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入学式と可能性

お待たせしてすいません。

大雑把な展開は考えていたんですが、細かいところで色々と悩んでしまい、結構載せるまで掛かってしまいました。

では、

第二章 第二階層編 始めます。

 ジンタ達が第二階層に来て早十日。


 第一階層と同じような作りのこの街、第二階層第一の街ラペンでの生活もだいぶ落ち着いてきた。


 来た当初、多少戸惑った街並みや景色も、ちゃんと見ればやはり違う場所が多々あり、それを見つける事でここが今まで居た場所と違うことを認識し、やっぱりここは今までいたところと違うんだなぁ~と、ホッとしたようなガッカリしたような気持ちになったりもした。


 一番分かりやすいのは街の人々。

 これはまったく知らない人ばっかりだった。


 しかし、そんな中でも特異な事というのはあって、それにはジンタが一番面を喰らった。


 ジンタは獣人化出来る他の『召喚されし者』とは違い、武器をメインとして扱う。つまり、まだ未熟なジンタは普段の自分で行う手入れの他、武器屋でちゃんとした手入れをしてもらうなど、色々とお世話なるのだ。


 第一階層にいた、あのゴツくもクリクリお目々のハゲオヤジにも言われたが「第二階層に上がって落ち着いたら、お前はまっさきに武器屋を探せ」と何度も念を押されていた。


 だからジンタは、この第二階層に来て三日目。


 我が家の部屋の割り振りや、必要な家具や道具の買い付けと、大掃除(主に初日のミトとリゼットのやらかしたキッチン)と片付けが大方済んだ後、これからお世話になるだろう武器屋へと足を向けたのだが、そこに居たのは何を隠そう第一階層にいたオヤジにそっくりのオヤジだった。


「えっと、オヤジさん?」


「おう! なんだ?」


「ここ第二階層ですよね?」


「ああ、そうだが?」


「あの……、オヤジさんは第一階層にもいませんでした?」


「はぁ~~~? って、まあよく言われるんだが、俺と第一階層にいるっていう武器屋のオヤジはちゃんと別人物だぜ」


「え? そうなんです?」


「ああ、ここ数年上がってくるヤツがみんな同じ事言うんだがなぁ……、でも俺はそいつのこと知らねえんだよコレが、がーはっはっはっ」


 豪快に笑う姿もそっくりなのだが、その後、話をしてみると本当に違う人物だった。



 そして十日目の今日、ジンタは何気なく学校の保健室へと来ていた。


 なぜ来たのかと言われれば「何故だろう?」と自分でも考えてしまうが、第一階層にいた時、一応それなりにお世話になり、足を運んだせいもあったからだろうかとも思う。


 そしてジンタは、何気なくいつもの調子でノックもせずに保健室のドアをスライドし開け放つ。


「…………あ」


 開けた後、数秒固まってから「しまった」と内心で思ったが、目の前に見える先を遮るカーテン、その奥から声が響いた。


「また君は、ノックもせずドアを開けるとは礼儀を知らんのかね?」


 聞き覚えのある声と言い方に、ジンタは無意識に近い行動で、保健室の奥へと足を動かした。

 テーブルを挟んだ先に、金色の髪をアップにし、眼鏡を掛けた胸の残念なエルフの女性がいた。


「えっと、あなたは保健医さんですか?」


 戸惑いながら発したジンタの言葉に、目の前の見覚えのある保健医は、呆れたように眼鏡をクィッと持ち上げ、


「君はアレか? 一緒にあの化け物トレントを倒した私のことも覚えてないほど記憶力が乏しいのか? それとも記憶力がないのか?」


 ――ああ、いつもの通りの悪態だ……。


 返ってきた言葉に、どこかホッとし、


「いや、済まないな。ちょっと最近似たようなことがあってさ、知ってる人だと思ったら実はまったく違う人だったってことがな。だからあんたも、ついその類いかと思ってしまったんだよ、まな板保健医さん」


