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反撃開始

 深く沈んだ水底のような闇の中で、ジンタは自分を呼ぶ声を聞いた。


 ――何だろう……。前にもなんかこんな声を聞いたような。


 懐かしいような、心地よい声音。

 それが心配しているように何度もジンタの耳に響く。


 ――ああ、俺この声知ってる。


 ジンタはホッと全身のチカラを抜いて目を開いた。ゆらゆら揺れる水底の闇の中、見つめる先に輝く温かい光が見えた。

 その光りには優しさと心配する心が感じられた。


 ――そうか……、そうだよな、俺、そろそろ戻らないとな。


 ジンタは自然に笑みをこぼし、ゆっくりと光に向かい身を浮かせ始めた。

 自分の居たい、居ないといけない場所に戻るために……。



 ゆっくりと目を開けた先には、ミリアの心配した顔があった。


「ジンさん大丈夫?」


 ギュッと握られる左手の感触に、ジンタは同じように左手をギュッと握り返す。

 握った手は温かく生きている事をジンタに実感させる。


「ああ、ごめん、――ほんとごめんなミリア」


 謝罪と安堵を大量に含んだ声でジンタはミリアに謝った。


「ううん、私は全然大丈夫だよ。それよりジンさんは痛くない? 辛くない?」


 後ろめたいジンタに、ミリアは心配そうな顔をグイッと近づけてくる。


「ああ、俺は全然大丈夫だから」


 ジンタも何とか笑顔を作り答える。


「ジンタさん、ほんとに大丈夫ですか?」


 ミリアとは反対、右側からイヨリがミリアと同じぐらい心配そうな顔で覗き込む。右手が少し痛いほど握られてる。それが返って心配の証なんだとジンタにも分かった。


「うん、イヨリにも心配掛けて、ほんとごめんな」


 軽く首を動かし、視線をイヨリに向けジンタはまた謝る。


「いえ、私もジンタさんを放って、ミリアや街の人を連れてくるのを優先してしまって、ほんとすいません」


 申し訳なさそうに目をギュッと瞑り、謝るイヨリ。


「そっかぁ、イヨリはちゃんとみんなを助けてここに来れたのか……、さすがだな……」


 ジンタの脳裏に、助けられなかったあの二人の家族の姿が思い浮かぶ。


「そんなこと……ないですよ……、ジンタさんだって精一杯頑張りました」


 ジンタの言葉に何かを汲み取ったのか、イヨリは優しさに満ちた声で答える。

 左側ではミリアも、目一杯に涙を浮かべ頷いている。


 きっとミトから経緯いきさつを聞いているのだろう。

 ジンタは二人の心配する心と優しい心に満ちた言葉に、同じぐらいの感謝の心と謝罪の心を込めて「――ありがとう」ともう一度口にした。


 二人は口には出さず、深く何度も頷いてくれた。


「まったく、わたくしが腕の一本でもへし折ってやると言えば、気を失い返ってきた時には、もうへし折れているんですから、本当に一体どういう嫌がらせですの?」


 イヨリのさらに上から、見下ろしながらリカが呆れたように首を振るのが見えた。

 口ではそう言っているが、表情は安堵しているように優しい笑みが浮かんでいる。


「ジンタさん大丈夫ですか?」

「ジンタさん、まだ痛むところは?」


 ミリアの左右からエルファスとロンシャンも顔を出す。


「ジンタ、目、覚めたか?」


 ジンタの真上からリゼットが覗き込み、


「ジンタさん、添い寝は必要そうです?」


 雪目がリゼットの横から唇を突き出し、顔を近づけてくる。


 そんな雪目の顔を横から押し退け、


「おいおい、目を覚ましたばっかなんだ、あんまり一気に話掛けるなよ」


 ミトがにっと笑い、顔を見せる。


「ありがとう、みんな」


 ジンタは目尻からこぼれ落ちる涙をそのままに、優しい言葉と気持ちを向けてくれたみんなに、震え掠れる声で精一杯の感謝を込めてお礼の言葉を口にした。


 涙を溢し、エッグエッグと嗚咽するジンタをみんなが笑う。


