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ミトの思い出 試合の行方

「えっと、これっておれ達どうしたらいいんだ?」


 ミトがリングを走り回るジンタとイヨリの対面側から、同じように暴れる二人から非難し近づかないようにしている三人に尋ねた。


「とりあえず、今は観戦ですわね」

「うんうん、おれっちもそれがいいと思う」

「わ、私もです」


 リカと松と竹が反対意見一つださずに頷く。


 松と竹は対戦相手であるが、それでも今のこの状況でさすがに戦う気になれないと、ミトとリカも固まって移動している。


 円形で平らに削られた岩のリングが、ジンタが避けたイヨリの拳で見事に粉砕されていく様を見ては……。


「まあ……、確かにあれに巻き込まれたら、たまったモノじゃないよなぁ~~」


「だよなぁ~。おれっちもアレを喰らうのはやだなぁ~~」


 ミトと松が獣人化を解き、同じような格好をし、頭の後ろで腕を組む。


「私、ちょっとホッとしてますわ」


「な、何をですか?」


 リカと竹も獣人化を解いた。


「私、昔はイヨリさんに本気になってもらうため、何度も怒らせようとしてましたが。怒らせたあの人があんな見境なく破壊をくり返すだなんて――、今思うと怒らせなくて良かったですわ」


「は、はぁ~それはほんと良かったですねぇ~。あ、あんなチカラで激しく叩き付けられたら、きっとすぐペッチャンコになっちゃいますよ……」


「ええ、きっと殴り合いにもなりませんわね」


 四人が見つめる先にいるイヨリは、今なおリングを走りつつジンタに向け拳を振り下ろし続けている。


まるですべてを掘削し進む採掘機のように――。




「と、とりあえず落ち着こう、なあイヨリ」


 ジンタは必死で逃げ走りながら、後ろから追い掛けてくるイヨリに叫ぶ。


「知りませんっ! もう何も聞きませんっ! いっつも言い訳ばっかりっ!」


 イヨリは拳を振り回しながら、そうくり返すばっかりだ。


 ……ど、どうしよう……、とジンタも半ばどうしていいのか分からず困っていた。

 怒っているイヨリと面向かって戦うことで、イヨリのことをもっとよく知ろうと、なぜそこまで怒っているのかを知ろうとしたが、ここまで激しい攻撃をされては正直、面と向かい合う事も出来ない。幸いと言えばいいのか、イヨリは走るのが苦手(見ててお嬢様走りのような変な走り方)な為、普通に走ってれば捕まりそうもないが、逆にそれでは何にも解決しない。

 どうしたものかと、逃げながら考えるが、結局いい案が思いつかない。


 直径三〇メートルの会場を三周ほど回った時、地面を掘削するような叩き付けるような音が後ろから聞こえなくなり「あれ?」と振り返ったジンタ。


 見れば、イヨリが足を止め大きな岩の両腕を地面にぶら下げ、大きな腕からすれば小さい両の肩を激しく上下させていた。


 ――ああ、あれだけ走るの苦手そうな走り方だ、当然長距離は……。はて? ひょっとして俺ってばイヨリの弱点を一つ見つけてしまった?


 などと、ジンタが思考を働かせていると、


「そ、そうやっていっつも逃げてばっかりなんですか、アナタは! 今回だって、わ、私とは組んでくれなかったのに、他の人とはほいほいと……」


 イヨリの小さいながらもハッキリ聞こえる恨みの声に、


「い、いや。俺だってほんとはちゃんとイヨリ達を応援するつもりで――」


「じゃあっ! じゃあなんで私達の応援に来ないで、私に説明もしないで、いきなりアナタが大会に参加してるんですか? どうしてですか?」


 イヨリの今回の怒りの原因、心の叫びのような問い掛けにジンタは目を見開く。


 そして、


 ――ここだ! ここでちゃんとイヨリに俺の誠意、今回の経緯すべてを語らないとダメだ!


 直感、決意し、


「ち、違う、イヨリこうなったのには色々――――」


 こうなったすべてを話そうとジンタが、激しく息を切らせているイヨリに一歩近寄る。


 が、


「訊きたくありませんっ‼」


 目をキツく瞑り首を振り、イヨリの岩の拳が一歩を踏み出したジンタ目掛け襲いかかってきた。


 ――訊きたいのか、訊きたくないのか、どっちだよっ!


