見つけた少女と大蜘蛛
先頭を歩くジンタの目に、一人の少女の姿が見えていた。
真っ赤で外に跳ねているショートカット、頭頂部付近から飛び出る見事なアホ毛二本。緑色のダボダボの服を着て、少女は通路の端に蹲り、シクシクと泣いているように見えた。
「なんか……、いる……」
緊迫したジンタの声を聞き、二人の少女はジンタのジャージを掴み、後ろから覗き見る。
二人が一瞬の間固まる。
「ねえ、ミリアちゃん」
「うん、エルちゃん」
「「あれってリゼット?」」
二人の少女の声が重なった。
「リゼット、光って床なくなって落ちた。目を覚ましたら、誰もいない。だから少し歩いて、寂しくて泣いてたよ」
片言のような言い方で、経緯を説明する外側にクルッと跳ねたクセッ毛赤毛のリゼット。なぜか二本伸びているアホ毛はピコピコと独自に動いている。
左右では、年齢的に小さいはずのミリアとエルファスが、リゼットと手を繋いで歩いている。
「そっかぁ、じゃあリゼットは一人だったんだね」
「うん、寂しかったよ」
顔を涙と鼻水でクシャクシャにしてリゼット。
「でも、もう大丈夫だよ、だってわたし達とジンさんがいるんだから」
ミリアがドンッと胸を叩く。
「あ、あははは……」
一応ジンタも乾いた笑いをさせ、先頭を歩いていた。
リゼットと軽い挨拶を交わして、ジンタ達は話をしながら先へと進んでいた。
話を聞くとリゼットは種族ハーピーで、獣人化出来るらしかった。
実際、その姿を見せてもらったが、胸の中央が光輝き、リゼットの細い両腕が緑をメインにしたカラフルで大きな翼へと変わり、膝までの短パン、その見えている膝より下の足が乾燥肌のようにカサカサになり、地面に接地している足は鳥のように成り、鋭いかぎ爪になっていた。
さすがに変身シーンを生で見たジンタは目を見開き口を半開きにして驚いたが、それ以上にその変身の仕方が『階層伝説リリフォリア』の変身と酷似していることに、より一層の驚きがあった。
慰める二人のエルフの少女と、ロンシャンという男の子のエルフの召喚されし者であるハーピーのリゼット、三人の話し声を後ろに聞きながらジンタは物思いに耽る。
――俺はミリアによって召喚(喚ばれた)されたのは二人のエルフの少女の話で分かった。でもその二人の少女の話では、緊急事態でやむを得ずミリアの残っていた召喚の儀の一人の枠を使ったという話だった。つまり、咄嗟の行動だったと。
しかし、俺はあのゲーム『階層伝説リリフォリア』を初めてクリアして、ここに喚ばれた。
結果的に偶然で済ますことも出来るかも知れない。
しかし、あまりにも出来すぎている、とも思える。
まるで、何かこうなるように仕向けられた感があるというか……。
「ジンさんっ!」
歩きながら自分の世界に入り込みすぎたジンタの耳に、ミリアの緊迫した声が響く。
しまった、と内心で自分の愚かさを恥、ジンタはゲームのときのクセそのままに最初の部屋で倒した骸骨が持っていた木の盾を構える。
ジンタの正面には、二匹の大きな蜘蛛の姿があった。
カサカサと予測不能な動きをする大蜘蛛を目で追いながら、ジンタは必死に剣を振るった。
後ろの少し離れた場所には、ミリアとエルファス、そしてリゼットがいる。
「くっそ! なんなんだこいつらの動き、まったく予想できねえ」
剣を振り回し追い払うも、蜘蛛達は何度もジンタに近寄ってくる。
たまに振り回してくる細く長い足を盾で防ぎつつ、ジンタは耐える。
