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試合決着

 決勝の試合をある意味一番の特等席、会場のほぼ真下にシート広げ見ていたミリアは、気付けば座っているのではなく立っていた。


 初めての召喚の儀から常に一緒にいたはずのイヨリ。

 いつも頼りになってミリアから見れば大人のイヨリが、今ミリアの見ている目の前で、まるで駄々っ子のようにムキになって拳を振り回す姿を初めて見せていた。


「なんか、今日のイヨリさんすごく怖いね」


 気付けば、隣で同じように立ちあがって見ていたロンシャンがそう口にした。


「怖い? 今のイヨリが? ロンシャンくんにはそう見えるの?」


「え?」


 驚きと戸惑いの声でロンシャンがミリアを見る。


 自分に視線を向けているロンシャンには目を向けず、ミリアはイヨリとジンタを見つめたまま、


「わたしには、イヨリがすっっっっっごくジンさんを困らせようとして、甘えてるように見えるんだけど……」


「そ、そうなの?」


 驚きが消え、戸惑い極まった声で返すロンシャンに、今度はエルファスが、


「私にも今日のイヨリさんはずっとふて腐れて、まるでジンタさんに自分だけを見てくれって言ってるように見えてましたけど……」


「えぇ……」


 エルファスにも言われ、ロンシャンは悲しそうに眉を下げる。


 さすがに三人の中で一番の頭脳派であるロンシャンでも、まだまだ女心の知識までは身についてなかった。


「何でしょう、すごく胸騒ぎがしますわ。私、今すぐあの二人の戦いを止めに行かねばならないように思えるんですが」


「雪目ダメだよっ! まだ試合中だよっ!」


 雪目がリングに這い上がろうとするのを、リゼットが必死に押さえ込む。


「たっだいま~~」

「戻りましたわ」


 それぞれに試合に見入っていたところにミトとリカの声。


「あ、あれ二人共、し、試合は?」


 ロンシャンが驚いた声で訊けば、


「んあ? 後はあの二人の結果次第でいいんじゃね? ってなった」


「二人の結果次第って……」


 全員が見つめる先では、今だに言い合いながらも拳振り回すイヨリと、それを躱すジンタがいる。


「どういう結果になったとしても、きっと今日のこの戦いのメインはあの二人ですわ、それ以上なんてありえませんわ」


 溜め息一つし、リカは続ける。


「人が見ていて一番楽しく盛り上がるのは、真剣な戦いやましてや一方的な戦いなどではありませんもの。――周りからしたらつまらない理由でケンカしている、ただの痴話ゲンカの方が盛り上がってしまうものですから」


 首をすぼめて呆れたように首を振り、さらに追加で「これ以上そんなのに付き合っていられませんわ」と呟き、リカはシートに腰を下ろし、シートに置かれたクッキーを一つ口に入れた。