 ゴンッ、と何故そんな動きが出来るのかと思えるほどの速さで保健医が立ち上がり、ジンタの頭を小突いた。


「まあ、とりあえず座りたまえ」


 イスを勧め、保健医はいつものように冷蔵庫へと飲み物をとりに向かう。

 その後ろ姿を見送りながら、イスに座りジンタが尋ねる。


「なんであんたがここにいるんだ?」


「私が保健医だからだろう?」


「あんた第一階層で校長も兼任してたよな?」


「うむ、確かにな」


「この第二階層の保健医も兼任してるのか?」


 第一階層の保健医と校長、さらにこの第二階層の保健医も兼任しているのだとしたら、この保健医は三つも役職を持ち、あれほど暇を持て余していたのかと、すげえなこの人と心の底から思えてしまうジンタだったが、


「馬鹿を言うな、階層を隔てての兼任など出来るわけないだろう。私も今年からここに転属になっただけだ」


 と保健医は返してきた。


「そっかぁ」


 と安堵しながらジンタが頷いた。


「まあ、本来はまだ向こうに居る予定のはずだったのだが、色々と面白そうだったからな、こっちの方にいる君達が」


 注いだ果汁のカップの一つをジンタの前に置き、自身も座り果汁を口に含む。


「あまり俺達をゲテモノ扱いしないでくれよ」


 ジンタも一口飲みつつ答える。


「ゲテモノ扱いとは自分を卑下しすぎではないか? 私から見て君達は十分すぎるほどの高級な研究対象だよ」


「はぁ~、それがゲテモノ扱いだって言ってるんだがな」


「どこがだ? ヒールで相手を倒すマスターに、異世界からやって来た獣人石も持たず人の身、人化のみで戦う『召喚されし者』、どっちも面白いじゃないか」


「ふむ、まあそうかもな」


 答えながらも、苦笑が混じる。


「ところで、君ではないもう一人の研究対象は、その後どうかね?」


 保健医の言葉にジンタは軽く首をすぼめる。


「一応、毎晩ヒールの練習と称して一緒にやってるんだが、どうにも全部破壊してしまう」


「ふむ、それはまだまだ解明には時間が掛かりそうだな」


「そうだな……」


 二人はもう一度飲み物を口にする。


「それより、あの転送装置のことなんだが――」


「その話はするな!」


 ジンタが、この第二階層へと来た際に使ったあの機械について尋ねようとしたが、保健医は即座に止める。そして、鋭い視線で辺りを見渡し、口唇に人差し指を立てた。


 緊迫する保健室内。


 ジンタは確認するように、保健医に向かい尋ねる。


「ソレは聞いちゃダメなのか?」


 コクンと頷く保健医。


「まずいことなのか?」


 再度の頷き。


「まったく何もダメなのか?」


 頷き。


 まるで怯えるような保健医の態度と緊迫した表情。さすがに冗談では済まないのだということがジンタにも分かる。


 ――これは……相当厄介なことのようだな、迂闊に人に聞いたりしてはならないことなんだろう。


 ジンタも、以後この話は誰であってもしないよう心に決めた。


「ふ~、そっかぁ。あんたには色々お世話になってるし、その表情を見れば冗談ではないことが分かった。この話はしないよ」


 その答えに納得したのか、保健医もふぅ~と安堵に溜息を漏らした。

 仕切り直しのように、二人はもう一度飲み物を口にする。


「それじゃさ別の事を聞くけど、ここに来て俺達もう十日になるけど、一体学校はいつから始まるんだ?」


「む? そうかまだ君のところには連絡がいってないのか」


「と、言うと?」


「明日からの予定だよ、君達も含めてな」


「そっかぁ……、明日かぁ……」


「ああ、明日だ」


「そっかぁ……」


「…………」


「…………」


「なあ、ところで明日は――」


「もう教えないぞ、明日になってからのお楽しみだ」


 さすがに聞きたいことはバレバレだった。


 その後、他愛もない話しをして、ジンタは保健室を後にした。


 我が家に着いたジンタに「明日から全員で学校に行くみたいですよ」と、連絡があったことをイヨリが伝えてきた。




 次の日、休みが長かったせいもあり朝起きて来ない弛みきった面々(ミリアとリゼット)を、イヨリが雷の如く怒鳴り散らし、たたき起こし準備をさせ、ジンタ達は学校へと向かった。


