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ライバルとイベント参加

 結局ジンタは武器の手入れを後日にして、今日の手入れを諦め武器屋を出た。

 竹の鉄槍の後、武器の手入れをしてもらった場合、またあの三人に出くわす可能性が高いからだ。


 ジンタはそれを避けるように――いや、確実に逃げるために、すぐ鍛冶屋を後にした。


「さて、こういう日は家でおとなしくしてるに限るな」


 ラペンの街の大通り、そこで大いに賑わっている露店の一つでお土産用のリンゴを買い、その一つを頬張りながら人混みを歩いてく。


「そう言えばイヨリに買い物を頼まれてたな」


 思い出し、人の流れに沿って歩くのを止め、頼まれてた今日の晩ご飯の材料を買うために人混みを縫うように歩き出した。

 結構ゆっくりとかなり目利きをして(どれが新鮮かハッキリ言って全然分かってないのだが)選び、さらに景色を楽しみつつ歩いたにもかかわらず、お昼を少し過ぎた頃には家へと辿り着いた。


 玄関を開けるといつものようにイヨリの「お帰りなさい」の声に「ただいま」と返事をして、頼まれていた買い物を渡す。


 そして、リビングのいつもの自分の席へと歩きながら窓際に目を向ければ、すやすやと心地よさげに床に毛布を広げ眠っているリゼットとミトがいた。


「あれ? この二人って今日はずっとここで?」


 早速、キッチンでリンゴの皮をむいているイヨリに尋ねる。


「ええ、お昼をタップリ食べて「眠い」と言うなり、ジンタさんの部屋から毛布を持って来て――」

「俺のかい!」


 ジンタの突っ込みにイヨリは「あはは」と困った笑いをこぼしつつ、お茶と皮をむいたリンゴをテーブルに置いた。


「ジンタさんだって、今日はおやじさんのところで武器の手入れをするって話でしたよね? それにしては随分帰りが早いようですけど?」


 皮をむいたリンゴを一つ手で掴み、シャリッと口に入れつつイヨリが言う。


「い、いや。なんというかちょっとあってさ、手入れは後日もう一度顔を出すってことで、今日は帰ってきたんだ。あ、あはは……」


 笑いつつ、ジンタもリンゴに手を伸ばす。


「それよりさ、豊作祭だっけ? イヨリって去年そのイベントの優勝者なんだって?」

「おやじさんに聞いたんですか?」


 ちょっとビックリしたような、少し困ったような顔でイヨリが尋ね返してくる。


「そうだけど。今年はリカさんやミトと出ないの?」


 ジンタは、そんなイヨリの顔色の変化を観察しながらも話を進める。


「えっと、去年は私も一人と言いますか、家族はミリアと二人だったのでリカさんやミトさんと出ましたが……、その、今年は――」


 俯きながら、上目遣いでジンタを見てくるイヨリ。


 ぴーんときたジンタは、優しく笑みを浮かべ、


「ひょっとして俺のこと気にしてる? だとしたら気にしなくていいよ。俺もイヨリ達の勇姿を見てみたいしさ、それに去年の優勝者が全員いるのに、出ないなんて方がおかしいだろ?」

「で、ですが、その、私とジンタさんは、か、家族ですし、それに私達って何と言いますか、まだ一度も一緒に組んでまともに戦ったことないですし――」


 イヨリは引き下がらない。


「あ、あれ? そうだっけ?」


 ジンタは記憶の糸を探るようにイヨリから目を逸らし、部屋の中空に視線を彷徨さまよわせた。


「えっと、イヨリと二人でなんかやったのって――。ああ、確か最初に薬草取りの依頼を受けに行ったときだっけ」


 思い出したとポンッと左の手の平に右手を落とし、ジンタがじっと見つめてくるイヨリを見つめ返す。



「「………………………………」」



 見つめ合ったままの長い沈黙。


 あれ? そう言えばあの時なんかあったような……。


 ジンタはもう一度記憶をたぐり寄せる。そして――、


(……すごく綺麗だ)