「まったく君というヤツは、なぜこうも色々と面倒を起こしてばっかりなんだ」


 保健医が眼鏡をクイッと持ち上げジンタを覗き込んだ。


「そいつは悪かったな」


 鼻をしゃくり上げつつ、悪態には悪態で答えるジンタ。


「さて、一応君の傷はすべて直したが、調子はどうだ?」


 ジンタの右側にいるイヨリが場所を空けると、保健医はそこにドカリと座る。


「どうって、ちょっと血を多く失ったせいかな、寝てればよくなると思うけど……」


「ふむ、まあ三日も安静にして、よく寝てよく食べれば血も戻るだろうから、すぐ良くなるだろう」


「そうだな」


 ジンタも頷くが、


「では、君はこのままここに残ると言うことで良いかな?」


 もう一度保健医は眼鏡をクイッと持ち上げ、意味不明なことを言った。


「は??」


「いや、だからだな、君はロンシャンやエルファス、そしてリゼットくんと一緒にこの食堂で待っているということでいいよな、と聞いたんだが?」


「どういう意味だ?」


 今の保健医の言葉の中に、ミリアの名前がないことに疑問が募り、ジンタが不安を込めた言葉で聞き返す。


「決まっているだろう。この騒ぎの元凶をこれから我々が倒しにいくつもりなんだよ」


 保健医は珍しく大真面目な顔でそう告げた。




「つまり、あんたはこの騒ぎの原因であるモンスターを倒さないと、もっと大変なことが起こると?」


「まあ、そういうことだな」


 ジンタの右手には今注射針が刺さっている、そして真っ赤な血の入った五〇〇㎖ぐらいの瓶を持ち上げ、ジンタに輸血をしている保健医が答えた。


「そうか、じゃあやっぱ俺も行くぞ」


「うむ、それはさっきも聞いたよ、だからこうして輸血をしているんだろう?」


「そっか……」


 瓶からチューブを通りジンタの中へと血が入って行くのを、みんな同様にジンタも見つめながら、


「ところで、これって誰の血だ?」


 ふと思い出したように疑問を口にする。


「君はバカか? そんなの決まってるだろう、君以外に一体誰の血を大事な実験体に輸血すると思う?」


 呆れた素振りをしながら保健医。


「つまり、これは俺の血なのか?」


「ああ、そうだ。正確には君と初めてあった時に、少し拝借した血の一部だ」


「ちょっと待て……」


「なんだね?」


「始めて会った時って、確か俺とあんたが初めて会ったのは俺が左腕を失って血がドバドバ出てるのを、雪目さんに凍らしてもらった時じゃなかったか?」


「ああ、そうだな」


「それで、これだけの血を抜いたのか?」


「何を言ってる? この程度な訳ないだろ?」


 保健医は横に置かれたバッグの中をジンタに見せる。


 そこには今保健医が持ち上げている瓶とまったく同じサイズの瓶があと二つあり、しかもどっちも並々と血が入っている。


「おい、お前これ全部……」


「ああ、約一年前のあの時に採ったモノだが?」


「マジかッ! こんなにかよっ! しかも一年前ってこれ使えるのか?」


「ふっ安心しろ。この瓶は魔法の瓶だ。中に入ったモノは時間が停止する」


「それってつまり?」


「つまり、今こうして君の中に戻っている血は採ったのは一年前だが、採ったばかりの新鮮そのものということだ」


「そ、そうか……、――――ってお前あの時本気で俺を殺す気だったのかッ!」


「迷っている、そう言っただろうあの時」


 キョトンとした顔の保健医に、ジンタの左手はワナワナと震えたが、


「ま、結果自分に輸血出来るんだからいいか」


 無駄に疲れたとばかりにジンタはチカラを抜く。


「うむ、しかしこれで私の在庫が減ったのだ、今回の件が終わって君が元気になったら、また二本分もらおうか」


「なぜ一本増えてる?」


「利子、ということで」


「盗んでおいてか?」


「そこは、私と君の仲だろう?」


「出会った時、俺気を失ってたよねっ!」


「はて? 最近記憶が曖昧になる時があってな」


「……胸なし眼鏡」


 ゴンッ!