そんな中、一匹の蜘蛛がジンタに向け、口から左右に広がる牙を剥き出しに飛びかかってきた。
「こんっのお――――ッ!」
剥き出しの牙に木の盾を押しだし、つっかえ棒のようになんとか防く。
牙に挟まれミシミシと大きく軋む木の盾。
盾の悲痛に軋む音を聞きながら、ジンタはボディブローのように右手に握る直剣で蜘蛛の腹を突き刺す。
右手に感じるグジュリとした剣の刺さる感覚と、直後の生暖かい蜘蛛の血とも呼べる緑の体液の熱がジンタの手から足へと降りかかる。
「ぐっ!」
ゾクゾクと背筋に走る虫酸の悪寒と、刺した恐怖に顔を顰めながらもジンタはゲーム時代もそうだった自己流の追加攻撃、突き刺した剣を蜘蛛の内部に差入れたままグリッと捻る。
「キシャアアアァァァァ――――ッ!」
さらに飛び散る体液と、断末魔のような蜘蛛の叫びが響き、飛びかかってきた蜘蛛は六本の長く細い足をだらんとさせ、地面に落ちた。
「ふぅ……」
一匹倒したというジンタに生まれた一瞬の気の緩みを、もう一体は見逃さなかった。
口から白い糸を吐き出し、ジンタの剣が突き刺さったままの蜘蛛の体とジンタの手を絡め取った。
「ぐぉッ! これは……ッ、まじぃ!」
だらんと、力なくのし掛かる倒した大蜘蛛の加重と外れない腕と剣。
必死に引っ張るも蜘蛛ごと引き摺る形になる。
ゆっくりと近づいてくる大蜘蛛に、ジンタは変形している頼りない木の盾を突き出す。
キシャキシャと、まるであざ笑うかのように長い足をゆっくり動かし近づいてくる大蜘蛛に、
「くっそおぉっ!」
ジンタの悔しさが、そのまま口から放たれる。
大蜘蛛の長い足が、動かなくなった相棒の体を押さえ込む。それはイコールジンタの右手、強いてはジンタの体の動きをも押さえ込む形になる。
「ジンタさん!」
「ジンさん!」
「ジンタ!」
後ろから三人の叫ぶ声が聞こえるも、ジンタはほとんど動けない。
さらにキシャキシャと音をたて、大蜘蛛はジンタに詰め寄る。
長い前足が試すかのようにジンタの右腕、その二の腕の端を擦らせ傷を作る。
「イッテェ!」
実際はそこまでではないが、切られたと思った瞬間ジンタの口から漏れる声。
「キッシャ――――ッ!」
ジンタが動けないことに確認が取れたのか、喜びのような奇声の叫びを上げる大蜘蛛。
大蜘蛛は、一気に長く細い両前足を上げジンタに襲いかかった。
「クッソ――――ッ!」
再度、叫びながら目を強く瞑るジンタ。
「フェザーウインドッ!」
さっきまでとは違う張ったリゼットの声が聞こえ、直後ジンタの後方から突風が前へと吹き抜けていく。
「キッシャアアア――――ッ」
何かが起きたと直感したジンタの開いた目に、カラフルな羽を何本も体に突き刺し、体中に切り傷と自身の緑の体液をまき散らした大蜘蛛が、叫びを上げながら地面に仰向けに転がっていた。
「何が?」
ぼう然とするジンタの横を獣人化したリゼットが風のようにすり抜ける。
「リゼット変身するの忘れたよっ! リゼットも戦えたよッ!」
嬉しそうにそう報告するリゼットに、ジンタは「今更かよッ!」と思ったが、それでも助かったことにほっと安堵した。
ジンタの見ている前で、リゼットは悶える大蜘蛛の大きな腹に足のかぎ爪を深く突き刺す。
グシャッ
やわらかいものが潰れる音が響き、一際大きな絶叫を響かせ大蜘蛛は動かなくなった。
「やった……のか?」
動かなくなった二体の大蜘蛛を見て、ジンタは呟いた。