「やっぱ、これって痴話ゲンカなんだねエルちゃん……」


「やっぱりそうとしか見えないよね、ミリアちゃん」


「リカまで言うんだ……、やっぱりこれが痴話ゲンカなんだろうね……」


「私は、ジンタさんと絶対痴話ゲンカなんて……、――でも、ジンタさんに言葉で攻められるのも……はあはあ……」


「リゼット痴話でも、ケンカはよくないと思うよ? 今二人が何を言い合ってるのかもリゼット全然分からなくなってきてるよ?」


「安心しろってリゼット、痴話ゲンカなんてもんは、結局何を言い合ってるのか本人達もわかってねえんだから」


 それぞれに口にした後、全員はこの大衆の面前で行われているただの痴話ゲンカの終盤に、同じく観客として映画を見るように目を向けた。



        ※※※※※※※※



「ほんっっっっっっっっっとうに、もういい加減にして下さいッ‼」

「だからお前も人の話を訊けってッ!」

「知りませんッ‼」


 岩の拳を何度回避したかジンタも覚えていない。その岩の拳を振り回しているイヨリもきっと自分が何回拳を叩き付けたか覚えていないだろう。


 二人は大きく肩で息をし、喉が痛くなるほど言い合った。


 結果、どうなったか――――。


 怒り心頭のイヨリが、言い訳ばっかりと言い、

 ジンタは言い訳、もとい説明を口にする。


 しかしイヨリは訊きたくないとつっぱね、

 ジンタが訊いてくれと懇願する。


 つまり、


 まったくもって話が進んでいなかった。

 そんな調子のままここまで来ていたが、それも少し風向きが変わりだした。


 三〇メートルの円形リングのほとんどを粉砕してきた岩の拳の嵐が止まったリングの中央で、今度はジンタから口を開いた。


「じゃあ……、じゃあどうしたらイヨリは俺の話を聞いてくれるんだ?」


 重たい体にムチを打って、ジンタは背筋を伸ばし、両手に持つ盾と剣をだらりと下げ、イヨリに限りなく優しく、小さく囁くような声で尋ねた。


 ここまでで初めてのジンタの先手。


「………………」


 それに対しイヨリは、荒い息継ぎを止めジンタを睨む視線を切り、やや斜め下に顔を向け地面を見る。 そして、ミリアも真っ青なほど大きく頬を膨らませる。


「なあイヨリ、俺、どうしたらお前に話を聞いてもらえる?」


 たっぷり五秒待って、ジンタはもう一度訊いた。

 イヨリの口が微かに動く。


「……ない」

「え?」


 聞き取れずジンタが一歩近づくと、イヨリは顔を上げキッとジンタ見据え、


「私だって分からないんですよ! なんでなんです? どうしてなんです? いつもなら、他の人ならしょうがないって思えるのに! なぜ今日は、ジンタさんはダメだったんですかっ! どうしてかも自分でも分からないけど許せなかったんです! なぜかなんて私が訊きたいぐらいなんですよ! ジンタさんは一体私の何なんですか? どうして、なんで、こんなに私を怒らせるんですか? いっつも気になるようなことばっかして! 大体ひどいじゃないですか! 自分ばっかり」


 そこでイヨリは、もう一度大きく息を吸い込み、


「スライム退治の時、私に向かって綺麗だとか言っておいて、夏の時は水着を褒めてくれないし、かと思えば他の人ばっか見たりして、私が綺麗だったのはあのスライムの時の体液塗まみれの時だけで、今は魅力がないって言うんですか? それともあの時のは気まぐれで――ただ私をからかっただけなんですかっ‼」


「ちがうっ! 俺はいつだってイヨリを見てるし、綺麗だと思っているっ!」


「うそ! うそっ! ウソ! 嘘っ! だって私と話してるより、ミトさんやリゼットさん達、他の女の人と話をしてるときの方がジンタさんは楽しそうじゃないですかっ!」


「そんなことないって」


「私なんて、男性とお話しをする機会なんてジンタさん以外ほとんどいないんですよ! それなのにどう接していいのかなんて、どう話をしていいのかなんて分からないんですからっ!」


「俺だって、女性と話しをするなんてあまり機会がないっ! ミトやリゼットはそういうんじゃくて、かわいい妹と言うか……、それに男性なら鍛冶屋のおやっさんや肉屋のおやじさんだっているだろ!」


「あの人達は、もういいお年だし男性として見る対象ではありませんっ! それに私には弟だっていませんっ!」


「ロンシャンがいるだろう?」


「ロンシャンくんは……、リカさんのマスターです……。それならジンタさんはミリアのことやエルファスさんのことをそういう目で見てるんですかっ?」


「見てないっ! あの二人はそれこそほんとのちょっと面白くてお馬鹿っぽい妹達だと思ってる。それにミトやリゼットだってほとんど同じように――」


「それでも十分女性じゃないですかっ!」


「だから、俺はあの四人をそんな目で見てないって!」


「そんなの絶対ウソですよっ! じゃあリカさんは? あの人はどうですか? 私から見てもすごく女性らしいじゃないですか!」


「リカさんは……、女性らしいけど、なんというか俺のタイプではないというか……」


「何ですか、それ! じゃあタイプだったらどうなんですか?」


「そんなたらればで話をしてたらキリがないだろ!」


「ほら、そうやってすぐ話を逸らすじゃないですか!」


「ちがっ、話を逸らしてるのはイヨリの方だろ?」


「私は逸らしてませんっ!」


「逸らしてるだろっ、俺は今、イヨリと話をしてるんだ。なんでそこでミトやリゼットやリカさん、それにミリアやエルファスのことを出す必要がある? 今はイヨリと俺の――」


「あ~~~、もうっ! だから私もどうしたらいいのか全然分からないんですっ! こんな経験初めてで、どうやってこのモヤモヤしてイライラした気持ちを押さえればいいのかっ。ぜんっぜん分からないんですっ!」