 思い出す。


 スライムの体液でキラキラと輝くイヨリに見とれて、つい呟いた言葉。


「あ――」


 ジンタが口を開いた瞬間、イヨリの顔がボッと真っ赤に染まり、合わせていた目どころか顔全体をグルッと後ろへと向けた。


 そんな絶妙なタイミングで、


「ただいま~~」

「疲れました~~」

「ただいまです」


 ミリアとエルファス、そしてロンシャンが帰ってきた。


「お、お帰りなさい」


 振り向いたままのイヨリが上擦った声で出迎える。

 ジンタからは見えないが、玄関の前に立つ三人が首を傾げる。


「えっと――」

「イヨリさん?」

「なんかあった?」


 まずロンシャン、次いでエルファス、最後にミリアという順番で首を傾げていきながらイヨリに言う。


「なっ、な、なんでもありませんよ。り、リンゴ。そう、ジンタさんがリンゴを買ってきてくれたんですよ。今むいてきますから、手洗って待っててください」


 イヨリがガバッと立ち上がりテーブルに太ももをぶつけ、痛みに耐えさすりながら今度は座っていたソファーに躓き、最後にキッチン前で転びかけると、見事な三段落ちでの動揺を見せた。


「ジンさん、イヨリどうしたの?」


 持っていたカバンをソファーに投げ置き、ミリアはテーブルの上に置かれているリンゴをぱくりと頬張る。


「あ~、ん~、ちょっと話をしてたんだけど、ちょっと、な」

「ふ~~~ん」


 エルファスがミリアの隣に座り、じぃ~~っとジンタを見透かすように見てくる。


 ――エルファス。何気にこの三人の中でもっとも色恋沙汰の機微に目ざとく、こういうとき色々と勘がいい一番厄介な子だ。


「そ、そう言えば三人も知ってるだろ。去年の豊作祭でイヨリとリカさんとミトの三人が優勝したのを?」


 ジンタは、エルファスに突っ込まれるより先に言葉を口にした。


「それはもちろんです」


 三人は互いに目をぱちくりさせた後、代表するようにロンシャンが答え、他二人もうんうんと頷いた。


「ジンさんそれは当然だよ。なんせ私達三人が、その三人を組ませて優勝狙おうって考えたんだから」


 エッヘン顔のミリア。


「そうなのか?」

「ええ、そうですよ。なんせ優勝賞品の中に豪華お菓子セットがありまして、どうしてもそれが欲しくって……」


 きっとかなり美味しかったのだろう、エルファスはうっとり顔で教えてくれる。

 隣ではミリアがだらしなく口元を緩めている。


「お、お菓子セット、か……」

「今年は確か、お野菜一年分でしたよね?」

「うん、だから今回は優勝されると困っちゃうよねぇ~」

「きっと優勝したら、今まで以上に食卓に野菜が一杯出るだろうね……」


 三人の目がやや苦痛に細められる。


「そうか、じゃあ三人はまたイヨリ達には組んで欲しくないってことか」

「そうでしゃないですよ? 優勝してくれること、それ自体嬉しいですから」

「そうだよ。それに去年はイヨリ達が優勝してくれたから色々と……、ほんっと色々といいこといっぱいあったし」

「だよねぇ~。ラペン行けば色々と……」


 また三人の顔が弛む。

 今度の顔はどこか闇というか悪巧み的、ちょっと黒さのある感じだ。


「じゃあ、今回も三人で出て欲しいよな?」


 黒い部分には目をつむることにして、ジンタはそう確認する。


「ん~、そう言われると、やっぱ連覇というのも魅力はありますけど……」

「うん、連覇は魅力だよねぇ」

「確かに、そうだねえ」


 まだ、食卓の料理に野菜が増えることが捨てきれないような三人。


「まあ、圧倒的だった三人が一緒に出ないなら、今日会ったベンジャミンとかいうエルフの子が喜ぶだけだからな」


「「「ベンジャミンっ!」」」


 口を付いた程度のジンタの言葉に、三人の声が見事にハモった。


「ああ、今日会ったんだけどな。なんかそのベンジャミンの『召喚されし者』の二人が、イヨリ達のことをすごく気にしてたからな」


