喚せし者』である若木とその家族の方々、これから『召喚の儀』を執り行います」


 女性の言葉が合図だったように、ぴたりと場が静まる。

 新しい家族との出会いに寄せる、期待と不安が何とも言えない緊張感となり校庭に漂う。

 当然、ジンタも緊張して手に汗をかいていた。


「では、まずトップはロンシャン。円の中心へ、家族の方も円の内側に入って下さい」


 エルファスが言っていた通り、最初にロンシャンの名が呼ばれた。


 ロンシャンは一度深呼吸し、左右に立つリカとリゼット、それぞれを見て頷いた後、ゆっくりと円の中心へと歩き出す。リカとリゼットは数歩歩き、ジンタ達から見れば二歩ほどの距離である円の内側へと入った。


「うへ~~、なんか緊張するなぁ」

「ええ、やっぱり緊張しますよね」


 独り言のように呟いたジンタに、薄く化粧をしたイヨリが隣で答えた。



        ※※※※※※※※



 円の中心に立ったロンシャンが一度ジンタ達の方に振り向いた。


 そんなロンシャンに対し、リカは頷き、何時にもまして優しげな声で、


「大丈夫ですわロンシャン様。いつも通り、ロンシャン様らしく自信を持って召喚して下さい」


 と伝える。

 そしてリゼットも、


「そうだぞロンシャン、自信を持って行け。リゼットの分の自信も持って行け」


 訳の分からない声援を送る。


 ロンシャンは少し困った笑みを浮かべ、それからもう一度深呼吸し、円の中心に振り向いた。


 ゆっくり目を瞑り、魔法の媒介である指輪をはめた右手をやや上向きに前に向ける。

 そして唱え始める。


「『我はエルフ、我が名はロンシャン、我が歩む道を共に歩く者を我は願う、新しき運命、その出会いを僕は求む』」


 詠唱が終わると、ロンシャンの斜め上方に黒い円が広がった。

 ロンシャンがすっぽりと入れるほど大きいブラックホールのような穴が。


 ロンシャンがその穴を覗くと、ブラックホールの遙か奥、直径にして三センチほどの黒い景色とは違う色の付いた景色が見えた。


 ロンシャンがその景色を凝視していると、その景色から何かが落ちてくる、それは徐々にロンシャンの元へと近づいてくる。もっともそれが人であり、新しい家族であることはロンシャンにも分かっていた。