 ジンタは心で泣きつつ、振り抜かれるゴーレムの大きい拳を横っ飛びで避けた。


 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

 ジンタは背を向け逃げるのではなく、拳を振り抜いたままのイヨリと向き合う。


「イヨリ、少しは俺の話を聞けって!」


 自分の前で立ち止まり叫ぶジンタに対し、イヨリは唇を強く噛み、まるで胸中のあらぶる感情を自身のゴーレムの両腕に込めるようにパキパキと音を鳴らし握りしめ、ゴーレムの拳から細かい破片をこぼしながら目一杯にジンタへと向け振り回した。


 ジンタは、そんなイヨリの気持ちと攻撃を真正面から受けつつ――まともに受けたら即死なため、躱しつつ――イヨリに自分の言葉を聞いてくれるよう説得を試みた。


「ほんっっと言い訳ばっかりっ! 大体アナタはいっつもいっつも――――」

「だ、だからそれは――――」

「言い訳はもううんざりですっ‼」

「だから、まず話を聞いてくれっ!」

「イヤですっ‼」

「何でっ!」

「イヤだからイヤなんですっ‼」

「そこを何とか、訊いてくれって!」

「知りませんっ‼」


 言い合いながら、両腕をムキになって振り回すイヨリとそれを必死の形相で躱すジンタ。



        ※※※※※※※※



 そんな二人の攻防を同じリング内の一番遠い位置で見ていたミトは、何とも言えない懐かしさが胸を締め付けた。


 昔――、そう、今から五年以上前、まだミトがエルファスに喚ばれる前、『召喚されし者』になる前に、自分もイヨリのようにムキになって怒ってたことがよくあったな、と。


 誰に対してか? な~んて思い出すまでもない。

 そんなのは自分を産んで育てくれた人、――母親に決まっている。


 目の前でムキになって拳を振りジンタに怒りながらも語りかけるイヨリ。それを必死に死なないように躱すジンタ。

 そんな二人の姿を目に写しながら、その姿にここまでの規模ではないが、小さい自分とムカつくほどいつも余裕タップリな母親とのやり取りを重ねていた。


 もっとも、あの二人と違うのは……、


(母ちゃんのバカッ!)

(あら~? ミトちゃんはいっつもそうやって人にバカしか言わないのねぇ~。ちょっといい子いい子してあげちゃおうかしら)


 逃げようと振り向いたミトの首根っこを掴み、母親は拳を作った両手でミトのコメカミを挟む。


(ぎゃあああぁぁぁぁ――――、頭が割れる~~~~離せよ~~~~~~~)

(ほ~~れグリグリ、グリグリ)


 いつも突っかかっては、最後に必ず母親の制裁を喰らっていた……。


 今思い出しても、左右のコメカミが痛くなってくる思い出の数々。


 そんなことを思い出しつつ、自分もエルファスによくやるコメカミグリグリはきっとあの母親譲りなんだろうと意識すると、自然と苦笑が溢れた。


「大丈夫かミト?」


 思い出に浸りつつ、あやふやにボー然とした視界でジンタとイヨリの二人を見ていたミト。その焦点が戻った視界いっぱいに黒と白の短い髪とクリクリの黒目をした顔がいきなりドアップで広がった。


「ぬ」

「「ぬ?」?」


「ぬおおおぉぉぉぉっ‼」

「おおおおぉぉぉぉっ‼」


 我に返ったミトが大きく飛び退き、一緒にもらい驚きした松まで同じ方向に飛び退いて、二人は試合会場から自分達で跳び降りた。


「「……あ」」


 二人でリングの外、自分の足元を見つめリングアウトしたことに絶句する。


「おいぃぃぃぃぃっ!」

「あ、あぁぁぁぁぁっ!」


 松の胸ぐらを掴むミトに頭を抱える松。

 そんな試合会場からリングアウトした二人の元に、リカと竹までリングから飛び降りてきた。


「おいぃぃぃっ! りかああぁぁぁぁっ!」

「たけええええぇぇぇっ!」


 叫ぶ二人の目の前で、リカと竹はうるさそうに両耳を押さえ、


「もう私達の出番は終わりですわ。後の決着は、あの二人に任せれば良いことですわ」

「そ、そうですよね。い、今から私達が入っても、邪魔者にしかなりませんから」


 胸元で自分の武器である槍を握りしめ、竹がはにかむように笑むとリカは竹を見つめ、


「あなた、何気にその辺りのわびさびがわかってらっしゃるのですのね?」


「そ、そうですか?」


「ええ、今度ご一緒にお茶でも飲みませんこと?」


「は、はい。よ、よろしければ、お、お願いします」


 リカにしては珍しい優しい笑みで、頭をしっかり下げる竹に、


「今度お誘いしますわ」


 とだけ伝え、マスターであるロンシャンの元へと歩き出した。


「お、おれも、それ行ってやってもいいぜ?」


 リカの後ろを追い掛けながらミトが言えば、


「ミトさんは、何も考えずいつものように普通のコップでゴクゴクとお水を飲んでるのがお似合いですわ」


 振り向きもせずに、軽口をリカが言い返す。



「り、リカさんに今度、お、お茶に誘われちゃいました」


 竹が松を見上げ言うと、


「お、おれっちはやっぱ、ミトと一緒に水だけかなぁ……?」


 遠ざかるリカとミトのやり取りを訊いていた松が、悲しい顔で竹に聞き返す

 しかし、帰ってきた言葉は、


「わ、私も、マスターとしてご、ごごご、ご一緒しますですわよ」


 どこから現れたのかベンジャミンだった、その顔は緊張で引き攣っている。


(何も今からそんな緊張しなくても……)


 マスターであるベンジャミンに、松と竹は二人して困った顔を向け合い、笑みを浮かべた。

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