「俺だって、どうやってイヨリのその感情を解消してやればいいのかなんて、全然分かんないってっ! でも話ならいくらでも聞くからっ」


「だからっ! 今、私はジンタさんとは話したくないんですっ! こんなイライラしてイヤなことばっかり言っちゃう自分を見せたくないんですっ! 何でそれを分かってくれないんですかっ!」


「だから俺だって分からないんだ、だったらどうすればいい? 俺がここから、いや、この世界からいなくなればいいのか?」


「っ―――っ! そんなのダメっ! 絶対ダメですっ! ジンタさんはここに、この世界にいて下さい、私と家族のままで居てほしいっ!」


「じゃあ、しばらくどこかに、イヨリの見えないところに行ってればいいのか?」


「それもイヤッ! 私の目の届くところにいて下さい」


「じゃあ、俺はどうしたらいい?」


「分かりませんっ! 分からないけど。でも……、でも……」


「――でも?」


「――っぐ、――っぐす」


「イヨリが俺に何を言いたいのか、俺には多分ほとんど理解出来ないと思うけど、少なくとも、今日イヨリが怒った理由は俺のせいだって分かってるつもり、ではいるんだ」


「――うっ……」


「ほんと、ごめんな。応援するとか言っておきながら、応援にも行かず。しかも話もせずに勝手に他のヤツと組んで参加するなんて、ほんっとごめん」


「――う、うっぐ」


「これからは、まずイヨリに話をしてから行動するようにするから、だからさ。その、今日のところはとりあえず、これで許して欲しいんだけど……、ダメかな?」


「うっ――、あぐっ。――――しょう、しょうがないです、から、ゆ、許します。私も、いっぱい、いっぱいわがままで、ジンタさん許して下さい」



        ※※※※※※※※



 泣きじゃくるイヨリの元にジンタがゆっくりと歩いて行くのを、会場の外からミリア達は見ていた。


「なんだろう……、すごい感動できる場面なんだろうけど、私かなり傷ついてる……」


 ミリアが呟くと、


「うん、言い合ってる時どさくさに紛れてジンタさんが言ったよね?」


「うん、ジンさんが確かに言ったよエルファスちゃん」


「「「面白くてお馬鹿っぽい」って」」


 ミリアとエルファスが異口同音で言えば、さらに隣のミトが、


「いや~~。それならおれだって相当だぜ? 女として見てないだぜ?」

「リゼットも一緒だったよ。ミトと同じだったよ」

「リゼットと同じ扱いとか、泣けてくるぜ……」

「リゼットも、ミトと一緒なんて……」


 ミトとリゼットががっくりと落ち込む。それを聞いてたロンシャンが、


「まだ皆さんいいですよ……。僕なんて男として以前に、弟としてもイヨリさんに見られていないんですから……」


 ズンッと沈み込む。

 そして隣で座ってクッキーを頬張っていたリカが、


「ロンシャン様よりも良いかも知れませんが、それでも私だって「タイプではない」と言われましたわ」


 手に持つクッキーがパキッと割れる。


「痴話ゲンカって、ほんと怖いね。周りがすごく痛い思いをするよ……」


 ミリアが再度呟くと、全員が頷く。


 しかしそんな中、


「あ、あの、み、皆さんはまだ名前を呼ばれましたが、私は? 私はどうなんでしょう? 一度も名前を呼ばれていなかったように思えますが……」


 試合会場の隅に手を置いて、恐らく誰よりも一番前で試合を見ていた雪目が青白い顔をより一層青くして全員に振り返る。


 全員は一言も言葉を返さず、サッと目を逸らした。


 それからすぐミトが思い出したように口を開く。


「そ、それよりよ。ジンタのやつ結局一発もイヨリさんの攻撃を受けなかったけど、なんか今日のジンタ動きよくなかったか?」


「そう言われるとそうですわね? いつものジンタさんの動きでしたら、ゆうに三発はもらって、今頃死んでいたハズですけど」


 はて? と小首を傾げるリカに、ロンシャンが半信半疑ながら呟く。


「僕が思うに、ジンタさんは強化魔法を使っていたのではないでしょうか?」