 数秒後、落ちてきた者はロンシャンの『召喚の儀』で開けた穴から飛び出してきた。


 出てきた者は、まるで分かっていたように見事に膝を曲げ反動を殺し、地面に着地する。

 校庭、円の外側からは「「おぉ~」」と色々な感情を含んだ声が上げる。


 やや膝を折ったままの姿勢だった出てきた者は、ゆっくりと直立しロンシャンと向き合う。


 身長はジンタよりやや高い百七十五センチほどあるだろうか、中性的な美顔にイヨリの艶のある黒髪とはまた違った真っ黒な短く切ったショートカットの黒髪をしていた。


「お初にお目に掛かります。我が主」


 芯のあるハスキーボイス。それからピシッとした執事服で、ゆっくりとした優雅な礼をロンシャンに行う。


「うん、初めまして。僕はロンシャン、もし良ければ種族と名前、それと出来ればあなたの性別も教えてもらえるかな?」


 緊張しながらのロンシャンの言葉に、その『召喚されし者』は優しく目を細め、笑みを浮かべる。


「私としたことが、喚ばれたことについはしゃいでしまい、申し訳ありませんでした。私はラーナ、種族はラミア、性別は女です。我が主」


 もう一度、今度は深々と腰を折り礼をするラーナと名乗った女性。


「ラーナ、種族ラミア……」


 呟くロンシャンに、頭を下げたままのラーナは尋ねる。


「私ではご不満でしょうか?」


「ううん、そんなことないよラーナ。これからよろしく」


 ロンシャンはスッと手を差し伸べる。


「はい、これからよろしくお願いします。主よ」


 ラーナはその手を掴み、ゆっくりと頭を上げた。


「さて、じゃあとりあえず、僕の、そしてこれからはラーナの家族にもなる人達を紹介しないとね」


 ロンシャンがラーナの手を引き、リカとリゼットの元へと歩き出す。


 ラーナはロンシャンと手をつないだまま歩き出す。その姿は貴族然とした優雅さとキビキビさを兼ね備えた動きだった。



        ※※※※※※※※



「種族ラミアですか、さすがはロンシャン様ですわ」


 リカが満足そうに呟くのをジンタは後ろから聞いていた。


 ジンタには背中しか見えないが、その表情はきっと満足感に満たされた笑みを浮かべているだろうことは声音で分かった。


 校庭に大きく描かれた円、その中に二歩ほど入っているリカとリゼット。

 歩いてきたロンシャンとラーナが二人の前で立ち止まる。


「リカ、リゼット、この人が今日から僕達の新しい家族。種族ラミアのラーナだよ。どうかよろしく頼むね」


 ロンシャンの紹介に、まずは朝遅刻しそうなほど時間を掛けて正装したリカが、ドレスのような服の裾を軽く摘まみ、やうやうしく頭を下げ、


「お疲れ様ですロンシャン様」


 と一礼し、その後ロンシャンの隣、やや後ろに立つラーナへと目を向ける。


「種族ラミアのラーナさんですわね、私は種族グリズリーのリカですわ、そしてこちらが種族ハーピーの――」


「リゼットだぞ、よろしくなラーナ」


 何故か緊張のピークなようで、軍隊並みにビシッと敬礼するリゼット。いつもはゆっくりと収穫前の稲穂のように垂れているアホ毛までピンッと立っている。


 リカとリゼットの二人を交互に見てから、ラーナは軽く会釈し、


「リカ殿にリゼット殿ですね。私は種族ラミアのラーナ、以後どうかよろしくお願いします」


 自己紹介をし、ゆったりと腰を曲げ礼をした。


 家族の挨拶が終了すると、「ピーガ―」とマイクの音を響かせ、エルフ教師の声が、次の『召喚の儀』を行うエルフ生徒の名を告げた。


 ロンシャン達は円の外、ジンタ達の所へ戻ってきた。


「ロンシャンくんお疲れ」


「やったねロンシャンくん」


 まずはミリアとエルファスが、ロンシャンの手を取り労うように声を掛けた。


「種族ラミアかぁ~、今度一度手合わせ願いたいな。おれは種族アルミラージのミトってんだよろしくな」


 ミトが早速ラーナに声を掛け、手を差し出す。


「ああ、私は種族ラミアのラーナだ。よろしく頼むミト殿」


 優しい笑みをミトに向け、ラーナがその手を掴む。


「ラーナ、一応ここにいる人達は同じ家に住んでいる人達だからね」


 ミトと握手しているラーナに向かい、ロンシャンがそれぞれを紹介していく。


 紹介されたみんなが軽い握手をし、一言二言挨拶を交わす。


 最後にロンシャンがジンタを紹介した。


「で、この人がジンタさん、ミリアちゃんの『召喚されし者』で獣人石を持たない、つまり獣人化出来ない『召喚されし者』で、異世界から来た人なんだ」


「ジンタだ、よろしくなラーナ」


 ジンタは手を差し出す。


「ほう、獣人化出来ない……」


 手を差し出すジンタを、ラーナは品定めするように見つめている。


「えっと……」


 伸ばした手を掴んでもらえずジンタが戸惑っていると、ハッとなったラーナがジンタの手を掴む。


「ラーナだ、よろしく頼むジンタ殿」


 軽く一礼し、手を掴んだままジンタを見つめ、


