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再会と初めましてと

「……ほ、ほんとに、ここで間違いないのか?」


「ああ……、今度こそ絶対だ。あの形、あのボロさ、あの集落の入り口にあるボロい柵には見覚えがある」


 すす汚れ傷だらけになったレザーアーマーに、何日も手入れをしておらずに風呂にも入っていないぼっさぼさの髪、顔中真っ黒にしたジンタが尋ねると、同じぐらい負けず劣らずボロボロになったミトが答えた。


 そんな二人の視界に今、小さい集落が見えていた。


 二人の身の回りには装備しているモノ以外の一切がない。

 今回の旅のお供として一緒に行動していた馬も、その馬にぶら下げていた荷物も、今はもうない。


 ラペンを旅だって十数日、ここに来るまで二人は三つの集落を見つけ、その三つともに最後は敵意丸出しで、見事に追い出された。


 その途中で、馬と荷物は全部奪われ、しかもそんな中、追撃のようにモンスターにも襲われ心身共に休まる暇もなく、心だけが折れ掛ける毎日だった。


 ここ数日、二人は歩きながら何度も話をし、帰るかどうかを言い争ったぐらいだ。


「ほんっっとうにここで合ってるな?」


 再度、ジンタがミトに向かい念を押す。


「……た、多分……」


「うっ」とジンタから一歩後退り、目を逸らしながらミトが自信なさげに答える。


「ほんとか?」


 疑いの目での更なる念押し。

 それに対しミトが切れた。


「だ、だってしょうがねえだろっ! もう五年以上前、十才前後の記憶なんだからあやふやにだってなってる部分あるだろっ! だからおれも分かんねえよっ!」


 拗ねた子供のように、唇を尖らせるミト。


「十才か……、確かにそうだよなぁ」


 ジンタも納得したように溜息を吐く。


「とりあえず、警戒をしながら行くしかないか」


「あ、ああっ」


 緊張しながらミトも頷く。


 二人は、真っ黒に汚れた顔に作った笑みを張り付かせ、簡素な囲いを作っている集落の入り口の前に立った。


「あの~~、だ、だれか居ませんかぁ~」


 集落の入り口の前で、ミトが大きな声で住人を呼ぶ。


 最初の集落で学んだことだが、集落の長の許可なく、いきなり中に入ると敵と勘違いされ、問答無用で追い出され、話を聞いてもらえないのだ。


 もっとも、ミトの種族はアルミラージ、その時の種族は獣人化した際、鱗のような緑の肌をして襲ってきた。ミトも確信は持てないがと付け足しながら、恐らくリザードマンじゃないか? と言っていた。


 そんな最初があったため、ジンタ達は二番目と三番目の集落では、こうやって入り口でまず誰かを呼び、敵意がないことを示して、中へと入れてもらっていた。


 もっとも、二番目の集落では、最初友好的に接しられたが、二人が『召喚されし者』である事を伝えると、一気にヒートアップし追い出され、三つ目の集落では友好的に扱われ夜には宴まで行われたが、次の日の朝、目を覚ましてみれば集落の外に追い出されていた。馬と荷物を奪われて……。せめてそれを返してもらおうとしたが、前日までの友好さがうそのように敵意剥き出しであっさり追い返された。


 結果、身につけていた装備と服以外(ジンタのボストンバッグは中身だけ全部取られた)すべてを失った。


 そんな中、幸運だったのは武器と防具と盾が取られずに済んだことだけだ。それすらも奪われていたら、それこそ帰ることも進むこともジンタには出来なくなっていた。

 それでも先へと進んだのは、送り出してくれたみんなの願いと二人の意地でもあり、何よりミトの母親に会いたいという気持ちからだ。


 そうして辿り着いた四つ目の集落が、今二人の目の前にある。


 声を掛けてから数十秒、誰かが来る様子もない。


「……誰も、いない?」


 静まり返った集落に目を向けつつ、ジンタがミトにだけ聞こえるように呟く。


「ん~~、そんなことはないと思う、ただ少し警戒して、遠目で見てるような感じだけど……」


 アルミラージへと獣人化したミトは、ウサギのような白く長い耳をピコピコと動かし答える。


「そっかあ……警戒されてる、よなぁ……」


「そりゃあなぁ~」


 今まで通った三つの集落のことを思い出してか、ジンタとミトの二人は乾いた声で笑う。


 そこに集落の入り口から真っ直ぐ伸びる道の先に、一人の女性が現れた。

 茶色で長い髪を後ろで結った、まだ三十台前半に見える小柄な女性。


「……あんた。――ひょっとしてミトかい?」


 女性は辛うじてジンタ達に届く声で呼び掛け、ゆっくりと一歩一歩を踏みしめこちらに向かい歩いてくる。


 ジンタの少し前に立ち、歩いてくる女性を視界に写すミトは、まるで全身のチカラが抜けきったようにだら~んと両手をたらし、完全に呆けた顔で、ただ、ただ、近づいてくる女性を見つめている。


