サフラン亭 イヨリとリカ 2
「最初の召喚の儀で、私を喚んだ時点からおかしかったと?」
いくらかムッとした顔でイヨリが聞き返すと、リカは優雅に頷いた。
「そうですわ。もっとも、その時は私にもロンシャン様にも知識がありませんでしたので知りようがありませんでしたが。あなたがミリア様に召喚されたとき、教師達がざわめいていたのを、私も覚えていますわ」
「私が喚ばれたとき……」
イヨリだって喚ばれたときのことは覚えている。しかし、喚ばれたことがあまりにも嬉しくて、ミリア以外の周りに意識がいってなかったことは事実だと、思い出しながら認めた。
「ええ、これは私も調べてわかったことですが、最初の召喚で破格の力を持つ『召喚されし者』を喚ぶのは、やはりその喚んだ本人にそれだけのチカラが無いと出来ないんじゃないかと言う話らしいのですわ」
リカの言葉に、思い出すように頷き、
「確かに、集落の長老達の話では、私達種族ゴーレムが最初の召喚で喚ばれたのは過去に数えるほどしかないって、いつも嘆いていたのは覚えてますけど」
「私の種族、グリズリ―でもかなり上位ですが、あなたのゴーレムは逸脱して破格ですわ。今の学校を見渡しても種族ゴーレムはあなた以外にいませんですし」
現時点で、ミリア達の通う小学校でイヨリ以外の種族ゴーレムはいない。しかし、それはただ運の要素が関係してるだけだと思っていた。
「そして今回のジンタさんですわ。確かにあの方は獣人化出来ないですが…………。そんなこと以上にこの階層以外の方を召喚するよりも異常な、別の世界からの召喚をなさったのですわよ? ミリア様は――――。あなたには、これがおかしくないと思いまして?」
「そ、それは…………」
何か言い返そうと口を開きかけるが、反論する言葉も見つからずイヨリは黙るしかできない。
「しかも、それだけのことを行い、それだけのチカラを持った方だというのに、ミリア様は魔法が使えないときてますわ。――違いましたわね、使えないのかあべこべなのか、あなたも見てらしたでしょ? あの遺跡のゴーレムの時のヒールを。ヒールは回復魔法ですわ、それを通常の攻撃魔法をゆうに凌ぐほどの破壊力でお使いになったのですわ」
三ヶ月前、ジンタがここに来た日の話をしているのはイヨリにも分かったし、その際のミリアのヒールの威力には、今でもイヨリでさえ戸惑っているのだ。
「それらすべての事実を、あなたはただの偶然と片付けますの?」
「それは……」
確かにミリアには普通の子よりおかしなことが多い。
けど、それでも、ミリアはイヨリに取って大事な家族で自分の命に代えても守りたいと想う、娘のような存在なのだ。
だから、イヨリはリカを真っ直ぐに見つめ、口を開こうとした。
が、それより早くリカが口を開いた。
「ですから、私とロンシャン様は決めましたの。あなた達とは出来るだけ行動を共にしようと」
「え?」
「ミリア様は何か違うと、私もロンシャン様もお認めになったと言うことですわ。ですから私達はこれからもあなた達と一緒に行動していき、色々と確かめていこうと決めたのですわ」
「あの、それって……?」
「はぁ~~。ほんっっとあなたは鈍いですわね」
リカは疲れたように目元を揉み、
「つまり、あなた達が今後どこかにお出かけの際は、私達も出来うる限りご一緒させて頂きますので、声をお掛け下さいな、と申してますのよ」
「一緒に……ですか?」
きょとんと聞き返すイヨリに、
「ご不満ですか?」
リカは強気に聞き返す。
「い、いえ。それはこっちとしても色々助かりますが……」
「では、そういうことですわ。これからはロンシャン様共々私達をよろしくですわ」
差し出されたリカの手を、イヨリは困惑しながらも握り返す。
サフラン亭のカフェテラスで握手をする二人。
その正面の道をエルファスが疾走していく。それから間を置かずに、獣人化したミトが追い掛けていく。
「……今のエルファスさんとミトさんでしたよね?」
「……そのようですわね」
「一体……何をやってるんでしょう?」
「さあ、お菓子を買いに行ってるだけのはずですが、ちょっと嫌な予感がしますわね」
「……ええ、本当に。私達もお菓子屋さんに行きましょうか」
「そう致しましょう」
二人はそのまま席を立ち、暑い日射しの中、歩き出した。