「ジンタ殿、少しお願いがあります」


 と気持ち、声を上擦らせ言ってきた。


「えっと、何かな?」


 周りにいるロンシャン達も、それまで挨拶だけだったラーナの言動に、なんだなんだと興味深く見守る。


「じ、じつは……」

「うん?」


「私を踏んで下さい」


「……はい?」


 ラーナの言葉にジンタの思考が一瞬止まった。


 しかし、止まったのはどうもジンタだけではなく、周りのイヨリやロンシャン達も同様のようで、言葉を失いラーナを見ている。


「どうかお願いします、優しくでも目一杯でもいいので私を踏んで下さい!」


 美顔に少し恍惚な笑みを浮かべ、ラーナがもう一度言う。


「えっと……、踏む?」


「はい! グリグリしても構いません、遠慮なく私を踏んで頂きたい!」


「えっと……、どこでも?」


「はい!」


 さらにぐいっと顔を近づけるラーナに対し、誰かがジンタをグイッと後ろに引っ張った。


「ジンタさん、踏んではダメですよ!」


 イヨリだった。


 会話をしているジンタ自身、まだ頭の動きが追いつかない中、イヨリだけは何が起きているのか理解したのか、ジンタをラーナから引き離した。


「そ、そうですわ。あ、あなた何を言ってるんですの、踏んでくれだなんて……」


 リカも、はっとなりそう言ったが、少し考えた後、


「……でも、そうですわね。趣味や趣向は人それぞれですし、ジンタさんが了承すればそれでもよいですわ」


 どうでもいいか、とリカは片付けた。


「ちょっとリカさんのところの家族の方ですよ、ラーナさんは! それに踏む側なら私はジンタさんよりリカさんが一番適任だと思いますけど!」


 イヨリの切り返しの言動に、周りのみんなが「確かに」と納得する。


「ど、どういう意味ですの! って、なんで皆さん頷いてますの!」


 イヨリとリカが額を擦り合わせるように睨み合う中、


「いやいやリカ殿にイヨリ殿。私は変態ではないので、女性に踏まれる趣味はありませんよ、ははは――」


 二人の間に立ち、ラーナが笑みで弁明するも、


「「男性に踏まれたがるのも十分変態です(わ)!」」


 イヨリとリカが、ラーナに向って吠えた。




 イヨリ、リカ、ラーナの踏む踏まれる踏ませる問題も何とか収拾しゅうしゅうした頃には、『召喚の儀』はかなり進み、半分ほどの生徒達が新しい家族を喚んでいた。


 ジンタは、互いに怒鳴りすぎてぐったりしている三人を尻目に、エルファスに尋ねた。


「なあエルファス、これってどうやって順番を決めてんだ? なぜ最初にロンシャンって分かったんだ?」


 それに対しエルファスは「え?」と、やや困ったように笑みを浮かべ目を泳がせ、


「えっと、今日の順番の決め方は、ですね……」


 困るエルファスに首を傾げるジンタ。


 そこに、


「今日も一番最後が確定しているミリア!」


 聞いた事ある売り言葉に対し、


「何を~~っ! 今日はベンジャミンが一番最後だよ!」


 より聞いたことのある買い言葉。


 うぎぎぎぎっと、さっきのイヨリとリカよろしくに額を付け合い睨み合う二人を見ながら、


「ああ、今日の順番の決め方、何となく分かった気がする……」


 ジンタがポツリと言うと、


「……はい、一昨日のテストの結果です」


 とエルファスが申し訳なさそうに答えた。


 いがみ合う二人を見ながら、


「エルファスはどれ位なんだ?」


 ジンタが尋ねた時、マイクからエルファスを呼ぶ声が響いた。


「これ位のようですね」


 答えたエルファスは、両手で自分の頬を押さえ、大きく深呼吸してからゆっくり円の中へと歩いて行く。


「やっと出番か」


 大きく伸びをして、ミトがジンタの横を通り、円の中へ入る。


「魅力的な男性だと、私も色々がんばれそうです……」


 死に装束も真っ青なほど、真っ白に化粧した雪目も通り過ぎて中へと入った。


 エルファスが円の中心に行くと、クルッとジンタ達の方へと振り向く。


「へへっ、エルファス遠慮は要らねえぜ、いっちょすげえのを頼むぜ!」


「うん! ミトにないモノを持ってる人を喚ぶね!」


「エルちゃん、落ち着いて下さいね、そして立派な結婚願望の強い男性を喚んで下さいね!」


 冗談そうな言葉とは裏腹に、目がマジな雪目に、


「ははは、それはちょっと……」


 困ったように頬を掻くエルファス。


「じゃあ始めるね」


「がんばれよ! エルファス」


「エルちゃん、ガンバッ!」


 家族二人の声援を背中で聞いて、エルファスは一度深呼吸。


 そして両手を広げ、詠唱を始める。


「『我はエルフ、我が名はエルファス、我が歩む道を共に歩く者を我は願う、新しき運命、その出会いを私は求む』」


 ロンシャンの時同様、エルファスの前に黒いブラックホールのような穴が開く。


 その光景を見ながら、ジンタが前に立つミトに呟く。


「なあ、ミトにはないモノってなんだ?」