 天気は晴れ、心地よく光合成出来そうな日射しと風を受けながら、未だ眠そうに目を擦るミリアとリゼットにエルファスが言う。


「二人とも気が緩みすぎだよ」


「う~~、でも~~、いきなり登校なんて、もっと十日位前に行ってくれないと、こっちだって調整が必要だよ……」


「うん、リゼットも調整が必要だよ……」


「いや、リゼットはいつもどこでも寝るだろ……」


 ミトの突っ込み。


「でも、最近エルファスちゃんは朝早いよね。なんかミトさんと一緒に走ってる見たいだけど……」


「そうだけど……、でも、それ知ってるってことは、もうその時にはロンシャンくんも起きてるんでしょ?」


「うん、僕は朝が一番頭が働くから、朝食まで色々と本を読んだりしてるけど」


「うえ~~……、勉強……」


 エルファスとロンシャンの会話に、ミリアが苦虫をかんだような顔をする。


「しっかし、ロンシャンはホント凄いよな。よく出来てるというか、手が掛からないというか」


「全くジンタさんの言う通りですわ。私の手が余ってしまってしょうがないですわ」


 どこか寂しげに、でも誇らしげにリカが答える。


「でしたらリカさんも私と一緒に朝食の準備を――――」


「ですが、私にも色々とやることがありますので、やはり手は余っていませんわ」


 イヨリが突っ込もうとするのを、リカが緊急回避する。


「私は、ジンタさんがいつ夜這いに来るのかドキドキしながら毎晩待ってますが……ぽっ」


 チラチラとジンタに目線&ウインクをしてくる雪目を無視し、


「さって、学校が見えてきたぞ」


 ジンタは逃げるように歩調を速めた。




 校庭に着くと、そこには当然今まで一緒に勉強してきた同級生がいるようで、ミリア達マスターが同級生達の元へと駆け寄り、キャッキャッと再会を喜びはしゃぎ出した。


 ジンタ達もマスター達以外の見知った『召喚されし者』達に、声を掛けられた。


 その中で、より見知った三人にジンタは声を掛けられる。

 松と竹とマスターであるベンジャミンだった。


「あれ? ベンジャミンはミリア達のところに行かないのか?」


 ジンタが何気なく言うと、ベンジャミンがついっと唇を尖らせそっぽを向く。


「ははは……、どうもこいつってば、気むずかしいところがあってさ、自分から輪の中に入るのが超苦手なんだよ」


「そ、そうなんです。同じ家に住む、ふ、二人ともなかなかなじめないようでして……」


「べ、別に私は――――」


 顔を赤くして、言い返そうとするベンジャミンの声を遮って、


「ジンさ~~~ん」


 ミリアが駆け寄ってくる。


 そしてピタリと立ち止まり、


「ゲッ! ベンジャミン」


 と変な顔を向ける。


「その変な顔は、い、一体なんですのですわ」


「え? だってベンジャミン……」


「何ですかですわ」


「縦巻きが一つ増えてない?」


 ミリアに言われジンタも「あ、ほんとだ」と気付いた。


 今まで四本あった縦巻きロールは三巻きだったのに、今は四巻きになってる。


「おーほっほっほっ。中学生になったのですから、それぐらいはたしなみですわ。おーほっほっほっ」


 ベンジャミンの高笑い。


 そこにエルファスが「ミリアちゃ――ん」と走ってきて、「ゲッ! ベンジャミン。縦巻き増えてない?」


 ミリアと同じ反応を示した。


「レディーとしての嗜みですわ。おーほっほっほっ」


 再度の高笑い。


 今度はロンシャンが「お――い二人共」とミリア達の元に来て、


「あれ? ベンジャミン髪型変えた?」


「い、いえ、そういうわけでは……」


 さっきまでの高笑いは消え、モジモジとしだすベンジャミン。


「まあ、いっか。とりあえず向こうのみんなが呼んでるからベンジャミンも行こうか」


「はい、ですわ」


 最高に幸せそうな顔で、ロンシャン達と一緒に走って行く。


「お前達のおかげであいつもかなり元気になって良かったぜ」


 ミリアと悪態を付きながら走って行くベンジャミンを見ながら、松がしみじみと言う。


「そうなのか?」


 信じられないと言うようにジンタが問うと、


「は、はい。あ、あの子はほんとに内気で、松さんが召喚された二年前まで、わ、私以外誰とも話しが出来ず、ほとんど家に引きこもっていたんです」


「マジでか?」


 竹の説明にジンタは心底驚いた。


「そうだぜ。おれっちも喚ばれてから一生懸命何とかしようとしてたんだけどよ。な~んかうまく行かなくてよ~。そんな時に、お前の所のミリアリタが先生に言われて迎えに来たとか言って、ベンジャミンを引っ張っていってな~~」


「ええ、泣き叫ぶあの子を、無理矢理引き摺って……」


「ああ、あまりに理不尽にズカズカと入って来て、そのまま「行かないと自分も怒られるから」って言ってな、ほんともうベンジャミンの意思とか抵抗とかそっちのけで、あまりに自然に引き摺っていったから、おれっちも思わず止められなかったぜ、あの時は……」


