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ラペンでは~お茶会

「この紅茶の匂いがなかなか何ですのよ」


 冬の晴れた昼下がり、リカの満足そうな声が響く。


「ほ、本当ですねぇ~~」

「うん、本当? だなぁ~~……」

「お、おおお、おい、おいしいですわです」


 ほぅっと紅茶の香りに満足顔の竹と、顔全体で「何が?」と訴えながらもとりあえず頷いている松、そして緊張のあまり四つの縦巻きロールがいつも以上にキツく丸まり、紅茶を持つ手が震え、中身が溢れているベンジャミンの三人が、ジンタの住む家のリビングに居た。


「で、でも、本当にリカさんからお茶会にお呼び頂けるなんて……」


 一口紅茶を啜り、竹が言えば、


「あら、わたくしがそんな口だけの女に見えまして?」


 同じように一口を口に含んだ後、リカが答える。


「い、いえ、で、でも、私とリカさんでは、その、色々と違うんじゃないかと思ってましたから……」


「違う? 何がです?」


 ソファーに向かい合う形で座っているリカと三人。


「まあ、竹が言いたい事もわかるぜ? なんつーかおれっち達より、リカさんはしゃべりも態度も上品っていうかさ~」


 一応松本人にしてはえらく丁寧に、しかしどうしても丁寧にはなりきれず、頭を掻きつつ言う。


「そ、そそそ、そうですわ、り、りり、リリリ、リカ様は私達と違ってもっと上品な方なんですわ」


 カップの中身半分を震えで溢しているベンジャミンが必死に引き攣る顔に笑みを貼り付けている。


「そうですか? 私は十分普通に接しているつもりなんですのに――」


 困りましたわね、と呟き、溜息を一つするリカ。


 そこでガチャリと玄関の扉が開く。


「たっだいま~~~~」

「ただいま~~~~」

「帰りました」

「帰ったぞ~~~~」


 それぞれの言葉でドタドタとリビングへと入ってくるミリアとエルファス、ロンシャンとリゼットの四人。


「お帰りなさいですわ」


 平然と答えるリカに対し、入って来たミリア達に背を向け、正面にリカを見る形で固まっているベンジャミンと松と竹。


 四人はそのままドカドカとテーブルに近づき、


「あ~~お腹減ったよぉ~」

「クッキーあるよ、ミリアちゃん」

「リカ、クッキー食べてもいい?」

「リカいいか?」

「良いですが、先に手を洗ってきてくださいな」


 四人にそう答えるリカ。


「「「「は――――い」」」」


 今度も入って来た時同様、ドタドタとキッチンの方へと走っていく四人。

 入り口に背を向けて座っていた状態のベンジャミン達に見向きもせずに。


「あ、あの、な、なぜミリア様とエルファス様が……?」


 一度三人で目を合わせた後、代表するように竹が尋ねる。


「なぜってそんなこと当然ですわ。ここはミリア様のお家ですから、帰ってきて当然じゃないですか」


 しれっとリカが答える。


「え? ここってリカ様やロンシャン様のお家では……」


 さっきまでの震えが、驚きによって止まったベンジャミンの口が咄嗟に動く。


「いえ、ここはミリア様やイヨリさん、それにジンタさんのお家ですわよ?」


「ジンタの家? なんでそこでリカさんがお茶会を?」


 松が首を傾げる。


「なぜって、それは私達三人、そしてエルファス様と雪目さんの二人も、今はここで一緒に住んでますから……」


 それがどうしまして? と首を傾げるリカに、ベンジャミンが震える声で、


「い、いいい、一緒にって、ロンシャン様もご一緒にデスカ?」


「ええ、今ジンタさんとミトさんの二人がお出かけ中ですので、その間ロンシャン様はジンタ様の部屋で、私とリゼットは空いているお部屋をお借りしてご一緒してますわ」


「で、でもここってイヨリさん――いえ、ミリアリタの家なんですよね?」


「ええ、当然ミリア様もイヨリさんもご一緒ですわよ?」


「そ、そんな……」


 驚愕に固まるベンジャミンの前に、手を洗い真っ先に戻ってきたミリアがテーブル上の綺麗に並んだクッキーの皿へと手を伸ばす。


「いや~~、ほんっといっぱい遊んだから、お昼の満腹感が一気にお腹ペコペコモードだよ」


 ソファーに座るより早く、二枚ほどのクッキーをパリポリと頬張るミリアは、さも今気付いたようにリカとは対面のソファーに座るベンジャミン達に目を向けた。


「げっ!」


 蛙が潰されたときのような声を上げ、ミリアの動きが止まる。


「ミリアちゃん、戻るの早いよ――べ、ベンジャミン⁈」


 二番目に戻ってきたエルファスまでもがミリアの後ろで固まる。


「はぁ~~~~っお腹空いたぁ~。――べ、ベンジャミン⁉」


 そして三番目のロンシャンまでも、驚いた顔で立ち止まり、


「お腹ぺっこぺこだぞ!」


 最後に戻ってきたリゼットだけは、そのまま固まる三人とベンジャミン達を無視してクッキーを食べ始めた。


 リビングにいる八人中六人が固まる中、動ける二人、リゼットはクッキーを頬張り、リカは紅茶を啜る。