「あ? そんなの決まってるだろ? パワーつまりはチカラだろ? うちは雪目もおれもパワー系じゃないからな」


「ああ、なるほどな」


 ジンタが納得すると、ミトの隣に立つ雪目が「はて?」と言うようにやや上向き、


「ああ、そういう風にもとれるんですねえ」


 と答えた。


「は? 雪目、じゃあ他に何があるってんだ?」


 今度はミトが、どういう意味だと眉を寄せる。


「いえ、私はてっきり――――」


 言い掛けた雪目の言葉を遮るように、円を見守る周りから、歓声とも驚きともとれる声が上がった。


「お! 来た来――――――」


 エルファスに向き直りつつミトが声を上げるが、その言葉が止まった。


「ああ、やっぱりそうでしたか」


 雪目は納得というように頷く。


 そしてジンタは、圧倒的驚きに口を半開きにして、エルファスに喚ばれた女性を見つめた。


 喚ばれた女性は、ブラックホールの穴から身軽にトンッと降り立ち、エルファスと見つめ合っていた。


 身長は女性にしては高く、体型は身長にしてはやや細め、長く揺れるような髪は深い青色。ぴっちりしたセーターのような服の上にゆるやかに着込むワンピースはゆったりしたものではあるのだが、そんなゆったりした感じの服でもわかるほど、大きく主張する二つの場所がある。


 イヨリやリカも相当大きいそれは、この女性と比ぶれば普通に見えてくるほどの大きさだ。


「えっと、私はエルファスです。あなたは?」


 エルファスが笑みを向け、女性に尋ねる。


「あっ」


 どこかぽーっとしていた女性は、エルファスの呼び掛けに上体をピクンと跳ねさせた。それと同時に大きな双丘が揺れる。


「お、おぉ……」


 円の外に立つ数少ない男達の野太い声が響く、そしてそれはジンタの口からも漏れた。


 ミシッ!


 全神経が、エルファスが喚んだ女性の胸に注がれているジンタの頭を何かが掴んだ。


 ミシミシッ!


 それは、じわじわと万力のようにジンタの頭を締め上げていく。そして強烈な視線が後ろから突き刺さる。


 痛みに両手を頭に持って行こうとしたジンタの耳に、


「ジンタさん、一体あの方のどこを見てるんです?」


 冷え切ったイヨリの声が突き刺さる。


「え、いや、なんて言うか、これは……」


 さらにミシミシと締め上がっていく頭蓋骨の音、


「すいません! ごめんなさい! もう見ません!」


 早口にまくしたてるようにジンタは泣きついて謝った。


「まったく男ってヤツは、あんなの脂肪の塊じゃねえか!」


 正面からミトも頬を引き攣らせて、ジンタを睨んでいた。


「そ、そうだな……ははは……」


 ジンタは、ミトから目を逸らし横を向いたまま笑った。




「そう、あなたは種族ウインディーネで水音みずねさんというのね?」


「はい、そうです」


「じゃあ水音さん、これからよろしくお願いね」


 エルファスは、そう言いながら水音の柔らかそうな双丘へと顔を埋め込んだ。


 当然、それを見ていた周りの男共の羨ましそうな声が飛び交う。


 エルファスは、水音の胸に顔を埋めなからチラリとミトを見、どや顔で親指を立てた。

 まるで、ちゃんとミトにないモノを持ってる人喚んだよ、と誇示するかのように。


 ブツッ!


 ジンタの前で何かが切れる音がした。


「ん? なんか切れたような音が?」


 ジンタがキョロキョロしていると、


「ええ、どうやら堪忍袋の緒が切れたみたいですね」


 雪目が答えた。


 同時に、雪目の隣にいたミトの姿が消え、気付けば水音の胸に顔を埋めるエルファスの後ろに立っていた。


「え~~~~る~~~~ふぁ~~~~す~~~~」


 負の感情だけが色々交じり合った恐怖を誘うような声をミトが出す。その口から漏れる息はなぜか白く炎のように渦巻いている。


「ヒィッ!」


 短い悲鳴を上げ、ぴたりと水音の胸の中で動きを止めたエルファス。


「み、ミト、この人ね水音さんって言うんだって」


「みたいだなぁ――――」


「しゅ、種族はウインディーネなんだって」


「そうらしいなぁ――――」


「えっと、と、年は二十二才だって」


「そうなのかぁ――――」


「ミト……」


「なんだ~~い、エ~ル~ファ~ス~」


「お、怒ってる?」


「ぜんっぜん怒ってないよ……」


 エルファスのウェーブがかった金髪の頭を、ガシリとミトが掴む。


「さて、ここにいると皆さんに迷惑が掛かるから外いこうか、エ~ル~ファ~ス~」


「ひ、ひぃっ!」


 涙目のエルファスが、ズルズルとミトに引き摺られていく。


「あ、あの私は……」


 困り果てたように小首を傾げる水音の元に雪目が近づき、


「私は雪目、種族は雪女です、アナタと同じでエルちゃん――エルファスちゃんの『召喚されし者』です。そして今エルちゃんを引き摺っていったのがミトさんと言いまして、種族アルミラージの同じ家族です」