 午前中のことを思い出し、ジンタも自然と眉根がよる。


「ぐ、ぐぬぬ……。やっぱベンジャミンのやつ今日はずる休みだね。それにしてもベンジャミンが絡んでるんなら、これは絶対負けられないよ!」


 珍しくミリアの目に闘志が宿る。


「一体何――」


「が」とジンタが聞く前に、エルファスがジンタを手で制す。


「ベンジャミンは、ミリアちゃんの永遠のライバルなんです」


 真剣な表情でエルファスは続ける。


「昨日返されたテストの点。ミリアちゃんが十八点。ベンジャミンさんが二十一点」

「……十八点と二十一点」

「そして先週のテストはミリアちゃんが十六点でベンジャミンが十四点と、二人はいつもクラスで底辺の争いをしているんです」


「…………」


「ぐぬぬぅ~~」と唸るミリアにあ然としながら目を向けるジンタだが、なぜかとてつもない熱気と殺気が背中を焦がす。


 しかし、そんな熱気と殺気に対してジンタが後ろを振り向く必要もなかった。

 正面のソファーに座るミリア達三人の顔が徐々に恐怖で引き攣っていくのを見れば、今ジンタの後ろで何が起きているのか一目瞭然だからだ。


「……ミリア」


 イヨリにしては異常に低く冷たく太い声、しかも微かに震えがある。


「は、はい……」


「最近のあなたのテスト用紙、私は見てもないし聞いてもないけど?」


「えっと、それは……、な、何も、い、イヨリの目を汚す必要もないかなぁ~なんて。は、ははは……」


 苦しいにも程があるミリアの言い訳に、さらにジンタの後ろの熱気と殺気が膨れ上がった。


「あ、ミト。あんなところで気持ち良さそうに寝てるなんてずる~い」


 エルファスがソファーから――いや、この場合はミリアの隣から逃げた。


「リ、リゼットもいるじゃないか」


 それに便乗してロンシャンが離れる。

 ミリアは親友二人に裏切られたように、半泣きの顔をジンタに向けてくる。


「あっ! 俺、防具脱いでこないと」


 すまん! と心の中でミリアに謝り、ジンタは急いでソファーから立ち上がり、後ろも見ずにリビングを後にする。


 その後、ジンタの部屋にまで届くイヨリの説教が日暮れ近く、珍しく依頼を受け外出していたリカが顔を出すまで続いた。




「ではジンタさん。あなたは私達三人でイベントに参加してもよいと?」


 食後の紅茶を口に入れ、リカがジンタに問い返す。


「ああ、前年度優勝者、しかも圧勝だったんだろ? そんな三人が今年も揃っているのに出ない方がおかしくないか?」

「で、ですが、一応ミリアの『召喚されし者』として、そして家族として今は私とジンタさんの二人がいますし……」


 イヨリが、やはり譲れないとばかりに口を挟む。


「イヨリがそう言ってくれるのは嬉しいけど、――でも、もし俺を入れてイヨリが負けちゃったら、それこそ俺が申し訳ないと思っちゃうよ」


 隣できつく唇を噛み見つめてくるイヨリに、ジンタは「ごめん」というように苦笑し頭を少し下げる。


「ジンタ、お前は少しイヨリさんの女心っちゅーか、心情も考えろよな」


 リカの隣で、腕を組んでふんぞり返って座っていたミトが、グイッと顔をジンタに近づける。

 それに対しジンタは、キョトンとした顔を向ける。


「いいか、イヨリさんはもう偉そうな態度のリカとは組みたくないんだよ」


 小声、だがリビングにいる全員に聞こえる程度の声でミトは言った。


「え?」


 一瞬の間の後、思わず声が漏れるジンタ。

 だが、理解と同時にミトの隣で鎮座するリカのコメカミがピキッと音をたてた。


「ちょっとミトさん、聞き捨てなりませんわね、今の言葉は」

「あ、聞こえちゃった?」


 ジロリと鋭い目を向けるリカ、わざとらしく舌を出しおどけるミト。


「それを言うなら、イヨリさんが本当に組みたくないのはアナタかも知れないのじゃなくて? ミトさん」

「あぁ?」


 売り言葉に買い言葉。

