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獣人化と階層の端と

「ジンタ大丈夫か?」


 ミトが見下ろすように、地面で突っ伏すジンタに声を掛けた。


「ハァハァハァ――――」


 対するジンタは返事もままならないほど息を切らせ、肩を上下させていた。


 ――思い返すこと二十分前。


 遊びに行こうとミコを誘いに来た同じ年頃の二人の少女に対し、ジンタがお世話になりっぱなしでは悪いと、朝食以降のゆっくりとしたくつろぎの中、どれどれ一緒に遊んでやろうと言ったのが原因だった。


 ミコ達三人と一緒に外に出た後、じゃあ鬼ごっこをやろうとなりジンタが鬼を名乗りでたのだった。


 そこまでは良かった……、がジンタが十を数えている間にミコを含めミコと同じ年頃の二人までも獣人化し逃げたのだ。


 それからは言うまでもなく、種族アルミラージの能力を持った三人の子供にスピードで圧倒、翻弄された挙げ句二十分の間走り回り、誰一人触れずジンタは地面に突っ伏すこととなったのだ。


「お前なぁ……、いくら四才児でもあいつら獣人化出来るんだから、普通に捕まえられるわけないだろ……」


 しゃがみ、呆れたように両手で頬杖をしたミトが、ジンタを覗き込む。


「ま、まさか、あの年でもこんだけの能力があるなんて……」


「まっ、おれだったらあれくらいすぐ捕まえられるけどな」


「……言ったな、じゃあ見せてもらおうか」


 ゴロンと仰向けになりジンタが言うと、ミトはへへへと鼻下を擦り立ち上がる。


「お――い。このお兄ちゃんに変わって、おれが鬼やってやるぞ~~」


 遠巻きに、倒れたジンタを見ていた三人の子供がワーキャー叫び、逃げ出していく。

 それをミトは獣人化し、追い掛ける。


「よっ! ほっ! はっ! とっ!」


 逃げる子供達を見事なステップで追い詰め、三人を抱き抱え戻って来るミト。


「ま、ざっとこんなもんだぜ」


 したり顔で、ミトが抱えた三人を地面に下ろす。


「……ほんとすごいな」


 改めて、獣人化アルミラージの素早さに感心しながら、何とか息が落ち着いたジンタも上体を起こす。


 ミコと二人の少女はまだ遊び足りないのか、キャッキャッとはしゃぎながら辺りをピョンピョンと飛び走り回っている。


「しっかし、同じ種族の獣人化と言っても、やっぱ色々と違うんだな」


 遊び回る三人、同じ種族の三人だが、獣人化した姿はそれぞれに違う。


 ミコはミト同様に、下半身をウサギのように獣人化させているのに対し、一人の少女は両手両足の肘と膝までを茶色の毛並みのアルミラージの手足へと変えている、もっともその手足も、ミコやミトのように完全なウサギのような形ではなく、まるでコスプレのように人の手足のまま、形だけをウサギにした感じだ。もう一人の少女に至っては、イヨリやリカ同様に、両腕の付け根までを白く変化させている。もっとも、人のままの足でも十分速いが、それでもミコや両手足の少女には追いつけないようだった。