「あんた、ミトだろ?」


 二人の距離が後二十歩ほどの距離になった時、女性がもう一度口を開いた。


「あ……、お、おれ……、うん……」


 ミトの呆けた顔が、声を発するたびに少しずつ歪んでいく、それと同時に二人が一歩、また一歩と互いの距離を近づけていく。


 ゆっくりと踏みしめていた足音が早足へと変わり、二人の距離が一気に縮まる。


 互いに両腕を広げ、後一歩踏み込めば届く位置まで来た時、ミトは両目を瞑り、


「母ちゃんっ!」


 と叫びながら最後の一歩を地面を蹴り飛び込んだ。


 瞬間、完全に飛び込み、空中にいた両目を瞑ったミト目掛け、女性は右手を縦にし振った。


「てりゃっ!」


 ズビシッ!


 振り下ろされたチョップは、見事に両目を瞑っていたミトのおでこへとクリーンヒットし、そのまま地面へとミトを叩き落とした。


 そして女性は倒れ込むミトを見事なフットワークで横に躱し、そのまま再度両手を広げ、ジンタへと飛び込み抱きついてきた。


「あぁ、あぁ~、ほんっとにミトなのね。こんなに、こんなに大きく逞しくなっちゃって――」


 ジンタをガッチリと両手でホールドし、ジンタの胸で頭をぐりぐりと押しつけ、もう離さないとばかりに頬ずりをする女性を見て、ジンタの思考はある雪女の女性を彷彿とさせた。


「あ、あの。えと、お、俺はミトでは――」


 動揺し、それでも否定の言葉を紡ぐため必死に口を動かすジンタの目の前で、


「こっっっんのババァッ!」


 女性のチョップで地面に叩き落とされたミトが、ゆっくりと立ち上がり振り向く。


 そして一足飛びに飛び込み、ジンタに抱きつき背を向けている女性に対し、見事な跳び蹴りを叩き込んだ。


 ジンタごと一緒に……。


「ぐふっ」

「ごひゃっ」


 女性とジンタは抱き合ったまま倒れ込む。


「はぁっはぁっ、お前は自分の娘の顔も忘れちまったのかクソババァ! そもそもおれは男じゃねぇっ!」


 相当頭に血が上ってるのか、ミトの息遣いは荒い。


「いったぁ~~~い」


 倒れ込んでも、まだジンタの胸元で頬をスリスリさせている女性に、ミトは首根っこを掴み上げ引き剥がす。


「いい加減にしろっての!」


「いや~~ん」


 甘えたような非難の声を上げる女性に、ミトの顔は般若のように歪む。


「約六年ぶりに会った可愛い娘を、始めて会った男と間違えるなってのっ!」


 ジンタから引き剥がし、放り投げた女性の前にズンッと仁王立ちし、ミトが吠える。


「もう、ちゃんと覚えてるわよ~。可愛い娘のことを忘れる母親がいるわけないでしょ」


 したたか打ったお尻と蹴られた背中をさすり、女性は立ち上がりながら答える。


「ほ、本当にミトのお母さんなのか?」


 ちょっと、いやかなり真剣にミトの母親を雪目と同じ目で見てしまっているジンタが、確認するように尋ねると、ミトも困ったように頬を掻き、


「悪いなジンタ。間違いなくこいつがおれの母ちゃんみたいだ。にゃははは……」


 また会えたことの嬉しさ、そしてその再会を一気にぶち壊したことに対しての怒りややるせなさを現すようにミトが困ったようにポニーテールのある後頭部を掻き、ジンタに笑ってみせる。