 ボソッと呟いたジンタのおでこに、鋭いゲンコツが直撃した。


「さて、これでいいだろ」


 輸血が終わり、保健医はジンタの腕から針を抜き取る。


 ゆっくりと上体を起こしたジンタは、まずは軽く両手をグッパッと握ったり開いたりする。

 そして体を左右に軽く捻ったりと柔軟を始めた。


 それを見ていた保健医が、一応尋ねる。


「どんな感じだ?」


「うん、これなら十分いけそうだ」


 最後に「よっ」と軽く声を出し、ジンタは勢いよく立ち上がった。


 あまりに勢いよく立ち上がったせいか、多少の目眩に上体が揺れるが、即座に支えてくれたロンシャンのおかげで何とか助かった。


「いくら、今血を戻したといっても、もう少しゆっくりと休め」


 言いながら立ち上がった保健医は、手の空いている教師にバッグを渡し、別のバッグと杖を受け取る。


「それはなんだ?」


 また怪しげなモノを持ってきたのでは? とジンタは疑いの目を向ける。


「決まっているだろう? 相手がまだ分からないと言ったが、それでもいくつかの予想は立てているんだ。当然、それに対する準備の品と、私の魔法の媒介であるこの杖がないと私のヒールだっていつものようなキレが出ないではないか」


 保健医は受け取ったバッグを肩から担ぎ、右手に持った自身の肩ほどまでの長さの杖、その大きく曲がり歪な円を描くような上部をジンタに突き付けた。


「ほ~、これが魔法の杖か?」


 魔法の媒介としてなら、ジンタもミリア達マスターが持つ指輪と同じモノを左手の小指にはめている。

 魔力を効率よく動かし発動させるための変換機らしく、確かにこの手の媒介がないとジンタも魔法をうまく使うのは難しい。


「へ~、やっぱ普通に指輪だけじゃなくてそんな杖もあるのかぁ~」


 ファンタジーにはおなじみの魔法の杖を目の当たりにして、ジンタはまじまじと向けられた古ぼけ乾いた杖を見た。

 そんなジンタの隣では、ジンタ以上に興味を持ちまじまじと杖を見るロンシャンがいる。


「これは、ヒールに特化した杖みたいですね」


 杖に施された文字を読み、その配列を理解しながらロンシャンが言えば、


「ほぉ~、君はそこまで分かるのか」


 校長でもある保健医は感心して頷く。


「一応、図書室の本で読んだことがあります、一般的に僕らが今使っているこの媒介の指輪はすべての魔法に対し均等に力を発揮しますが、特化された媒介の品は、その特化に対しより優れた効果を発揮する代わりに、それ以外に対する効果はかなり落ちると」


「ふむ、よく理解しているな、その通りだ。これはその中でヒールに特化された杖でな、私の相棒とも呼べる大事な杖だ」


「じゃああんたがヒールを得意としてるのは、この杖の恩恵あってのものなのか?」


 ジンタが、ちょんちょんと杖を触る。


「君は失敬だな、順序が逆だ。それでは私がこの杖のおかげでヒールが他の人よりうまいと言ってるように聞こえるではないか。――実際効果の上乗せはされるが、わたしがヒールを得意とするからこそ、この杖を私が選んだのだ」