「そうだな、特性で言うとおれやミコは完全にスピード特化、そしてあの両手両足の変化している子はバランス型、あの両手の子はさしずめパワー型かな?」


「ほ~~、パワー型ってやっぱイヨリやリカさんのように?」


「あそこまでのパワーは種族的に見てさすがにないけど、スピードはあの二人よりももっとあるかな」


 アゴ下に指を置きミトが答える。

 見ていると、確かに両手を振るう際の動きが異常に早い。まるで一瞬消えているかのように。


「ほんとだ……」


「なっ」


 何度目かの感心をするジンタにミトが笑む。


「ちなみに、獣人化って自分の意思で変身箇所を変えられるのか?」


 驚き次いでに、何となくの思いつきを口にするジンタ。


「ん~~? それってどういう意味だ?」


 ミトが意味が分からず困ったように首を傾げる。


「ああ、言い方悪かったかな? えっと、例えばミトは下半身で変身してるけど、それをあそこの二人のように両手や手足に変えることが出来るのかってこと」


「はぁ? そんなの出来るわけないだろ?」


「ほ~~、やっぱそうなのか……」


「当たり前だろ、もしそれが出来たら――」


 そこまで言ったミトが言葉を止めた。

 その表情は何かを考え込んでいるようだった。


「どうした?」


 ジンタが心配になり声を掛けると、


「いや、なんかそんなこと考えたこともなくってさ、いっちょ試してみるかなって」


「お? やってみる?」


「おう!」


 返事を返すなりミトは立ち上がり獣人化する。それから一度目を瞑り、獣人化を解き大きく深呼吸をして、眉間を寄せ、見るからに集中する。


「む、むむむ……」


 呻くようなミトの声を聞くと、ジンタまでチカラが入る。


 ――そして十数秒。


「ぷはぁ~~」


 ミトが力尽きたように溜まった息を吐き出すと、見守っていたジンタまで息を止めていたせいか、大きく息を吐き出した。


「やっぱ無理そうか?」


「うん、どうしていいのかさっぱりだ」


 ジンタの横に疲れたミトが腰を下ろす。


「きっかけ、かぁ……」


「そう言うのもあるんだろうけど、おれ達も気付いたら獣人化出来ていたからさ、そのコツとか感覚っていうのがそもそも分からないというか……、やっぱ無理なんじゃね?」


 説明するのも難しそうにミトが言う。


「なるほどなぁ……、まあ思いついただけで言っただけだからな、俺も」


 地面に座ったまま手足を伸ばし、ジンタは良く晴れた冬の青空を見上げる。


「そもそも、一番最初に獣人化した時から、獣人化ってその箇所なのか?」


「そうだぜ、一応言われているのが、自分にとって一番望んでいる形になるって話だけど」


「自分が一番望む?」


 くり返すジンタにミトは、ああと頷き、


「例えば、速く走りたいとか、チカラを付けたいとか、両方ほしいとか、獣人化する前の幼心に強く願った形に獣人化するって小さい頃、聞いた記憶があるけどな」


「ほーほー」


「なんだよ、その生返事は」


 ジト目で見てくるミトに、


「つまり、ミトは速く走りたいと願ったわけか?」


「まあ、そうだろうな。――ってか今でもそうだけどな」


 二カッとミトは笑みを向けてくる。


「なるほどな」


 ジンタも頷き返す、それからゴロンと地面に横になり、はしゃぐミコ達とは反対側、背中側方向に視線を向ける。景色のすべてが逆さになる。


 地面が上に、空が下に映る中、視界の中では木々があり、山があり、あばら家が見える。そんな色々映る視界の一番中心、普通であれば永遠と続く空と、山々の境界に位置するだろう空の箇所にカーテンのような七色の光、オーロラが輝きを放ち視界をそこでせき止めている。


「なあミト」


 オーロラを見ながら呟くジンタ。


「なんだ」


 ジンタを見て、ジンタの視線の先へとミトも目を向ける。


「あのオーロラって……」


「あれは階層のはしだよ」


「はし?」


「ああ、つまりこの第一階層の行き止まりだな」


「……行き……止まり?」


 再度、呟きを繰り返し、ジンタはオーロラを見続ける。


 そんな時、ふと、ジンタの脳裏にミトが見せてくれた大きな丸の真ん中に点一つと、円の右端にもう一つの点があるだけだった地図が思い浮かぶ。


 よくよく考えればあまりにも簡素すぎるイタズラのような地図だったため、かえって不審に思うこともなく見過ごしていたが、あの円がまさにこの世界リリフォリアの第一階層の本当の形だとしたら、とジンタは考える。


「そう言えばミトさ、あの役所からもらってきた地図、あの円の形がこの第一階層の形なのか?」


「んん? さあ……。おれもこの世界の形になんて興味ないからな。というか考えたこともないからなぁ」


「そっかぁ……」


 確かにそうだ、ミト自身十才でエルファスに喚ばれ、以降エルファスと共に生きてきた中で、この第一階層の端を歩いて調べるなんて思い至るはずもない。

 そう結論がでると、今度は別の疑問がジンタの頭に持ち上がる。


「じゃああのオーロラの先はどうなってるんだ?」


「それも……なぁ……。おれもさ、あの端の近くまで行ったことないんだよなぁ~~」


「なぜ?」


「昔っからさ、集落でもあそこにはあまり近づいたらダメだって言われてて、あそこの先は真っ暗な世界が広がっていて、あまり近づくと引き込まれて存在すべてが消滅してしまうって言われててさぁ」


「消滅?」


 ブラックホールのようなモノか、と思いつつジンタは再度オーロラを見つめた。


「そんなにあそこが気になるなら、もう少しあそこがよく見えるところまで行ってきたらどうだい」


 突然の足元からの声に、ジンタが頭を持ち上げる。

 そこにはトミがいた。


「トミさん」


「あらやだ、お母さんでもお前でもいいのに」


 恥ずかしげに両頬を両手で挟み、いやんいやんと首を振るトミに、


「いい加減にしろって母ちゃん!」


 頬を引き攣らせたミトが立ち上がる。


「あらあら、ヤキモチかしら?」


「な、何お~~っ」


 語尾を怪しく発音させ、ミトがトミに突っかかっていく。


「はいはい、とりあえずジンタさんもお前も昨日までの長旅で疲れてるんだろ?」


「はぁ? だからなんだよ?」


「この集落で疲れをとる時に行くところなんて一つだけだろ? ついでにここよりもあの階層の端がよく見える位置なんだから一石二鳥だろ?」


「はあっ? あそこってあそこのことか?」


 ミトの顔が赤く染まっていく。


「あそこ以外どこがあるんだい?」


「いや、だってあそこは……」


「お昼食べてすぐ行けば、夕食までには戻ってこれるだろ?」


「そ、そりゃあ、そうだけど……」


 耳まで真っ赤にさせミトが俯く。


「だったら行っといで。お前達は明日の朝にはこの集落を出ていかないと行けないんだし、ね」


 母親トミの言葉に、さっきまで顔を真っ赤にしていたミトの表情がガラッと変わる。


「は? 何言ってんだよ母ちゃん、おれ達はまだ――」


「あんたこそ何言ってるんだい。あんたが今、側にいないといけない人がいるのは、この場所じゃないだろ? 間違うんじゃないよ」


「そ、それは……」


 母親のまったくの正論に、ミトは言葉を失い唇を噛む。


「さあ、それが分かったらさっさとお昼を食べて、ジンタさんと一緒に疲れを癒やしておいで」


 俯くミトの頭をポンポンと優しく叩き、トミは家へと戻っていく。


「…………ミト」


 親子二人のやり取りを黙って見ていたジンタは、何と声を掛けて良いのか分からず、ただミトの名を呟いた。


「あ、いや、大丈夫だって! さってじゃあ明日の朝ここを出ていくんだから、早く飯食って疲れを洗い流しに行こうぜ」


 ジンタから見てもカラ元気だと分かるように、両腕をグルグル回しながらミトは家へと戻っていく。

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