 遠い目で語る松と竹にジンタは、


「なんか、うちのマスターがすまん!」


 素直に謝った。


「でも、感謝してるんだぜ。あれ以来、ベンジャミンは色々変な事もするけど、ちゃんと前を向いてる気がするしな」


「は、はい、私もそう思います。あの髪型とかヒラヒラの付いた服とか、ちょっとズレてはいますが……」


 素直に笑む二人を見て、ジンタは何も言うまいと口を閉ざし、微笑んだ。


 そんな二人とのやり取りの後、教師と思われる二人のエルフ女性が校舎から歩いてきた。

 そして、校庭に集まっているマスターと『召喚されし者』に向けよく通る声で告げた。


「ただいまより、この第二階層、中学校の入学式を始める」


 言葉を切った後、もう一人の女性が言う。


「まずはマスターである若き苗木達は私に付いてきて下さい」


 そう促し、校庭にいる全員に背を向け校舎へと歩き出した。

 戸惑うマスター達に、最初に説明した女性が強めの口調で叫ぶ。


「早く行きなさい!」


 ピーンと張り詰める空気に、校庭の全員が言葉を飲む。


 そんな中、ジンタから少し遠くにいるミリアが目を向けてきた。


 その目は、あのトレントの時、一緒に行くと言っていた時と同様に強い意志が感じられた。だからジンタは、それに応えるように一度大きく頷いた。


 ミリアはそれに頷き返し、校舎へと歩いて行く教師に続き歩き始めた。

 歩き始めたミリアの後ろを、ロンシャンとエルファスとベンジャミン、そして他のエルフの少年少女が付いていく。


「……ジンタさん」


 ミリア達を見送るジンタの後ろで、イヨリが心配そうな声を出す。


「ああ、なんか今までとは違うようだな」


「……はい」


 気を引き締めるようなイヨリの返事。


 一度全員を見渡し、マスター達が全員校舎へ入ったのを確認し、残ったエルフの女性が口を開く。


「では、若い苗木達の『召喚されし者』達は、私の後に付いてきて下さい」


 それだけ言い、女性はスタスタと歩き出す。


 ミリア達マスターが入った校舎とは別の、通路を挟んで建っている左側の体育館へ向けて。



 体育館は、バスケットコートが三つほど作れるほど広いスペースに、入り口から見た対面に、壇上のように一五〇センチほど高くなった、奥まったスペースがあった。


 その中の広いスペースで待たされること十分ほど、ジンタ達が多少見上げる形になる壇上に先ほどの教師は二十才ほどの女性を連れ、戻ってきた。


 先ほどの教師のキツ目な態度が印象にあるのか、体育館の中は来た時からずっと張り詰めた空気が漂っていた。


 教師は壇上をさらにジンタ達側である前に進み、コホンと一度咳払いをし、


「お待たせしてすいませんでした」


 深く頭を下げ、


「まずは皆さん、よくマスターでありまだ幼いあの若い苗木達を、ここまで無事育てて頂きありがとうございます」


 先ほどのキツい口調とは裏腹に、女性は柔らかい口調で感謝の言葉を述べる。

 それが場の空気を一時だが和らげた。


「ですが、今までは「ただ、生きて来させれば良かっただけ」ですよね」


 和らいだ場が今度は凍り付いたようにシーンと静まり返る。

 まるで、その場にいる『召喚されし者』の心の動きを楽しむような言い方で、話をする教師によって。


「そうなんですよ。あなた方は今まで「ただ」普通に生きてくれば良かっただけなんです。その延長線上にあの子達の無事があっただけ、なんです」


 淡々と小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、教師は続けた。


「あなた方は「たったそれだけ」しかやってないんです」


 そこまで言われた後、もう我慢出来ないと誰かが声を上げた。


「ふ、ふざけるな! 私達はあの子達をしっかり守って、そして一緒に成長してきた!」


 その声に、全員が口々に「そうだ、私達はちゃんとやって来たんだ」「守って来たんだ」と声を上げ始める。


 それを壇上から見下ろす教師は、小馬鹿にしたような笑みを向けたまま、床をダンッ! と踏み叩いた。


 ピタリと止まる声。


「そうですか、あなた達は一生懸命あの子達を守ってきたんだと? そう言うんですね?」


 淡々と、しかし言葉の中には嘲笑するような気配を漂わせ教師は言った。


「では、それだけ必死に生きて若い苗木達を守ってきたあなた方に、本当に必死になって若い苗木達と一緒に強くなった人を紹介します」


 そう言って、女性は後ろにいる若い女性に手を向けた。


「彼女は、あなた方の三年上の先輩にあたる、『召喚されし者』です」


 紹介を受けた女性は前へと進み出てくる。


「この方の種族はバッファロー」


 言われ、女性はペコリと頭を下げた。


「では、あなた方の中で一番のチカラ持ちさんはいますか?」


 その一言で全員の目がジンタの横にいるイヨリへと向いた。


 それに気付いた教師が、


「ああ、あなた方の世代には種族ゴーレムの方がいらっしゃるんでしたね」


 知っていたことを、今思い出したように嘲笑し口にする。


「……イヨリ」


 先ほどからイヤな胸騒ぎのするジンタが、前に歩き始めたイヨリに声を掛ける。


「分かってます。でも行かないと分かりませんから」


 少し強ばった顔に精一杯の笑みを張り付かせ、イヨリは壇上へと向かい歩いて行った。


 壇上に上がったイヨリと、バッファローの獣人化が出来る女性が向かい合う。


「それでは互いに獣人化してください」


 教師の言葉を合図に、まずは女性が獣人化する。胸元が輝き、その手足の肘と膝までをふっさふさの茶色の毛が覆い、今までの三倍以上の太い手足となり、その手は大きく二つに割れた爪のようになる、そして頭には二本のやや湾曲した小さめの角が生えた。