 ジンタの前から杖を遠ざけ、保健医はまるで駄々っ子のようにジンタに顔を突き付けた。


 そこに美味しそうな匂いを漂わせ、ミリアがシチューの入ったカップを持って来た。


「ジンさんこれ飲んでってイヨリが」


 渡されたカップには並々とシチューが注がれ、温かそうに湯気を立ち上らせていた。


「ありがとうミリア」


 見るからに美味しそうなシチューを、フーフーと息を吹きかけ冷まし、ゆっくりと口の中に入れていく。


 濃厚な味が口の中に広がり、喉を通るとその美味しさと暖かさが体全体に流れて広がる。

 並々と注がれているシチューのカップを飲み終えた頃、ちょうどイヨリも戻ってきた。


「ご馳走様」


 そう声を掛けると、イヨリはにっこりと微笑み、


「いいえ、お粗末様です」


 ぺこりと頭を下げ、返した。


「さて、そろそろですわね」


 ジンタ同様にシチューを飲み終えたリカが言えば、


「ああ、準備万端だぜ」


 同じく飲み終えたミトが、跳ねるように立ち上がる。


「もう少しだけお待ちを……」


 雪女であり超の付く猫舌の雪目が、今だにシチューに悪戦苦闘しながら答える。


 ジンタはまずイヨリに目を向ける、イヨリはゆっくりと頷いた。

 それからミリアを見て、


「本当にミリアも行くのか? 何だったらエルファスやロンシャンと一緒にここに残っても――」


 しゃべるジンタを待ったと止めるように右手を突き出し、ミリアは答える。


「わたしだって、今回のことには頭にきてるんだよ。エルちゃんやロンシャンくんに辛い思いをさせて、それにジンさんだって……、だからわたしも一緒に行って戦うよっ!」


 確固たる意志の現れのように、グッと胸元で両手を握りしめて、ミリアは「ふんっ!」と鼻息を荒くさせる。


「でも、かなり危険なんだぞ?」


「それでもイヨリやジンさんと一緒にいる方がいいよ、ここで待ってる方がわたしは辛いよ」


 何の迷いもなくそう答えるミリアに、ジンタは改めて頭が下がる思いをした。


 ――そうか、そうだよな。待ってるだけはつらいよな……。


 ジンタはゆっくりと頷き、意気込むミリアの頭に優しく手を置き、ミリアの隣に立つイヨリに再度目を向ける。


 イヨリは分かっていますと言うように、無言でまた頷き返してきた。

 ジンタは、イヨリの頷きを笑みで返し、


 ――この二人だけは絶対に俺が守る。


 そう心に決める。


 この中では一番弱く、傍から見れば自分が守られる側だろうが、それでもジンタは固く心に決める。


「おぉ、お前達まだ居たか」


 ゴツイ体を器用に動かし、避難してきた人達をかいくぐるりやって来た武器屋のオヤジが姿を見せる。


「オヤジさん無事だったんだ」


 一応みんなから無事だと聞かされてはいたが、こうして直に見るとやはりホッとする。


「ああ、すまんな。本当はすぐお前のところに来たかったんだが、なんせ道具屋の婆さんや他の奴の手伝いもしててな、遅くなった」


 スキンヘッドに巻かれたタオルをとり頭を拭いた後、ポリポリと拭いた頭を掻く。


「いや、本当に良かった。無事で……」


 心底ホッとしたジンタがそう呟く。


「お前も無事で何よりだ」


 武器屋のオヤジはにっと笑う。


「それよりお前達――」


 続けざまにオヤジが口を開きかけた時、食堂の入り口にいくつかの悲鳴が響いた。


 食堂の入り口を見れば、数匹のモンスターの姿が見えた。


「来ましたわね」

「行くぜ」


 リカとミトがそれぞれに獣人化し、入り口に向け歩き出す。


「ちょ――っと待った」


 意気揚々な二人を呼び止める声が響く。


 見れば、松が鼻下をゴシゴシと人差し指で擦り、獣人化し立っている。


「こ、ここは私達にお任せ下さい」


 松の隣に立つ竹も鉄の槍を抱えるように持ち、宣言する。


「そうですわ。皆さんはこれから戦いの場に向かうのですから、せめてここを守るのは私達におまかせくださいですですわ」


 二人の間に立ち、ベンジャミンが扇子を口元に当てる。


「うん、ベンジャミンの言う通り、僕も手伝うよ」


 ロンシャンが松と竹にそれぞれ強化魔法を掛ける。


「……ロンシャン様」


 自分の主の凜々しさに、感無量のリカ。


「わ、私も手伝うよ」


 エルファスも、少し怖々としながらロンシャンに続く。


「おいエルファス、無理はするなよ」


 心配しながらも優しくミトが声を掛ける。


「そうですよエルちゃん。いつでも危ないと思ったら奥に逃げてくださいね」


 雪目が心配そうに続ける。


「大丈夫、みんなはこのリゼットが守るよっ!」


 口の周りにシチューを付けたリゼットが豪語するも、


(それが一番不安だ……)


