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予選 ジンタ2

 ジンタを切り裂こうとする爪を盾で防ぎ、次いで攻め寄るシミターを直剣で弾き、迫り来るゴリラのような大きな拳を、身を捩り躱す。


 ――今ので十五回目、かな? 俺って実はかなりすごいとか? ――なんてな。


 独り言を頭の中で呟きながらも、ジンタの目は襲い来る三人を注意深く見ている。

 これだけ躱せるなら一対一だったら勝てるのでは? と甘い考えもよぎるが、それは浅はかな考えだと自分を戒める。


 ここまで三人の攻撃を躱しきれていたのはなんてことはない、ただ三人もそれぞれ相手の行動を警戒しながら、ジンタに斬り掛かってきているからだ。


 事実、一回の攻撃で各人一回か二回しか攻撃してこない。しかも睨み合う形になったとき、視線は七割ほどジンタに向けているが、それ以外の三割は自分以外の二人の獣人化女性の動きを互いに見ている。


 三人共、それぞれ別に仲間がいるのだろう、共闘しているようには見えない。

 しかも、今のジンタにも分かるぐらい、三人とも戦いに慣れてないようだ。

 そんな互いを警戒している、戦い慣れてない三人に自分はただ一方的に攻撃されているのは、自分が三人よりもっと戦いに慣れてないからだと、内心でガックリするが……。


 これがイヨリなら、この三人を歯牙にも掛けずにあっさりリングの外へとあしらっていることだろう。それを考えるとまだまだイヨリの隣には立てないなぁと、ジンタはさらに落ち込む。


 だが、こんな状況でも光明はある。一応ジンタが使える魔法、強化魔法を使えばこの状況を打破出来るかも知れない。いや出来るはずだと確信している。

 してはいるのだが、今はソレも使えない。

 本当に運が悪かった。

 松に引き摺られていった参加登録の際、ただの偶然、本当の暇潰しでそこにいた保健医に、参加を見つかり、あっさりと強化魔法は禁止だ、と、止められているからだった。


 もし使ったのがバレたら、実験の手伝いをする約束までさせられた始末だ。実験の手伝いなど考えるまでもなく、きっとジンタを解剖することだと分かり切っている。そんなのは絶対にイヤだ。

 探す余裕は全くないがあの変人保健医のこと、恐らく今もこの試合会場が見える位置で「早く使え~早く使え~」か、「死なない程度のケガしろ~死なない程度にケガしろ~」とジンタにとっては同じような呪いを掛けているだろうことは予測できる。


 使えるモノが使えない、これがすこぶるジレンマを生み出すことを、ジンタは今、身を以て味わってる最中だった。


 ――なんとなくだけど、マスターに喚ばれた召喚されし者達が、命に代えてもマスターを守り通すと誓う理由の一端が分かったような気がする。

 もしミリアが死んでしまい、自分が『召喚されし者』の権利を失ったら、この魔法も使えなくなるのだから。

 もっとも、今のジンタには、そんなことを考えるまでもなく、どんなことがあってもミリアを守りたいという気持ちは十分にある。


 そこまで思考を自分の中に潜らせてたせいか、三人の中、シミターを持つ女性の初動にジンタの反応が遅れた。


 牽制のように横に薙いできたシミターに対し、ジンタは直剣をただチカラなく当てるだけになってしまい、剣を持つ腕が大きく体側へと弾かれる結果になった。


 さすがに慣れてないとはいえ、一撃でそこまでバランスを崩してる相手を残りの二人が見過ごすはずはない。


 チャンスとばかりに猫科の獣人化女性が、身軽に空中で前転し、渾身のチカラを込めた両手の爪を振り下ろす。


「グッ……」


 弾かれた剣を持つ腕にクロスさせるように盾を構え、爪を防ぐ。

 が、渾身のチカラによる攻撃は、予想以上にジンタの体を大きく揺さぶり、完全によろけてしまう。


「もらったあぁぁぁっ!」


 そこに、気合いの篭もったハスキーな声と共にゴリラのような右手を三人目が振り下ろしてくる。


「こんっのおおっ!」


 バランスを崩しながらも、ジンタは腕をクロスさせたまま、再度盾を持つ手にチカラを込める。

 ミシッとイヤな音が、盾と体に挟まれた両腕から聞こえてくる。


 ――これ以上は折れちまうっ!


