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危ない女とギャップ

「雪目っ! ジンタさんはあなたのものじゃないよ」

「ジンさん! がんばって死なないで!」

「雪目っ! ジンタから離れろっ!」

「とりあえず早く雪目をジンタ片引き剥がせっ!」


 まるでタコの吸盤の如くジンタの体に纏わり付き押し倒し、おばさんは荒い息遣いと頬ずりをジンタの胸元でくり返す。


 しかも、口からうわごとのように「もう離さないわ、私のダーリン」とか、「これからはずっと一緒よ」などと愛の言葉のような呪いの呪文を唱えている。


 しかもそのおばさんは、ただ寒い呪いの言葉を発するだけではなく、実際に背筋に悪寒が走るほど冷たい。かれこれ数分その状態なのだが、ジンタの体は自由が徐々に奪われていった。


 ジンタがおばさんに開放されたのは、それからさらに五分ほどして、ミリア達四人が必死に引き剥がし、最後には獣人化したミトが全力でおばさんの腹を蹴り上げ遠ざけた。

 それでもめげずにおばさんは、ジンタの手を掴もうと必死に這い近寄ってきたが……。


 ここに来て何度目の休憩だろう、ジンタは凍える体をさすり何とか体温を戻していく。

 ジンタの前にミトとリゼット、そしてミリアとエルファスが壁となり、その外に雪目と呼ばれたおばさんが正座していた。


「ええ、ですから私もあの光に晒され、床がなくなり落ちたような感覚を味わって、目が覚めたらこの部屋にいたんです。そしてこれは私に対する神様からのプレゼントで、きっと王子様が私を迎えに来てくれると信じて、ずっと扉の前で待っていました。キス顔で……」


 淡々と話される中でも、雪目の死んだ魚のような目はジンタをロックオンしている。

 ジンタもあまり見たくはないが、つい恐いもの見たさで目がそちらへと向いてしまう。


 真っ黒でボッサボサの長い髪、血行の悪そうな青白い顔。しかも、目の下の濃いクマとゲッソリ欠けた頬が不健康さを加速させているようなおばさんに見える。さらに着ている服はほつれや汚れが目立つ、黒のゴスロリ風の服だし。


「えっと雪目さん、でしたっけ?」

「はいッ‼」


 生理的には嫌だったが、一応挨拶をとジンタが声を掛けた瞬間、雪目は瞬間移動のようにリゼットとミトの首を押し退け、ジンタの前へと顔を近づけてくる。


「ひ、ひいぃぃぃぃ――――っ!」


 ジンタが情けない悲鳴を上げ壁にへばり付き、押し退けられたミトとリゼットが雪目を目一杯押し返す。


「とりあえず、雪目っ! こいつはジンタだ。ミリアの新しい召喚されし者でミリアの家族なんだ。変な事するなよ?」

「私とジンタさんも愛を育んでも?」


「「ダメッ!」」


 ミリアとエルファスがきっぱりと拒絶。


「そんなぁ……」


 ガッカリしている雪目をよそ目に、エルファスがジンタに謝る。


「すいません雪目は結婚とか恋愛に飢えていて、この世界の男性はすごく少ないから、男性を見るとちょっと見境がなくなるんです」

「男性が少ない? それってゲームでも……。もしかして十人に一人ぐらいとか?」


 ジンタは我に返り、エルファスに問い返す。


「いえ、実際はもっと低いと思います」


 エルファスは、少し考えてそう答える。


「そんな情報までゲームと一緒って……」


 『リリフォリア』という世界の名前、『階層世界』『男が少ない』『獣人化』そこまで一緒なこの世界にジンタは今いる。やはり偶然とは思えなかった。


 ――まあ、ゲーム機の中に引き摺り込まれたんだから……、やっぱ。


「どうしました?」


 考え込むジンタの目の前に、雪目の顔がドアップで現れる。


「う、うわあああっ!」


 再度、壁に張り付くジンタにさらにすり寄ろうとする雪目を、ミトがゲンコツして止める。


「ほんっと雪目ヤメロって。今は早く他のみんなと合流することを考えないといけないんだからなっ」


 どうやらジンタが考え込んでる間に、話は進み、移動を開始するようだった。


 雪目を加えたジンタ一行はさらに三部屋を進んだ。


 途中、雪目の獣人化を見たが、その変貌ぶりにジンタは驚かされた。

 どう見ても三十後半のくたびれたおばさんの雪目が、種族雪女である獣人化をすると、ボサボサの真っ黒い髪が真っ白のサラサラロングヘアーへとなり、不健康な青白い肌は妖艶で透き通る肌へ、そして死んだ魚のような目やとんでもなく目立つクマや頬のやつれが見えた顔が、思わず見とれてしまうほど鋭くも魅力的な切れ長の目と整った顔立ちへと変わった。しかも衣装も汚いゴスロリ風の服から白い綺麗な着物姿となり、体の周りをキラキラと雪の結晶が舞う。どう見ても二十才ほどの美女にしか見えなくなったのだ。


 雪目は手から氷の塊や吹雪を吹き付け、相手を凍らせたり動きを封じたりして攻撃にも補助にもなる戦い方をしていく感じだった。

 ジンタも雪女は当然知っていた。昔話でもゲームでも相手にしたが、しかしどう見ても雪目のそれはゲーム以上の変わりようだった。


「いや~、なんかさ雪目さん、あの姿のままならすぐ結婚相手見つかるんじゃない?」


 ジンタが隣に立つエルファスに呆気にとられながら言うと、


「うん、私もそう思うんですけど、雪目が言うにはあの姿をしているだけでも、雪目の場合はかなり疲れるみたいで……」

「へ~、獣人化って疲れるんだ?」

「みたいですよ? ミト達はあんまりそんなでもないって言いますけど、普段は人の格好していますしね」

「確かに、それもそうだよなぁ……」


 妙に納得したジンタだった。


 そして何気なく開けた次の部屋の扉の前で、ジンタは恐ろしいモノを見、恐ろしい予感を感じた。


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