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ハニーハニービー

「さすがにこれは、遅すぎるだろ」


 ジンタが焚き火用の薪から少し長めの薪を拾い上げ立ち上がる。


「では、私が見てきます」


 ジンタに続きイヨリが立ち上がろうとするが、それをジンタは手で制す。


「ここを雪目さんだけに任せるのは悪いし、一番戦力的に劣っている俺が行くのがいいから」

「――ですが」

「五人、特にマスターである三人になんかあったら困るだろ?」

「――それは……」


 数瞬悩み、イヨリは分かりましたと答えるように、上げかけた腰を下ろす。


「行き先は分かってるんだし、とりあえず川まで行って少し上流に向けて歩いてみるさ」


 薪に布を巻き、油脂ゆしをふりかけ、焚き火から種火をもらう。

 簡易なタイマツの完成だ。


 心配そうなイヨリと雪目に、安心させるように笑みを向け、


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


 軽い感じで、真っ暗な森の夜道を川へ向かいジンタは歩き出した。



 歩き始めて数分、昼間遊んでいた川へと到着した。

 雲一つない夜空の中、月明かりがよく輝いて見える。

 聞こえてくるのは川のせせらぎと虫の鳴らす音、それとジンタが踏みしめる石の擦れる音だけ。


 手に持つタイマツを、目一杯腕を伸ばし左右へゆっくりと回す。

 タイマツの揺らめく火の光源だけではそうそう遠くは見えないが、それでも見える範囲は多少広がる。

 声を出して探そうかと考えながら、ジンタは川の上流に向け歩きだす。


 歩き出してすぐ、ジンタの踏み鳴らす石の音とは違う音が正面から聞こえてきた。

 タイマツを左手に持ち替え、右手を腰の剣へと伸ばす。

 緊迫するジンタをあざ笑うように、足音は乱れることなく近づいてくる。


 ゴクッと自身のツバを飲む音が異常に大きく聞こえる。心臓が早鐘のように胸を叩く。

 落ち着くように、二度、三度と深呼吸を繰り返し、向かい来る足音に意識を集中させる。



 ――じゃり



 タイマツに白い足が映った。


 そしてもう一歩、白い足が見えたとき、


「あのジンタさんそろそろタイマツを下ろしてもらえます? こんな真っ暗なところでその明かりは私には眩しすぎですわ」


 リカの声が聞こえた。


「あ、えっと、リカさん?」


 まだ姿が完全に見えないジンタは、半信半疑な声を返す。


「ええ、私ですわ。ジンタさんは私を探しに来たのではなくて?」


 会話中、さらに三歩分前へ歩いてきたリカの残りの姿、上半身があらわになる。真っ赤なビキニ姿であるリカだとやっとジンタも確認でき、安堵しながらタイマツをリカから逸らした。