「どうも初めまして、ミトの母親のトミです」


「へ?」


 ぺこりと頭を下げるミトの母親に向かい、ジンタは間の抜けた声を出す。


「ん? だからミトの母親のトミですよ?」


「と、トミさん?」


「はい」


 にっこりスマイルなミトの母親に、ジンタはゆっくりと左右に顔を動かしてから、


「えっと、ひょっとしてミトって……」


「ええ、私も初めての子供だったんで色々考えたんですけど……、なんかそのうち考えるのが面倒臭くなって私の名前を逆にして付けちゃったんですよ。アヒャヒャヒャヒャ」


 悪びれもなく、――いや、ミトに聞かせるようにして笑うミトの母親トミ。


「し、知らなかった……。おれの名前ってそんな安直に……」


 襲い来る衝撃に耐えきれず、地面に崩れ両手を付いて打ちひしがれるミト。


「いや、それ位気付よミト……」


 ジンタが突っ込むが、


「だっておれ、母ちゃんとしか呼んでないし、母ちゃんの名前……知らなかったし……」


「それってお前にも問題あるだろっ!」


 この親にしてこの子あり、痛感する出来事を体験したジンタだった。


 そんな感じで砕けた会話を三人でしていると、辺りから徐々に人が姿を見せ始めた。


「おぉ……お前さんほんとにミトちゃんかい?」


「『召喚されし者』になったんじゃ……、まさか契約を……」


「見ろ、きっと横の男にたぶらかされて、子供作ってしまって『召喚されし者』を解除してきたんじゃろう」


「まあ、まだ若いんじゃ、早くから子供を産めば、この集落も人が増えて、喚ばれる人数も増えるかも知れんからのぉ」


 集まるなり、自分達なりの間違った勝手極まる見解を口々に、ミトとジンタに聞こえるように話だす集落の婆さま達。


 さすがにそこまで話が進んでしまうと、ミトはおろかジンタまで頬が引き攣ってくる。


「み、ミト……。早くこの人達にそんな理由じゃないことと、ここに来た理由を説明してくれないか? 俺の威信とか良心がそろそろ砕けそうだ……」


 ジンタが遠くを見つめ呟く。


「ご、ごめんジンタ」


 引き攣りながらもミトがジンタに謝り、母親ともども、集まった集落の婆さん達へと説明を始めた。



「みんな聞いて欲しい。おれは別に『召喚されし者』を解除されてここに戻ってきたんじゃない。ただ、おれは五年前……、母ちゃんにちゃんと「行って来ます」って言えてなかったから……。もうおれのマスターであるエル――、いや、おれのマスターは今年で小学校を卒業しちまうから、そうなったらおれ達はもうこの階層に戻って来れなくなるかもだから……、その前にちゃんと母ちゃんに別れを――」


 切々と地面に正座し、今回の集落への里帰りの理由を、母親と面と向かうのが恥ずかしいようにやや俯きながら説明しミトは語る。


 ミトが来た理由を口にしながらスッと一度母親に目を向ける。


 ミトの説明を同じように地面に正座しながら聞いていた母親トミ。

 その顔は嬉しさに破顔し、涙さえも浮かんでいる。


 そんな感動の場面の中、ミトの口が震えながら動く。


「か、母ちゃん、その手の中のソレ、ソレはなんだ?」


 嬉しさに涙を流す母親の胸の中に、四才ほどの金髪の男の子が抱っこされ収まっていた。

 そう、まるで我が子のように。


 ジンタとミトの視線を、トミに抱っこされる形で振り向く金髪の子供、その子に向かって母親トミは小声で言う。


「ミコ、さあお姉ちゃんとお兄ちゃんになる人にちゃんと挨拶して」


 トミの囁くような声がミトの耳にも聞こえた。


 ――いや、確かにまだお兄ちゃんと呼ばれる年ではあるが、その意味深な「お兄ちゃんになる人」ではないからね!


 と聞こえてきそうなほど、後ろにいるジンタの視線が痛い。


 ミト自身も、違う! と叫びたかったが、それをグッと飲み込み、ジンタ同様ミトも金髪の子供の言葉を待つ。


「み、ミコです。お兄ちゃんお姉ちゃん、こんにちわ……」


 ペコリと頭を下げた後、恥ずかしそうにまたトミの胸に顔を埋める少年ミコ。


「ミコ……」


 ミトが呆けたように呟くと、


「そうよミト。正真正銘あなたの弟よ」


 トミが恥ずかしがって胸に頭を擦りつけるミコの頭を撫でながら答える。


「おとうと……」


 言葉を知ったばかりの異星人のように再度呟くミト。


 ミトの中でいろいろな感情が渦巻く。


 嬉しさ、可愛さ、恥ずかしさ、どれも頬が緩むような感情ばかり。

 だらしなく頬が緩んだミトが後ろのジンタに振り返り、


「ジンタ、おれは始めて会った弟に対して、どういう態度をしたらいいと思う?」


 とだらしない顔のまま尋ねた。


 ミトに問い掛けられたジンタは一瞬ミトの顔を見て真顔で、


「素直に喜べばいいと思うけど……、それよりここで話を続けるより、良ければ場所を変えた方がいいんじゃないか?」


 と答えてきた。


 その言葉にミトはハッとなり、正面の母親と始めて会う弟以外の周りの人を見るように首を左右に振った。


 集まった集落の総勢は三十人程度、なかにはミトより小さい子も居るが、ジンタより少し年上そうな人もいる。

 そんな集まってきた集落の人々が、全員自分達を見ている。


「そ、そうだな。いつまでもここで話をしてるのは確かに変だよな」


 中には色々と敵意ともとれる微妙な視線が混じっているのに気付き、ミトもジンタに同意し自分の母親であるトミへと視線を送る。


「なあ母ちゃん。そろそろおれ達を家に入れてもらえないか?」


 すべて分かったわと言うように、トミは優しく頷き、


「そうだねぇ、可愛い愛娘まなむすめが旦那さんを連れて帰って来たんだし、愛の巣へと案内するかねぇ」


 イタズラ、――それ以上に含みのある笑みを見せ、振り向き歩き出すトミ。


 ミトは顔を真っ赤にし、体全体をワナワナと震わせた後、空に向かって、


「だから、ジンタはおれの旦那じゃねえ!」


 集落中に響く声で叫んだ。

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