 対しイヨリも獣人化し、その両腕を岩や石が包み大きな岩の腕へと変化させた。


「バランス型の種族バッファロー如きが、種族ゴーレムであり、なおかつパワー型のイヨリさんに、パワー勝負なんて論外ですわ」


 隣にやって来たリカが呆れたように呟く。


「やっぱそうなのか?」


 ジンタもなんとはなしにそう感じてはいたが、リカの言葉にやっぱりそうかと少し安堵した。


 そんな二人をあざけるように、教師は壇上の二人にそれぞれの両手を組ませ、チカラ比べの格好させる。


「では、とりあえず始め!」


 そしてまるで緊張感のない言い方で始めてしまう。


「はあぁぁぁぁっ!」


 先手必勝とばかりにイヨリが相手の腕を目一杯に押し込む、相手の女性はそれにあらがおうと目一杯に押し返すが、圧倒的なイヨリのチカラにずるずると押されていく。


「終了!」


 教師がそう言うまで、イヨリが圧倒的なチカラで女性を押し続けた。


「当然ですわ」


 リカがさも馬鹿らしいとばかりに首をすぼめてみせる。周りでも当然の結果とばかりに空気が弛む。

 しかし、ここで終わらなかった。


「では獣人化の第二段階をお願いします」


 教師が事もなげにそう口を開いた。


「はぁ? 獣人化の第二段階……?」


 訳が分からず呟いたジンタは、横にいるリカを見る。


 そのリカも、初めて聞く言葉なのか目を見開きあ然としている。

 当然周りも、何のことだか分からずざわめきが起こる。


 そんな中を、バッファローの獣人化をしていた女性が、ゆっくりと目を閉じた。


 ゆっくりと息を吸い込んだ女性の胸元、獣人石が再度まるで獣人化する際の輝き同様――いや、さっき以上の眩い輝きで体を覆った。


 獣人化した両腕、その太く茶色の毛並みがさらに伸び、腕の根元まで獣人化する。二つに割れた蹄が人の手へ代わり、そしてやや湾曲していた角は、より大きく立派な物へと変化した。


 その見た目は、パワー型である両腕の獣人化、それに加え両足のバランス型の変化と成っている。


「な、何ですって……」


 驚きを隠せないリカの呟きが聞こえる。


 そしてジンタもまた驚きを隠せず、カラカラになった喉にツバを流し込んだ。

 当然、ソレを目の前で見たイヨリも驚いた顔をし、一歩後退っていた。


「ではイヨリさん、でしたよね?」


 そんな驚きの表情で固まるイヨリに、教師は優しく声を掛けた。


「あなたも出来るなら早く第二段階へと成って下さい」


 出来る物ならやって見ろとばかりの教師の言葉だが、そんな完全に挑発した言葉を理解できた者は、きっとこの中では教師本人と第二段階のバッファローの獣人化を成した二人だけだったろう。


 イヨリは唇を戦慄わななかかせて、震えているだけだった。


「しないんですか? ではこのままもう一度チカラ比べをして見ましょう」


 教師がそう言い、イヨリと女性にまた両手を組ませる。


「では、始め」


 教師の声で、二人が組んだ両手へとチカラを込める。


 さっきはイヨリの圧勝に終わったチカラ比べ、だが今回は、二秒ほど拮抗した後、イヨリが徐々に徐々にと後ろへと押され始める。


 きっと、イヨリ自身の動揺もあったのだろう、しかしそれでも第一階層では無敗のチカラを誇っていたイヨリは押され続けていき、十秒ほど後に教師が「そこまで」と声を掛けるまで押され続けた。


「お疲れ様」


 イヨリに、というよりは女性に対し教師はねぎらう。

 女性は教師に向けぺこりと頭を下げ、その場で獣人化を解いた。


 しかしイヨリは獣人化したまま動けず、ぼう然としていた。

 そして、それは会場にいるジンタも含めた『召喚されし者』すべてがそうだった。

 あまりにも想像外の事態が起こり、目の前で起きた出来事を未だに理解が追いついていないのだ。


 静まりかえる体育館で、バッファローの女性が口を開く。


「一応、私の二段階目に名前を付けるなら、バランス型パワーバッファローと呼ばれています。これは最初の獣人化を上、第二段階目の強化を下に付けただけの安直なネーミングですが、分かりやすいのでそう呼んでいます。同じ種族バッファローでも、第二段階は数種の変化があります、私のパワー強化の火力、そしてスピード強化タイプの速力、さらにバランス強化の均等と、初期の第一段階に上乗せする形になっていますので、皆さんも早く成れるよう頑張ってください」


