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二泊???? ハチミツゲット作戦 実行

 朝、ジメジメとした蒸し暑さに汗だくで目を覚ましたジンタの隣には、なぜか雪目がいた。


「…………えっと、雪目さん。なにをしてるんです?」

「起こしに来たんですが、あまりに寝顔が可愛くて、つい添い寝をしてしまいました」


 ジンタは、ここのところ毎日くり返される雪目の言い訳を聞きながら、そそくさと起き上がった。


「それで今日はどんな感じです?」


 ジンタ達が、この川に来たのがもう一〇日前。

 当初二泊三日だった予定の川遊びお泊まり会が、ハニーハニービーのハチミツゲット作戦なるものに切り替わって、一〇日目。


 蚊帳だった宿泊場所は、三日目に長期戦もやむなしとなり、暑い中せっせと建てた簡易掘っ立て小屋となった。

 そこに全員が寝泊まりしている。もっとも一応男であるジンタとロンシャンのための部屋(当然二人なので狭い)も用意されており、今ジンタとロンシャン、そして起こしに来てジンタに添い寝していた雪目はその男部屋にいた。


 そんな感じの暮らしが一週間ほ以上続いていれば、雪目が隣でガン見しているのも日課みたいなものなので、半ば慣れてしまいもう驚かなくなった。


 ジンタの問いに、雪目は真剣な顔をして、


「ええ、最近ジンタさんが隣で私が寝てても、全然反応してくれなくなって少し嬉しい反面、次の刺激が必要かと雪目は思っています……」

「いや、そっちのことではなくてですね……。――いや、そっちの進展は考えない方向で……」


 疲れたように目元を揉んで少し間をあけてから、


「――えっと、それで作戦の方は?」


 尋ね直すと、雪目は外を見てくださいと言うように、指をドアへと向ける。

 ジンタは、そのジェスチャーを受け、掘っ立て小屋の割にちゃんとしている部屋のドアを開け、空を見上げた。

 今にも降り出しそうなどんよりとした夏の曇り空だった。


「……やっとですか……」


 本心からでたような溜め息をジンタは一気に吐き出した。


「ええ、皆さんもやる気十分です」


 隣に来た雪目がジンタの横に立ち、ピトッと寄り添おうと体を傾ける。が、ジンタは見透かしたように一瞬早く歩き出し外へとでた。

 後ろからドタッと倒れる音が聞こえるが、そんなのは当然聞こえない振りをする。

 外では全員が集まる焚き火の前で、イヨリが大きな鉄板を置きせっせと朝食の用意をしていた。


 ジンタはその光景を見ながら思い出す。

 ここまで旅行が長引いたのに、イヨリとリカが二人揃って「食料にはまだまだ十分余裕があります」と言っていたことを。


 そして、当初二泊三日予定の旅行にして、ジンタの腰を一気に潰したあの重たい荷物の中身がここにきてジンタにも理解できた。


 今イヨリが料理をしている重さ四〇キロはありそうなでかくしっかりとした鉄板、そして掘っ立て小屋を建てるために使った釘や金槌やのこぎりや斧、さらには十日以上滞在しても揺るがない食料品などなど。どう見ても普通の二泊三日の旅行には、あまりに必要ない代物があの異常なリュックには入っていたのだ。


 朝起きて何度目かの溜め息を吐きつつ、ジンタは「おはよう」と朝食を作るイヨリと、それを待つ全員に声をかけた。


 全員がイヨリの手さばき――いや、イヨリの作っている料理に目を向けたまま挨拶を返してくる。

 そんな手元を注目されてる中、イヨリが手を止める。


「おはようございますジンタさん。いよいよ今日ですね」


 どんよりとした空模様とは反比例し、イヨリはにこにこ笑顔でそう言った。


「ああ、そうなりそうだね」


 ジンタも答え、いつもの自分の席である切り株に座る。


 旅行がハニーハニービーのハチミツゲット作戦へと変わって、まず始めにジンタ達がやったのは、相手の警戒範囲の確認。

 これは風向きなどの影響もあるが、それとなく円状になる形だと分かった。


 そうなると、恐らくその円状の中心に最高級ハチミツがあるのでは、とおおよその予想が成り立つ。


 が、その円の中心というのがいかんとも遠い。

 相手の防衛エリアである円状の範囲は半径にしておよそ二キロ。

 そこに到着するまでに、恐らく出て来るであろうモンスターやハニーハニービーの数、それをこちらの戦力で倒している時間を考えると、どうしても間に合わないという結論になった。


