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得手不得手と勘違い

「ヒール!」


 目を瞑り、額に汗を浮かべたエルファスの緊張した声が通路に響く。


 ジンタの右腕、蜘蛛に付けられたかすり傷程度の傷口に添えられた、透き通るような細く小さいエルファスの手の平が仄かに光り、光の粒がジンタの傷口へと降り注ぐ。


「「「お、おぉ~~」」」


 ジンタを始め、顔を寄せ合い感嘆の声を上げるミリアとリゼット。


「ふぅ~っ」


 エルファスが篭もった熱い息を吐き出し、おでこの汗を拭う。

 その時には、もうジンタの手の傷は綺麗に消えていた。


「驚いたな……、ほんとに直ったよ……」

「エルファスすごいぞ!」

「うん、エルちゃんすご~い」


 三者三様に驚きと褒め言葉と拍手をエルファスに送る。


「いえ、これぐらいたいしたことありません」


 えへへ、と照れながら頭を掻き、エルファスもそれに答える。


「そんなことないよエルちゃん。わたしなんてヒール使うと「ボンッ」って壊れちゃうもん」


 ミリアがしかめっ面して口を尖らせた。


「ヒールでボンッ?」


 ジンタが、何のことか意味が分からずに聞き返す。


「うん、わたしはなぜか魔法がうまく使えないの。なんか失敗ばっかりで……」


 ミリアの頭が悲しそうに下へと向いていく。


「「「「……………………」」」」


 場の空気が一気に重くなる。しかも俯くミリア。

 エルファスとリゼットはジンタに「ミリアに何してるんだ」と言わんばかりにジト目を向けてくる。


 ジンタは二人の視線を逃れるように、俯くミリアとは逆に天井を見上げて、


「ま、まあ、俺は魔法なんて使えないからよく分からないけど、それなら一杯練習してみればいいんじゃないか?」


 とりあえず励ましの言葉を口にする。


「でも、今までだって一杯練習したけどダメだったし……」

「一杯ってミリアは今何才だよ?」

「十一才……」

「まだ、十一才だろ?」


 唇を尖らせたままのミリアが、ジンタを上目遣いで見上げる。


「俺だってまだ十八才だ。出来ない事なんて一杯あるぞ? それをたかが十一才のミリアが出来ないことなんてもっと一杯あるに決まってるだろ?」


 頬を掻き、口元を緩めジンタは続ける。


「向き不向きもあるだろうし、練習量や覚える早さの差もあるだろうけどさ、ミリアはまだ出来ないって言えるほどやってないと俺は思うけどな。まあミリアぐらいの年だと、隣で出来る同級生を見てそう感じるかも知れないけどさ、逆にミリアに出来てエルファスに出来ないことだってあるかも知れないだろ?」