 最後にバッファローの女性が会場に向けぺこりと頭を下げた。


 それが皮切りだった。


「う、うおおおおぉぉぉぉっ! なんだあれ!」


「あんなこと出来るのか、私達は!」


「種族ゴーレムを押し返すほどのチカラが、俺達にもまだ手に入るのか!」


 口々に漏れ出す言葉の数々が体育館に響き渡り、体育館は一気に興奮のるつぼと化す。


「ふっ、ふふふ……、ふふふふ――」


 ジンタの隣のリカが、自身の両手を見つめながら笑いを漏らす。


「私のチカラもまだまだ成長させる方法があるんですのね……」


 その茶色い瞳にも喜びの炎が宿る。


 ざわめく会場内に向け、教師が再度床を踏み叩く。

 ダンッと響く音に、体育館は再度静まる。


「分かりましたか? あなた方は、あの若木であるマスター達同様まだまだ成長出来るチカラが存分にあるのです。それを「自分はこれでも十分強い」「もう一杯一杯だ」と自分の天井を決めつけてしまい、自信過剰になり努力をしなくなると成長は止まってしまいます」


 そこまで言って教師は一度全員を見渡し、


「何より、こんな初歩の段階で満足し、成長が止まってしまっては、あなた方に残っている道は『自分の死』と『マスターの死』だけです」


 はっきりと言い切った。


 静まったままの体育館。

 教師は、再度見渡し静まったままを反論なしの了承と受け取り、さらに続けた。


「では、あなた方はこれから数年掛けて、この第二段階へ向けての努力を行っていって下さい。もっとも、その練習方法などは教えられませんよ。正確には教えることが出来ないんです。何故ならこれはあなた方自身の中にある感情、つまりは強い気持ちとそれに耐えうる体によって、獣人石が反応するのですから」


 伝えた後、教師は深く頭を下げる。


「それと今日の私達のキツい言動もお許し下さい。これから先、あなた方は最低六年この第二階層で生きていくんです。その中には当然、今まで以上の危険と命を掛けることになる任務が待っていますから、しっかりと聞いてもらう為にも、キツい言い方をしました」


 と謝罪した。


 さらに、


「そうそうもう一つ、これは皆さんにも朗報です。五日後、あなた達のマスターである若木達には『召喚の儀』を行ってもらいます。つまりそれぞれに三人目の『召喚されし者』であり、四人目の家族をあなた方は得るのです」


