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ヒールは……ッボン!

「じゃあ、ここって本当にリリフォリアなのか?」

「ああ、あんたが今言った世界なんて、少なくともおれは知らないぜ」


 ショルダーバッグの中に入っていたガムを噛み、たまにぷく~っと膨らませ、大きめのシャツに健康的なカモシカのような白い足、その太ももまで丸見えのジーンズのようなのパンツ姿に戻ったミトが答える。


「私も、むぐもぐ、知りません」

「わたしも、むぐむぐ、しらにゃい」


 エルフの少女二人も、口の中でガムと悪戦苦闘しながら答え、リゼットにおいてはガムを少しだけ噛んで飲み込んでしまい、ショックでボー然としている。


「そっかぁ……、ここがリリフォリアってことは、俺はやっぱゲームの中に取り込まれた? いや……、でもあのゲームって確か獣人化出来る女の子達と戦い、モンスターなんていうのはその階の最後にしか出会わなかったはず……、それにエルフなんて存在はいなかった……、ゲームとしての世界と、この現実と思える世界では、何かが違う? それとも他にも何かが……」


 独り言のようにブツブツ呟き考え込むジンタの横で、ミトが立ち上がる。


「どっちにしても早く他のみんなを探そうぜ、イヨリさんとリカは……、まあ大丈夫だと思うけど、もしロンシャンが一人だとしたら大変だからな」

「ハッ! そうだ、ロンシャン! ロンシャンは無事かッ!」


 ミトと同じくらいの背格好のリゼットが、飛ぶように立ち上がり、辺りを忙しなくキョロキョロしだす。


「雪目さんも大丈夫かな?」


 ミリアがもう一人の新しい名前を言うと、


「ん~~、雪目は、見た目あんなだけど、なんて~か、一人だと結構図太いから大丈夫だろ?」

「うん、雪目はミト以上に私も大丈夫だと思う、むしろこっちに合流した方が、色々心配になるかも……、なんか死期が早まってしまうようで……」


 エルファスが何とも言えない視線をジンタへと向ける。


「しかっし、この遺跡っつうか、このダンジョンつーか、変な所だぜホントに」

「ミトって、さっきあんな速度で走っていたけど、ここをかなり走りまわったのか?」

「走ったぜ。ずっとこんな右に回るような感じで、大きな蜘蛛がソコソコいたけど全部蹴飛ばしたり踏みつぶしてきた」


 ――ああ、それじゃこれ以降、この通路であの大蜘蛛に会うこともなさそうだな……。


 ジンタはホッと胸を撫で下ろす。


「まあそれ以外は距離をあけつつ扉がある感じだったな、もっとも中には入ってないけどな」

「なるほど、なんとなくこの通路の仕組みは分かった感じがするかも……。きっと円になってるんだろうな」


 ミトに全速力で走ってもらって後ろから来るかどうか確認したくなるが、それでまたバラバラになると面倒なんで、とりあえずは、安直にそう結論付けた。


「さて、そうなると残りの探し人と出口は、恐らく扉の先かな……」


 ジンタが言うと、全員がまず始めに目についた近くの右側の扉を見る。


「開けるんですか?」

「また鍵掛かっちゃうかな?」

「リゼット、ロンシャン見つけるよっ!」

「まあ、とりあえず入ろうぜ」


 頭の上で両手を組んだまま、ミトが一人、扉を押し開け中へと入った。


 ぱたんっ。


 ジンタ達が躊躇している間に、ミトだけ入った扉は閉まった。


「ぬおおおおぉぉぉぉぉ――――っ! なんだなんだよこれっ! おいぃぃぃぃぃぃ――――っ! おまえ等――――ッ! コンチクショ――――ッ‼」


 扉の向こうでミトの叫びと激しいドタバタ音が響き、数分で収まった。


 ジンタはゆっくりと扉に手を掛け押し開けると、目の前に泣きそうな顔したミトが頭に蜘蛛の巣を乗せ、立っていた。


「お、おまえ等知ってたのか? 知ってておれ一人で行かせたのか?」


 自分でズカズカ入って行ったのに、ミトは目をうるうるさせ鼻を啜っている。

 ジンタは困ったようにエルファスを見ると、エルファスも両手を困ったように上げ、肩をすぼめて見せ、


「ミトって普段ああだけど、結構臆病なところがあって、真っ暗なところとか脅かされるの結構苦手なんです」


 まるで母親のように上から目線で言い、ミトによしよしと言いながら、背中をポンポンと優しく叩いた。


「まあ、次からはみんなで入ろうか……」


 ミトが落ち着いたのを見計らってジンタが提案すると、全員が頷いた。


 それから三部屋、ジンタ達はモンスターとの戦闘をくり返した。

 もっとも、ミトの戦闘力とエルファスの明かりの魔法であっさりと勝てる程度の戦闘だったが。


 四部屋目の前でジンタはふと、思い出す。


「そういえばさ、ミリアのヒールでボンッって、試しにここの骸骨のモンスターで試してみれば? どうせヒールが普通に掛かっても、アンデットだから多分ダメージになるし、何よりミトがいれば余裕なんだからさ」