 時間にして数十秒。リゼットが大きめの皿に並んだクッキー一列分を食べ尽くしたとき、動きがおきた。


「って、リゼットにリカさん! 少しはなんか言ってよ! どう動きだしていいのか分からなかったよっ!」


「そ、そうだよね!」


「う、うん」


 ミリアの叫びにエルファスとロンシャンも動き出す。


「み、みみみ、え、ええええ、ろ、ろろろろ――――――」

「ご、ご無沙汰してます――ッゴン!」

「ぷ、プハアァァァッ!」


 三人が動き出すと、座っていたベンジャミン達も動き出した。


 もっとも、ベンジャミンは止まっていた思考が一気に動き出したせいか、壊れた機械のようにミリア達三人の顔を見て、それぞれの頭文字をドモリ続け、竹は驚きのあまり目一杯頭を下げたせいでテーブルへとおでこをぶつけ、松に至っては止まってる間息を止めていたせいか、酸欠のように顔を真っ赤にしながら激しく息を切らせている。


「な、なんでここにベンジャミンがっ!」

「そ、それはこっちのセリフですわ!」


 小学六年、その学年成績最下位を争う二人が互いに指を突き付ける。


「そんなのここがわたしの家なんだから、わたしが居て当然、なんだよ……、ね?」


 言ってて自信がなくなったのか、ミリアが不安そうに振り返りエルファスとロンシャンに助けを求める。


「うん、そうだよ、ここはミリアちゃんのお家だよ」


 エルファスが答え、ロンシャンも大きく頷く。


「ほ、ほら! ここはわたしの家なんだよ!」


「わ、私は、リ、リカ様にお茶会に誘われて、ここに居ますのですわ」


 ベンジャミンが両手で縦巻きロールを一本ずつ引っ張り立ち上がる。


「リ、リカさんに、お、お茶会に誘われた!」


 まだミリア自身、一度も誘われたことがないリカのお茶会になぜこのベンジャミンが……。と、雷に打たれたようにショックを受ける。


「違いますわ。私が誘ったのは竹さんだけですわ」


 さらりと否定するリカだか、ミリアとベンジャミンにはまったく聞こえていない。


「そうですわ。ですから私がここにいる権利は十分あるんですわ」


「ぐ、ぐぬうぅ!」


 勝ち誇り口元に手を当ておーほっほっほっと高笑いのベンジャミンに、ミリアが悔しそうに歯がみする。


「さあ、そうと分かったら、あなたはここを出ておゆきなさい!」


 さらにベンジャミンがミリアを追い打つ。


「ぐ、ぐぐぐっ」


 歯をくいしばり悔しそうに顔を歪めながら、それでも負けを認めたようにミリアが玄関へと歩いて行く。


「ちょっと待ってミリアちゃん。なんでそれで私達が外に出るの?」


 エルファスがミリアの腕を掴み引っ張る。


「だって、リカさんだよ? イヨリがいない今、ここではリカさんが一番強いんだよ?」


 物理的、合理的、年齢的に正論なことを言っているミリアの言い分に、一瞬エルファスも「それもそうだよね?」とロンシャンを見てしまう。


「でもリカは僕の『召喚されし者』だがら……」


「「あっ!」」


 ミリアとエルファスが同時に声を上げる。


「そ、そうだよっ! こっちにはリカさんのマスターでもあるロンシャンくんがいるんだよ!」


「そうだよミリアちゃん」


「くっ!」


 一気に形勢逆転したように、勝ち誇るミリアとエルファスに対し、今度はベンジャミンが悔しげに歯がみする。


 ミリアとベンジャミン、二人は互いに顔を近づけ睨み合う。そこにロンシャンが口を挟む。


「でもさ、今このリビングはリカ達が先にお茶を楽しんでるんだし、僕達はおやつのクッキーを部屋に持って行ってそっちで休めばいいんじゃない?」


「クッキーでしたらまだありますから、ロンシャン様が言うのでしたら全部持っていってもよいですわ」


 平目で、不毛なやり取りしている二人を見ていたリカがテーブル上の紙袋を指し示す。


「じゃあ、そうするよ」


 ミリアは紙袋に入っているクッキーを鷲掴み、リビングから部屋へと通じる扉へと向かい歩き出した。


当然ミリアに連れ合うように、エルファスとロンシャン、そして今までの間もクッキーを食べ続けていたリゼットが一緒について行く。


「ろ、ロンシャン様……」


 通路に消えていく愛しいロンシャンを悲しい目で見送るベンジャミンに、リカがどうでもいいように、


「そんな気になるのなら、ベンジャミン様もご一緒に行って来たらどうです?」


「い、いいんですか!」


 パァッと嬉しそうな顔をするベンジャミンに、リカはほんとどうでも良いですわという顔で頷く。


 ソファーから飛び降り、フリルのいっぱいあるピンクのドレスの端をちょっこと摘まみ丁寧にお辞儀した後、ベンジャミンはロンシャン達が消えた扉へと走っていく。


 数秒後聞こえてくるのは、


「げぇぇっ! ベンジャミン! なんでこっちに来るんだよ!」


「リカさんがロンシャン様とご一緒に遊んでこいと仰ったんですわ!」


「な、何だって! むむむ……リカさんめ……」


 そんな会話から始まるも、以降は子供らしい会話のやり取りへと変わっていくのだった。

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