 咄嗟の判断。相手のチカラに逆らわずジンタは殴られる勢いに体を預けた。

 上から下に向けて放たれた力強い拳は、ジンタを盾の上から地面に叩き付ける。

 もっとも垂直に攻撃を受けたわけではないため、流される格好でジンタは後方に座り込むように倒された。


 ドシッと臀部に激しい痛みと衝撃が走り、逃がしきれない衝撃が体中を走り、それが鼻から抜け、すぐにでも鼻血が出そうな感覚に襲われる。


 もっとも、そんな痛みの余韻に浸っていられるはずもなく、即座に立ち上がろうとこころみるも、目を上げた先で三人の獣人化した女性が次の攻撃をするべく構えていた。


 ――あら……、終わったな、こりゃあ……


 完全に諦めたジンタに、三人が一斉に攻撃を振り下ろす。

 ジンタは痛みに耐えるように目を瞑る。



 ガシイィィンッ!



 激しい音が響き、訪れるはずの痛みが来なかった。


 なぜ? と思いつつジンタは恐る恐る目を開ける。

 視界には、一杯の白と茶色の針が広がっていた。


「う、うへ?」


 情けない声を出すジンタに、トゲ側の向こうから声が響く。


「だ、大丈夫ですか? ジ、ジンタさん」

「その声、竹か?」


 ホッとし、目をトゲの向こう側へと向けると、竹の持つ槍が三人の攻撃を一手に押さえ込んでいた。


「は、はい。わ、私は攻撃が苦手なので、少し手間取ってしまって、お、遅くなりました」


 そこまで言って、竹は三つの攻撃にギリギリと音をたて均衡を保っている状態から、槍をグイッと押し返す。


 渾身のチカラで竹の槍を押し込んでいた三人が、あっという間に後ろへと押し返される。

 ジンタより頭二つ以上小さい竹のどこにそんなチカラがあるのか分からないが、どうも竹は小さいながらもチカラはすごいらしい。


「お、お待たせしました」


 振り向きぺこりと頭を下げる竹に、ジンタも安堵の笑みを向ける。

 それから思い出したように立ち上がり、


「こっちこそ助かった、さあこれからはこっちの番だ」

「は、はい! で、でも私防御に向いてて攻撃は……」


 申し訳なさそうに視線を下げる竹を守るように前に立ち、


「大丈夫だ竹! 君が一人を受け持ってくれてれば、俺が残りの二人を――――」


 そこまで言ったジンタの目の前、つまり、ジンタ達の正面にはさっきの三人とプラス二人の計五人の獣人化した女性が立っていた。



「「……………………」」



 お見合いのように五人全員と視線を合わせた後、


「あ、あれ? ふ、増えてる?」


 少しの間をあけ、ジンタが呟いたと同時に五人が一斉に飛びかかってきた。



        ※※※※※※※※



 一方、もっふもふの尻尾の持ち主である松は、種族大リスの最大の長所であるスピードを生かし、直径三十メートルの円形である試合会場内を駆け回り、隙を見ては対戦相手を叩き落としていた。


「でりゃああぁぁっ!」


 初手、右手の少しだけ伸びた鋭くも引っ掻く程度の爪を防がれた後、即座に体を捻り左足でミドルキックを叩き込み、また一人をリングから叩き落とし松は叫ぶ。


「ジンタッ! ちゃんとついて来てるなっ!」


 が、返事はない。


「あ、あれ?」


 クリクリのお目々、その黒目をさらにクリクリさせ、


「お、おい? ジンタ?」


 振り向く。

 後ろには、ジンタどころか誰もいない。


「あ、あれ?」


 困ったように頬を掻いてから、松は辺りを見回した。


「ありゃりゃ?」


 左右に一度、視線を彷徨わせてる間にジンタと竹はすぐ見つかった。

 五人を相手にどう見ても悪戦苦闘し、追い詰められている。


「あちゃ~~、だからおれっちについて来いって言ったのに」


 腰に手を当て、やれやれと松は首を振る。


「しゃあない、助けにいくか!」


 パンッと両頬を叩き、気合いを入れ直して、種族大リスの松は必死な顔で剣を振るうジンタ達の元へと走り出した。



        ※※※※※※※※



「ぬ、ぬおおおおぉぉぉぉっ!」


 必死。その一言に尽きる叫びを上げ、ジンタは剣を振り回し、盾を構え、体を振り動かした。

 竹が援軍として戻ってきたが、なぜか相手も三人から五人へと増えていたがため、戦況は変わらず、――いや、正確には悪化していた。


 竹は両手で槍を持ち、無理に突っ込んで来そうな相手には、逆立てたトゲと化した髪を振り回し、牽制していたのだが、これは相手からすると攻めあぐねるに十分な効果を発揮した。