 ジンタの言葉に、


「そうだよミリアちゃん。私にだって出来ないこと一杯あるんだし」


 エルファスも相づちを打つ。


「リゼットも出来ないこといっぱいあるぞ、ミリア」

「う……、なんかリゼットには確かにいっぱいありそうだけど、エルちゃんはあんまりなさそうなんだけど……」


 ミリアがわざとらしく頬を膨らませ、笑みを堪え反論する。


「そんなことないよ一杯あるよ。まだお料理もうまく出来ないし、裁縫や算数や逆上がりも出来ないよ」

「なんか逆上がり以外、わたしも全部出来ないよ……」

「でも、逆上がりはミリアちゃん出来るんでしょ?」

「うん」

「私はそれが羨ましいよ、ミリアちゃん」

「そんなの普通のときは何の役にも立たないよ、エルちゃん」

「それでも、体育の授業で鉄棒のとき、私すごい嫌なんだから……」


 エルファスまで頬を膨らませ始める。


「まあ、隣の畑はよく見えるってか、そんなもんだろ? 自分に出来て相手に出来ないことって、羨ましいと思ってしまうもんなんだ」


 ジンタは、二人して頬を膨らませているミリアとエルファスの頭にポンと手を置き、この話はここでお終いとばかりに二人の頭をクシャクシャた。


「うん、そうかも」

「そうだね」


 二人もジンタのクシャクシャに首をすぼめて互いに目を合わせ、微笑みを見せた。


「さて、じゃあ先に――」


「エルファ――――スッ‼」


 気を取り直してジンタが先へ進むことを促そうとしたとき、通路に大声が響いた。


 声はジンタ達の進もうとする先から聞こえ、見れば通路のずっと先を土煙を上げ、何かがすごい勢いで迫ってくる。


「あれ? エルちゃん今の声って?」

「うん、なんかミトっぽかったけど……」

「ミトって確か、エルファスの?」

「はい、召喚されし者で私の家族です」

「へ~~、じゃああれが――」


 迫り来る土煙。

 恐らくミトという人物だろう、に向け挨拶するため右手を上げかけたジンタに、


「リゼット――――ッ! その不審者を押さえ込めッ!」


「ギャッ⁈」


 目を見開いたリゼットが、名前を呼ばれた条件反射と共にジンタを羽交い締めにした。


「は?」


 ジンタま目が点になる。


 そこに、


「ミ――――ト――――ッ!」


「え?」


 何が起きているのか分からなく正面を見るジンタに向け、凄まじい速度で土煙を上げながら突進してくる人物。

 白いウサギ耳とおでこに角を生やし、ポニーテールに結った茶色い髪を激しく揺らし、さらに下半身を真っ白いウサギの様な足に変えた少女が、目を勝ち誇ったにつり上げ叫ぶ。



「キ――――――――ック!」



 グルンと獣人化した白い下半身、その足をジンタに向け突っ込んできた。


 ――あ、ピンクの肉球だ……


 そんな感想を頭に思い描いたジンタの顔面を肉球が突き刺さり、衝撃が突き抜けていく。後ろでジンタを羽交い締めにするリゼットもろとも――。


「グホッ!」

「ギャッ!」


 ジンタとリゼットが潰されたような声をそれぞれ上げ、数メートル分の距離の地面を転がる中、ミトは見事な着地をして、エルファスとミリアに抱きついた。


「二人とも大丈夫だったか? あのよく分かんねえ変態男に何にもされなかったか? ってかなんで男がこんなところにいるんだ? とりあえずおれが成敗しておいたからな」


 グリグリと自分の薄い胸にエルファスとミリアを抱きしめるミト。


「ミ、ミト……あばらが当たって痛い……」

「うん、イヨリだとおっぱいに埋まって息が出来なくて苦しいのに、ミトの場合は息は出来るけどゴリゴリ当たって痛いよ……」


 二人のエルフの少女、その素直すぎる返答を聞きミトが二人にゲンコツした。


「い、いきなり人の顔面を蹴るって……」


 微妙に柔らかかった最初の肉球の感触、その後に訪れた突き抜けるような雷のような衝撃に頭をクラクラさせながらジンタが抗議の声を上げる。


「そうだミト、なんでリゼットまで一緒に蹴るんだ?」

「いや、それを言うなら、なぜリゼットは俺を羽交い締めにした?」

「ん~~、リゼット名前呼ばれて、言われたから?」

「…………」


 ジンタとリゼットが頭を振り、ミトのゲンコツを喰らって涙目の二人と、ジンタに警戒して構えるミトの前に歩いて行く。


「ミト~~、その人。ジンタさんはミリアちゃんの新しい召喚されし者だよ~~」


 エルファスが、すごく痛かったゲンコツに対する非難の涙目を向けながら、ミトに説明する。


「はぁ? 新しいって、こんな遺跡の中でなんで……?」


「あう~~、わたしとエルちゃんが最初に落ちて二人のとき、危なかったから喚び出したんだよ~。ミト~~」


 ミリアもエルファス同様に、非難の涙目を向け説明。


「そ、そうだったのか? ――でも、それならそうともっと早く言ってくれよ」


 ミトは悪びれた素振りもなく頬を掻く。


(いや……、どのタイミングで説明する時間があったのか知りたいよ…………)


 ミトを除く四人がミトに目で訴えた。


「ま、まあつまりだ、こいつがお前達二人と、ついでにリゼットも守ってくれたんだな?」


 ミトが後ろに立つジンタを親指で指し示す。


「うん、ジンタさんが骸骨や大蜘蛛から私達を守ってくれたんだよ」


 エルファスの答えに、ミトはジンタに振り返る。


「へ~~、ジンタって言うのか。おれはミト、見ての通り種族アルミラージの召喚されし者だ」


 ミトはそう自己紹介してから、ジンタを値踏みするようにジロジロと睨みながらジンタの周りを見て回る。


 ミトの目ざとそうな視線を浴びながら、ジンタはジンタでアルミラージって確かウサギに角が生えたようなモンスターだったな。とゲームでも見たことあるアルミラージというモンスターを思い出す。


「で、あんたの種族は?」


 ミトに問われ、ジンタは困ったように、


「ん~、俺は獣人化なんて出来ない。種族と言われると人間ってところかな?」

「はぁ~~? 獣人化出来ない? なんだそりゃ?」


 腰に手を当て訝しむミトの鋭い視線に、ジンタは「なはは」と困った笑いをする。


「おまえ一体、このリリフォリア第一階層のどの辺りの集落に住んでたんだ?」


 低く如何にも疑っているミトの声がジンタに向けられる。

 しかし、ジンタはその威圧的なミトの雰囲気より、警戒する声に含まれていた言葉に反応を示す。


「リリフォリア? ここってリリフォリアなのか? しかも第一階層って!」


 今度はジンタがミトの細い両肩に手を掛け、声を張り上げ聞いた。

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