「ん? ヒールでボンッってミリアのか?」


 ミトは退屈そうに頭の上で手を組んだまま、聞き返す。


「ああ、なんかヒールを掛けると爆発するって言ってたからさ、まあ練習がてらに? 俺も見てみたいしさ」

「いいんじゃねえの、どうせ普通にヒール掛かってもここのモンスターなんて一撃だし」


 ミトもあっけらかんと了承する。


「ミリアもいいか?」

「うん、やってみるっ!」

「ミリアちゃんがんばって!」

「ミリアがんばれ!」


 頷くミリアに、エルファスとリゼットが声援を送る。


 四部屋目、開いた扉の中に全員が入る。エルファスの明かりの魔法が真っ暗の部屋に仄かな明かりとなって辺りを照らす。

 ガサガサと音をたて、ゆっくり歩いてくる剣と盾を持つ骸骨達。


「よし、じゃあミリア、とりあえず先頭の骸骨にヒールを掛けてみてくれ」

「うん」


 ジンタとミトの間に立ち、ミリアは媒介の指輪をはめた右手を骸骨に向ける。

 一度、大きく深呼吸しミリアは唱える。


「骸骨さんにヒールっ!」


 ミリアの右手のリングが恐ろしいほど激しく輝き、ヒールを喰らった骸骨がその場でガチガチと激しく痙攣したような音を鳴らし立ち止る。

 そして骸骨自身がミリアの右手同様激しく輝き始め、



 ッボン!



 上半身どころか、その存在すべてを見事に爆ぜさせた。



「「「「………………」」」」



 全員……、魔法を使ったミリアでさえ無言の中、後続の骸骨達が進んでくる音だけが聞こえる。


「え? えーっと?」


 ジンタは、自分の頭を二度ほど動いてくれというように叩いてからミリアを見る。


「今のがミリアのヒールなのか?」

「うん」

「もう一発撃てるかな?」

「全然出来るよ」

「よし、じゃあ右の骸骨いってみよう」

「うん! ヒール!」


 ッボン! 


「じゃあ次、左のを」

「ヒール!」


 ッボン!


「また真ん中」

「ヒール!」


 ッボン!


「最後、ミトに……」

「うん、ヒー――」


「‼ 待て待て待てッ! ちょっと待て――――ッ‼」


 ミトが大きく腕を左右に振り、躱すように横に飛ぶ。


「冗談だよ冗談。あははは……」

「そうだよミト。あははは……」

 ジンタとミリアが乾いた笑いするも、その目は笑ってなかった。


「いや、しっかしなんというかある意味すごい火力だったな、あのヒール」

「いっそあれなら、攻撃魔法で通るんじゃねえか?」

「いやだよ! それじゃあ私は使う魔法全部が攻撃魔法になっちゃうでしょ?」

「でも、ミリアちゃんってファイアもアイスも攻撃にまでならないよね?」

「うっ……、確かに攻撃魔法にもなってない……」

「ミリアはヒールで攻撃するのか? ぷっ、ひゃっはっはっはっ」


 本人にはまったく悪気がないと思うが、腹がよじれているほどの大笑いするリゼット。


 ミリアは転げ回り笑うリゼットに、頬を引き攣らせながら右手を向ける。


「待て待て、ミリア」

「うぅ、だってジンさん。リゼットがぁ……リゼットがあああぁぁぁ――――っ‼」


 ミリアがジンタを見上げ、泣きそうな顔で叫ぶ。


「い、いや、しかしあれだな、四体全部ヒールで倒して、ミリアは疲れたとかクラクラするとかないのか?」


 ジンタは、ミリアの気をリゼットから逸らすようにして尋ねる。


「うん、全然平気だよ」

「エルファスは確か二体を倒して、余裕がなくなってたって?」

「はい、確かに私達エルフの魔法力とその容量は大きいと聞いてますけど、それでもまだうまく扱えない私達だと、二発か三発で普通は疲れてしまうはずですけど……」

「まあ、エルファスはこう見えて結構不精ぶしょうだからな。色々怠けすぎてるだけかも知れないぜ?」

「ミ~~ト~~」


 大きく頬を膨らませ右手を振り上げるエルファスに、ミトはジンタの後ろに隠れ顔を出し、


「これからは面倒くさがらず、ちっとは動こうなエルファス!」


 と提言。


「どっちにしても、いざという時はそのヒールも攻撃に使わせてもらうけど、ミリアいいか?」


 ジンタの言葉に、ミリアはどこか納得いかないまでも、それでもみんなのチカラになれると思ったのか「うん」と答えてくれた。


 それからさらに二部屋、見事に何もないままジンタ達は三部屋目の部屋の前に来ていた。


「しかし、こんなことしていて、ほんとおれ達大丈夫なのか? そろそろ時間的にも結構経ってるだろ?」


 飽きてきたのだろうミトの言い分だが、確かに戦闘自体は大した時間が掛かっていないが、それでも時間は進んでいる。


「それはそうだけど、逆にただ適当に開けていくよりは、順番に開けて――――」


 ジンタは答えながら、次の扉を開けた。そして言い掛けた言葉を止め、開いた扉を勢いよくバンッと閉めた。


 ――なんか……、いた……。


 ジンタの思考が危険を告げる。

 あれは、絶対まともに関わっちゃいけないタイプの存在だ、と。


「ん? ジンタなんで扉閉めるんだよ?」


 退屈そうに扉の奥ではなく、通路の先を見ていたミトが抗議の声を上げる。


「い、いや……。なんか……目の前にさ……」


 ジンタは顔を真っ青にさせ、ミトに答えようとした。


 瞬間、扉が閉めた時以上に勢いよく開き、黒い物体がジンタ目掛け飛び込んで来た。


「あ・な・たっ! おかえり~~~~」


 意味不明な言葉を発し、おばさんが一人、ジンタを押し倒した。

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