 そこで「じゃあ諦めて、本来の遊び旅行にしよう」となるわけでもなく「では、一体どうすれば?」と話はなり、相手は音やニオイであの防衛範囲を維持しているとなり。

 結果、作戦の実行は雨が降りはじめてから決行となったのだ。

 しかも、その作戦が決まったのが三日目のお昼のことだった。


 以降、一週間ジンタ達は、良く晴れた空に舌打ちし、早く雨降りやがれ! と雨乞いをしつつこの場所で生活していた。


 そして遂に今日、その鬱憤うっぷんが晴らされそうな空模様へとなったのだ。

 イヨリの作った朝食を食べながら、作戦会議が行われる。


「良いですわね。いよいよ今日ですわ」


 リカの声に、全員が頷く。


「まず、雨が降り出しましたら私とイヨリさん、雪目さんとジンタさんが川の上流へと向かいますわ。そして次にですが、まずは四人で雨の中、相手の防衛ラインギリギリの位置まで進みます、当然、いつもより巣に近い位置でこちらに気付いた相手は一気に押し寄せて来ますわ。私達は前に進むというよりは、その場で踏ん張り相手をこちらへと引きつけますわ。その間に別働隊であるリゼットとミトさんが空から手薄となった敵の本拠に突入し、リゼットによって投下されたミトさんが巣をゲットし、全速力で私達の元へと戻って来る。以上ですわ」


 朝食を頬張りながらも緊張している全員に「何か質問は?」とリカが尋ねる。

 しかし、誰一人としてそれに質問する者はいない。なんせ、毎日朝と夕の最低二回は聞かされる作戦内容、ほんと耳タコなのだ。


 それでも、今日がその本番となると、やはり全員の目つきはいつもと違う。

 散々待たされたせいか、異様にギラギラしている。そして一番ギラギラしてるのはなぜか、マスターであるちびっ子三人達なのが一番の不思議であり、ジンタの不安の種でもあった。


 朝食を食べ終わると、ミリアとエルファスとロンシャンは川へと遊びに行った。

「雨も降るので危ない」とイヨリが言ったのだが、それでも「少しだけ~」と言いながら行ってしまった。


 確かに、夏のどんより雲。日中になればなるほど、湿度が上がりイヤになるほどジメジメとする。川で水遊びをしてジメジメ感を忘れたい気持ちも分かる。

 とジンタは思っていたが、そこはそこで、やはりマスター達だけで川遊びは危ないと、全員の目がジンタへと注がれ、仕方なくジンタが三人の後を追うように川へと向かわされた。


 何気なく、空模様を見ながら川へと向かった。


「今日実行みたいだね」

「うん、私達はお留守番だけど……」

「え? ミリアちゃん小屋で待ってるつもりなの?」


「「え?」」


「え? エルちゃんは付いていく気なの?」

「うん、隠れてね」

「それって危なくないかな?」

「え~~、でも一応私達ってマスターでしょ? みんなだけ危険な目に合わせるわけにもいけないでしょ?」

「ん~~、確かにそうかも知れないけど……」

「でも、私魔法も使えないし、ヒールだってッボンだし……」


 歩いた先で聞こえてくる声に、ジンタは今日あと何度溜め息を付くことになるだろう、とガックリ肩を落とした。


 わざとらしく、ゴホンと咳をする。

 新たな存在に気付いた三人が一斉にジンタを見る。その顔はそれぞれだった。

 エルファスは、あちゃ~~という顔。

 ロンシャンは、聞かれたという驚き固まった顔。

 ミリアは……、恐らく魔法のことでだろう、泣きそうな顔だった。


 ジンタは小屋で待ってないとダメだぞ、と注意しようと思ってたが、ミリアの泣きそうな顔がどうにもそれを言わせてくれず、仕方なく出た言葉が、


「まあ、確かに俺達は家族だからな、一緒に行動しないといけないよな。だからみんなから離れた後ろにいる分には、多分……なぁ……?」


 わざとらしく、頬を掻き三人を横目に見る。


 ぱあっと三人が笑みを浮かべるのを見て「やっちまったなぁ……」と思いながらも、自分が守るしかないか、と決意を固める。




 お昼少し前ほどから、雨は降り始めた。


 ジンタは三人の同行の許可を全員から得て、戦うイヨリ達の後方十メートルほどを離れて三人のマスター達と一緒にいることとなった。


 まずはリカとイヨリと雪目が、水着姿で川へとその身を肩まで沈める。

 ゆっくりと前進し、何度か確認したハニーハニービー領域の手前まで進む。


 その三人を遠くに見ながら、ジンタは装備をまとい三人のマスターとミトとリゼットを引き連れ川岸を歩いて行く。


 ミト達は戦闘が始まった後、別れ、頃合いを見て飛び立つ予定となっている。飛び立つタイミングを確認するためにも、囮の戦闘が始まるまでは一緒にいるべきだと話が纏まったのだ。