 今度はリカの目にミトを挑発する笑みが宿り、ミトのコメカミが一気に唸りを上げ、頬がヒクつく。


「ちょっ、ちょっと待ってください二人とも」


 睨み合う二人の間に声を入れたのはイヨリだった。


 もっともそれ以外に止められそうな人物はここにはいない。当然ジンタも、止められない一人だ、ちょっと危険な雰囲気に背筋に冷や汗しか流れなかった。


「では、どうしてイヨリさんはこの話に乗る気がないのです?」

「そうだぜイヨリさん? 去年同様、今年も三人で大暴れして優勝してやってもいいんじゃないか?」


 リカとミトの言葉。

 その場にいる全員が同意のように頷く中、それでもイヨリは「でも……」とだけ口を開き、唇をきつく噛みどこか駄々っ子のように俯き無言でいる。


「イヨリさんの言いたいことは私にもいくらか分かりましてよ? ジンタさんが家族となり、今年はジンタさんを交えて一緒に参加をしたいと言うのですのよね?」


 リカの言葉に、イヨリはコクンと頷く。


「ですが、それでしたら後は私かミトさん、どちらかを一緒に入れると言うことですか?」

「そ、それは……」


 そこまでで、イヨリの口はまた塞がる。

 隣で俯いたままのイヨリの頭に、ジンタは優しく手を乗せ、


「えっと、イヨリがそこまで俺を家族として大事にしてくれることは嬉しい。でも、この場合は何というか――、ちょっとつらいかな?」


 悲しそうに見上げてくるイヨリに、ジンタは目を逸らすようにリビングの窓の外、真っ暗な外に向け、頬を掻きながら続ける。


「俺はさっきも言ったけどさ、イヨリと組んでイヨリが負けるのはすごく悪いと思うし、きっと俺自身もそれは絶対納得出来ない、――と思う。それに俺は今回イヨリとリカさん、そしてミトの三人が豪快かつ圧倒的に勝ち進む試合をミリア達と一緒に見てみたいんだけど、それじゃダメなのかな?」

「で、ですが……」

「そうだよイヨリ! ジンさんは私と一緒にイヨリを応援するから、予選を余裕で勝ち進んで、お昼をわいわい一緒に食べて、決勝も楽勝するイヨリを見せてよ!」


 何時にもまして真面目な顔でミリアが叫んだ。


「……ミリア」

「ダメだよイヨリ! イヨリはそんな拗ねてるようなこと言っちゃダメだよ! 拗ねるのは私の役目なんだから、イヨリはいつだって自信持って私がみんなに「すごいでしょ」って自慢できないとダメなんだから!」


 これでもかと頬を膨らませ、金色に輝く瞳を潤ませミリアがソファーに膝立ちになりイヨリの顔に自分の顔を目一杯近づける。


「……ミリア」


 もう一度小さく呟いた後、イヨリは大きく頭を左右に振って、


「そうね。私なんか変にこだわりすぎてた見たい。ジンタさんとはこれからも一緒なんだし、一緒に戦う機会もあるわよね」


 目の前のミリアのおでこにコツンとおでこを当て、イヨリが答える。


「うん!」


 頷き抱きつくミリア。


「俺も、いつかイヨリの隣で自信を持って戦えるぐらいになれるようがんばるよ」


 ジンタも二人を見ながら笑みを向け、答えた。


「さ~~てっ。話も決まったし、明日おれが三人の名前で登録出してきちまうけどいいか?」


 大きく伸びをしながら、ミトが弾んだ声で全員に尋ねる。


「「「よろしく」」」

「よろしくですわ」

「お願いします」


 それぞれの言葉で全員が頼み、その場はお開きとなった。


 次の日、ミトが「登録してきたぞ~」と報告をしてきた。

 ジンタはイヨリ達が参戦すること、それをさらに次の日、武器屋のおやじへと伝えた。

 それから数日間、街は豊作祭に向けて徐々にそして確実に賑わいを増していった。


 そして豊作祭が始まり、祭りの三日目。


 豊作祭の一番のメインイベントであるイベント。一応「ラペン最強祭」と言う裏の名前があるイベントの開催日となった。

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