「そうなんですか?」


「ええ、そうなんです。とりあえずここにいると皆さんの目にも悪いので、どうぞこちらに」


 雪目に案内され水音はジンタ達の元へとやってきた。


 同時に空いた円に、エルフ教師が次の召喚者を呼ぶのではなく、お昼の休憩をとりますと指示を出した。




 それぞれがバラバラに散っていく中、ジンタ達も新しく喚ばれた『召喚されし者』であるラーナと水音を加え、校庭の端でお昼を広げた。


「うぅ……、ミリアちゃん、ミトのヤツ本気で怒ってたよ~~」

「よしよし、エルちゃん大丈夫大丈夫、泣かないで」

「そういや、挨拶まだだったな。おれはミトって言うんだ、水音よろしくな」

「はい、ミトさんよろしくお願いします」

「水音の胸、ほんとふにふにしてて柔らかいぞ、ジンタも触るか?」

「え! り、リゼット、お、お前ってやつは……」

「ジンタさん、その手は一体何をしようとしてるんです?」

「ではラーナさんは、お魚よりお肉の方がお好きなんですわね」

「ええ一応。ですが魚が嫌いという訳ではないですよ」

「雪目さん、そんなところで何ふて腐れてるんです?」

「ええ、ロンシャンくんは優しい男の子ですよね? そのうち格好良くなって私をお嫁さんにして下さい」


 それぞれにわいわいとしながらイヨリの作った弁当を食べる。


 食べ終わると、春終わりのぽかぽか陽気を堪能しながら、今度はマッタリとした会話タイムとなった。

 ジンタは、ロンシャンに今回の『召喚の儀』について尋ねたら、色々と教えてくれた。


「じゃあ何か、今回の『召喚の儀』では、種族は精霊系の獣人化が出来る『召喚されし者』が多いのか?」


「そうらしいんです。実際僕もこの階層のことをまだ把握していないので、よくは分かっていませんが、この第二階層では、そもそも集落が少なく、精霊系――まずは四精霊と呼ばれる風のシルフ、火のサラマンダー、水のウインディーネ、土のノーム、それと樹木の精霊ドリアードの集落が大きいと聞いています」


 ロンシャンが辺りを見渡しながら「やっぱりそうみたいですね」と言うので、「なるほどなぁ~」とジンタも見渡しながら多いのを確認し納得した。


「それじゃあラーナ、種族ラミアとかって珍しいのか?」


「どうでしょう? ですが、この階層では精霊以外の種族はかなり珍しいと僕は思います、午前中を見ている限り、今日の『召喚の儀』でラーナ以外の種族ラミアは出てないと思いますが」