「でも、ジンさんの強化魔法って体が淡く光るよね?」


 ミリアが下あごに人差し指を置き答えれば、隣のエルファスが、


「うん、スピードなら緑っぽく、アタックなら赤っぽく、プロテクトなら青っぽく、だよね?」

「でも、ジンタ光ってなかったよ? リゼット見てたけど全然光ってなかった」


「だよなぁ~」

「ですわよね」

「だったよねぇ~」

「うんうん」


 自分の世界に逃げ込んだ雪目以外の全員が、分からないと言うように顔をしかめていると後ろから声が響いた。


「やっぱり、君達はもう彼から強化魔法を掛けてもらってたのか」


 全員が振り向くと、汚れた白衣のポケットに手を突っ込み、右手で眼鏡をクィッと直す保健医が立っていた。


「た、確かに掛けてもらいましたが、決して自分では使っていませんよ!」


 即座に答えたのは、一番頭の良いロンシャンだった。


「ふむ、その慌てよう……。もう使えると取っていいな、君の場合は」


「うっ……」


 図星だったようにロンシャンが仰け反る。


「まったく困ったものだ彼にも。そもそもこの決勝では、私の教えた強化魔法の使い方をしても、きっと重傷ほどのケガをして保健室に運ばれてくると読んでいたのだが……、まさか無傷で乗り切るとは……」


 ガッカリと溜め息吐く保健医に、ミトが問う。


「あんたがジンタに何か教えたのか?」


 全員の視線が鋭く保健医に向けられる。


「そう、睨むなよ君達。確かに教えたが決して後遺症がどうとか、解剖がどうとかではないんだから……」

「では、わたくし達にも教えていただけますわよね?」


 リカがより目を細くする。


「怖いなぁ、リカくんは――」


 保健医はもう一度眼鏡をクィッと上げ、


「まあ、普段は決して使わない、なぜこんな無意味な方法を知ってるんだ? ぐらいの裏技だが……」

「……普段は使わない方法?」


 目を輝かせロンシャンが保健医に聞き返す。


「ふっ、君の好奇心を見ていると、私は自分を、昔の自分を見てるようだと感じるよ」


 呆れながらも笑みを称えて、保健医は空咳の後、


「ではロンシャンくん。君に問おう」

「はい!」


 保健医の言葉にロンシャンは即答。


「強化魔法の三つの発動条件は?」

「対象、効果時間、魔法名。ですよね?」


「うむ、やっぱり君ももう使えるようだな」

「うっ……」


 正解とばかり唸るロンシャンだが、今度は仰け反らない。


「まあそれはいいとして。それではロンシャンくん強化魔法の利点はなんだ?」

「利点ですか?」


 一瞬考え込み、


「肉体の強化がメインなのと、一度掛ければ時間内は持続する効果、ですかね?」


「うむ、当たりだ。それが強化魔法の強み、ではあるが、今回私が彼に授けたのはほんの一瞬だけ強化する方法だ」


「一瞬だけ?」


 眉根を寄せ、訝しむロンシャンに保健医は頷き、


「この無意味なほどの効果の強化魔法。その意味が分かったかな?」


「何で無意味なんだ?」

「リゼットも分からないよ?」


 ミトとリゼットが目を丸くする。


 そして、ミリアは空を見上げ、エルファスは金色のクセッ毛をいじり、リカは何事もないように視線を外す。雪目は今だ意識が現実に戻ってきてない。

 つまるところロンシャン以外の全員が分かっていなかった。


「ほんとに無意味な効果ですね」

「だろう?」


「時間指定して使えばその強化が得られるのに、一瞬だけそのチカラを発揮するなんてまったく意味がないですからね」

「うんうん、そうそう。君はほんと聡明だねぇ」


 心の底から喜ぶ保健医に対し、ロンシャンは早くと言うように口を動かす。


「それで、その方法は?」


 それに対し、保健医は首をすぼめ、


「これはほんの偶然、まだ覚えたばかりのお馬鹿な苗木の子がやってしまった方法だったんだが。――対象、魔法名だけを意識して唱えると抜けた時間が、魔力のチカラでほんの一瞬だけ、それこそ体が発光する前だけ発動するんだ」