「すいません、こっちからは足しか見えず、リカさんだって分からなかったもので」


 ジンタが謝ると、


「あら? 私のこの長く白い足を見て気付かないなんて、ジンタさんは一体女性のどこを見て相手を判断していますの?」


 喉の奥でククッと楽しむような声を鳴らし、リカがジンタに問い掛ける。


「え? どこって……。そ、それは……」


 ど、どこだろう? とジンタは本気で考え込んでしまった。


「答えられないようですわね。でしたらそれはジンタさんの宿題としておきますわ」


 喉の奥で再度ククっと笑いながら、リカはジンタの横を通り過ぎる。


「しゅ、宿題ですか……」

「ええ、ジンタさんが一体女性のどこを見て私達をそれぞれ認識しているのか、最終日までにちゃんと報告してくだいな」


 リカの後を追いながらジンタは、なんてこったと頭を抱えた。


 みんなのいる蚊帳へ戻ると、リカは無造作に氷の入った冷たい水を二杯、一気に飲み干した。


「大丈夫ですか、リカさん?」


 日頃のどこか上品ぶったリカではあり得ない行動に、さすがのイヨリも心配そうに尋ねる。


「ええ、いろいろな意味で危うかったですが、大丈夫ですわ」


 リカはそこで一度言葉を止め、どうしたものかと思案顔になる。

 ジンタとイヨリ、それに雪目がそれぞれに目を合わせ首を捻りながらも、リカの次の言葉を待つ。


「そうですわね。やはり皆さんには説明しておきますわ」


 リカは踏ん切りがついたのか、ウェーブの掛かった栗色の髪を軽く後ろに払いながら続ける。


「まず、今日ここに着いてから私が感じていた少々鼻につく甘い匂いが何だったのか、それが分かりましたわ」

「リカさんが昼間言ってたことですか?」


 イヨリが確認するように聞く。


「ええ、それですわ」

「それは一体?」

「イヨリさんは、ハニーハニービーというモンスターをご存じかしら?」

「ハニーハニービーですか……?」


 なんとも、甘ったるいというか恥ずかしいような名前のモンスター名にイヨリは考えた後、分かりませんと答えるように首を振る。


 雪目は、どうも別のことを思い浮かべているのか、ウットリとした目でジンタを見ている。

 当然、二人が知らないモンスターなどジンタも知らないので、纏わり付く雪目の視線を完全無視して首を横に振る。


「確かに普段相手にするモンスターとしては有名ではないですわね。しかし、こと甘味、ハチミツを取る者としては伝説級のモンスターですわ」

「か、甘味……。ハ、ハチミツ……」


 呟くイヨリの目が今まで見たこともないほどに輝く。


「伝説級というのは……」


 フラフラとリカに顔を近づけるイヨリ。


「イヨリさんも料理をする者なら聞いた事ありません? ハニー蜜と呼ばれる品名のハチミツを」

「そ、それって! 滅多に市場に出ない幻のハチミツじゃないですか! 確か一舐め金貨一枚分に匹敵するほどのっ!」


 瞬間、イヨリが飛び跳ねるようにリカに大きく詰め寄る。


「ええ、そのハチミツを産出するのがハニーハニービーですわ」


「!!!」


 輝いていたイヨリの目に、今度は闘志が宿る。


「それは……、絶対手に入れないといけませんねっ!」


 今からでも取りに行こうと言い出すんじゃないかと思えるほど、今のイヨリは興奮し高ぶっている。見てて怖いほどに……。


「でも、なぜ伝説と呼ばれるほどなんです?」


 ある意味、今焚き火の前で起きている中、一番冷静な雪目が疑問を口にする。


「それは二つの理由がありますわ」


 リカは良く聞いてくれましたとばかりに頷き、まずは指を一本立て、


「まず、ハニーハニービーが一体どこに巣を作るのか、それが未だに謎なことが一つ」

「謎って?」


 ジンタが眉を寄せる。


「そうですわね、私の聞いた話では、森の真ん中や砂漠。水辺の近くや草原の土の中などなど、どこにでも作るようで、どこにもない。それがハニーハニービーなのですわ」


 リカは説明しながらも、困ったように首を振る。


「そもそもハニーハニービーの生息しているところ自体が謎なのですわ。普通のハチは女王蜂がおりますが、なぜかハニーハニービーにはそれがいない。――いや見当たらないと言うべきかしら? それなのに巣の周りには大小様々なハニーハニービーがいる。一体あれはどこから生まれてくるのか、そしてハチミツの材料に一体何を使っているのか? それすらも分かっていないのですわ」


 両腕を軽く広げ肩をすぼめるリカに、全員が無言のままだ。


 それから、リカは二本目の指を立て、


「次に、ハニーハニービーの巣の周りには異常とも言えるほど、多くのモンスターが生息しているのですわ」

「モンスターが異常に多く?」


 作る場所、繁殖方法、それ以外にまだあるのか、とジンタが参ったとばかりに首を振る。


「そうですわ。それこそ多種多様の、いつもなら絶対一緒にいないはずのモンスターがハニーハニービーと共に、巣を守ってますの」

「モンスター連合……」


 雪目が呟くと、リカは雪目に指を向け「それですわ」と頷く。


「それってやっぱり……」

「ええ、恐らくモンスターもハニーハニービーの蜜を警護する代わりに幾ばくかもらっているのでしょう。つまり傭兵ですわね」

「なんてこった。そこまで狡猾なハチなのか……」


 ジンタは心底呆れたように、自身のおでこを叩く。


「私も過去に一度だけ、ハニーハニービーに遭遇しましたが、その時は蜜の捕獲に失敗してますの」

「えっ! なぜです?」


 それは一大事だとばかりに、イヨリが身を乗り出し聞き返す。


「ハニーハニービーは話の通り狡猾ですわ。一番狡猾なのは、守り切れないと判断すると蜜を持って逃げて行ってしまいますのよ」

「じゃあただモンスターを倒すだけじゃなく……」

「ええ、相手が持ち逃げするより早く、こっちが先に巣へと到着し、巣ごとハチミツを持って逃げないといけませんわね」

「チマチマ倒して少しずつ進むよりも、一気にかすめ取る電撃作戦か……。ははは……」


 骨が折れそうだな、とジンタは乾いた笑いで頬を掻いた。


 それだけ困難なことであっても、こと甘味、甘いモノに目のないイヨリと、蜜を取ることにプロ意識のある種族グリズリーのリカ。


 当然と言えば当然だが、イヨリとリカを中心に話はどうやってハニーハニービーからハチミツを奪取出来るか、へと話は変わっていった。


 旅行で遊びに来たのだから、もう少し安全な場所に移動しようではなく……。

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