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望む変化、望まぬ変化。

 夏の空が赤くなる少し前、ジンタは家へと辿り着いた。


 道中何事もなく、ただのハイキングといった感じの行程に、納得しながらもどこか物足りなさを感じたぐらいだった。


「ただいま」と家のドアを開けると、ミリアとイヨリがテーブルを挟み、睨めっこ状態で顔を付き合わせていた。


 ――今度は一体なんだ?


 部屋に漂う雰囲気に、ジンタの頬に一粒の汗が流れ落ちる。


「ジンさんおかえり!」


 イヨリとの睨めっこを止め、ミリアがジンタに声を掛ける。


「ジンタさんおかえりなさい」


 イヨリも休戦とばかりに溜め息一つし、台所へと入っていく。


 まだギスギスする雰囲気の中、ジンタは一度部屋に戻り、着ている装備を置いてからリビングへと戻った。


 テーブルには、イヨリが用意してくれた冷たい果汁とクッキーが置いてある。


「えっと、一体何が?」


 自分のいつもの定位置であるソファーに座り、まずは果汁を一口飲みそれからジンタは尋ねた。

 待ってましたとばかりに、隣でクッキーを頬張っていたイヨリがジンタに顔を向け、


「ジンタさん聞いて下さい。この子ってば、さっきになっていきなり「課外宿題も兼ねて、お泊まりで皆と一緒に川遊びに行こう」と言いだして――」


 そこまで言ったイヨリの後、ミリアが抗議するように、


「いっつもイヨリだって言うでしょっ! 「自分の宿題は自分でやらないと実にならない」って」

「それは、そうだけど……」


 ……なるほど、つまり今日の俺の作業は無駄足むだあしになると……。


 ジンタはなんとなく事情が飲み込め、心の中で溜め息混じりに頷いた。


 テーブルの上のクッキーを、一枚ぱくりと頬張りながら、


「で、みんなって言うのはエルファスやロンシャン達なのか?」

「うん、だから川で遊ぶついでに課外宿題もって話になったんだけど……ジンさんいい?」


 少し悪いと感じているのか、ミリアは向かいの席から上目遣いにジンタを見つめ聞いた。


「いいも悪いも、川遊びがメインなんだし、まあそのついでに課外宿題を自分達でやるんだからいいんじゃないのか?」

「そうですが、それだと今日のジンタさんの苦労が――」

「俺の苦労はこの際置いておくとして、遊びがメインとはいえ、ミリアがこの暑い中、みんなに誘われたにせよ、自分から外に出るって言ってるんだし、まあいいんじゃないか?」


 ジンタが自分側に同意し、立場的に二対一となり、行くことがほぼ決まったことにミリアは満面の笑みで、


「そそ、ジンさんの言うとおり。それに、ジンさんだってみんなの水着姿が見られるから絶対に行きたいって言うに決まってるってロンシャンくんも言ってたもん」


「「え?」」


 ジンタも驚きに固まったが、なぜかイヨリまで同じように驚いていた。


「違うのジンさん?」


 キョトンとした顔で、爆弾を投下したミリアが聞いてくる。


「――えっと……」


 ジンタはチラッと隣のイヨリを見る、イヨリもジンタの次の言葉をジィーッと見つめ待っている。


 イヨリの視線に気づき、さらに慌てたジンタは、視線を宙に彷徨わせ頬を掻いた後、最後に一度わざとらしい咳払いをし、


「まあ、あれだ。た、確かにみんなの水着姿を見られる機会なんてそうそうないからな」


 と、冷静な素振りで答えた。

 しかし内心とんでもなく心臓がバクバクと鳴り、隣のイヨリに聞こえるんじゃないかとひやひやしていた。


「そうと決まったら、新しい水着だよっ!」


 ミリアが立ち上がらんばかりに叫ぶ。

 しかし、それにはイヨリが待ったを掛ける。


「あなたには去年買った水着があるでしょ?」

「もう一年も経ってるんだから、着れないよ」

「大丈夫よ」

「私は、今が育ち盛りなんだからっ! 絶対着れないもん」


 ミリアが頬を膨らませる。


「そうかもしれないけど、今着ているそのワンピース、一昨年買ったやつでしょ?」


 イヨリがミリアの今の着ている服、白のワンピースを指差す。


「こ、これは少し大きくなっても着れるようにって、イヨリが大きいのを買ったからでしょ!」

「そうだっけ?」


 小首を傾げるイヨリに、今度はミリアが、


「そうだよ! それにわたしから見ても。――最近イヨリぷっくらとしてきてない?」


 ミリアが疑うように目を細め呟く。


 ギクッっとするイヨリ。


 確かに、最近ジンタが外で稼いできてくれるので家にいることが多く、さらにこうしてちょくちょく間食を取るようになって、それはイヨリ自身、すごく気になっていた。


「な、何を言ってるのよあなたは……、そ、そんな訳ないでしょ……」


 最後の方は、隣のジンタでさえ聞き取れないほど小声だ。


「それなら今から去年の水着を着てみようよ」


 挑発的にミリアが言い、リビングから部屋へと向かうドアを開け出ていく。


「いいわよ。試しに着てみましょ」


 イヨリもミリアの後を追ってドアを出ていった。



 十五分後、どんよりとした真っ暗な雰囲気をまとって二人が戻ってきた。


 ジンタはどう声を掛けていいのか分からず、その場で座っていると、イヨリが呟くように、


「ジンタさん。今日からしばらく間食類は一切だしません。飲み物も水だけです。そして夜食もお肉はなし、野菜しかだしません」


 ぽつりぽつりと悔しそうに宣言し、イヨリは台所に向かった。


 一気に変貌する我が家の食生活に、さすがにジンタも苦渋に顔が顰まる。

 そこにミリアが、ジンタの対面のソファーにまるで落ちるようにストンと座る。


「み、ミリア? 一体部屋で何が?」


 ミリアもどんよりしてるのは分かったが、さすがにジンタも聞かずにはいられなかった。

 ミリアは無意識のように呟き出す。


「イヨリは、胸がはじけ飛んだの……」

「む、胸が?」

「うん、水着の上がブチンって千切れたの……」

「水着の上がブチンって……」


 思わずジンタは想像してしまう。豊満なイヨリの胸がはだける姿を。

 何かが登り迫ってきそうになる鼻を両手で押さえる。


「そ、それで、なんでミリアは落ち込んでるんだ?」


 イヨリは分かった、が、ミリアが落ち込む理由が分からずジンタが聞くと、

 無表情だった顔が微かに歪み、


「去年の水着がピッタリで、どこもキツくなかったの~~~~」


 悔し涙を流し、テーブルに突っ伏くした。


「な、なるほど……」


 イヨリは、変化を望まず、水着が破け。

 ミリアは、変化を望み、ピッタリだった。


 二人の変化が逆なら、まったく問題なかったんだろうが……。こればっかりは……。

 ジンタはリビングの窓の外、暗くなり始めた夜空へと視線を向けた。


 次の日、三人はそれぞれの水着を買うために街へ出掛けることとなった。

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