 対岸へと上がり森の中へと歩いて行くイヨリ達を見て、ジンタ達も要所要所川から出ている岩を飛び、対岸へと渡り、後を付いていく。


 歩くこと一〇分ほど、前方に見えるイヨリ達が立ち止まり、それぞれ獣人化するのが見えた。きっとあそこが今のハニーハニービーの防衛ラインなのだろう。

 待つこと数分。姿を見せたのはオオカミを一回り大きくしたような獣が数体。

 唸る声が微かに聞こえる中、イヨリ達に飛びかかる。

 が、


 瞬殺――――。


 シッシッと無造作ともいえるほど軽く振ったイヨリの手に払われ、木に弾かれ動かなくなるオオカミもどき達。

 意気揚々と出てきたのに一瞬でやられる様を見て、ジンタはなぜか喜びとは逆の可哀相な気持ちで動かなくなったオオカミもどき達を見た。


 しかし、そんな感傷も一瞬でかき消えるほど、イヨリ達の前に多数のモンスターが次々と現れた。

 しかもよく見れば、バレーボールほどの黄色いハチが何匹も現れ、さらによく見れば小さい同じ色のハチの姿も見てとれた。


「あれ、三人で大丈夫なのか?」


 ジンタが、ツバをのみ呟く。


「きっと大丈夫だよ」


 そう言いながら、ミリアがギュッとジンタの手を握ってくる。その手は少し震えている。

 始まりはイヨリの気合いの篭もった一声からだった。

 いつもの、しっかり者だがどこかおっとりとしたイヨリからは想像も出来ないほど、腹からの声が響き獣人化したゴーレムの右腕が一番先頭で地面を歩く、オオカミもどき目掛け岩の拳を振り下ろした。



 ッズンッッッ!



 潰し、さらにめり込み、地震のように地面を揺らした。

 その一撃から、本格的な戦闘が始まった。

 襲い来る無数のモンスターに、イヨリの岩の腕が叩き潰し、リカのグリズリーの腕が切り裂いていく。

 二人は横並び、しかしやや背中合わせのように立ち、モンスターを迎え撃っていく。


 雪目は着物姿の美女へと変貌し、二人の後方から小さいタイプのハニーハニービー(ハチほどの大きさ)やその他の小型のモンスターに対応するように、少し強くなってきた雨を利用し、イヨリやリカを中心に氷結のカーテンを展開させ、小さいモンスターを凍らせていく。そして要所要所で一斉に向かって来ようとする相手の足元を凍らせ、その動きを阻害していく。


 三人は見事なくらいの連携を繰り広げ、圧倒的な数を処理していく。


「まるでダンスを踊ってるみたいだな……」


 始まる前まで感じていた不安が一気に吹き飛び、ジンタは三人の圧倒的すぎるほどの戦いっぷりに目を奪われ呟いた。


「あれぐらい普通だって。あそこに俺がいればさらに余裕だっての」


 それを聞いたミトがややムッとした顔でそっぽを向く。


「あれ~~。もしかしてミト。ジンタさんが雪目達に見とれてるからヤキモチ~~?」


 エルファスがからかうようにミトに言うと、キッと雨の中真っ赤になった顔をエルファスに向け、エルファスの顔面を鷲掴む、見事なほどのアイアンクローだ。


「なんだ~いエルファ~ス? なんか言ったか~い?」


 低い声でミトが言えば、コメカミ当たりからミシミシと音をさせているエルファスは、


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 早口に謝った。


 そんなエルファスを離しミトは頭の後ろで腕を組み、戦いから背を向ける。


「さってリゼットそろそろおれ達も行こうぜ。このままじゃ、あの三人が先にモンスターやハニーハニービーを全滅させちまいそうだしさ」

「うん、行こう、ミト」


 目をまん丸にして戦いを見ていたリゼットもミトに頷き、その後について元来た道に消えていった。

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