 と、目で訴える全員。


 松と竹を先頭に、中間にリゼット、後方からロンシャンが強化魔法を、傷を負えばエルファスがヒールをし入り口で奮闘を始めた。


 その松達の戦いに呼応するように、入り口付近では数人の獣人化した『召喚されし者』が、食堂の入り口に立ち、モンスターを相手に戦いを始めた。


 直接攻撃に適さないタイプの『召喚されし者』は前線とマスターの間、リゼットと同じ位置に立ち、フォローとマスターの守りに入る。


 エルフの若木である小学生のマスター達はさらに距離をとり、ケガをした者にヒールを掛ける。


「なんとかなりそうですわね」


「ああ、今のところは、な」


 食堂の入り口、その先頭に立ちモンスターを攻撃する松と、一歩後ろに引き松の視界の外を守るようにして戦う竹を見ながらリカとミトが頷き合う。


「それでも、あれでは一時凌ぎにしかならんがな」


 保健医が抑揚なく真実を告げる。


「そうですね、実際今は先生方の結界のおかげでなんとか相手の威圧的な魔力を押さえていますけど、それも……」


 イヨリの呟く言葉に、何日も結界を維持していられるものではないと、誰しもが分かっていた。


「だったらわたし達でサッサとこの元凶を倒しちゃおうよっ!」


 ミリアがチカラ強く声を張り上げる。


 全員が驚いたように目を見開き、互いに目を向け合った後、クスクスと笑いあった。


 笑うみんなに、馬鹿にされたと思い唇を尖らせるミリア、その頭にポンと手を置き、


「そうだな、さっさと終わらせてこようミリア」


 ジンタがみんなを代表して優しく答える。


「さって、じゃあそろそろ――」

「おい、ジンタ少し待て」


 全員に声を掛けようとしたジンタを、武器屋のオヤジが再度呼び止める。


「何、オヤジさん?」


 ジンタ以外のみんなもオヤジに注目する。


「い、いや、別に今のままでもいいのかも知れねえけどよ。実はお前のその盾、それの改良版を倉庫に置いてあるんだ。手入れに来た時にと思ってたんだが、あんなことがあってつい言いそびれてしまってな」


 すまねえ、と言いオヤジが畏まる。


「俺の盾の改良版って?」


 ジンタは自身の左手に持つ反りのない鉄板に取っ手を付けただけのような五角形の気持ち小さめの盾を見た。


「それは説明するより見た方が早いだろうな。それにさっき俺も話を聞いたが、こっちの先生が相手に心当たりがあるんだろ? だったら有効な武器や道具もなんかあるだろ。もし武器屋の倉庫にそういうのがあるんなら、何でも持っていくといい」


「え! 何でも!」


 ミリアが目を輝かせ飛びついた。


 チカラのない、まだ小さいミリアが扱える武器などハッキリ言ってないに等しいのだが、どうも「なんでも」という言葉に過剰な反応を示したようだ。


「ああ、ほとんどの武器や防具はちゃんと手入れされてるはずだから、切れ味や耐久性は保証するぜ」


 オヤジはぐっと親指を立てる。


「それは、お心遣い感謝します」


 普段の保健医を知っている分、その謙虚で丁重な言葉遣いにジンタは思わず保健医のおでこに手を当てた。


「熱はないみたいだな?」


 心配そうな顔のジンタに、保健医は平目で言い放つ。


「君は私をどんなだと思ってるんだ……」


「マッドサイエンティスト」

「頭のおかしい人」

「大人としてダメな人」

「暇な人」

「幸せになれない人」

「胸がない人」


 イヨリ、ミト、ミリア、リカ、雪目、ジンタの順で言っていく。当然最後に言ったジンタにはゲンコツが見舞われた。


「まあ、君達の私に対する認識がそうなんだと分かったが、こう見えて私は常識人なんだ。ちゃんとした挨拶ぐらい出来る!」


 豪語する保健医だったが、それでも普段を知ってるジンタ達には疑いの眼差ししか向けることが出来なかった。


「どっちにしても俺の所の倉庫にあるもんは何でも使ってくれ」


 オヤジは笑いながらも真剣な眼差しを全員向け、


「そして、こんなことする奴を倒して来てくれ」


 深く頭を下げた。


 深々と頭を下げるオヤジの左右を、リカとミトは何事もないように歩いて行く。通り過ぎ際、オヤジのゴツイ肩にポンと軽く手を置いて。


 次にイヨリとミリアが、そして保健医と雪目が、最後にジンタがオヤジの右肩を叩き、


「じゃあ行って来るよ、オヤジさん」


 軽い感じに声を掛け、未だ戦闘中の食堂の入り口に向け全員が歩きだした。

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