 結果的にこんなのを相手に戦うぐらいなら、と矛先がジンタへと向かい、竹が槍を振り押さえる一人以外の四人が、ジンタに攻撃を仕掛けてくる形となっていた。


「は、ははは、はっはっはっはっ!」


 必死さがある一線を越えた時、自分でもなぜか分からないがジンタは大笑いしていた。

 内心では「どうしようどうしようどうしよう」と連呼しているのだが。


 受けても弾いても次々と飛んでくる攻撃に、両腕が限界だと訴えるようにプルプルと痙攣し出す。

 口元には笑みを浮かべているが、心では血の涙を流している。

 この予選が始まるとき決めていた、少しでも傷ついたら場外に棄権すると言う考えなどは、とっくに頭の中からすっ飛んでしまっていた。


 腕を動かすたびに、ピキピキと筋がイヤな音を立てるが、それでもジンタは剣と盾を動かし続けた。

 何度目か――いや何人目の攻撃か覚えてないが、ジンタはそれを盾で受けた。

 直後、


 ――やばっ! これ、躱さないといけない攻撃だ


 思った時は遅かった。


 盾ごと体が大きく後ろへと浮いていく。

 衝撃よりも、浮遊感を強く感じるがそれもすぐにおさまる。


「きゃっ」


 悲鳴が聞こえ、背中に何かが当たる感触によって。


 聞こえた声、それが竹だと咄嗟に判断しジンタは「ごめん」と謝るも、バランスは大きく崩れている。

 正面には、もう次の攻撃へと移行している獣人化した女性の振り被る手が見えていた。


 ――さすがにこれは……、もう、どうしようもねえなぁ~。


 今度こそ完全な諦めに溜め息を吐いて、何とか次に訪れるであろう衝撃と痛みを和らげようと盾を前に出し、目を閉じる。


 ドドドッ


 連続する打撃音。襲いくる激しい痛み……。


 ――……痛み?


 体中に電流のように流れても不思議ない痛みが襲ってこない、目を瞑っていたジンタの思考が「?」を三つほど頭の上に咲かせた。


「おい、ジンタ大丈夫か?」


 四つ目の「?」が頭の上で咲く前に、ジンタを呼ぶ声が耳に届く。


「お? おぉ?」


 困惑の声を漏らしつつ、ジンタはゆっくりと目を開けた。

 目の前に松のクリクリお目々のアップがあった。


「うおぉっ!」

「な、なんだなんだ?」


 驚き上体を仰け反らせるジンタに対し、松も驚いたように大きく一歩後ろに仰け反る。


「お、お前いっつも近いよっ! いっつもいっつも目を開けるとアップとか、ほんと焦るからっ!」

「だ、だってよ~~、助けたのに動かないから、てっきり手遅れだっかなぁ~って心配になってよぉ~」


 申し訳なく悲しげに目尻を下げ、人差し指同士をグリグリとくっつけ回しながら、松が小さく答える。


「まあ、助かったのは事実だから。――松、ありがとう」


 言い過ぎたと、頬を掻き目線を逸らしつつジンタはお礼を言った。


「そうか? やっぱ助かったか?」


 一気に顔一杯を嬉しそうにして松が頷く。


「ほ、ほんと助かりました、松さん」


 相手にしていた一人を、何とか場外に落とし、竹もぺこりとお礼をした。


「おう、竹も無事だったか?」

「は、はい」


 頷き会う二人に、


「さって、三人揃ったし終わらせるかっ!」


 立ち上がり、右手の直剣を素振りのように袈裟斬りに振ったジンタが気合いの声を出す。


「「おぉ~~」」


 二人も拳と槍を高々に上げ、ジンタと背中合わせになるように立つ。


 見れば、周りの対戦相手達もかなり数が減り、ジンタ達を含め十五人程まで減っていた。


 ――これなら、なんとかいけそうだ。


 そう自分を鼓舞し、向かって来る相手に剣を振り出したジンタ。


 三度ほど向かって来る獣人化した相手に剣を振り、大きく飛び込んで向かって来る相手に四回目を振ろうとした時、



「ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃやああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!」



 徐々に大きくなる悲鳴とともに、横から何かが飛んできた。


 飛び込んで来たそれは、凄い速さでジンタへ向かい飛びかかって来ていた獣人化した相手を巻き込み、場外まですっ飛んでいった。


「な……なんだ……??」


 ジンタは、何がどうなっているのか分からず、目を点にした。

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