「ほ~~、さすがロンシャンだなぁ~」


 口だけで頷きながら、ジンタは視線だけを少し離れた場所でミリアやエルファスやリゼットに抱きつかれ、困り顔の水音の揺れる胸元を見ていた。


 ――あれはあれで、種族云々を越えてかなりレアなような気がするんだが……


 と内心だけで羨ましげに呟いた。


「でも、精霊って――ってかそもそも水音さんとかウインディーネってことは水を操るのか?」


「ですね、しかもエルちゃんの所には雪目さんもいますから、水に氷、すごい相性の良い構成ですよね」


「ほ~~~」


「僕のところはリカにリゼット、そしてラーナとある意味でバランスになるのかな?」


「ほほ~~~、じゃあうちはイヨリのパワーと、俺の貧弱さかぁ、そうなると次は何が来るんだろうなあ」


 新しい出会いの召喚気分にウキウキとしつつ、自分の弱さに泣きたい気分になる。


「大丈夫だよジンさん。きっとすっごく強くて私達をしっかり守ってくれる人が来てくれるよ!」


 後ろから突然のミリアの声、振り向けば今まで水音のところにいたミリアが、後ろに立っていた。


「そうだね、ミリアちゃんならきっとこの階層の――ううん、もしかしたらこのリリフォリアで最強の『召喚されし者』を喚んじゃうかも知れないね」


 口元に笑みを浮かべながらも、その瞳は真剣にロンシャンが言う。


「そのつもりで喚ぶからね。もうジンさんが痛い思いをしないですむように、わたし頑張るからね!」


 ミリアは鼻息荒くジンタに頷いてみせる。


「あ、ああ、そうか、頼むよミリア」


 ミリアの気迫とやる気に圧倒されながら、ジンタはそう答えた。


 もっとも、悪気のないミリアの言動は、弱いジンタを少しでもイヨリ同様に守ってくれる人を喚ぶと言っているようで、ジンタからすればヘコんでしまうのだが。




 午後に入り、次々と名前が呼ばれる中、やはりというか当然と言うかミリアの名前は呼ばれなかった。


 当の本人曰く、


「あははは、私はビリじゃないけど、絶対にビリから二番目だね」


 と自信満々に豪語していた。

 そして、それはまたベンジャミンも一緒で、


「私は絶対にビリではありませんわですわ。だって二番目ですからですわ」


 と、これまた自信満々に答えていた。


 それだけ自分が二番であっちがビリと言い合いながら、隣同士にいる二人はふんっと互いにそっぽを向き合ったまま離れていかない、どうもみんなが『召喚の儀』を終え、だんだんと肩身が狭いせいもあるのか、もしくは類は友を呼んでるのか、だろう。


 午後の部が始まり数時間、いつもならそろそろイヨリが今日の夕食は何にしましょうと問い掛けてくる時間頃、待ちに待った出番が来た。


「え~~、残すところ後二名ですね」


 残り三人目だった生徒の『召喚の儀』が終わってからマイクで暴露する教師。


 ジンタとイヨリがやや恥ずかしげにしている中、ミリアは勝ち誇った顔で、


「じゃあ、私の出番だね」


 と、腕をグルグル回す。


「何を言ってるんですのですわ。私に決まっていますですわ」


 ベンジャミンも、自分の一巻き増えた縦巻きを興奮したように引っ張っている。


 気合いの入る二人をじらすように、マイクを持つ教師は口上を述べていく。


「いや~~、正直に言いますと今回は二人共同じ点でした。――しかし! 一人はななな、なんと名前を書き忘れるという過ちを犯しておりまして、それが敗因だと思って下さい!」


 大仰な言い回しだが、つまりはドベかビリ、しかも同点の時点でどっちも一緒っと言うことだ。名前の書きミスだけが違うだけの……。


 あまりの恥ずかしさに、隣のイヨリが耳まで真っ赤にして俯いている。


 しかし、そんなことは前に立つ二人のマスターには関係ない。

 私が先だとおでこを擦りつけながら睨み合っている。


「では――――、最後から二番目は――――」


 教師の言葉に、息を飲む会場。


「ベンジャミン! 前へ!」


「おぉ――――っ!」と会場が感嘆の声を上げる中、ベンジャミンがバッと扇子を広げ口元を隠し、


「おーほっほっほっ。と~う然なのよですわ」


 ミリアを見下ろすように言い放ち、円の中央へと向かい歩き出す。


「グギギギギッ」と凄く悔しそうにミリアは呻いている。


 ビリかドベの最後の二つの順番よりも、ベンジャミンに負けることの方がきっと悔しいんだろうな……。とジンタはどこか分かるような気持ちで頷くが、隣のイヨリはそんなことを考える余裕も無く、俯き両手で顔を押さえ、軽くイヤイヤと首を振っている。当然耳どころか首元まで恥ずかしさで真っ赤になっている。


 そんなイヨリを見て、苦笑しているジンタの横を「よっ」と肩を叩き松と竹が通り過ぎて行く。


「お? 二人共そう言えば今日は初顔あわせじゃないか? ベンジャミンは午前中からいたけど」


 円の中、二歩ほど入った松と竹にジンタが問い掛けると、松がゴキゴキと首を鳴らしながら、


「いや~、昨日の夜からずっとベンジャミンが「絶対に最後から二番目に決まってますわ」と言い張るもんだからよ、おれっち達はずっと朝からお昼寝しててな」


「ああ、なるほど」


 賢明な判断だな、とジンタも思わず頷いてしまった。


「も、もし何か困ったことがあったら、リ、リカさん達のところに行ってなさいねと伝えておいたんです、い、一応私は起きていましたが、松さんのところにいましたので」


 竹も、すいませんとばかりに身を縮めながら呟く。


「でも、結果最後から二番目で合ってたしな、いいんじゃね?」


「おれっちもそう思う」


 笑いあうジンタと松。


 そこまで話をして円の中心に目を向け直すと、今まで台の上にしかいなかった教師が、わざわざ台を降りベンジャミンの元へ、そして一枚の紙を渡していた。


「あれって――」


「あれだな、詠唱の紙だろ? なんせこの順番を決めたテストって、『召喚の儀』についての問題だったみたいだぜ。きっとうちのベンジャミン『召喚の儀』の詠唱を書く問題、出来なかったんだろ?」