 にっこりと微笑み、教師は「では、今日はこれで解散します」と告げ、ジンタ達から見れば先輩である女性と一緒に壇上の幕引きの奥へと姿を消した。



 これからの道を示され、その可能性に興奮する会場の中、獣人化出来ないジンタはそれなりに冷静でいた。


 ジンタは熱気溢れる会場を抜け、まだ壇上でぼう然としているイヨリの元へと迎えに行った。

 そしてまだぼう然としているイヨリの手を引っ張り、壇上を降り外へと出た。


「あ、あのジンタさん私……」


 外の涼しい風を受け、徐々に落ち着きを取り戻したイヨリが口を開いていく。


「私、チカラ比べには自信あったんです、絶対負けないって……、でも、なんかあんなの見て動揺しちゃって、掴み合った瞬間にこれは勝てないって……」


 かなり落ち込み、沈んだ声でイヨリが呟く。


 ジンタはそんな俯き加減のイヨリの頭をぽんぽんと優しく撫でるように叩き、


「でも、イヨリだってまだ、あの人の様な第二段階に成ってないんだろ? だったらあの先生じゃないけど、まだまだ、あの人より強くなる可能性は十分あるんじゃないか」


 優しく言うと、イヨリは頭を持ち上げジンタを真っ直ぐ見つめ、


「そ、そうですよね。私だってあの人と同じように、今よりもっと強く成れるんですよね」


 グッと胸の前で両手を握り、気合いを入れた。


「そうそう、それにそんな落ち込んだ姿でミリアにあったら、ミリアも心配しちまうだろ?」


「そうですよね」


 顔に笑みを浮かべたイヨリを確認して、ジンタとイヨリはミリア達を迎えに下駄箱に向かう。


 途中、ジンタは思う。


 ――しかし、あの教師の言い方、いやに色々含みのある言い方をしてたな。


 と。



 下駄箱ではロンシャンとエルファス、そして何故が沈み込むように俯くミリアとベンジャミンがいた。


「こっちはこっちで一体何があった?」


 ジンタがロンシャンに聞くと、ロンシャンは苦笑交じりに、


「えっと、この二人は成績が悪いので、これからは今まで以上に宿題を出すと、担任の先生に言われて……」


「はは、それは難儀だな……」


 さすがにジンタも苦笑するしかなかった。


 家に戻った後、ジンタはロンシャンとエルファスに学校で何を聞いたのか尋ねた。


 その中にミリアの名がないのは、完全に落ち込んで「不貞寝」すると言って、部屋に行ってしまった為だ。


 そして、他の住人である『召喚されし者』達は、あの獣人化の第二段階を見て興奮が収まらず、特訓と言って外に出て行ってしまい、イヨリだけは昼食の用意のため、キッチンで料理中だった。


「じゃあ、ロンシャン達はこれから一年強化魔法の他に、魔力アップやそれぞれに覚えたい魔法を教えてもらうのか」


「はい、そうなんですが……」


 答えるロンシャンは歯切れ悪くそこまで言い、


「ですが、言い方がおかしくて「まるで一年だけ教える」みたいな言い方だったんです」


「そうそう、それに校舎もなんか人の気配がないと言うか、人がほとんどいないような感じだったよね?」