「そんなことが……」

「うむ。しかし、だ。これは普通に使えばすごく無駄な使い方だがな」


「「どうして?」」


 ミトとリゼットが、ロンシャン以外の全員を代弁して同時に尋ねる。


「通常の時間指定の強化魔法で消費される魔力に対し、トータル時間で考えるとすごく魔力のコストが掛かるんですね?」


「正解だ」


 ロンシャンが答えると、保健医はポケットの手を出し拍手した。


「一回や二回ならそうでもないが、一瞬、一秒にも満たない時間を一〇分間分唱え持続させるなど、魔力のダダ漏れだ。非効率以外の何ものでもない。使う必要、唱える意味すらないほどの失敗魔法みたいなものだ」


「確かにそうですね。魔法の持続には一瞬で使うより大量の魔力を消費しますから……一〇回二〇回と唱え続けていたら、かなりの消費ですよね」


「うむ。だが、今回は敢えてそれを教えた。避けるのが難しい時の一瞬、攻撃を避けるためだけに、な」


「なるほど……」


 深く感心し、それを現すように深くゆっくりと頷くロンシャン。


「さて、そろそろフィナーレのようだぞ」


 全員の目を再び会場へと向けさせるように保健医が促す。


 全員が会場に目を戻したとき、ちょうどジンタがイヨリをゆっくりと、そして優しく抱きしめたところだった。



『愛してるぜイヨリ』


 嗚咽を漏らし、ジンタの胸に顔を埋めるイヨリ。


『私もですジンタさん』


 会場の外、ミリアの隣でエルファスが二人の動作に合わせてアフレコしていく。


 その声に合わせたように、ゆっくりとイヨリの腕が持ち上がりジンタの腰へと動く。


「え、エルファスちゃんなんか私まで恥ずかしいって、――――あ、あれ?」


 抱きしめ合おうとしている二人に声を当てているエルファスに、頬を赤らめ言い掛けたミリアの声が変調する。


「どうしたのミリアちゃん?」


 突然のミリアの声の変化にエルファスが尋ねると、ミリアは震えながらゆっくりとイヨリを指差す。


「い、イヨリ……、獣人化解いてない」


「え?」


 ミリアの指先の延長線上、その先にいる抱き合い、抱きしめ合おうとしている二人にエルファスも再度目を向け直した。今まさにジンタの背中に回されたイヨリの腕は灰色の、ジンタの胴をほとんど覆い隠すほどの岩の長い腕だった。



「「「「「あ――――っ!」」」」」



 エルファスだけじゃなく、全員がほぼ同時に叫んだ。



 バキバキベキッ! ゴキンッ!



 何かが砕け、最後には折れる音が響く。


 音と同時に、イヨリの岩の腕の上に見えるジンタの上半身だけが後ろに大きく仰け反る。


「ぐ、グブッ」


 まるでそれだけが聞こえてきたかのように、ジンタの口から大量の吐血が溢れ出す。


「い、イヨリ――っ! 待った待った待った――――っ!」

「だ、ダメですっ! イヨリさんそれ以上チカラを入れてはラメ――――っ!」

「おいいいぃぃぃぃぃっ! ジンタ死ぬなあああぁぁ――――っ!」

「ジンタっ! 大丈夫かっ! 口から真っ赤なトマトの汁出てるぞっ!」

「あれはもう死にましたわね」

「は、早く、早くジンタさんにヒールをっ!」

「い、今がチャンスです! 私がジンタさんを看病すればきっと――」

「イヤッホ――っ! 早く被検体――い、いや、けが人を保健室へっ! 解剖――もとい治療を、早く私の元へ――ッ!」


 会場の外から一斉に中へと向かい走り出す面々。

 ミリア達が会場に上がる中、会場の外からレフリーがサッと右手を上げる。


『収穫祭メインイベント優勝は、完璧なサバ折りを決め、見事二連覇を達成したイヨリ、ミト、リカチームの勝利ですッ!』


 会場に勝利宣言が響き渡る、同時に会場が一斉にワッと沸き立つ。



 リング中央、イヨリは抱き締めたジンタに目を向ける。


「じ、ジンタさん? ジンタさ――んっ!」


 サバ折りを決めたままイヨリがジンタを激しく揺らした。


 しかしジンタは返事をせずイヨリのゴーレムの腕を中心に、上半身と下半身を別々の方向にブラブラとチカラなく揺らすだけだった。


 こうして、色々あった収穫祭は終わりを迎えた。


 このリリフォリア第一階層のラペン史に残る収穫祭イベント二冠達成と、それ以上に語り継がれる最大の痴話ゲンカを残して。

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