 あっさりと自分の主であるベンジャミンの馬鹿さ加減を口にする松。


 それを聞いたジンタが、まだ悔しそうにベンジャミンを睨んでいるミリアに「ミリアも詠唱は大丈夫なのか?」と尋ねると、ミリアがジンタをキッと睨んだ後、


「馬鹿にしないでよジンさん! 私はもう先にロンシャンくんから書いてもらってるから大丈夫だよ!」


 と紙を見せてきた。


「ああ、そうか、そうだよな、ロンシャンがいるもんな……」


 妙に納得し、安心してしまうジンタ。


 ミリアに対する不安が消えたジンタがベンジャミンを見ると、ちょうど紙を渡し少し話をしていた教師が円から出ていくところだった。


 教師が円を出た後、振り返りベンジャミンに頷くと、ベンジャミンも頷き返し、まるで表彰式授与のときのように両手で詠唱の書かれた紙を持ち、両腕を前に出しながら詠唱を始めていく。


「『我はエルフ、我が名はベンジャミン、我が歩む道を共に歩く者を我は願う、新しき運命、その出会いを私は求む』」


 ベンジャミンの持つ紙がバタバタとなびき、さらにその前にみんな同様のブラックホールのような真っ黒い円が現れる。


 ブラックホールが出来て数秒後、人が飛び出してきた。


 飛び出してきた少女は着地で躓き、目の前に立つベンジャミンを掴み、巻き込んで倒れ込んだ。


「お? なんかおもしれえことになってるな」


 お祭り好きの松が、にこにこ顔で二人に向かい走って行く。


「ふ、二人ともケガがないといいですが……」


 心配そうに竹も続く。


「ちょ、ちょっといきなり倒れ込んでくるなんて、一体どういう恨みがあるんですのですわ」


 非難の声を上げるベンジャミンに対し「す、すすす、すいません、わ、わわわ、わっち、ま、ままま、まさか喚ばれるなんて思ってなく、き、ききき、緊張して――――」


 喚ばれた少女は必死にドモリながら謝った。


「もう良いですわ、とにかく退いてくださいですわ」


 喚んだ少女を一生懸命右に退かそうと押すベンジャミンに対し、少女は左に退こうとし、互いに逆方向に動こうとして、そのままチカラ比べのように動けずにいた。


「おいおい、まったく何遊んだお前等は」


 もう少し見てようかとイタズラ心が芽吹いた松が、次にまだ『召喚の儀』を待ってる人がいることを思い出し、ひょいっと喚ばれた少女を服ごと、猫を持つように掴み持ち上げた。


 小柄ながら着ている服がもこもこしていてかなり重そうに見えたのだが、実際持ち上げてみると少女は軽かった。服がかなり厚くゴワゴワしていたのだろう。とりあえず松は持ち上げた少女を自身の顔の前まで持って来て、