 ロンシャンに続きエルファスも意見を口にする。


 確かに、集められたジンタ達以外、人を見かけなかったとジンタも思う。しかし、今日は入学式みたいなもんで、他の学年が居なかったのかも、とジンタは思っていたが、それもどうも怪しそうだった。


「なんか、色々と大変そうだなぁ」


 疲れたように溜息をつくジンタ。


 そんなジンタに、ロンシャンが思い出したように手を叩き、


「あ、そうそう、でも五日後に『召喚の儀』で新しい家族が増えるってことも言ってたよね?」


「うん、そう言ってたよね」


 二人は嬉しそうに語る。


「二人共、すごく嬉しそうだな、そんなに楽しみなんだ『召喚の儀』」


 嬉しそうな表情の二人にジンタが聞くと、


「それはそうですよ、だって――」


「だって、新しい家族が増えるんですよ、ねえロンシャンくん」


「うん、そうだよねエルファスちゃん」


 二人はまた顔を見合わせにこにことしている。


 二人の喜びように、ジンタもつい笑みになる。が、そこで一つの疑問が頭をもたげた。


「あ、あれ? そう言えばなんでミリアは俺を……、そもそもなんで、あんな緊急の状態で『召喚の儀』を使ったんだ? リゼットも雪目さんも松も、他の二度目に呼ばれた人達はみんな確か小学四年生の時だったって言ってなかったっけ?」


 ジンタがそう口にすると、ロンシャンとエルファスは少し困った顔で、


「それはミリアちゃんが四年生の時の『召喚の儀』を、絶対やらない、やりたくないって言い張って……」


「『召喚の儀』をやらない? なぜ?」


 意味が分からずジンタが首を傾げると、キッチンから出て来たイヨリが、


「あの子は、見ての通り魔法があんなだから、召喚に失敗したらどうしようって考えてしまって……、あの時は魔法を使うのが怖かったんです」


 イヨリがそう答えながら、手に持つクッキーと飲み物を置いていく。


「へ~、じゃあ俺を喚んだ時って相当必死だったんだな」


「そうですよ! あの時はほんとすっごく危なかったんですよ!」


 エルファスが思い出したのか、恐そうに身を震わせる。


「じゃあ、今回もミリアは――」


「今回はやるよ!」


 バンッと開かれた部屋へと続く通路の扉から、ミリアが現れた。


「あれミリアちゃん不貞寝は?」


 ロンシャンが聞くと、


「……寝れなかった。そしたら甘い匂いがしたから、こっちに来たの」


 鼻息荒くミリアは謎のガッツポーズ。


 ジンタの横に座るなり、ぱくぱくぱくっと三枚のクッキーを口に入れて、


「私だって魔法は使えるんだもん。だから今回の『召喚の儀』は、私やるからね」


 ミリアは言い切った。


「そっかぁ……じゃあ次はどんな人が家族になるんだろうなぁ」


 ジンタも、ロンシャンやエルファスのように、少し楽しそうに呟いた。

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