「あわわわわ――――」


 と動揺し慌てる少女を見つめる。


 ボサボサの目元まで隠れた赤黒色の髪。しかし、そのボサボサの髪の間から見える真っ赤な瞳と顔立ちはかなりの美貌に見えた。


「ほ~~、おまえ、種族と名前と年齢は?」


 松が聞くと、


「ま、まだ挨拶してませんでしたすいません。わ、わっちは種族ノームで十三才、名前は梅と言いますだ」


「ほ~~、ノームで十三才に梅か」


 うんうん頷きながら松はクルッと回れ右し、ジンタ達の元へ梅を掴んだまま歩いて行く。


「ちょ、ちょっと松! 私がマスターですのよですわ。それなのに私を置いてなんで戻ろうとしてるんですのですわ」


 竹に起こされたベンジャミンが地団駄じだんだを踏みながら松に言うも、松はベンジャミンを無視し、


「お~~いジンタ。こいつ梅って言うんだって、種族はノームなんだそうだぜ。どうだ小さくて可愛いだろ?」


 ジンタに声を掛けた。


「お? 種族はともかくやっぱ名前は梅なのか……、うん確かに小さくて可愛いな」


 ジンタは、うんうんと妙に納得顔で頷いていた。



「ちょ、ちょっと松! 私はまだその人と話をしてないんですのよですわ。ねえ、ちょっと松ってば~~~」


 スタスタと種族ノームの梅を掴んだまま円の外へと歩いて行く松を、ベンジャミンが泣きそうな顔で走って追い掛けた。さらにその後を困り顔の竹が追い掛けていく。


 松が梅を下ろしたのは、円と人混みを抜けたところだった。


 追いついたベンジャミンが地団駄を踏むも、松は豪快に笑い、もげるんじゃないかと思うほどベンジャミンの頭をグリグリとなで回していた。


 ベンジャミン達を眺めていたジンタの横で、ミリアが呟いた「なんかいいなぁ……」と。




 そして眺めているのもつかの間、マイクを通し教師の声がミリアを呼んだ。


「さあ、今年の大取おおとりはミリアリタです、皆さん拍手!」


 ノリノリの教師の言葉で、円の周りが大いに盛り上がる。


 ミリアは、それがクラス最下位であることを恥ずかしいと気にした様子もなく、手を振り声援に応えながら中央へ歩いて行く。


 が、さすがのジンタもこれは恥ずかしく頬を掻きつつ、円の中に二歩ほど入った。


 イヨリに関しては、もう頭を上げていられないほど恥ずかしそうに頭を伏せ、ジンタに体を預けるようにくっついてきている。


「では、ミリアリタ。詠唱は大丈夫?」


「うん、ロンシャンくんに書いてもらってるよ!」


「そう、最初から暗記は諦めていたの?」


「うん」


 なぜかマイク越しの会話のやり取り。


 しかも会場はどっと沸いている。

 隣に立つイヨリがさらにぐいっとジンタに寄り添ってくる。


 そしてクルッとジンタ達に向いたミリアが叫ぶ。


「ジンさんイヨリ、わたし、絶対可愛い子を喚ぶね!」


 とVサインしてきた。


「ああ、とりあえずがんばれよミリア」

「み、ミリアがんばりなさい」


 ジンタの横で少しだけ顔を上げてイヨリも声を掛けた。


「さて、じゃあ今年の入学生最後らしく、ミリアリタ『召喚の儀』始めて下さい!」


 円から離れた教師が開始を告げる。


 ミリアはゆっくりと深呼吸をし、両手に紙を持ち、前ヘ出す。


 ミリアを見つめながらジンタは息を吐いて、隣のイヨリに呟く。


「ミリアがさ、もう俺にケガさせないように強い『召喚されし者』を喚ぶって、さっき言ってたんだぜ?」


 隣のイヨリがそれを聞きジンタを見て、


「あの子が、そんなことを?」


 驚いた顔をした後、納得したように小さく笑い、


「でも、あの子さっきは可愛い子を喚ぶって言ってましたよ」


 先程のミリアの言葉を思い出し言った。


「そうだっけ? 可愛い子かぁ…………。――って、ミリアまだ十二才だろ? そんなミリアから見て可愛い子なんて――」


 笑みで、イヨリを見返していたジンタの表情が固まる。


「ま、まさかあの子……」


 同じように笑みを張り付かせたまま、イヨリが呟く。


「そう言えばさっき、ベンジャミンとこの梅を見て、いいなぁって言ってたぞ……」


「わ、私一回止めてきます」


 イヨリが焦りミリアの元へ行こうとしたが、


「『――その出会いを私は求む』」


 もう手遅れだった。



 ミリアの広げた両腕の前で大きな黒い穴が開く。


 それから数秒。


 穴を覗き込むように見ていたミリアの顔が何とも言えない表情に変わり、慌てたように穴を見たまま、右に左に腕を広げ彷徨い出す。


「なんか……あれ、やばくないか?」


「ええ……、何となく私もそう思います……」


 ジンタとイヨリがそんな会話を交わした直後、ミリアがピタリと立ち止まる。

 同時に、穴から緑色の塊がミリアの顔面に直撃した。


 どしん!


 見事な音をさせ、顔面で受け止めたミリアはそのまま地面で大の字にひっくり返った。


 それがジンタ達の四人目の家族、あーちゃんとの出会いだった。

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